オラ! 口開けろ! 舌伸ばせ! んぢゅるるるるるっっ!!   作:バター大統領

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第二話 珍道中

 

 聖剣ルフト(わたし)は勇者ラグナの無二の相棒だ。

 山の中に打ち捨てられていたところを拾われて、今日に至るまで彼と共に旅をしている。

 なんで山の中にいたのか。どうして聖剣の中の人格として存在しているのか、記憶が無いので全く分からない。

 覚えているのはルフトという名前と、かろうじて前世は美少女だったかな、という根拠のない自信だけ。聖剣の身体というものに違和感しかないから人の身体を持っていたのは間違いないと思う。

 どういうわけか、今は無機物ではあるのだけれど。

 考えたって仕方ない。変に思い悩まないようにすることは得意だった。誰も来ない洞穴の中、孤独に耐え忍ぶために手に入れたスキルだ。

 

「絶対に汚れないってのも手入れのし甲斐が無くて寂しいなあ」

 

 そんな私は今、安宿の一室において、抜身の状態でラグナに手入れされていた。

 手入れと言っても、私は泥や血を浴びても綺麗に弾くし、錆びることも刃こぼれも無いので、特段意味のある行為ではない。

 ルーティンというものか。ラグナが家を出てから毎日やっていることなので、彼にとっては意味があるのかもしれないな。私も……正直悪い気はしない。”相棒、相棒”と語り掛けてくるラグナの表情を見つめるだけで楽しい気分になるからだ。

 

「あっはっは、マジで初めてのおつかいの難易度では決してなかったよなあ、相棒! お前がいてくれて本当に助かったよ」

『お前が依頼の内容をちゃんと確認しないからだろ? 私は最初っから嫌な予感がしてたぞ』

「やっぱり思ってたけど……僕って最強? 魔王軍の幹部ぐらいならソロで攻略可能とか、この世界イージーかぁ?」

『アホぅ。あんな捨て身で負傷上等な戦い方続けてたら、今度は寝込むだけじゃ済まないんだからな! お前が死んだら私が一人になるってことちゃんと分かっててくれよ!』

 

 そんな風に私も彼にしゃべりかける。

 ラグナはリラックスした表情を浮かべたまま、手入れする手を止まらない。まるで、私の言葉に耳を傾けないでいるみたいに。

 ……いや、事実その通りなのだ。私が彼にどれだけ言葉を投げかけようと反応が返ってくることは無い。聖剣ルフトの声は、誰にも届かない。

 

「……なんてなあ! 相棒がいてこそだから! もうどれだけ嫌がっても手放してあげないからな! むっちゅぅぅうううううう!!」

『ぎゃーっ!! やめろ、おい、おま、やめろ! そこ、人間でいうところの――うわぁぁああああああ!!』

 

 だけれども、寂しいとは思わないよ。

 うちの相棒、無機物をあり得ないほど甘やかすド変態だから。本当に肌身離さず持っていてくれるし、夜も私を抱きしめて寝るしで、人の温かみを感じないでいる瞬間の方が少ないかもしれない。

 あーあ、あれだけかっこよかったのになあ、勇者様。本当、私以外にそんな姿見せちゃだめだからなー? なんて、言っても分からないだろうけど。

 

 思い出す。ラグナが受けた初めての依頼。リッチの討伐。

 私も短い付き合いとはいえ、ラグナがどれだけ化け物かは分かっていたつもりだった。だけど、あの戦いは……私の理解を軽く超えてくる、人知を超越した戦いだった。

 人が耐えられるレベルの速度を優に超え、人が即死するレベルの傷をかすり傷程度に抑え、人とは思えないほどの自然治癒の力を持ち、襲い掛かるリッチが率いるアンデッド軍団を一人で返り討ちにした。

 これが、勇者か。

 生身の身体を持っていたならば、情けなく震えあがっていたことだろう。

 人間がこの領域にまで達するという事実に、それでもなお、強大に思える魔王軍の脅威に。

 

 ラグナはたどり着くつもりだ。

 魔王の元へ。諸悪の根源へ。気負っている様子など微塵も感じさせないままに。

 手放してあげないって、本当に約束するんだぞ、相棒。私も一緒に行くから。お前と共に歩むから。そう思いながらラグナの顔を見つめていると、ふいにその唇に目線が寄ってしまう。

 

『――っ!』

 

 あー、あーもー、忘れてたのに思い出した。

 リッチとの激闘を制したラグナへの、報酬の記憶。あのリューゲとかいう小娘のキスの時間のことだ。

 私は不思議なことに、ラグナと感覚を共有している。痛みや、冷たい、暑い、とか、嬉しい、悲しい、という感情も――気持ちいい、っていう快感も。

 ああ、ダメだ。思い出すとぞわぞわってする。なんだか悶々とする。舌を蹂躙されて、唾液を流し込まれて、苦しいのに、息苦しいのに、それがたまらなく気持ちいいっていう感覚。

 ぐちゃぐちゃして、めちゃくちゃで、時間の感覚もどうにかなっちゃって、長く感じるのに、もっともっとしてほしいって思っちゃうような。

 ……えっちだった。すごくすっごくえっちだった。あのリューゲとかいう女、裏で何人も男を食ってるような淫売に間違いない。処女がこなせるテクじゃないからな!

 

「――気持ちよかったなあ、リューゲさんとのキス。ただ人助けをしただけであんなことができるなんて……やっぱりこの世界は僕のためにあるようなものだ……っ!」

『責められまくってたじたじだったくせに! バーカ!』

 

 うう、最悪だ。こんな身動きが取れない身体で、やけにムラムラする。

 もっと最悪なことに、夜になるとラグナが、その、ひとりえっちをしだすから……なんだか頭が沸騰しそうになる。まあ、おかげで朝になればある程度性欲も収まっているのだけれど。

 私って前世じゃえっちな女の子だったのだろうか? あまりうれしくない真実なので、願わくば違うことを。清楚で巨乳でからかい上手なお姉さんというのが私の前世であってくれればそれでいい! 望みすぎだ? うるせえ!

 

「リッチ討伐の功績のおかげで、新しい依頼が入ってきたことだし。また明日から楽しくなるぞ、相棒!」

『……あー、そうね。私は毎日楽しいよ、相棒』

 

 まあいいさ。私はエッチなところも含めて、ラグナという男を気に入っている。

 キスだけで魔王軍の手先を討伐してくれるなんて割が良すぎるくらいだしな。なんだかんだ人のために本気で動いてくれる優しい子だし、多少は目をつむろう。

 今でも思い出してしまうくらい、人とのキスは刺激的だったが……あれは報酬の時だけだ。そこさえ我慢してしまえば、あんな過激な快楽に襲われることは無い。ひとりえっちは……まあいいよ、うん……。

 

 その日もまた、ラグナに抱かれたまま布団に入り、そして真夜中に隣でごそごそしているのを感じながら、慣れない快楽に悶えるのだった。

 

 

 

 

 小さな村、『リトルウッズ』の脅威を退けたことは国中に知れ渡っている。

 ラグナが張り出したバカみたいな依頼も、なんだか良い方に捉えられて好意的に受け入れられているそうな。みなさーん、ちゃんと性欲ですよ、これー! なんて。正直大半の人間にはどちらでもいいんだろうな。リッチの単独撃破が可能な人材が協力的であるという事実さえあれば。

 ラグナの身体が完全に回復した辺りで、新たな依頼が舞い込んだ。こちらもまた、討伐依頼。『守護龍アグダート』を討伐せよ――というもの。

 

「アグダートかぁ、久しぶりに聞いたかなあ、その名前!」

「お姉さんも知ってるんですか?」

「知ってるも何も、かつてのこの国の英雄様だよ? 今は耄碌して、敵味方の区別がつかなくなってしまったとは聞いていたけれど」

 

 黒髪ロングの女性が、口に指を当てながらそんなことを教えてくれた。

 ひと際大きい揺れが訪れて、そんな彼女にラグナが寄りかかるような形になり、恥ずかしそうに笑う。

 

「す、すみません」

「良いんだよー。この辺はまともに整備もされてないからねえ、危ないからお姉さんの手、握っとく?」

「ご心配には及びません。僕、勇者ですから!」

「まあ、勇ましい」

 

 今、私たちは馬車で移動していた。

 隣で怪しく笑うお姉さんは偶然一緒になった冒険者さんだ。特徴的な猫耳と尻尾は猫耳族のモノ。黒を基調とした革の装備が身体のラインを強調していて、露出は無いのにどことなくえっちな感じがする――いや待て、同性!(たぶん!)。えっちってなんだ! もう毒されたのか、私!

 でもなんだかすっごく距離感が近い。ハイライトの無い切れ長の目は威圧感があるのに、優しく包み込むような声色がギャップとなって、抜け出せない沼のような魅力を感じさせた。

 

「勇者様ってわざわざキスを所望するくらいだから、モテない子なのかと思ってたけど……かわいいんだね、びっくりしちゃった」

「お姉さんだって、すっごくかわいいじゃないですか」

「あっ……ふふ、ダメだよー? お姉さんみたいなのにそんなこと言っちゃうと、あっという間に”にゃお!”と食べられちゃうからね!」

 

 っ! な、なんだ、またぞわぞわってきた!

 これは私の物じゃない。ラグナから共有されたものだ。見るとラグナは――もじもじしていた! えっちで強気なお姉さんにたじたじだ! えっちなこと好きなくせに責められるとザコ過ぎるこの勇者!

 うー、まじでふざけるなよー……私までこのお姉さんが好きになってくるじゃないかー……。

 

「それに、お姉さんには彼氏がいるからにゃー、口説こうったって無駄だぜ、少年?」

「ん、おお、わあ」

『やめろー! これ以上相棒の性癖を壊さないでやってくれー! ガラスよりも脆いんだ、男の子のそういう部分は!!』

 

 ラグナが戻ってこれなくなる前に、再び馬車が大きく揺れ、彼が正気を取り戻す。

 まだ若干顔が赤いが、いつものかっこつけた勇者の顔に戻ったため一安心。……じゃないかもしれない。お姉さんがそれをすっごく面白そうな顔で見ていた。魔性の女め……。

 

「……にしても、懐かしいなあ。君の目的地はもちろん、龍都『アグダーティア』だろう? 昔は、武者修行……じゃないけど、戦い方を教わるためにしばらく過ごしてたなあ」

「へぇ……どうりで。お姉さん、すっごく強いでしょ?」

「やだにゃあ、か弱い旅人に過ぎませんよぉ」

 

 うそくせえや。

 腰に提げられた二対の短刀は見るからに業物だ。何より、強者特有のオーラというものがある。彼女のそれはプレッシャーとまでは行かないが、対峙したときに勝てるビジョンが浮かばない。

 相当の凄腕冒険者なのだろう。当の本人はのらりくらりと、誤魔化すような笑みを浮かべるばかりだったが。まあ、本人がそう言っているのなら深掘りはしまい。ラグナもそれ以上踏み込むことはしなかった。

 

「アグダートの討伐……それは、龍姫からの依頼になるのかな?」

「あ、はい。よく分かりますね」

「分かるさ。それができるのは彼女くらいのものだろうし。しっかし、あっはっは! あの子が依頼主かぁ! あの氷姫の唇を奪えたなら大したものだよ、勇者様!」

 

 バシバシ、とラグナの肩を叩くお姉さん。

 明らかに何かを知っている言動だが、知人なのだろうか。とはいえ、龍姫と言えば、王侯貴族と肩を並べるほどの権力者。並大抵の者ではお目通りすら叶わぬ身分のはずなのだが。

 ……という思考が、ラグナから流れ込んでくる”このお姉さんえっちだなあ”で塗りつぶされてしまうので、気にしないことにした。もう、おバカ!

 

「そうだなあ、私は別の街に行っちゃう予定だけれど……顔を出してみるのも悪くないかもね?」

「それは、どういう――うわっ!?」

『――!』

 

 と、そこで、馬車が急停止する。投げ出されそうになるラグナを抱えて、お姉さんが立ち上がった。

 

「魔物みたいだね」

 

 御者が何か指示を出して二人いる護衛のうち一人が森の方へと駆けて行く。

 近くを見ると粗雑な矢が馬の足元に刺さっているのが分かった。なるほど、ゴブリンか何かが潜んでいるらしい。

 

「この辺にまで出てくるんですか?」

「アグダートの影響さ。彼の膨大な魔力に当てられて、魔物の異常行動が頻発するようになってきてるんだよ。生息域も大きく変動しつつあってね。そら、下ろすよ。ケガはない?」

「はい」

『……』

 

 嫌な立地だな。木々に囲まれた場所の真ん中。ここは開けすぎている。

 それを考えたのは私だけではなかったようで、ラグナは落ち着いて、聖剣(わたし)に手を伸ばす。うん、そうだな。護衛はそれほど弱いわけではないだろうが、かといってまかせっきりというのも勇者らしくは無い。

 

「私の助けは必要かな、勇者様」

「ここで休んでいてください、お姉さん。すぐに終わらせてきますのでっ!」

「……ふぅん、そっか。お願いね」

『お、おい、相棒! なんかお前、どっちかってーとかっこいいとこ見せたくて戦おうとしてないか! どんだけえっちなお姉さんが刺さったんだよぉ!』

 

 ああ。純情……でもないけど、相棒の心が弄ばれている。

 私の声は届かないので、諦めた心持でラグナに振るわれるのであった。

 

 やっぱりゴブリンが潜んでいた。

 結構大人数だったのは巣を移している最中だったのかもしれない。旅人を襲い食料や金品を集める算段だったのだろう。誰かが犠牲になる前に、しっかり片をつけておくのだった。

 

 

 

 

 数日後。

 しばらく馬車での移動が続き、ついにお姉さんとの別れの日がやってくる。アグダーティアとは別方向に用事があるというので、名残惜しいが仕方ない。

 丁度分岐点にあたる宿場町で、私たちとは違う馬車に乗る前に、短いながらもお別れのあいさつを交わしているのであった。

 

「あははー、もう少し一緒に居たかったけどね、ここでお別れかな」

 

 相変わらず飄々とした女性だ。微笑を崩さぬ表情からは感情を察することができない。

 

「私は楽しかったけど、勇者様はどうだった?」

「……え、っと」

『正直めちゃくちゃきつかった!!』

 

 私は思わず叫ぶ。

 ああ、うむ。知り合ったばかりの女性と旅を共にする。普段しないような会話をいっぱいして、そりゃ楽しかったさ!

 でも、でもね! ことあるごとに密着してくるし、なんか所作は全部えっちだし、ラグナの性癖壊れちゃったしで、ずっとムラムラしっぱなしで!! しかもお姉さんがいるからラグナひとりえっちしてくれないし、私は自分を慰めるなんてできないし、ずっとずっと悶々してて……!!

 

「僕も、楽しかったです! 出来ることならもっと一緒に居たいんですけど、ダメ、ですよね」

「……。ごめんね」

「あ、いえ! わがまま言っちゃってごめんなさい! お姉さんにもやるべきことがありますもんね!」

『……あれ、相棒なんか余裕そうじゃない?』

 

 私結構限界だけど? 今肉体あったら指一本で果てるんじゃないかってくらい限界なんだけど?

 

『もしやこの興奮……ラグナから流れ込んだ感情じゃなくて……ただ、私の……?』

 

 え? じゃあ素でこのお姉さんにあり得ないぐらい欲情してるってことにならない?

 ……いや、まっさかぁ! ないない。たぶんラグナはかっこつけて我慢しているだけだ。驚かせるんじゃねえよぉ、この、このぉ!

 と、見てみるとラグナはまたもじもじとしていた。何かを言おうとして、その寸前でためらうということを繰り返している。見かねたお姉さんが声を掛けようとしたところで、馬車の御者に急かされる。無理言って待たせているからな、これ以上時間はかけられない。

 

「それじゃあね、勇者様! またどこかで会う日もあるだろうから! 君の旅路に幸多からんことを、ね!」

 

 お姉さんは荷物を手に持って、ウィンク。これまた破壊力抜群のかわいさだった。

 そして馬車に乗ろうとしたところで――

 

「お姉さん!」

 

 意を決したように、ラグナが彼女を呼び止めた。

 まだまだ恥ずかしさを感じてるようで顔は真っ赤っか、目も少し潤んでいて、ぐずる子供のような姿になっていた。

 お姉さんはあの暗い目でこちらを見つめてくる。短い付き合いで分かったが、あれはあれでやさしさのこもった目だ。

 

「そ、その、ま、また会えたら! また会うことが出来たら、もっとお話ししませんか? それで……ふ、二人で、街を巡ったりとか、しませんか!」

『デートのお誘い……!』

 

 血迷ったか、相棒! 相手は彼氏持ちだぞ!

 ……いや、止めはしない。というか私には止められない。例え、相棒の勇気ある告白が失敗に終わるのだとしても――

 

「……………………」

 

 ごとり、と音がした。

 お姉さんが荷物を取り落とした音だ。

 様子がおかしい。目だ。目が違う。先ほどまでの優しい目とは打って変わって、まるで、そう、肉食獣のような――

 

「御者さん。行ってください」

「え、あ、ええ? いいんですかい、この馬車が今日最後の」

「行ってください」

『敬語?』

 

 お姉さんは澄ました顔をしながらラグナを見つめる。だがよくよく耳を傾けてみると、荒くなった鼻息の音が聞こえてくる。

 これを逃せば今日はもう泊まるしかない――と言っていた便を呆気なく見送り、その場には私とラグナ、そして様子のおかしいお姉さんが取り残される。

 

「あの、お姉さん? 馬車、行っちゃいましたけど」

「来て」

「え」

『うわあ!?』

 

 急にラグナの手を掴み、荷物を地面に置き去りにしたままお姉さんが歩き出す。

 共有された痛みが走る。この人、本気で腕を掴んでないか!? 豹変したお姉さんにラグナはただ呆けた様子でついていくしかなかった。

 それなりに人通りのあった道から、建物と建物の間、さらに入り組んだ路地の先、人気が無く暗い場所へとどんどん進んでいく。

 

 そして――

 

「あの、お姉さ――んっ!?」

 

 掴んだ腕をそのまま壁に押し付け、ラグナの股に膝を差しこんだ。身長差もあってかラグナの身体はたやすく地面から浮かされてしまう。

 

「ダメだよ、ダメだよー、勇者様。お姉さん言ったよね? 不用意に好意を伝えられちゃうと、にゃおってしちゃうよ――ってさ」

 

 にゃお、とかわいらしく八重歯を見せつけるお姉さん。ただあの時と違って、目がマジだった。さすがにラグナも恐怖を感じているようで、色々ないまぜになった感情が流れ込んでくる。

 ……あれ、でもちょっと悦んでるなコイツ!

 

「我慢してたにゃー? こんなにかわいいならつまみ食いしちゃおうかにゃーって思ってて。だって勇者様、お姉さんのこと好きなのバレバレだよー? それでかっこつけようとして、お姉さんに見栄張って、可愛すぎるかなあって」

「お姉さ、んっ、足、どけ、て」

「でもでも本当は、こんな風にいじめられて悦んじゃういけない子なのにねー? それとも、お姉さんのことが好きすぎて、どんなことでも悦んじゃう身体になっちゃったー?」

『~~~~~~~っ!?』

 

 ぐりぐりと膝でラグナの大事な場所を弄ぶお姉さん。痛くない、どころか、気持ちいい。

 やばいやばいやばいやばい。間違いなく開いちゃダメな扉が開かれようとしている。清楚系激やばニャン娘の手によってこじ開けられようとしている!

 

「良いのかにゃー。好きになっちゃって良いのかにゃー。でも好きになっちゃったら、勇者様のこと、好き放題しちゃうからにゃー」

「う、あっ、うあ」

「しちゃっていいんだ? してほしいんだ? こんな悪いお姉さんに捕まって、期待するのやめられないんだ?」

 

 頼む、頼む、相棒! この誘惑を跳ねのけてくれ!

 

「や、めて、お姉さんっ!」

 

 思いが通じたのか、ラグナが拒絶の意思を示した。そうだその調子だ! 勝て、勝つんだ勇者!

 

「んっ――」

「んん!? ん、おね、ひゃ、んんんっ! ま、へ、っむ、んんっ!」

「んぢゅ、ちゅ、ちゅ……♡ ……んー? 何を言おうとしてたのかな、勇者様?」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

 ダメです。

 勇者ダメです。

 もうぐちゃぐちゃです。

 

「ほら、顔上げて。彼氏持ちの、行きずりの女のキスでいっぱい気持ちよくなろーね♡」

 

 あとはもう、お姉さんのおもちゃです。

 

「ん、ちゅ、ぢゅる、んむ……ん、んっ♡」

「んく、んく――」

「えらい、えらい♡ ちゃーんと、全部飲むんだよ♡ ほら、あー……♡」

 

 誰も来ない。

 

「かわいい♡ もっと欲しい? ちゃんとおねだりしないとあげないよ、ほうら♡」

 

 路地裏には、誰も来ない。

 

「んーーーー……♡ は、むっ、んむぅ、ふっ♡ ぢゅ、ぢゅるる……♡」

「ぅ、あ、んん、んんんっ、は、は、ふ、ぁ、んんむ、むぅ、っ!」

「ん、はぁっ♡ ほら、足でぐりぐり~♡ 知ってるよ、ここ数日溜まっちゃってるってこと……♡ 出したら終わりだけど、どれだけ気持ちいいが続くかなあ……♡」

 

 男としての快楽が押し寄せて、何も考えられない。

 

「にゃぁ……♡」

 

 ただただ、苦しくて。いじめられて、良いようにされて。

 それがたまらなく気持ちよくて、病みつきになりそうで、癖になっちゃいそうで、自分から求めたくなってしまって。

 そこから先は、あまり覚えてない。

 ひたすらに楽し気なお姉さんの表情が、私の記憶に残っている最後の瞬間だった。

 

 

 

 

 空。

 空が見える。

 凄まじい倦怠感。

 どうやら地面に転がっているらしい。

 さんざっぱら弄ばれて、気づけばお姉さんの姿は見えなくなっていた。

 

 ラグナもまたほぼ同時に目を覚まし、起き上がる気配を見せないまま路地裏から見える空を見上げていた。

 

 そしてぽつりと一言。

 

「しばらく清楚系ビッチでしか抜け無さそう」

『タフだな!』

 

 まあ。

 何はともあれ、目的地まではあと少し。

 紆余曲折あったが、アグダーティアはすぐそこなのだ。

 

「……」

『……』

 

 だけど。

 しばらくはこのままでいさせてくれ。

 

 あのお姉さんという棘が心から抜けてくれるまで、しばらく横になっていたいんだ……。

 

 




念の為、ガールズラブを追加しました。

感想、評価、誠にありがとうございます。
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