普通に中学生してたら超展開に巻き込まれたヤツ   作:はごろも282

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ようやくメインのタコが登場したことを懺悔します


大人→加入の時間

 結局、みんなの言う通りイリーナセンセーは殺し屋だった。流れるように殺せんせーを誘惑し本場のベトナムコーヒーを買いにパシらせる手腕は見事というほかなかった。

 つまるところ、気づいていなかったのは僕と殺せんせーだけということになる。

 

 だが待ってほしい。はたして生徒殆どに気づかれるような杜撰な接近術が超生物に通用するのだろうか。もしかしたら格の高い相手にのみ通用するテクニックだったりするのかもしれない。というかそうだといいなぁ。僕が巻き返せる可能性はそれくらいしかない。

 

 と、そんなことは置いといて。問題はイリーナさんが教師ではなく殺し屋であるという点だ。ターゲットにしか興味がないという殺し屋らしさ全開の彼女は、早速だがE組の反感を買ってしまったのだ。

 

『えーと……イリーナ先生?授業はじまるし教室戻ります?』

 

『授業?……ああ、各自適当に自習でもしてなさい』

 

 殺せんせーがいなくなってすぐの会話だ。直前までの甘ったるい声はどこへやら、凍てつくような視線と冷たい声を持つ殺し屋の姿がそこにあった。

 

 そこから始まったのは彼女の暗殺に対するスタンスの説明。言ってしまえばお気持ち表明だ。要約すると、ターゲットの前以外で教師のフリなんかしないみたいな感じのことを言ってた。

 ちなみにだが、最終的に彼女はそんな傍若無人ともとれる行動からカルマ君によってビッチ姉さんと名付けられてしまった。

 

 そして、この程度じゃ終わらないのが最近の通説だ。さらに驚いたのはここから。彼女ことビッチ(敬称略)は唐突に渚君の名前を呼ぶと、困惑している渚君に近寄り熱烈なチューをしたのだ!

 

 いちげきひっさつ!!

 

 突然の出来事に困惑していた渚君だったが、ビッチの手練手管な技によりあっさりダウンしてしまった。ビッチの特性は変幻自在でありつつノーガードでもあったようだ。

 なお、唐突なチューの理由は渚君の調べた情報が欲しかったかららしい。多分だけどチューの必要はそんなになかった。僕の見解ではただチューしたかっただけだ。ドスケベな女、そう記憶した。

 

 ☆

 

 そんなこんなでビッチが担当することになった外国語の授業中。宣言通り彼女はまるで授業をする気はないらしい。現に今もタブレット片手に優雅に殺しの計画を練っている。

 そんな状況に痺れを切らしたのか、ついに前原君が口を開いた。

 

「なービッチねえさん。授業してくれよー」

 

 そうして始まったビッチコール。どうやらみんな授業がしてほしかったらしい。生徒一丸となった軽いストライキだ。

 そんな熱烈なビッチコールにブチぎれたビッチによっていよいよ収拾がつかなくなってきたところで、僕は隣に座る少女に話しかけることにした。

 

「……そもそも殺し屋なんてやってる人に受験英語教えられるのかな。速水さん的にはどう思う?」

 

「は?え、うーん……どうだろ」

 

「実は教えられないから誤魔化してるだけだったりしてね」

 

「また聞かれたら面倒なことになるよ、ソレ……」

 

「これだけうるさかったらバレないよ」

 

 突然の問いかけにも驚きつつ返してくれる速水さん。いつも後ろの岡島君と話してるからアレだけど、速水さんとはこうして雑談ができる程度の仲だ。といっても、E組はみんなコミュ力高めだから話せない人なんていないんだけどね。

 

「というかね!まず発音が違う!!アンタら日本人はBとVの区別もつかないのね!!」

 

 楽しくおしゃべりに興じていたところ、ビッチのそんな台詞で現実に引き戻された。

 

「ただしい発音を教えたげるわ。まず歯で下唇をかむ!!」

 

 何をするのかと眺めているとなんと、ビッチはまるで本物のALTのような発音のレッスンをはじめた。すごい、やればできるじゃないかビッチ!

 

 言われたようにみんなが下唇をかむと、ビッチはとても満足そうな顔をする。

 

「……そう、そのまま1時間過ごしてれば静かでいいわ」

 

 すごい、半ば強引に全員黙らせた。かわりに全員ブチギレてるけど。だけどこの無理やりさ、どこか僕に通ずるものがある。少しだけビッチにシンパシーを感じてしまった。

 

 とはいえ、このまま唇かんでるだけなのも時間の無駄だ。幸い殺せんせーはベトナムまで出張中だし、動くなら今だろう。

 思い至ったが吉日と、物音をたてないようにこっそり立ち上がった僕に速水さんから待ったの声がかかった。当然だった。

 

「え、なに。どしたの?」

 

「いや、ちょっと下山してジャンプ買ってくる」

 

「……なんで今?」

 

「今週ごはんくんがいい感じだからさ。あ、なんか欲しいのある?」

 

「い、いらない……」

 

 会話もそこそこに、僕はクラスメイトに見守られつつ下山した。

 

 ☆

 

 校舎に戻ってきた時、僕を出迎えたのは体操服にブルマで恍惚な表情を浮かべたビッチねえさんだった。いつものことながら超展開だ。

 

「おや、戻りましたか宇井戸君」

 

 僕の存在にいち早く気がついたのはやはりというべきか殺せんせーだった。こちらを見ていないにもかかわらず恐ろしい察知力だ。本当にこんな生き物殺せるんだろうか?

 

「いけませんねぇ勝手に校舎を出るのは。これは入念な手入れが……ってなぜボロボロに!?」

 

 顔全体にバッテンを浮かべて叱ろうとしたのもつかの間、僕の姿を見た殺せんせーはものすごい速さで手当てをはじめた。そんな殺せんせーの反応に遅れて群がってくるクラスメイトたち。というかもうビッチねえさんは眼中になしかお前ら。いっとくが僕はまだ興味津々だぞ。

 

「あー、えと……道に迷った産気づいたお爺さんを助けていて……」

 

「にゅやっ!?それはバレますよ宇井戸君!?というかジャンプ買いにいったこと聞いてますからね!罰としてジャンプは没収です!」

 

「やっぱ宇井戸喧嘩してきてんじゃん」

 

「毎月どっかでボロボロになってるからね」

 

「てかせんせージャンプ読みたいだけだよねソレ?」

 

「ちっ違いますよっ!?これは宇井戸君への罰でですねぇ!?」

 

「てかあのビッチはなんなの?誰か説明してくんない?」

 

 クラスメイトの熱い援護射撃に胸を打たれる。いくつか僕への流れ弾がある気もするけど。まったく、いくら給料日前だからって生徒の私物で買わずに読もうとするのはどうなんだ。というか誰だチクったヤツは。

 じろっとクラスメイトを見つめたところ速水さんが目をそらした。くぅ、いや完全に僕が悪いからアレなんだけど、できれば誤魔化してほしかったなぁ……。

 ……まあ、こうなってしまえばしかたない。おとなしくジャンプを差し出すとするか。

 

「くっそー、あのとき絡まれなきゃバレなかったのになぁ……」

 

「む、絡まれるとは……というかそもそも!勝手に教室を抜け出すのは──」

 

「あ、そうだせんせー。今週のナルトなんだけどさ……」

 

「にゅ、にゅやっ!?ちょ、ちょっと───はい、読み終えました」

 

 せめてもの嫌がらせにネタバレしようとしてみたらマッハでジャンプをかっさらわれた挙句マッハで読破された。斬新なネタバレ封じだ。大人気がなさすぎる。

 

「まったく、油断も隙もありませんねぇ……。さ、教室に戻りますよ。宇井戸君!君には他の人よりも手強い問題を追加しますからね!」

 

「はァ!?お、オーボーだッ!!つぎ6時間目だよせんせー!?」

 

「なにが横暴ですか!解き終わるまで帰しませんからね!」

 

「じ、自分だって美人局引っかかってベトナム行ってたくせに!だいたいイリーナさんに何したんだスケベダコ!神聖な校舎であんな破廉恥なことしていいと思ってるのかッ!」

 

「せ、先生は大人だからいいんですー!!それにね!大人には大人の手入れってものがあるんですよ!」

 

「た、互いに同レベルの争いをしている……」

 

「どっちもどうしようもないから最悪の状況だね……」

 

 結局、帰宅はすごく遅くなった。ジャンプは帰ってこなかった。

 

 あと、教室へ戻る途中ジャンプネタバレに関して不破さんにわりとガチめに怒られた。怖かった。

 

 ☆

 

 翌日、ビッチねえさんはずいぶん苛立った様子だった。汚名返上に必死になるあまりぼくら生徒にも変に当たりだしたあたり相当昨日の出来事が堪えたのだろう。

 

 昨日と同じく授業をしないビッチねえさんに『僕らは今年受験だから授業をしないなら殺せんせーとかわってほしい』という旨を磯貝君が伝えたのだが。そこでビッチねえさんは綺麗にE組の地雷を踏み抜いた。

 

「あんたらE組って落ちこぼれそうじゃない?今さら勉強なんてしても意味ないでしょ」

 

 そんな台詞をはじめとして、でるわでるわ罵倒の数。それでまぁ、案の定というべきか学級崩壊がおとずれた。

 

「出てけよクソビッチ!!」

 

「殺せんせーとかわってよ!!」

 

「なっなによアンタ達その態度っ!殺すわよ!?」

 

「上等だよ殺ってみろゴラァ!!」

 

 酷い暴言の数々に飛び交う消しゴムや紙くず。まるで進学校とは思えない光景がそこには広がっていた。そんな様子では授業なんてできるはずもなく、この日の外国語はなあなあな感じで流れた。

 僕の周りで言えば、普段からやりそうな岡島君に限らず、速水さんや三村君も参戦していたあたりに事の大きさを感じた次第だ。

 

 

 そんなこんなでさらに翌日。あんなことがあった手前もう姿を見せないんじゃないかという危惧に反しビッチねえさんは現れた。

 僕らの視線が集まる中、彼女はわきめもふらず黒板まで向かうと、これまた無言でとある文を綴った。

 

You're incredible in bed!ハイリピート!」

 

 そして始まったのは今までとは違う、外国語の授業と呼べるモノ。リピートさせた台詞は中学生に教えるようなものではなかったが。

 

「外国語を短い時間で習得するには、その国の恋人を作るのが手っ取り早いと言われてるの。相手の気持ちをよく知りたいから必死で言葉を理解しようとするのよね。私は──」

 

 語られるのは、彼女の人生をもって得た知識。おそらく、教科書では絶対に得られない知識だ。

 

「──だから私の授業では……外人の口説き方を教えてあげる」

 

 何があったのかは僕には分からないけど。目を合わせようとせず言葉多く自己紹介じみたプレゼンをする姿は拒絶を恐れる子どものようで。

 

「だっだから……それなら文句ないでしょ?……あと、いろいろ悪かったわよ」

 

 それでも、彼女が自分より年下のガキである僕らに歩み寄ろうとしてくれているのは間違いないのだ。そして当然、そんな思いを無に帰すようなクラスメイトではなく。

 こうして、彼女はE組に受け入れられたのだ。暗殺者として、新米教師として。

 

「なぁんか、普通に先生になっちゃったな」

 

「ねー。もうビッチねえさんなんて呼べないね」

 

「……!!あんた達……分かってくれたのね……!!」

 

「うん、考えてみたら呼び方失礼だったし。変えないとね」

 

 ということで、ビッチねえさんはビッチ先生になった。

 

 

 イリーナはブチギレた。




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