普通に中学生してたら超展開に巻き込まれたヤツ 作:はごろも282
どう見ても人間とUMAもどきで種族からして違うはずのイトナ君による兄弟宣言からしばらく。依然として僕らの間にはピリついた緊張が走っていた。
「兄弟同士小細工はいらない。兄さん、おまえを殺して俺の強さを証明する」
これが本当に兄弟なのか、それともはったりなのかは分からない。ただ一つ確かなのは、イトナ君の発言で殺せんせーのメンタルが大きく揺さぶられているという点だ。
「時は放課後、この教室で勝負だ」
──こいつらにお別れでも言っておけ
言いたいだけいってブチ開けた壁から悠々と立ち去っていくイトナ君。授業を受ける気はさらさらないみたい。
そうして動乱の元凶が立ち去ってしまえば、残るのは超展開に置いて行かれたみんなによる大騒ぎだ。
「ちょっと先生兄弟ってどういうこと!?」
「そもそもタコと人で全然違うじゃん!!」
「いっ……いやいやいや!!」
尤もな指摘だ。だけど僕ら以上に混乱しているのが殺せんせーである。今も押し寄せる指摘にたじたじになるばかり。
「全く心当たりありません!先生生まれも育ちも一人っ子ですから!!」
そもそも一人っ子とかの概念があるのか疑わしいところだ。
「それに『弟が欲しい』って両親に強請ったら微妙に家庭内が気まずくなりました!」
家庭内の込み入った事情は知ったことではない。
そんなこんなで、真偽も定かではないまま慌ただしく1日が始まった。
☆
お昼時、しれっと大量のお菓子を持参して席に戻ってきたイトナ君は僕らの視線に狼狽えることなくもくもくと甘味をむさぼりだした。
「……すごい勢いで甘いモン食ってんな。甘党なトコは殺せんせーとおんなじだ」
「表情が読みにくい所とかな」
兄弟発言のせいか、殺せんせーとイトナ君の類似点をみんなが探している。殺せんせーも同じことを思っているのか、どこか居心地が悪そうだ。今もチョコレートを食べる触手が進んでいない。こんなタイミングで甘いモン食ってたらそりゃ言われるよ。
「ムズムズしますねぇ……気分直しに今日買ったグラビアでも見ますか。これぞ大人の──」
「……」
ゴゴゴゴ……!
ヌルっと持参したグラビアを取り出す殺せんせー、と同じグラビアを取り出すイトナ君。迫真だ。というか巨乳好きまで同じなのか。
「互角……か」
「まだやってるのその実況?」
「ケンカとかの解説は僕のジョブだからね。速水さんもやる?」
「やらない。そしてやめなさいそんなジョブ」
「これは友人枠の大事な役割だから譲ることはできない……!」
「どうしてここで一世一代みたいな雰囲気がだせるの……?」
非力な友人枠に託された使命、それが解説だ。デブが焼き肉で最後の一枚を食べるくらい大切な役割なんだ。
「というか同じ巨乳好き、これは俄然信憑性が増してきたぞ」
「そ、そうかな岡島君」
そんな話をしていると、岡島君と渚君の会話が聞こえてきた。渚君は岡島君のアホ理論に呆れている様子。バカの話なんて無視してもいいのに。
「そうさ!!巨乳好きはみな兄弟だ!!」
「3人兄弟!?」
渚君の声にバッ!!と反応してリュックからこれまた同じグラビアを取り出す岡島君。なんでお前まで買ってんだよバカ。というか全員学校に何もってきてんだ。
「と、ということは……」
「……え?」
バカなやり取りをぼーっと眺めていると渚君の目が僕の方に向く。それにつられてみんなの視線も。えっなに?
「巨乳好きはみな兄弟!なあ宇井戸!」
みんなの視線の意図が分からずに混乱する僕に岡島君が声を張り上げてグラビアを見せてくる。それでようやく合点がいった。僕も同じ本を持ってると思われてるわけだ。
そっか……。
「な、なんだよ……?」
大きくため息をついて岡島君と向き合う。ここはハッキリと言ってやらないと。まったくしかたがないな……。
「なにを考えてるかは詳しく聞かないけどさ、僕みたいな普通の中学生は君みたいにスケベに脳は支配されてないんだ」
「「「…………?」」」
「なんだいその心底理解できないみたいな顔は。意見があるなら聞こうじゃないか」
人の発言に対してみんなして首をひねりやがった。これじゃまるで僕が年がら年中エロに脳が支配されてるどうしようもないヤツみたいじゃないか。甚だ心外だ。
「あのねぇ、そもそもここは学校だよ?授業を受けるような場所にそんな──」
ゴトッ……
「宇井戸、3DS落ちたぞ」
「あ、ごめん三村君ありがと」
濡れ衣を払拭しようとして立ち上がった拍子に引き出しからゲーム機が落ちてしまった。三村君に手渡してもらって再度しまいなおす。よし。
「そんな勉強と関係ないモノ持ってくるハズないだろ」
「「「無理だろソレは!!」」」
僕の完璧な論は総スカンだった。不服だ。
「宇井戸君。没収です」
「ああっ!僕のダラ・アマデュラ!!」
せっかくG級いけたのに!!もうすぐユクモ装備つくれたのに!
僕の3DSは瞬く間に殺せんせーに没収されてしまった。
「くう……!ごめん三村君、木村君。一緒にプレイできそうにない……!!」
「!?」
「バッバカおまえッ!?」
「安心してください。全員まとめて没収です」
「「ああっ!?」」
「よし!!じゃなかったくそーごめん2人ともー」
「ごまかせねーよお前確信犯だろ!?」
「道連れにしやがったな!?」
キャンキャンわめく男2人は見ないふりだ。悪意はないけど僕だけ罰なんて冗談じゃない。どうせだったら一緒にやる約束してたヤツもできる限り共倒れにしなければ。
というかグラビアもってきてるくせにゲームはダメなんて。随分な対応じゃないか殺せんせー。
そうしている間にも話は続く。今の流れは本当に必要なかった。ただ僕らが被害を受けただけって、酷い話だ。
「もし本当に兄弟だとして……でも何で殺せんせーは分かってないの?」
「うーん……きっとこうよ」
茅野さんの疑問に答えたのは不破さんだ。ガサゴソと何かを探しながら話し始める不破さん。
「まず、二人は某国の王子なの」
「すごい。一言目から聞く価値なしって分かることあるんだ」
「ばかっ黙ってろ宇井戸!」
開幕から与太話とはなかなかの切れ味だ。お目当てのものを見つけたのかガサガサは終わった。
掴んでいたのは少年ジャンプ。彼女は生粋の漫画狂いだ。
「国家争いに負けて亡命することになった二人は命からがら王宮から抜け出す。やっと抜け出して橋を渡れば逃げ切れるってとこで現れる追手、もうすぐってところで弟をかばって海に落ちる殺せんせー……溺れる兄を心配して駆け寄る弟に、殺せんせーは言うの」
弟よっ生きろ──ッ!!
当然だがジャンプにそんな話は載ってない。完全に彼女の創作だ。ではなぜジャンプを取り出したのか、そんなことは一旦いい。好きなことを話してる女の子はカワイイ。それでいいんだ。
「で、成長した二人は兄弟と気づかず宿命の戦いを始めるのよ」
妄想が終わった。不破さんは満足そうでなにより。ジャンプにありがちな急な戦闘モノへのシフト感が否めないけど、同じジャンプを愛するものとして……って、アレ?
「……?おい、どした宇井戸?」
異変を察知してか声をかけてくる声には反応ができなかった。それどころじゃなかったから。
僕は自身の持ち物をあさる。バックの中に入っているのは巨乳モノのグラビア──ではなく、不破さんと同じ週刊少年ジャンプ。
ジャンプを手に取って、瞬間。さっきまでの出来事が脳裏にフラッシュバックした。
『巨乳好きはみな兄弟!!』
『3人兄弟!?』
駆け巡る記憶。なんだ……?なにが引っ掛かってるんだ僕は?
原因不明のもやもやを抱えたまま話している不破さんに意識を向ける。
「うん……で……どうして弟だけ人間なの?」
「それはまあ……突然変異?」
「肝心なとこが説明できてない!?」
「というかキャラの掘り下げが甘いよ不破さん!」
勢いよくツッコまれてる不破さんに目を向けて、僕の視界に入ってきたのは不破さんと、その手元の少年ジャンプ。
そこまできて、ピンッと脳裏に一筋の光が走る。
同じグラビア本を持つせんせーたち。巨乳好きはみな兄弟なんてセリフ。同じグラビア本を取り出す岡島君。3人兄弟。手元にある少年ジャンプ。これら全てから弾き出される解は──
「僕と不破さんは……兄妹?」
「違うよ!?」
「今お前の中でなにが起きた!?」
妹の爆誕だ。
「えっ不破さん……?」
「しっ知らない知らない!私にそんな設定ないよ!?」
疑惑の目を向けられて必死に否定する不破さん。安心してほしい。僕も同じ気持ちだ。だけど今までの展開に説得力を持たせるとこうなるんだ。
「僕にもない。けど状況からするとそうならざるを得ないんだ」
「どんな状況!?宇井戸君の頭おかしいよ!!」
「こら、兄さんに向かってその言い方はなんだ」
「急に兄面しないで!?」
「妹よっ生きろ──っ!!」
「設定流用するんじゃないわよ!!」
折角サンプリングしてあげたのに。まったく困った妹だ。
ゼーハー言ってる不破さんを見てため息が漏れそうになる。もうじき15歳なのにこの落ち着きのなさ、兄として先が思いやられる。
「っていうか……宇井戸君ふざけてるでしょ?」
「お兄ちゃんはふざけてないアニ!」
「兄キャラは語尾にアニとかつけないのよ!」
「じゃあ何キャラがつけるのさ」
「そうね……*1多伽羅とか?」
「僕の匂いを纏いたいって?ブラコンだなぁ」
「摺り潰して焚いてやりたいっつってんのよ!!」
「不破さん、声が大きいからみんな見てるよ」
「宇井戸君のせいだよね!?」
うがーっ!と騒ぎ立てる不破さん。周り見てほしい。絶賛注目の的だ。笑いものにされてる。
不破さんに睨まれつつみんなの視線から逃れるようにそそくさと退散する。それにしても……
「いや、前から思ってたけどやっぱり不破さんと話すのは楽しいね」
「……なに急に」
不破さんの反応は良くない。さっきまでのことが尾を引いているのかな。拗ねてるみたいだ。
だけど、これはおべっかとかじゃなく本心だ。E組はみんなだけど、中でも不破さんはノリいいし。
うん、まるで──
「まるで寺坂君だ」
「バカにしてる!?罵倒じゃん!!」
「失礼なのはオメーだよ不破ァ!!」
今もそうだけど、寺坂君は殺せんせーから弄られたときのノリがいいからっていう誉め言葉だったのに。
☆
そして放課後、机をリング状にするように並べて、周囲を僕らが囲んで、机で囲まれたフィールドの中にはイトナ君と殺せんせーの二人のみ。
今、兄弟決戦がはじまる──!
次回はもっとシリアスです