普通に中学生してたら超展開に巻き込まれたヤツ 作:はごろも282
寺坂君たちによってリッシコさんが行動不能になった翌日のこと。教室に入った僕らを出迎えたのはまったく別のナニカだった。
「庭の草木も緑が深くなってますね。春も終わり近づく初夏の香りがします!」
リッシコさんの弁だ。昨日までの無口さはどこへやら。少し見ないうちに全身フルスクリーンに豊かな表情、キラキラしたBGMなんかもついている。
初夏の香り、もしかしてあの機械にはさらに嗅覚システムも完備しているんだろうか。
「たった一晩でえらくキュートになっちゃって……」
「固定砲台だよな、これ一応……」
ニコニコと微笑むリッシコさんに困惑するクラスメイト。
話によると、昨晩のうちに殺せんせーがリッシコさんに改造を施したらしい。クラスでの協力が円滑にできるように、なんて理由だった。凄い話だ。殺せんせーはプログラムにまで精通しているみたいだ。
「何ダマされてんだよお前ら。全部あのタコが作ったプログラムだろ」
と、クラスがざわつく中で鋭い指摘。寺坂君だ。
「愛想よくても所詮は機械。どーせまた空気読まずに射撃すんだろポンコツ」
なるほど、もっともな反応だ。空気読まずとか誰が言ってんねんという指摘はさておき、昨日までの意思疎通のできなさっぷりを見てきた身からするとすんなりとは受け容れられないのも納得だ。
そんな気持ちで事態を眺めていると、リッシコさんの様子に変化が。ずっと流れてた音声も再生されなくなった。
「……おっしゃる気持ち、分かります寺坂さん」
沈んだような声。これは罪悪感がすごい、長くは聞いていたくない。
「昨日までの私はそうでした。ポンコツ……そう言われても返す言葉がありません」
グス……グスン……
セリフの途中で涙がこぼれるリッシコさん。これはいけない。日常に差し支えないアップデートかと思えば、リッシコさんは凶悪な性能になってかえって来たらしい。
「あーあ、泣かせた」
「寺坂君が二次元の女の子泣かせちゃった」
「なんか誤解されるような言い方やめろっ!?」
ほら、こんな感じで。泣いちゃったリッシコさんをかばう片岡さんと原さん。責められる寺坂君。
女の子が泣いた時点で僕ら男に勝ち目なんてものはないのだ。寺坂君の意見は理解できなくもないモノだったが、既に封殺されてしまった。
「いいじゃないか2D……。Dを失うところから女は始まる」
「竹林ソレお前の初ゼリフだぞいいのか!?」
しれっと竹林君が壊れた。驚きの思想の持ち主、時代が時代なら王になれた逸材かもしれない。収拾つかなくなってきたな……。
「──でも皆さんご安心を。殺せんせーに諭されて……私は協調の大切さを学習しました」
弛緩した雰囲気を戻すように、リッシコさんは言葉を発した。なんでも、僕らに自身のことを好きになってもらえるまで単独の暗殺はしないと誓ったんだとか。
結果はどうあれ、僕らが授業後に大変な思いをしなくてよくなったのはいいことだ。リッシコさんも可愛くなったし、これで最近のクラスの暗い雰囲気も改善されるのならいいことづくめだ。
ただ、一つ思うことがあるのなら、そうだな……。
メカのプログラムの解析が広義的にはセクハラになったりしないのかというところだろうか。
一応は生徒のリッシコさんを改造した。それはいわゆる洗脳的なサムシングになったりしちゃう線も捨てきれない。なぜか冷たい視線を浴びた僕から言わせてもらうと、『やっぱ殺せんせーはすごいな……』みたいな空気は納得のいかないものがある。
「あの……ところで、宇井戸さんはいらっしゃらないんでしょうか……?」
みんなにリッシコさんと仲良くするように言う殺せんせーを同じ次元まで叩き落す案を練っていた僕の耳に、リッシコさんのそわそわした声が聞こえてきた。
どうやら彼女は誰かを探しているみたい。みんなの目線が僕に集まる。……?
「……ほぇ?」
宇井戸さん、ソレは僕だ。
「あっ宇井戸さん!いらっしゃったんですね!」
周りに遮られて見えなかったんだろう。周囲がどいたことでようやく僕を視認したリッシコさんが二パッと笑みを向けてくる。かわいい。
これはいったいどういう流れなんだ。
「……や、イメチェン?可愛くなったね」
言うに困って咄嗟に昨日見たドラマの台詞が出てきてしまった。どうして僕は2次元のAIを口説いているんだろう。
「はい!殺せんせーのおかげです!」
「ハハ。それで、僕に何か用?」
単刀直入に切り出す。大勢の前で見られながら会話をするのは居心地が悪いのだ。
そして、そんな僕の意思をくみ取ったのかリッシコさんもすぐに本題に入ってくれるようだった。
「──私は、宇井戸さんに謝罪したいのです」
いきなりの重苦しい話題。景気はよくなさそう。
「日本には、気になる異性には悪戯したくなるという話があると学びました」
「……ん?」
急に話の流れが読めなくなった。しかしどうしてだろう、無性に嫌な予感がする。
「先日の宇井戸さんの発言を考慮するに、女の子へのセクハラは悪戯に──」
「ようし一旦口を閉じようか!!」
なんて局所的な知識を仕入れてきたんだこのポンコツ!?
思わずリッシコさんの映るモニター口部分に触れて抑えようとする。僕は画面と現実の区別もつかないくらいテンパっているみたいだ。そして、ソレがよくなかった。
「──んっ」
「……え?」
なんだいまの喘ぎ声。しらないぞ、僕は知らない。リッシコさんに声が似ていたことも、僕の目の前から声が聞こえたことも知らない。だいたい、昨日までそんな機能なかったハズだ。
いちど状況を整理しようか宇井戸那月。僕は今リッシコさんに触れ、それと同時にリッシコさんは悶えた。ソレが意味するところはつまり──。
タッチパネル仕様である。
「──!!」
「きゃあっ!?もっもう!オイタはメッですよ宇井戸さん!」
自然な手つき、かつ最速でスカートを上にスワイプしようとして咎められた。恥ずかしそうに怒ってくるのも本物の女子中学生だ。モニターの指に連動して照れ隠しにこめかみに銃口を突き付けるのだけやめてほしい。グリグリが逆に恐怖をそそる。
「いやぁ、ごめんごめん。タッチパネル仕様になったんだね」
「確認は別の手段でしてくださいっ。もうっ次は許しませんよ?」
ぷんぷんという感じで怒られてしまった。
「……うん、それじゃ改めてよろしくね。クラスメイトとしてさ」
「あ……はい!よろしくお願いします!」
こうしてリッシコさんとの会話は無事に終わった。これが僕の十八番、強引な話題逸らし術だ。
リッシコさんもみんなも最初の方に言ってた好きな子にセクハラうんぬんは忘れたに違いない。
☆
リッシコさんはその後も大人気だった。授業中であれば寝ている生徒が当てられたときに手助けしたり、休み時間であればクラスメイトとおしゃべりしたり遊んだり。彼女はその高性能さを存分に発揮していた。
「へぇーっこんなのまで身体の中で作れるんだ!」
「はい。特殊なプラスチックを体内で自在に成型できます。データがあれば銃以外もなんでも!」
今は女子たちに彫刻を見せているみたい。あれはミロのヴィーナスだ。完成度が高い。
「おもしろーい!じゃあさ、えーと……花とか作ってみて?」
「分かりました。花のデータを学習しておきますね」
千葉君を王手に追い込みつつ倉橋さんとそんな約束を取り付けるリッシコさん。マルチタスクのすごさだ。さっきルール覚えたはずなのに3局目にして千葉君が歯が立たなくなってる。
そんなあまりの人気っぷりに殺せんせーが嫉妬して生徒にダルがらむも、無残に切り捨てられる。なんて一幕もあったりして、その時はやってきた。
「あのさ、このコの呼び方決めない?”自律思考固定砲台”っていくらなんでもさ」
切り出したのは片岡さんだった。長すぎる名前をどうにかしたい、ということだ。片岡さんもおかしなことを言う。名前ならとっくに……。
「名前なら、宇井戸が……」
「却下よそんなヘンテコ名」
「!?」
僕と同じ意見だったであろう前原くんの進言がばっさり切り捨てられた。これに対して僕はどう反応したらいいんだろう?
「自……律……あ!じゃあ“律”で!」
誰かがそんなことを言う。なんて安直なネーミング。コレなら僕の方が100倍マシというものだ。
「律ねぇ。お前はそれでいい?」
リッシコさんに確認を取る前原君。対してリッシコさんはボーゼンとしている様子。あまりのネーミングに言葉も出ないらしい。
……ここは僕がバシッと言ってやるか。
「あのねぇキミたち。そんな安直な……」
「嬉しいです!では律とお呼びください!!」
「!?」
「おっじゃあ決まりだな!」
おかしい。僕の知らない次元に迷い込んだみたいだ。
「……あの、リッシコさん?」
「宇井戸さん!律とお呼びください!」
「いや、あの……」
「律とお呼びください!」
「……」
「律とお呼びください!」
「……っス」
どうやら僕のネーミングはお気に召さなかったらしい。
「……ドンマイ」
教室の隅でいじけていると、突然倉橋さんに肩を叩かれた。く、倉橋さん……!!
「ぶっちゃけ、ちょっとないなって思ってた」
振り払ってやった。
☆
その後のことである。
リッシコ改め律さんは研究者たちの手によってオーバーホールされ、殺せんせーの改造はなかったことにされた。
しかも、『今後は改良行為も危害とみなす』なんて訂正がなされ、僕らにも縛ったりして壊せば弁償を要求されるという決まりが追加された。
これで、僕らはまた前のような銃弾の嵐に耐えなければいけないのか、なんて思っていたその時だった。
律さんの箱から、花束が飛び出した。
「……花を作る約束をしていました」
そんなセリフから始まる律さんの自分語り。曰く、E組で暗殺を行うために協調能力は不可欠な要素だとみなして消される前に隠したんだそうだ。
「……素晴らしい。つまり律さん、あなたは……」
「はい。私の意思で産みの親に逆らいました」
律さん、ストライキである。
「殺せんせー、こういった行動を反抗期というのですよね。律は悪い子でしょうか?」
「とんでもない。中学3年生らしくてたいへん結構です」
こうして、僕らに新たな仲間が加わった。
色々書きたかったけどまとまんなかったと報告します