普通に中学生してたら超展開に巻き込まれたヤツ   作:はごろも282

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こいつ…動くぞ!(半年ぶりの更新に驚くアムロ)

サブリミナルです


まさか→苦戦の時間

 イトナ君による暗殺は暗殺というよりも試合に近い。机によってできたリングの中に立つ殺せんせーとイトナ君。保護者のシロさんによって付け加えられたルール『リングの外に足がついたらその場で死刑』なんてのもそれに拍車をかけている。

 

 当然そんなルール誰が守るのかという話ではあるが、このルールというのは案外殺せんせーの弱点だ。みんなの前で決めたルールは破れば先生としての信用が落ちてしまうから。カルマ君がさっきそう言っていたから間違いない。

 

「では、合図で始めようか」

 

 言いながら片手を上にあげるシロさんの姿で、教室に緊張が走る。

 これまでも単独の暗殺はあった。それらは今まで失敗に終わっているわけだが、今回はどうなるだろうか。そんな気持ちで眺めていると、シロさんは試合開始の合図とともにゆるりと腕を振り下ろす。

 

 最初に聞こえたのは鞭のような音。ついで質量のあるナニカが地面に落ちた音が聞こえる。

 

 直後、視覚が状況を鮮明に教えてくれた。落ちたのは殺せんせーの触手だ。切り落としたのは、イトナ君の触手。

 

「触手!?」

 

 驚愕の声が耳に届く。そう、イトナ君の触手だ。ひゅんひゅん動くイトナ君の触手。

 

「……こだ……」

 

 ゾクッ──

 

 驚嘆に包まれる中で、聞こえるかどうかといった程度の掠れ声だ。だというのに、ソレが僕の聞こえた瞬間に背筋が凍るような感覚に襲われた。

 この感覚には覚えがある。こういう時はたいてい、発信源がブチギレているんだ。今回で言えば、それは殺せんせー。

 

「どこでそれを手に入れたッ!!その触手を!!」

 

 真っ黒に染まった顔。殺せんせーは分かりやすくキレていた。これまでも何度か黒く染まった顔は見ている。4月に渚君がカミカゼ特攻したとき、修学旅行で不良を相手にしたとき。

 だけど今回はそれらの比じゃない。肌をビリビリと突き刺す感じが物語っている。

 

「君に言う義理はないね殺せんせー。だがこれで納得したろう?」

 

 そんなせんせーを相手に飄々とシロさんは続ける。とんでもないメンタルだ。この場においては『殺せんせー』という呼称すら煽っているようにすら聞こえる。

 

「両親も、育ちも違う。だが……この子と君は兄弟だ」

 

 触手による繋がり。なるほど、それで兄弟か。同じ触手生命体、兄弟と言えなくもないか?

 

「しかし怖い顔をするねぇ。何か……嫌なことでも思い出したかい?」

 

「……どうやら、あなたにも聞かなきゃいけないようだ」

 

「聞けないよ。死ぬからね」

 

 どうしてこの状況でさらに油を注げるんだろうあの白装飾。いけない、こんな状況だがお洒落な問答に少しだけ尊敬の念すらでてきてしまった。

 

 そして会話の直後、シロさんの服の裾からカッと光が差す。異変が生じたのはそのあとだ。

 

「!?」

 

「この圧力光線を至近距離で照射すると君の細胞はダイラタント挙動を起こし一瞬全身が硬直する」

 

 言葉通りに、殺せんせーの身体は硬直している。そして、触手持ちを前にしてその一瞬は致命的だ。

 

「全部知ってるんだよ。君の弱点は全部ね」

 

「死ね。兄さん」

 

 無数の触手が殺せんせーを襲う。地響きがするほどの執拗な追撃。エグイ。

 

「殺ったか!?」

 

「いや……上だ」

 

 寺坂君の台詞の通り、殺せんせーは天井の蛍光灯にしがみつく様にして緊急退避していた。

 

「脱皮か……そういえばそんな手もあったっけか」

 

 どうやって、僕がそんな思考に至る前にシロさんが解を出す。脱皮、殺せんせーが月に1度使えるエスケープ用の切り札だ。随分序盤に使わされることになったが、そのおかげで窮地を脱したようだ。

 

 だが、顔を見たら分かる。今の殺せんせーはだいぶギリギリの戦いをさせれられている。肩で大きく息をしているし、額には汗みたいな液体が浮かんでるし。依然として状況は劣勢。

 

「でもね殺せんせー。その脱皮にも弱点があるのを知っているよ」

 

 シロさんの声に合わせるように追撃するイトナ君。それを殺せんせーが同じ触手で……捌けない?

 

「脱皮は見た目よりエネルギーを消費する。だから直後は自慢のスピードも低下するのさ」

 

 言葉にせずとも疑問に逐一回答してくれる名解説シロさん。なるほど、脱皮にそんな欠点が。僕らからしたら相当早いままだけど、確かにそれは同じ触手もち同士では致命的だ。

 

 ……ってぇ!?

 

「いつの間にか……解説役が、取られているっ!?」

 

「喋ったと思ったら今それ!?最初からずっとそうだったよ!?」

 

 あまりに自然なやりとりについ流していた!シロさんの役目は、本来僕のものだ!

 

「おのれシロさん……いいやシロカス……!!」

 

「私怨が過ぎる!?」

 

 今までは保護者だったから敬称だったが、こうなってしまってはそうもいかない。敵に敬称をつけるバカはいないのだ。

 

 その後もシロカスの解説は続く。イトナ君の最初の攻撃で失った腕の再生で体力を使っていること、触手の扱いは精神状態に左右されることなど、次々と語られる殺せんせーの弱点。幾重にもねられた緻密な戦略は、着実に殺せんせーのパフォーマンスを低下させている。

 

 僕もまた、解説役を奪取する目途が立っていない。

 

「お、おい……これマジで殺っちゃうんじゃないの?」

 

 流暢なシロカスの語り口にざわつく周囲。周りまで味方につける名解説、これはいよいよ太刀打ちできないかもしれない。

 

 そうこうしている間にも戦況は変化していく。防戦一方の殺せんせーに特殊な光線を浴びせ動きを封じるシロカス。その隙をイトナ君は逃さず、殺せんせーの足を切り落とす。

 

「フッフッフ、これで脚も再生しなくてはならないね。なお一層体力が落ちて殺りやすくなる」

 

「……安心したよ兄さん。俺はあんたより強い」

 

 殺せんせーが追い詰められている。あと少し、ここで殺せば地球は救われる。

 だというのに、どうしてかみんなの顔は浮かないままだ。表情から察するに、みんなが現状に不満を抱いているのは間違いない。

 

「脚の再生も終わったようだね。さ……次のラッシュに耐えられるかな?」

 

「……」

 

 もはや煽りに近いシロカスに、返答もしない殺せんせー。いよいよもって万事休すだ。

 静寂の中で、僕らの視線を知ってか知らずか、殺せんせーはゆっくりと姿勢を整える。

 

「……ここまで追い込まれたのは初めてです」

 

 そして、殺せんせーは口を開いた。ま、まさか……!

 

「一見愚直な試合形式の暗殺ですが……実に周到に計算されている」

 

 この喋り口、この雰囲気、これは間違いない……!!

 

「あなた達に聞きたいことは多いですが、まずは試合に勝たねば喋りそうにないですね」

 

 これは──仕切り直し!!

 

 僕には分かる。シロカスたちは殺せんせーに喋る時間を与えるべきではなかった。本人による現状把握に近い状況説明、これには劇的なまでに思考を落ち着かせる効果がある。そしてなにより、劣勢一方だった空気をむりやりイーブンにまで持ち込める。

 

「……まだ勝つ気かい?負けダコの遠吠えだね」

 

「いや、違う……落ち着いてる」

 

「宇井戸君……?」

 

 今の殺せんせーからはさっきまでの慌てふためいた様子を感じない。

 さっきから後出しジャンケンみたいに出てきた殺せんせーの弱点に振り回されてばかりだった僕らだけど、これだけはよく知っているはずだ。

 

 *1焦ってない殺せんせーは、普通にメンドクサイ……!

 

「……シロさん。この暗殺方法を計画したのはあなたでしょうが、ひとつ計算に入れ忘れていることがあります」

 

「無いね。私の性能計算は完璧だから」

 

 ──殺れ、イトナ

 

 声とともに飛び掛かるイトナ君。

 無数の触手が殺せんせー目がけて放たれて、次に僕らが目にしたのはドロォ……と触手を溶かしたイトナ君と、無傷の殺せんせー。

 

「おやおや、落とし物を踏んづけてしまったようですねぇ」

 

「あれは……対殺せんせー用ナイフ!!」

 

 殺せんせーの台詞につられて床を見ると、そこに落ちていたのは対せんせー用のナイフ。

 

「同じ触手なら対先生ナイフが効くのも同じ、触手を失うと動揺するのも同じです」

 

 得意げに語る殺せんせー。なるほど、いつの間にか僕らの誰かからパクったナイフ(おそらく渚君。なんか手もとみてテンパってる)でイトナ君の自滅を図ったのか。

 

「でもね、先生の方がちょっとだけ老獪です」

 

「「「!!」」」

 

「だ、脱皮した皮でイトナ君を包んで……!」

 

 そのまま殺せんせーはイトナ君を場外に投げ捨てた。投げ出されたイトナ君はリング外だ。

 

「先生の抜け殻で包んだからダメージはないはずです。ですが君の足はリング外についている」

 

 呆然としているイトナ君を見下ろすように近づく殺せんせーの顔はいつものシマシマ。調子こいてる。

 

「先生の勝ちですねぇ。ルールに則れば君は死刑。もう二度と先生を殺れませんねぇ」

 

「!!」

 

「生き返りたいのなら、このクラスで皆と一緒に学びなさい」

 

 また暴れだしそうなイトナ君を諭すように、殺せんせーは台詞を続ける。

 

「性能計算ではそう簡単に測れないもの、それは経験の差です」

 

 まるで教師みたいなお説教だ、そう思ってから気がついた。そういえばイトナ君は転入生、殺せんせーにとっては彼も生徒の一人なんだ。

 

「君より少しだけ長く生き……少しだけ知識が多い。先生が先生になったのはね、経験(それ)を君たちに伝えたいからです」

 

 殺せんせーによる特別レッスン。効果は既に実証済み、なんせあのジャジャ馬カルマ君や律を手懐けた実績もあるんだ。

 

「この教室で先生の経験を盗まなければ……君は私に勝てませんよ」

 

 これでイトナ君は殺せんせーにちょっと絆されて、晴れて僕らのクラスメイトとして……って、あれ?

 

勝てない……俺が……弱い……?

 

 誰に伝えるでもないイトナ君の呟きが、かすかに耳に届く。

 

 なんか雲行き、怪しくない?

 

 見渡せば、殺せんせーと、先ほどまで余裕そうだったシロカスまでも身構えている。これは……なんかヤバそう!

 

 そして呟くままに、イトナ君から真っ黒の触手が飛び出した!

 

「黒い触手!?」

 

「やべぇキレてんぞアイツ!」

 

「こんな状況で何だけどそれ僕の台詞!せっかく途中から解説役奪取してたんだからっ!!」

 

「宇井戸君うるさいよ!?」

 

 気づいてなかったろ!!僕が自然に解説始めたの!!

*1
誉め言葉




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