ネームド(候補)になる武器のいきさつ
今回は国に定住している時期のコギツネのお話になります。
今日もボクは刀を打つ。
金属を溶かし、叩き、折り返し、刀を形作ってゆく。
打ち上がった刀を見て、今回もまた後ろへ放り投げた。
ガチャンと音がしたそこには、大量の刀が積まれている。
「はぁ……これもだめ。師匠の刀の足元にも及ばないや。」
自分の腰に帯びた刀、師匠の作った最高傑作を撫で、ボクはため息をついた。
「やっぱり向いてないのかな、ボク。」
つい弱音が口を吐く。
頭の中をぐるぐると嫌な考えが回っている。
忘れようとしても、後ろに積まれた刀の山がボクを責めたてる。
『お前に才能はない』、と。
分かっていたんだ。
ボクに才能なんて無いって。
師匠には、それがあった。
天才と謳われ、持て囃され。
でも決して天狗にならず、ひたすらに自分の技を磨いてゆく。
そんな人だった。
思い出せば出すほど、自分が惨めに思えてくる。
師匠は弟子を取らなかった。
きっと、自分の弟子という肩書きを背負わせたくなかったのだろう。
「期待は、時に人を壊す」
師匠はそう言っていた。
周りとの繋がりが無かったボクだからこそ師匠の技術を受け継ぐことができた。
でも、出来上がるのは師匠の刀の贋作ばかり。
師匠からすれば期待外れだろう。
「……そんなこと、あの人が言うはずないか。」
ダメな方向に思考が飛んでいるのは疲れている証拠だ。
ボクは床に寝っ転がり、目を閉じた。
起きた頃には、嫌な思いも全て忘れてくれることを願って。
『ししょーはどうして刀をうつの?』
小さい時のボクが見える。
意識ははっきりしている、どうやら明晰夢とやらを見ているらしい。
小さい時のボクの声を聴いて、大柄な老人が振り向いた。
「師匠っ……!」
思わず手を伸ばす。
でも、師匠に触れることは出来なかった。
どうやら昔の記憶を追体験しているだけらしい。
『なんだ藪から棒に。』
不思議そうな顔で昔のボクに聞き返す。
懐かしい声、懐かしい姿。
触れられないのが恨めしい。
『だって、もうずっと暮らしていけるだけのおかねはあるんでしょ?』
「生々しい子供だな昔のボク。」
そんな問いを聞いた師匠はからからと笑い、昔のボクにこう言った。
『好きだからだ。儂は刀が大好きなんだ、それ以外に理由が必要か?』
そう言うと師匠はボクの方を振り向いた。
小さい頃の僕じゃない、見ているだけのはずなボクの方にだ。
『お前はどうにも抱え込むからなぁ。ほら、一度好きに打ってみればいい。儂の技も、先人の技あってこそ生まれたものだ。お前にはお前の刀が作れるはずだろう、子狐。』
息が詰まる。
何が起こっているのかが全く分からない。
こんな言葉、ボクの記憶にはなかったはずだ。
『ほれ、そろそろ起きろ。あんまり儂を心配させるでない。安心しろ、お前は儂の自慢の弟子だ。』
師匠の言葉が頭に響く。
直ぐに周りが歪んで、ボクは夢の世界からはじき出された。
「師匠……!」
伸ばした手が空を切る。
体を起こすとそこはいつもの鍛冶場だった。
床が涙でぬれている。
「……好きなように、か。」
何が起こっていたのかは分からない。
アレがただのボクの妄想なのか、もしかしたら師匠がわざわざ向こうから降りてきたのか。
普段なら唾棄するような話なのに、アレは師匠だとボクの本能が言っている。
「うん、いくら考えても答えは出ないや。今の僕に出来ることをやらないと。」
そうつぶやき、ボクは槌を手に取った。
ボクはずっと縛られていたらしい。
師匠の技を伝えないといけない、自分はただ一人の師匠の弟子だと。
きっと見かねたんだろう、やっぱりボクはまだまだ半人前だ。
だから、今できることを全て出し切ろう。
鋼を熱し、金床に置いた後ある程度の厚みになるまで槌を打ち付けていく。
何時もなら、コレを水に浸けるけど今回は違う。
近くにあるナイフを手に取り、左手を切りつけた。
「うっ……ぐうっ……」
苦痛で顔が歪む。
妖気の混じった血がしたたり落ち、水を赤く染めていく。
出血で倒れるギリギリまで溜めた後、すぐに腕を治し作業を再開していった。
血の混じった水にさっきの鋼を通し、この作業を何度か繰り返していく。
下準備の終わった鋼をもう一度溶かし、塊を作った後はひたすらそれを鍛錬する。
槌に妖力を流し、叩く。
ある程度叩いたら折り返し、また叩いていく。
何時もの何倍も疲労がたまっている。
炉の熱が肌を焼き、血が足りないせいで意識が遠のいているのを感じる。
でも、今までで一番楽しいんだ。
熱も、疲労も超えてボクは必死に刀を打ち続けた。
「……出来た。これが、僕だけの……!」
白銀の刀身に、冷気を帯びた刀がそこにはあった。
決して師匠の贋作ではない、僕だけの刀。
急いで手に取り、振ってみる。
「……やっぱり、師匠の刀には遠く及ばないや。」
まだまだ、師匠の背中は遠いらしい。
でも、ボクだけの刀が出来たことが何よりもうれしかった。
「そうだ、銘を付けないとね。ボクは師匠みたいに他者に銘を委ねるほど薄情じゃ無いからね!」
まだ銘の決まっていない刀をなでる。
本当に、とんでもない爆弾を遺してくれたものだ。
そう言いながらも、ボクは銘を考えていく。
「……決めた。君の名は――」
コギツネは、『妖刀・雪華』を手に入れた。
――なおこの後、脱水と貧血とその他諸々でぶっ倒れることとなる。
暫くして復帰したコギツネの頭には、大層大きなたんこぶが出来ていた。