普通に中学生してたら超展開に巻き込まれたヤツ 作:はごろも282
簡単なことほど難しい。よくある話だ。
やるべきことがわかっている時。目標が定まっている時。既に答えが提示されている時。ただソレに向かって突き進むだけだと言うのに、これがなかなかどうしてうまくいかないんだ。
例えばそうだな……目の前のタコみたいな生き物を殺すこととか。
☆
ある日、月が七割方消し飛んだ。
テレビでは『我々はもう三日月しか見られないのです!』なんて報道ばかりがされ、世界中が大混乱に陥ったのだ。
けれどそんなオオゴトも、残念ながら僕たちにとってこれは前座にすぎなかった。月爆破の犯人を自称するタコのような宇宙人が大量の政府の人間に囲まれて教室にやってきたからだ。
理解ができない異常事態だ。なんでそんなヤバい奴がただの中学3年生の前に現れるんだ。余談だが僕はそのときはじめて実物の銃を見た。
そして政府の大人のもとはじまったとんでもない話の数々。長かったから詳しく覚えていないが、どうやら宇宙人(本人曰く人間らしい。マッハ20だせる人間とは)は我らが椚ヶ丘中学3-Eの担任がしたかったらしい。
率直にいって頭がおかしかった。頭がおかしくなければ月の爆破なんかしないため当然であった。
この時点でも相当な超展開だが、話はここでは終わらない。なんとその犯罪者を連れてきた政府の人からの依頼で、俺たち3-Eはそんな超生物の殺害を依頼されたのだ!報酬はなんと、100億!!
政府もイカれていた。きっと月の件でみんな仕事に追われておかしくなってしまったんだ。でなきゃこんな高熱のときに見る夢みたいなイカれた展開ありえないだろう。
まあ、そんな必死の現実逃避も無意味だったわけだが。
そんなこんなで、超生物を暗殺という壮大な使命を背負った3年E組。僕たちはこの超生物を殺せないセンセー、略して殺せんせーと名付け、晴れてこの春学生兼暗殺者となったのだった。
なお、既にクラスメイトが自爆特攻してみたり、停学明けの不良生徒が凸ってみたりと色々試しているわけだが、まるで殺せる気がしないのが現状である。
「あ……あのっ先生……!毒です!!飲んでください!!」
そして今、一人の新米アサシンがターゲットの暗殺に踏み切る。彼女の名は奥田愛美。眼鏡に黒髪おさげが特徴の女の子だ。
田舎で出会うお姉さんの理想形みたいな彼女による余りにも大胆な発言。まるで進歩のない暗殺状況にクラスメイトまでおかしくなってきたらしい。
「……奥田さん。これはまた正直な暗殺ですねぇ」
ターゲットにすら驚かれる始末だ。もうこれは──いやまて、逆にか?
知っての通り殺せんせーは超凶悪犯だ。そんな彼にはそりゃものすごい数の殺し屋を差し向けられてきたことだろう。その中には、巧妙な手口で殺そうとするヤツがいたに違いないのだ。それなのに今も生きているということは、そいつらは返り討ちにあったということ。
ならばこそ、逆にこの大胆な殺害予告はズラシとなって有効なのではないか?まさか奥田さん、そこまで考えて……!?
「わ、私皆みたいなふいうちとかうまくできなくて……でもっ化学は得意なんで真心こめて作ってみました!!」
ブラフだ!絶対そうだ!そんなこと馬鹿正直に言う人いないもん!
「奥田さん……センスの塊みたいな女の子だな」
「どこがだよっ!?」
うわビックリした!?誰だ急に声をかけてきたヤツは!?完全につい声が漏れちゃっただけの独り言に入ってくるんじゃねーよ!?
半ば逆恨みに近い形で睨むように声の主を見ると、そこには怪訝な顔をした見知った姿が。
「岡島君じゃん。どしたの急に?」
「どうしたってお前なぁ……。あれ見てよくセンスが、なんて言えるよな」
話しかけてきた相手は岡島大河。坊主頭の変態野郎だ。
岡島君が見ている方向に追従するように目をやると、そこにはやはり奥田さんと殺せんせーの姿があった。どうやらこいつは奥田さんの真意に気づいていないらしい。友人として嘆かわしい限りである。
「岡島君……キミは本当にE組だな」
「喧嘩売ってんのか!?ていうかお前にだけはいわれたくないんだけど!?」
あまりに失礼な返答だった。どういう意味だお前にだけはって。彼の中で僕の立ち位置はどうなっているんだろう?まあいい。今は奥田さんだ。
「奥田さんがやってるのはズラシ、だよ岡島君」
「ズラシぃ?」
怪訝な顔をする岡島君に、フフンと少しだけ鼻が高くなる。無知な相手にモノを教えるのは気持ちがいい。もしかしたら殺せんせーはこれがやりたくて教師になったのかもしれない。僕も将来は教師になろうかな?
「普通、毒を渡すとき人間は正面から行かない。バレたら意味がないから」
「まあ、当然だな」
「しかし、殺せんせーは百戦錬磨のターゲットだ。そんな暗殺は日常茶飯事だろう」
「ふむふむ、まあそうだろうな」
「だからこそ、奥田さんは意表を突いた。常識からズラした行動で相手の思考をジャックしたんだ」
完璧な理論武装だ。これでバカな岡島君にも僕の言いたいことは伝わったはずだ。岡島君も難しい顔をしつつ何かを考えこんでいるみたいだ。自分で物を考える。いいことだ。
「なーんか、それっぽいこと言ってるのは分かったけどさ……そんなうまくいくもんか?」
「む。なにさその意味深な反応。いいさ、せんせーを見てみなよ。現に手渡された毒を飲んで角と羽が生えて……何であんなことになってんの?」
「無駄に豪華な顔になってるなぁ……俺たちが話している間に何があったんだ?」
ちょっと目を離したすきにFFの敵キャラみたいな見た目に変貌した殺せんせーの姿に、岡島君とふたり首をかしげることになった。どちらか一方でも状況が把握できたらよかったんだけど、おしいことをした。みんな固唾をのむようにして見守っているせいで他の人に聞くこともできないし。
「では、最後の一本ですねぇ」
お、まだ一本残ってたのか。よかった、せっかくのチャンスだ。今度こそ見逃さないようにしなくては。
そんな小さな意思をもって、フラスコをグイと煽る殺せんせーを静観する。さて、角に羽ときて、最後はどうなるんだろう?
なんて、期待を抱いていられたのも一瞬だった。その変化は、一瞬でおとずれたのだ。
「ま、真顔だ……」
「どういう法則なんだいったい……」
最後の毒を飲み干した結果は、驚くほどの塩顔だった。いったい何を飲んだらそんな顔になるんだ……。これはあれか、もしかしたら奥田さんが作った毒が案外大したことなかったり?
「王水ですねぇ。どれも先生の表情を変える程度です」
王水:濃塩酸と濃硝酸を混合してできる液体。金、白金を溶解できる。
まごうことなき劇毒中の劇毒である。飲んでスンッとしただけの殺せんせーも大概だが、しれっと合成してきた奥田さんも奥田さんだ。
やはり奥田さん、ただものではない。
「すまん宇井戸。奥田、ただものじゃなかったわ」
「うん。僕、恥じらいながら人に王水渡せる女の子初めて見たよ」
岡島君の台詞に同調する。せんせーから効かないと言われてしゅんとしているみたいだが、おそらく彼女は僕らの中で最も殺意が高い少女だ。落ち込む必要はまるでないだろう。
「それとね、奥田さん。生徒一人で毒を作るのは安全管理上見過ごせませんよ」
「は、はい……すみませんでした……」
「放課後、時間があるのなら一緒に先生を殺す毒薬を研究しましょう」
「!!……はっはいっ!!」
個人的に奥田さんへの畏怖を強めている傍らで話が進んでいく。どうやら、共同でターゲットを殺す毒を作るらしい。話の内容を考慮しなければ、理想の生徒と教師の姿だ。
「で、お前の論としてはどうなんだアレ。ターゲットと毒つくってるけど」
話のまとまりを見つめていた僕に、岡島君が蒸し返すようにそう問いかけてきた。その顔には意地の悪い笑みが浮かんでいる。
こ、こいつ……!ここにきて僕への当てつけのつもりだな!これみよがしにマウントを取ろうとしているのが手に取るようにわかるぞ!
「流石のズラシだなー宇井戸くん?まさか誰も一緒に毒つくるなんて思い浮かばねーよイヤホント!」
「はは、そう褒めるなよ照れるだろ」
「皮肉だっつの!?」
もちろん分かっている。だからコレは時間稼ぎだ。いい言い訳を考えるための。
「こ、今回の敗因は毒が効かなかったことだし!最初のアプローチ自体は──」
「いやソレなんだけどさ、やっぱ毒って言われたら飲まなくね冷静に考えて」
「…………」
……いや、それはまあ、そうかもしれない。
よく考えたら、やっぱ人は毒物を目の前にしたら飲もうとはしない。いくら暗殺者慣れしているヤツが相手でもそこに逆とかはなかった。知らないうちに変なテンションになっていたみたいだ。どうやら暗殺がうまくいかなくておかしくなってたのは僕だったらしい。
自らの過ちに気がつき、これからどう言いくるめようかと頭を回そうとしたその時だった。僕の思考が、再度キラリと輝いた。
「……岡島君。よく考えてくれ」
「なんだよもう……」
「これは、日常でも使えるはずだ」
心底バカを見る目を向けられた。解せない。
「奥田さんから学んだことはなんだった?」
真剣な表情の甲斐あってか僕の問いかけに、渋々といったようにだが岡島君は答えてくれる。
「お前の言うことを信じるなら、ズラシとやらでおかしな行動を堂々とやれば逆に必殺になる……みたいな感じか?いや信じてないけど」
そんなことを言っていたのか僕は。それにしても、人に言語化してもらうと脳内のふわっとした理解が明瞭になるんだな。今後も活用していこう。
岡島君の言った通り、大事なのはそこだ。奥野さんの発言は一旦置いといて、アプローチ自体は悪くなかった。おそらく僕は最初から内心ではそこに注目していたんだ。
「そう、大事なのは逆転の発想だ。ここまで言えばわかるだろ?」
「分かんねーよ?」
どうしてわからないんだこのポンコツ。ここで思いつかないからキミはE組なんだよ全く。
しかたない。もう教えるとするか。僕がたどり着いた至高の一手。ズラシで可能になる日常への新たなアプローチ。それは……
「逆に、堂々とエロ本一冊だけレジに出せば買えるんじゃないか?」
「!?!?!?!?!?!?」
衝撃が突き抜けたような幻聴が聞こえた。これこそまさに、青天の霹靂。
岡島君の顔がすごいことになってる。驚きすぎて声も出ていない。ふっ、ここまで発想を転換させられることが、僕が強者たる所以である。
だから奥田さんたちが退場してから僕らをアホを見る目で眺めているクラスメイトは見なかったことにする。いつからか分からないが僕らの会話は盗み聞かれていたらしい。恥ずかしい。
だけど、ここまで来たらもう止まることはない。
「ま……じか……!!」
「行こう岡島君。奥田さんへの敬意を胸に、新たな天地へ」
「ああ!行くぞ宇井戸!!希望は我らの胸に!!」
僕らは今日、新たな一歩を踏み出した。
補導された。
青春を書くつもりだったのに何故か坊主と対談しただけなことを懺悔します