普通に中学生してたら超展開に巻き込まれたヤツ 作:はごろも282
殺せんせーが教師となってから既に一ヶ月。5月となった。
これまで何度もせんせーの暗殺を試みてきた我らE組だが、未だその成果の芽が見えないのが現状。
そんな中での出来事だった。わが校に新しく教師が赴任するという話が噂されたのは。
「……今日から来た外国語の臨時教師を紹介する」
そう言ったのは防衛省の所属であり、僕らの体育教師としても活動している烏間惟臣さん。いつもは機敏な動きで授業中僕らを平然と捻っている彼だが、今日はどこか頭の痛そうな様子だ。
「イリーナ・イェラビッチと申します。皆さんよろしく!!」
原因は明らかだった。僕らの前で教壇に立つ今自らでイリーナと名乗った女性。彼女がおそらく原因だ。
ウェーブがかったプラチナブロンドのロングに、胸元を強調した少し過激目な衣装、なによりその整った顔立ちで男の目を引き付けること間違い無しの女性代表みたいなイリーナさんだが、問題はそこではない。
なんとイリーナさん、殺せんせーにベッタベタなのだ。もうものっすごいくっつき方。豊満なそのおっぱいは変幻自在に形を変える全わざタイプ一致である。
怨念にカタチが宿るなら、今の僕は殺せんせーを殺せるかもしれない。
「そいつは若干特殊な体つきだが、気にしないでやってくれ」
「えぇ、実はヅラです」
「構いません!」
いったい、何を見させられてるんだ僕は……!!
どうしてあんなハゲの軟体生物があんなおっぱい美人に言い寄られてるんだ。結局どこまで行っても足の速い男はモテるとでもいうのか……ッ!!
☆
「いや、すごい人が来たね……」
一人で物思いにふけっていたところ、背後から唐突にそう声をかけられた。
「あ、渚君」
声の主は潮田渚。水色の両サイド結んだ髪と童顔なのが特徴の同級生だ。渚君は殺せんせーの特徴をメモしていることもあり、そこらへんで暗殺のときは頼りにされているイメージだ。
ちなみに、暗殺開始早々にせんせーに向かって自爆特攻をかましたのは彼である。覚悟のキマリ方がたまに戦時中と僕の中で話題。
そんなことを考えていて、ふとホームルームが終わっていることに気がついた。周りに意識をむければザワザワとした喧噪も聞こえる。いつもより賑やかなのは、イリーナ先生の存在が影響しているのだろう。
「どうしたの?何か考え込んでるみたいだったけど……」
「あー、大したことじゃないよ。足が速くなる方法を考えてただけ」
「どうして今!?」
どうやら、あの後敢行した今後の走り込みプランを煮詰めるという自己防衛大作戦はうまくいったようだ。なんたってこうしてホームルームが終わったことにも気がつかなかったんだから。
しかし我ながら素晴らしい策だった。自己防衛のほかに速くなるから暗殺にも有利になるし何よりモテる、一石三鳥だ。
「あいかわらず宇井戸は変わってるなぁ……」
「?」
僕を見ながら、しみじみといったように渚君が呟く。腑に落ちない。僕としては渚の髪色の方がよっぽど特殊だと思う。というかE組の多種多様な髪色は何なんだ。戦隊ヒーローか。
「それにしても、どうして急に足を速くしたいなんて考えてたの?」
「ああ、それはね──」
「聞いてやるなよ渚。宇井戸の名誉のためにもな」
さっきまで考えていたことを話そうとしたところ、後ろの席の岡島君に遮られた。別に名誉もクソもないんだけど……なんだろう。凄く嫌な予感がする。
「あれ、岡島君は知ってるの?」
「ああ、なんたって俺は当事者だからな」
「待つんだ岡島君。キミは多分勘違いして……」
「コイツが足を速くしたい理由、それはズバリ!!この前コンビニで自分だけ逃げ遅れたか「岡島ァ!!」」
なんてことを暴露してくれるんだこのエロ猿坊主!?周りの目に気がついていないのか!?絶対に今じゃないだろ言うの!
「コンビニって……ああ、結局失敗したんだエロ本買うの」
「渚君のその超速理解はなんなの?もっとあるよね選択肢」
「ああ、結局仲良く補導されたよ」
「なんで全部言っちゃうわけ??」
聞かれたら全部答える機械か何かなんだろうかコイツ。欠陥生物が、殺せんせーよりも先にコイツの息の根を止めてやるべきか?
渚たちの言っているのは、先日の奥田さん事件(僕命名)のことだ。奥田さんの正直な毒殺に感化され秘密裏に行われた悲劇の出来事のハズだが、なぜか公の事実となっているみたいだ。
備考だが、『エロ本堂々としたら意外と買える』作戦が失敗しただけではなく、翌日奥田さんと殺せんせーの共同毒殺作戦も失敗した。なんでも、アレは暗殺には言葉巧みな手段が必要だから苦手な国語も頑張ろうと奥田さんに教えるためのブラフだったらしい。僕らはまんまとだまされたのだ。
さらに余談だが、噂を聞いたであろう奥田さんから後日謝罪をされたときは本当に死にたくなった。
「……あれはややこしいことした殺せんせーにも原因があると思う」
「あ、あはは……それはどうだろう」
「なになに、オモシロそーな話してんじゃ~ん」
思い出したくない過去になんとも言えない気持ちになっているところに、また新たな人影が。そいつの名は赤羽業。またの名をチンピラだ。
「カルマ君」
「や、渚君。なんの話してんの?」
「赤羽君まで聞かなくていいから……」
「えー、気になるじゃんそーいうの」
気になられようがそもそもこんな話知られたくないのが当然だ。まして相手が赤羽君であるなら当然だ。
赤羽業。詳しくは省くが彼に変な弱みは握らせないほうが良い。騙しとか悪戯が際限なく好きな男だ、そのうち地獄を見ることになるだろう。ちなみに彼、殺せんせーにはじめてダメージを与えた生徒だ。
「てか宇井戸さ、同じターゲットを殺す仲じゃん?赤羽君なんて堅苦し~呼び方やめてよ」
同じターゲットを殺す仲ってなんだろう。いったいどんな関係なんだ。普通ターゲットかぶりはライバル的に良くないんじゃないだろうか?
でも、なんか意外だ。だがこれも赤羽君なりに距離を縮めようとしてくれているのかもしれない。そう考えるとなんかうれしいな。
よし!赤羽君もこう言ってくれていることだし、コレを機に僕も愛称とかで呼んでみよう!
「いいの?じゃあ改めてよろしくねチンピラふべぇっ!」
「宇井戸!?」
「はは、ゴメン宇井戸手滑ったわ」
「カルマ相手になんて無謀なことを……」
間髪入れずに殴られた。なんて喧嘩っ早い男だ。ちょっとお茶目しただけなのに。
「いや~、宇井戸って結構面白い奴だったんだね」
「手滑らせといてその反応はやっぱチンピラ適性ありじゃないかな!?」
「てか宇井戸ってド不良って聞いてたけどなんかヘボいね」
「話聞けよバカ!そもそも喧嘩に巻き込まれがちなだけで僕はしてないよ!!」
「え、そうなの?」
「俺も初耳だな」
「岡島君と渚君まで!?」
カルマ君の台詞から衝撃の事実が判明した。どうやら全員僕のことを不良だと思っていたらしい。甚だ心外である。
「まったく、失礼だなぁ。僕ほど平凡な中学生はそういないっていうのに。巷じゃ虫も殺せないって噂の那月くんだよ?」
「初めて聞く噂だ……」
「俺去年こいつが校舎内で蚊にキレて蚊取り線香使ってるの見たぞ」
「虫も殺せないの大嘘じゃん」
「物のたとえ!!」
なんなんだコイツら。よってたかっていたいけな少年を追い詰めて罪悪感とかないのか?そんなだからお前らはE組なんだ!
「というか足が速くなろうとした理由だよね足速くなればモテるって分かったから以上それだけハイ終わり!!」
「強引に転換した!?」
「つーか理由が小学生じゃねーか」
「アッハハ、ホントに面白いな宇井戸って」
逸れた話題を戻すために一息に当初の理由を伝えたところ、すごく残念なものを眺めるかのような目で見られた。なんか、前にもこんなことあったような……。いや、でも今回は奥野さんのときより理にかなってるし、おかしいのは僕ではない。
あ、もしかして、こいつら気がついていないのか?どうして殺せんせーがベタベタされていたのか。うわ、そう考えると逆にかわいそうになって来たぞ?
「……おい、なんか憐みの眼を向け始めたぞ」
「今度はなにを考え付いたんだろうね……」
僕に聞こえないようにするためか、小声で会話し始める渚君たち。残念だが聞こえてる。だが僕は寛容だ、そんなことでは怒ろうとは思わない。逆に教えてやろうじゃないか。
「ふむ、君たちにはがっかりだよ」
「なんかはじまったぞ」
「宇井戸って講釈垂れるときは口調がかしこまるんだよね……」
雑魚どもがなんか言ってる。いいから黙って聞いていなさいな。
「まあ、どっちかといえば女子の渚君は置いといて」
「待って今聞き捨てならない声が聞こえたよ!?」
僕はどうみても男だよ!?とか言う声は一旦無視する。話が進まない。
「どうして殺せんせー如きにあんな美人がデレデレしていたか、カルマ君はもちろん岡島君のスケベに侵食された小さな脳でも考えればわかるはずだ」
「唐突に容赦のない言葉のナイフが飛んできた!?」
「ひゅー、流れるように全方位敵にまわしていくね」
「なんで三人とも無視するの!?ねぇ僕の話聞いてよ!」
カルマ君は女に興味ないことがカッコいいと思ってそうとか思ってることは一旦黙っておく。口に出したら酷い目に合いそうだからビビったとかでは断じてない。
「そう、答えは単純。殺せんせーが速いからだよね」
「「限度があるだろ!?」」
「……たしかにマッハ20は速いなんてもんじゃないか」
「でしょ?むしろ足の速さ以外あの軟体生物に惹かれる要素ある?アイツ僕らが買おうとしたエロ本これ見よがしに買っていったからね前」
なんならエロ本片手にルールは守りましょうとか説教してきたからね。ふつうに最悪の大人だ。
「いや待って宇井戸!よく考えて!多分だけどそこがツボの女の人はそんないない!」
話がまとまりかけたところに、渚君がそう待ったをかけてきた。
ということでもう少し考えてみることにした。ふむ、じゃあどこがツボだったんだろう。瞳だろうか、でも世の中は二重の方が美形だって言われてるしなぁ。
「……宇井戸、このクラスで一番モテるのは誰だ?」
頭を悩ませていたところに、神妙な雰囲気の岡島君の声が聞こえてきた。
「誰って……多分磯貝君か前原君?」
「そうだな。じゃあ一番足が速いのは?」
「え?えっと……」
誰だろう。わりとみんな運動神経がいいから分からないぞ。カルマ君だろうか、それこそ磯貝君や前原君の説もある。他にも野球少年の杉野君だってありえるし……。
いや待てよ?前の体力測定で異常に速かったヤツがいなかったっけ?えっと、アレは……
「木村君……?」
「そう、木村だ。そこで質問だが、木村は前原達よりモテているか?」
「ソレはないね……あれぇ???」
「いやあれぇじゃねーよ!?急に飛び火した俺の気持ち考えて!?」
木村くんの叫び声が聞こえたが一旦無視する。今は君に構ってる場合じゃないんだ(辛辣)
それにしても、これは困った。まさかと身近なところに反例があったとは。僕の論は外れてしまったということか。
では、なぜあんな顔面顔文字お化けに女の影が……?
「いやこの時期にやってくる新しい先生だよ!?かなりの確率で殺し屋だって!」
「ああなるほど。殺し屋……んん!?!?」
「今わかったの!?遅いよ!!」
ば、バカな!?殺し屋だと!?ということはアレか、あれはかの有名なハニートラップ!?
「ぜ、全然分からなかった……!」
「あー面白かった。多分気づいてなかったの宇井戸だけだよ」
「!?」
ニヤニヤとした顔のカルマ君に言われてバッ!と周囲を見渡せば、首を上下に振るみんなの姿が。
驚きのあまり固まっていたところ、偶然にも倉橋さんと目が合った。気まずそうに逸らされた。
ほう、なるほどなるほど……。
「ふ、フン。どうやら最低限の洞察力はあるようだね、合格さ……」
(((ご、誤魔化そうとしている!!)))
聞こえないはずの声が聞こえた気がした。エスパーの目覚めかもしれない。
僕は人知れず自席につくと顔を突っ伏した。しばらく上げられそうにない。
キャラの解像度が低いことを白状します