普通に中学生してたら超展開に巻き込まれたヤツ 作:はごろも282
僕のナビが示すとおりに移動を開始した僕らは、見るからに不良が根城にしそうな廃屋の前に着いていた。
「……多分ここだ」
気づかれることのない様に小声で会話する。ここまで来て気がつかれてしまっては折角のチャンスが台無しになる。慎重に行動しないと。
「俺が先頭でいいよね?ソッコーで沈めるから宇井戸はサポートね」
「りょーかい。渚君たちは奥田さんを囲みながら後方警戒で」
簡潔に作戦を共有して、いよいよ行動開始だ。普段であればこんな行動恐ろしいだけだが、どうしてか今は落ち着いている。ハイになってるってヤツなのかもしれない。
ゆっくりと、足音がならないように廃墟を歩く。さっき不意打ちされたことも考慮して細心の注意を払いながら。
驚くことに、日ごろの暗殺訓練が生きているのかみんな見事に息を殺して進むことができている。
そうしてしばらく歩みを進めていると、ようやく人影を見つけることができた。相手は一人、状況から察するに見張り的な役目なんだろう。
視界に影をとらえた瞬間、カルマ君が飛び出した。ソレに少し遅れて僕も続く。飛び出した僕らに気がついた不良は当然反応が遅れる。
不良が声を出す間もなくカルマ君は顔面に一撃入れる。そしてそのままよろけたところに首をグイッとして意識を刈り取った。
「あ、鮮やかな手口だ……」
「場数が違うからね~」
「褒めにくいなぁ……」
行動からも容易に分かるが、カルマ君。今回の件相当腹に据えかねているみたいだ。ひとりでやってしまうんだ。カッコ良く飛び出した僕の立つ瀬を考えてほしい。
まあ、一緒にいて易々と相手の思うようにやられてしまったんだ。プライドの高い彼には耐えられないだろう。
沈む不良に首根っこをひっつかんで渚君たちと合流する。
門番がいたということは敵の根城はすぐそこだ。気を引き締めなければ。
☆
捕まった少女たちは、自分たちより大柄の高校生に絡まれて怯えていた。楽しい旅行でなんてことしてくれてんだ底辺が。自分たちを下賤な目で見る男たちを見て彼女らは心底そう思っていた。多分。
「……で、どーすんのお兄さん等」
そこまで大きいわけでもないカルマ君の声が響く。いつもの軽薄な雰囲気が感じられない、つまり滅茶苦茶キレてる。
お察しの通り、僕らは既に不良たちのたむろう場所に突撃していた。
「こんだけのことしてくれたんだ。アンタらの修学旅行はこの後全部入院だよ」
ソレに関しては僕も同意見だ。僕らは傷を負ったし、女子は怖い思いをした。落とし前はつけてもらわなきゃ。
「……フン、中坊がイキがんな。呼んどいた不良がもうすぐ来る。合わせて10人だ。お前らみたいないい子ちゃんが見たことない不良ども、ビビって逃げようたってもう遅いぜ?」
僕らの登場に最初こそ驚いていた不良だったが、スグに威勢を取り戻した。増援のツテがあるらしい。
10人、ケッコーな数だ。そんな人数カルマ君一人で対応できるんだろうか。そんなことを考えていたときだった。
「──不良などいませんねぇ。先生が手入れしてしまったので」
背後で、そんな聞きなれた声が聞こえたのは。
「殺せんせー!!」
嬉しそうな渚君の声。目を向けるとそこには、10人の丸眼鏡坊主を拘束した殺せんせーの姿。
にしてもおそらく意識のない10人の坊主たち、これまたテンプレ的な優等生だ。おそらくはさっき言ってた仲間だろう。既に堕ちていたとは圧倒的なスピード感だなまったく。
「遅くなってすみません。連絡を受けてすぐ駆け付けたのですが……」
「ううん。ココだって連絡したの建物入ってからだし、むしろ早いくらいだよ」
渚君たちの会話から察するに、ここに到着するまでの間にせんせーに連絡してくれていたらしい。いつのまに。いや、連絡なんてすっかり忘れていた。ありがとう渚君。なんで知ってるのセンセーの連絡先?
「渚君がしおりを持っていたおかげでこうして連絡が取れたのです。この機会に全員ちゃんと持ちましょう」
そう言いながらカルマ君たちにしおりを渡す殺せんせー。なるほど、しおりか。あの分厚いヤツ。渚君があれを持ってたなら納得だ。ていうかよくあんなの持ち歩いていたな。
「宇井戸君。場所の特定までは良い機転でしたが、行動よりも先に先生に連絡しなかったのはマイナスです。ほらここ、書いてあるでしょう?」
「……ふいまへん」
僕に至ってはしおりのあるページを開かれたうえで顔に押し付けられた。近すぎて読めない。ていうか分厚い本特有のにおいがして気持ち悪い。
「……せ、先公だとォ!?」
と、そこで響くボス不良の声。殺せんせーの登場で思考からも視界からも抜け落ちていた。ただ、殺せんせーがいるのなら僕らが心配することはもう何もないのだ。
「ふざけんな!!ナメたカッコしやがって!」
そう啖呵を切って走り出すのと倒れるのがほぼ同時だった。目にもとまらぬ速さで殺せんせーがナニかしたのだ。
「ふざけるな?」
ピリッとした空気が流れる。原因は勿論、殺せんせーだ。
「先生の台詞です。ハエが止まるようなスピードと汚い手で……うちの生徒に触れるなどふざけるんじゃない……!」
せんせーはオコだった。マジになってる殺せんせーはどうにもならない。だからアイツラの負けは決まってる。
ということでその隙にこっそりと捕らえられてる二人の元に向かう。
「あ、ありがとう宇井戸君」
「うん。二人とも無事でよかった。ケガはない?」
「私は大丈夫。でも……」
縄をほどきながら声をかけると、神崎さんは言葉を区切り茅野さんの方を見た。行動から察するに、茅野さんがケガをしてるということだろうか。
「私も平気だよ!ちょっと神崎さんより乱暴されただけで、ケガもないから!」
「!?」
ら、乱暴された……だと!?
衝撃発言に一瞬思考が止まる。まさか、僕らの到着が遅いばかりに……と考えて、寸前で踏みとどまった。僕の脳が1日目の出来事を思い出したのだ。
そう、僕は倉橋さんたちにヘンな勘違いで迷惑をかけたばかり。その経験がここで生きた。
茅野さんを見る。縛られてはいるが衣服が乱れている様子はない。つまり乱暴とは普通に暴力的なことのはずだ。
それに、よく考えたら茅野さんよりも先に神崎さんが襲われるはずだ。
「──確かに彼らは名門校の生徒ですが、学校では落ちこぼれ呼ばわりされクラスの名は差別の対象になっています」
脳内でひとり自己完結していると、そんな声が耳に入る。殺せんせーはどうやら不良のボスと会話しているらしい。会話なんかやめてさっさとブチのめせばいいのに。
殺せんせーの声を聞きながら縄をほどく。神崎さんは終わった。後は茅野さんだ。
「ありがと。それより、宇井戸君は大丈夫?連れ去られる前、ソートーやられてたけど」
「男は丈夫だからね」
痛いかいたくないかで言えば痛い。当たり前だ。そう簡単に回復してたまるか。まあ、今言うのは本当に時間の無駄だから黙っておくが。
そんなこんなで茅野さんの拘束をほどく。これで捕まった人の救出は終わった。
一緒に来た渚君たちは不良の背後からしおりの角でぶん殴っていた。
「神崎さん!ソレに茅野も!無事か!?」
ことが終わってすぐに、杉野君が駆け寄ってきた。後を続くようにして他のみんなも。杉野君は惚れた女の子のことだから気が気じゃなかったんだろう。心配がにじみ出ている。
「うん、大丈夫だよ。みんなもごめんね。心配かけて」
それから、話の顛末を聞いた。どうやら、事の発端は神崎さんが落としたメモ帳だったらしい。それを不良に拾われて、行く場所を把握されていたからこそこうして襲われたらしい。なるほど、だからあんな先回りみたいに隠れていたのかアイツラ。
「迷惑かけてごめんね……」
「めっ迷惑なんてそんな!神崎さん悪くないじゃん!」
「そうだよ、悪いのはアイツ等だから気にしちゃダメだよ!」
「ま、こうしてみんな無事だしねー」
落ち込む神崎さんに励ますみんな。温かい空間だ。誰一人神崎さんを悪く思っていないのが伝わる。さっきからどこか憑き物が落ちたような表情をしているし、これなら神崎さんも気をやまずに済むだろう。
……さて。それはそれとして、だ。
「にゅやっ?なにしてるんです宇井戸君?」
倒れた不良の体勢を整える僕を見て、殺せんせーは声をかけてくる。なにしてるか、だって?あはは、おかしなこと言うなぁ。殺せんせーったら。
「――今からこいつらのキンタマ潰すんだ」
「なぜ!?」
男に二言はない。息子の恨み、ここで晴らしてやる。
「だっダメですよ宇井戸君!?追い打ちは暗殺者として不健全です!」
「ええい止めるな殺せんせー!!僕はっ!僕はこいつ等のバベルを蹴らなきゃ気が済まないんだ!」
「うわぁ……荒れてんなぁアイツ」
「潰すって言ってたのマジだったんだ……」
「まあ気持ちは分からなくもない」
必死に止めようと絡みついてくる触手を振り払う。くそ!邪魔をするな!!
「せんせーには分かるか!?目覚めた瞬間相棒が再起不能になってるかもしれないレベルの激痛が走る地獄!まともに立ち上がるのに10分かかった!!」
「本当に気の毒です!先生にも分かりますよその痛み!!」
「……じ、実際どうだったの?」
「はい……。本当に痛そうで、起き上がってもしばらく内股で……」
「わかんないなぁ痛みの次元が。どうなの渚?」
「そんなこと聞かないで!?」
「てか殺せんせー分かんだ」
そうこうしているうちに完全に絡み取られてしまう。身動きも困難になってきた。
「分かった!じゃあ片方!片方だけでいい!!二度と【自主規制】できないように【自主規制】して【制限】するだけだからっ!」
「宇井戸君コンプラァッッッ!!!!」
「はなっ離せこのタコがっ!!ぶっ殺してやろうか!?」
「ここにきて今までで一番の殺意!?いまいち暗殺意欲の薄い生徒の目覚めがコレ!?」
結局、僕は無力だった。
毎日更新が疲れてきたことを懺悔します