オラ! 口開けろ! 舌伸ばせ! んぢゅるるるるるっっ!!   作:バター大統領

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第三話 龍姫

 

 お姉さんという特大の棘はどうにか抜けてくれた。

 そして癒えぬ傷となったのだった。私とラグナはおしまいです。

 

 それはともかくとして、私たちはようやく龍都アグダーティアに到着した。

 

「さすがに大きいなあ、相棒。初代国王、龍主クリストフが住んだ都市、だっけか」

『確かに城壁はすっげーでかいけど……全然人がいないなあ、城壁も街道もボロボロだ』

 

 龍都アグダーティア。

 

 王国『クリスタルフォール』建国時に初代国王、龍主クリストフが住んだ都。

 この国の歴史に触れたことがある人間は、誰もがこの都の名を耳にする。龍主クリストフ、勇者リア、聖龍アグダートの3英雄。彼らがいなければ、今日、この世界にクリスタルフォールは存在しないと言われるほど。

 霊峰に住まうアグダートの嘶きを聞け、人の子らよ。それは平穏の祈り、彼の者の庇護下にあることの証明――そう言われていたのも今は昔。アグダートは狂し、龍都アグダーティアはゆるやかに滅びへと向かっていた。

 

「守護龍アグダートはあの霊峰の頂上にいる。討伐の依頼主は、龍主の血を引く龍姫シュピラーレ、か。……ちょっと緊張するなあ、お姉さんの話だと結構怖い人っぽいから……」

『緊張するとこそこなのなあ、相棒? 相手にするのは千年近く生きた本物の古龍なんだぞ?』

「う、お姉さん……お姉さん……」

『ああ思い出したせいで傷が』

 

 重症だな。まあ私もここまでの道中毎日夢に見るほどの傷を負っているが!

 とぼとぼと歩く相棒の失意を感覚共有で感じ取りつつ、城門へと近づいていく。遠目から見ても驚くほどの大きさだったが、間近で見るとなると迫力が段違いだ。白銀の城壁は一種の神聖さを感じさせる。向こうに見える霊峰の美しさに負けぬほどの門構えは――ただ、劣化により寂しい色を見せていた。

 門に立つ兵士もどことなく疲弊しているように思える。輝きを無くした甲冑に身を包み、通りがかる私たちを一瞥するだけですぐにうなだれてしまった。

 

「ふーん……」

 

 そしてそれは、何も城門にだけ広がる光景ではない。

 この街全体が暗く澱んだ空気の中で生きていた。在りし日の繁栄が目に浮かぶような大きな通りは、今や滑稽なほど人通りのない道と化し、雑草が生えたりひび割れがそのままだったりで荒れ放題。時折通りがかる人も生気を無くしたような表情を浮かべている始末。

 

「守護龍討伐の暁に、彼らも笑顔になってくれると良いんだけどね」

『相棒……』

「せめて僕らだけでも胸を張っておかないとな。なんせ相棒、僕たちは勇者なんだから」

 

 どうなのだろうか。本当に守護龍アグダートだけの影響なのだろうか。

 戦争の影響は大きい。英雄が何人も死ぬあの大攻勢の日から、多くの人間が絶望に飲み込まれてしまった。その余波がここまで届いたということもあるだろう。何も狂したのは守護龍アグダートだけではないのだ。

 ……まあ、考えたところで答えは見つからない。私たちのすることは依頼にあったとおり、守護龍アグダートを討伐すること。まずはそれをこなさないと。それでこの都市に笑顔が戻ってくれるなら、それでいいんだけれど……。私の相棒はもぬけの殻のような家々を見つめ、少し思案気な表情を見せていた。

 

 

 

 

 龍姫シュピラーレ……名前は依頼を受けた際に初めて知ったな。

 

 男ならば龍主、女ならば龍姫として、かつてはクリスタルフォールを統治する王として君臨していたそうだが、ある龍主が人に王権を譲ったことにより玉座を退き、現在はアグダーティアの町長として収まっている。だが英雄の血筋であることには変わりないので、戦前は国から丁重に扱われていたらしいのだが。

 この都市の現状を見るに、今もそうであるとは到底思えない。見た感じ、兵の数すら足りて無さそうだ。先の戦いで多くの兵を喪ってなければ、王都から応援があるはずだっただろうに。

 

 そんな風なことを考えながら、龍姫シュピラーレ――依頼主と会うべく、守護龍アグダートが住まう霊峰と一体化するように麓に建てられた霊殿にまでやってきていた。

 

「お待ちしておりました、勇者様」

『うお……でっか……』

 

 私たちを出迎えてくれたのは、龍姫シュピラーレの侍従の方。

 ラグナなんてすっぽり抱えてしまえそうなくらいの背の高さに、豊満な身体。大きな尻尾と角も目を惹く。これが、この都市のドラゴン娘……スケベすぎる! ちょっと動くだけでおっぱいが揺れるじゃないか! こんなの、相棒が耐えられるわけが――

 

「はい! こんにちは!」

『なんで! お前の方が! 平静なんだ!!』

 

 えっちじゃないか! 見ろよ、あの泣きぼくろ! しかも美人系より童顔でかわいい系だ! あの背の高さと恵体で! あざとさの塊だ! 一目見ただけでち、ちんちん反応しちゃうだろ!!

 

「シュピラーレ様には会えますか? ぜひともお話がしたいんですけれど……」

「ええ、部屋の方でお待ちです。これからご案内させていただきますが……高い場所にございますので、安全のために、おてて、失礼しますね?」

「おわァ」

『っしゃァ!!』

 

 来た来た! これよこれ、うんうん、相棒がえっちで安心したよ。まるで私だけがおかしいみたいだからね! そんなえっちなご主人様に使われてるんだから価値観が変わっちゃっただけで、私そんなえっちじゃないからね!

 しかし、あれだな? 不意に触られると反応しちゃうんだな? まあ確かに、ラグナは勇者としての体裁を結構気にしてるところがあるから、パーソナルスペースが保たれている間は正気でいられるのかもしれない。距離感ゼロの相手にはどうなるかは、お姉さんで分かり切ったことだ。

 

「あ、ありがとうございます……えっと、あったかい手ですね」

「まあ……ふふ、そんなことを言われたのは初めてです。いつも”冷たい女”って陰で言われるのですが」

「ええっ! そんな風には全く見えませんよ!」

「これでも侍従長ですからね。指示を出す側の人間として厳しく当たると、周りからはそう見えるのかもしれません。……何分、今は休む暇もありませんから」

 

 きゅ、と侍従長の手を握る力が少し強まった。見ると、目の下には酷いくまが出来ている。化粧で隠しているようだがそれでも不十分なくらい。

 お姉さん曰く、アグダートの影響で魔物の異常行動が頻発するようになったと。それが影響して商業ルートの危険性が増加し、行商人が一気に減少、商品の仕入れが出来なくなった商人もまたこの都市を出て行き、芋づる式に住民も……というのが、ここまで寂れている理由だとか。

 対処しなければいけない問題は山積みだろう。ただでさえ戦時中なんだ、それを責任者として対処する――考えただけで頭痛がしてきそうだ。

 

「っ、も、申し訳ございません。勇者様につまらないお話を」

「いえ、いえ。吐き出せるのなら吐き出しちゃってください。侍従長さんのお話ならいくらでも聞きますよ! 僕でよければ、ですけど!」

「本当? ……それは……………………また今度にさせてくださいね?」

『長考!』

 

 本気で悩んでたぞ、今。どれだけため込んでるんだこの人。

 

「私はカトレアと申します。普段はこの霊殿で仕事をしているので、入用でしたらいらしてくださいね」

「カトレアさん! わあ、すっごく素敵なお名前ですね!」

「ふふっ。ごめんなさい、入用じゃなくても会いに来てくれますか? 出来れば毎日」

『なんだこいつ急に重』

 

 仕事に疲れ、人間関係に疲れ、疲弊しきった心に相棒の輝きは劇薬だったみたいだ。

 幸いにして相棒は霊殿内で忙しなく動き回る別の侍従に気を取られて聞こえてなかったので、まあセーフかな。いやでもやっぱアウトかも。食われる未来が見えた気がした。

 

 

 

 

 とてつもなく広い霊殿。縦にも横にも規格外のでかさだ。

 侍従があちらこちらへと書類を持って駆けまわる。ところどころでは部下を叱責するような怒声が聞こえてきたり、休憩中なのか抜け出した侍従同士の愚痴なんかも聞こえてきた。勇者がいるとはいえ、大変なところはこちらに見向きもしない。カトレアもわざわざ呼び止めるようなことはしなかった。……ラグナとの世間話に夢中だっただけかもしれない。

 とにかく、私たちはカトレアに着いていった。階段を何個も上ったところで、ようやくそれらしい部屋が見えてくる。ここまで来ると侍従の姿が見えず、神聖な雰囲気があたりに漂い始めていた。目の前には、木製の大扉がある。

 

「――シュピラーレ様」

 

 その扉を叩き、カトレアが声をかけると、扉の向こうで何かが動いた気配がした。それと同時に、紙が散らばるような音が聞こえてくる。積んでいた紙の山を無造作に散らしたような感じだ。

 

「……通しなさい」

「はい。……では、勇者様」

 

 かすれた少女の声。覇気など無い。カトレアがあれだけ疲弊しきっていたんだ、その上の人間ともなれば眠る暇もないのだろうか。

 ラグナはカトレアの言葉にうなずき、大扉に手をかける。観音開きのそれを、力を入れてゆっくりと開いていった。

 まず感じたのはインクの匂い。ぎっしりと文字が書かれた紙や、魔法陣の描かれた紙があたりに散らばっていた。インクがまだ乾ききっていないものもある。床に足の踏み場もないくらい紙で埋め尽くされていた。その先、立派な机の前に、蹲るようにして座っている少女がこちらを見つめていた。綺麗な青い髪をした、角と尻尾を持つ少女。

 

「お初にお目にかかります。シュピラーレ様」

「…………ええ、初めまして。こんな格好で、申し訳ないわ」

 

 酷いくまだ。それに血色が悪い。綺麗に整った顔が死人のような土気色だ。彼女は笑い、立ち上がろうとして――すぐに体勢を崩し、カトレアに支えられる。

 

「本当は盛大にもてなしたいのだけれど、見ての通り、うちはどこも逼迫しててね……龍姫として、これ以上情けないことは無いわ」

「必要ありません。……ごめんなさい、日を改めた方が良かったですか?」

「気は遣わなくていいわよ。リトルウッズの脅威を退けてすぐに呼び寄せたのはこっちなんだもの。……ああ、困ったわ、カトレア。意外といい子そうじゃない、勇者様」

 

 明らかに調子の悪そうなシュピラーレにラグナはあたふたとしていた。今すぐに死んでしまいそうな、そんな脆さが彼女にはある。流れ込んでくる感情からも分かるが、ラグナは心の底からシュピラーレを心配していた。

 

「すでに依頼の内容は確認してもらっていると思うけど、あなたにはこの霊峰に住まう守護龍アグダートを殺してほしいの」

「存じています。依頼であるというのなら、僕は受けます。……ですが、本当にいいんですね? 守護龍アグダートは今に至るまでこの都市を守り抜いてきた英雄なのに」

「彼はもう狂してしまわれた。あのすべてを透徹する瞳は何の光も映さないし、もう人と魔物の差が分かっていない。魔力の制御も出来なくなりつつあって、数年もしないうちにこの辺りは人の住める土地じゃなくなってしまう。あれはもう、我々の脅威でしかないのよ」

 

 ……実際に本人の口から聞くと衝撃が凄いな。龍主と聖龍アグダートの関係は建国以来からずっと続いてきたものだ。それを――殺すと。シュピラーレの表情は決して変わらない。ただ当たり前のことであると、そう事務的に感じるくらいの冷たい表情。

 

「報酬――キスさえあればいいのでしょう?」

「はい。約束します」

「そう。分かりやすくていいわね」

 

 シュピラーレが笑う。自嘲するような笑み。カトレアから離れて、おぼつかない足取りでこちらの方に近づいてくる。

 こうして見ると……大きい! カトレアのように豊満な身体というわけではないが、高い背はそれなりに迫力がある。こちらを見下ろすその瞳は、澱んだような闇を孕んでいた。彼女はすかさずしゃがみこみ、ラグナと視線を合わせる。

 

「しなさい」

「え?」

「キス。……守護龍アグダートとの戦いには私も参加するわ。依頼主が死んで報酬はナシ、なんてことが無いように前払いよ前払い」

 

 そう言われましても。そんな真顔をどう攻略していけば?

 責められた経験しかないラグナもまた同じように困惑している。いや、その、顔はとってもかわいいし、キスできるならしたい。というか龍姫なんて高い身分と接吻できるなんてあり得ない経験だ。だけどさあ……ムードがね? こう、沸き立つものが無いというか……?

 沸き立つものってなんだ。正気に戻れ私。お前は女だぞ!

 

「え、あ、え」

「私めは外で待機していますので」

「あ、ちょ」

 

 助けを求めるようにラグナが送った視線を勘違いしたのか、カトレアがそそくさと扉の外へ出て行ってしまう。

 やるのか? やらねばならないのか? ……分かるけど。向こうは必死なんだろうし、前払いってのも全然理解できる。でもこう思わざるを得ない。――なんか違うじゃん! と。

 

「わ、分かりました。そういうことなら、仕方ないですもんね。……ちなみにシュピラーレ様、ご経験はおありで……?」

「ないわ」

「ええと、その、初めてならー……僕とキスすることになって、恥ずかしいとか思ったり……」

「別に、報酬でしょう? なんとも思わないわ」

 

 ぐぬぬ……というラグナの心の声が聞こえてきた。なんとかしてムードを作ろうにも、取り付く島もない。

 これが氷姫。でも舐めないでもらいたいな! こっちにいるのは勇者様だぞ! 流れ込んでくる感情は熱い――闘志! いいだろう、ならばやってやると言わんばかりの半ば投げやりな闘志だ!

 

「では、失礼します……」

「んっ」

『行った!』

 

 口づけを交わす。ここまで不調な相手とキスをするのもそれはそれで変な感じだが、でもやっぱりかわいいし、何より唇が柔らかい! それに、なんだろう、彼女の匂いだろうか。それがすっごく濃い。汗の匂いかな……。おかげですっごくえっちな気分になってしまう。どうしてだろう、相手は無反応なのに。

 一度、二度、啄むようなキスを繰り返す。静かな部屋にちゅ、ちゅっとかわいらしい音が響く。ラグナの小さな手がシュピラーレの頭に回され、今度は長い時間、キスをする。唇同士をくっつけるだけの軽いモノ。これはこれでやっぱりすごい。

 

「ん、ふ……ん、と、こんなものなの?」

「いえいえ、こんなものじゃありませんよ! 次は舌と舌を絡ませるんです。いわゆるベロチューですよベロチュー!」

「ふーん……なんだか下品ね。これでいい? あー……」

「――!!」

『わっ、あっっっ!!』

 

 シュピラーレは良く分からないと言った様子でベロを出す。口を開けて、少し長いベロがだらりと下がる。綺麗なピンク色をした舌は、唾液に濡れててらてらと光っていた。

 こんな……こんなえっちな顔をしているのに、やっぱり無表情のままだ。目は冷たくすらある。ただひたすらに無関心というか……でも、これを、好きにしていいんだよな? ラグナはおそるおそる近づいて、その舌にキスをした。

 

「ちゅ、ちゅ、ん、ちゅ」

 

 温かい舌。甘い香りがして、くらくらしてしまう。唇よりもやわっこくて、湿り気があって……。

 今度はこちらも舌だけを出して、シュピラーレの舌にくっつける。キスでも何でもない。ただ舌同士をくっつけるだけ。舌同士をくっつけて、お互いの唾液が混ざり合って、一つの雫となって床へと落ちる。

 なんで。なんで、こんなムードもへったくれもないのに……こんなにえっちなんだ!? こんなの歯止めが利かなくなっちゃう! 好き放題したくなっちゃうじゃないか! まるで一人の女性を操り人形にしてしまったみたいな、そんな倒錯したエロスが間違いなくここにある!

 

「はぁ、はぁ……シュピラーレ様、えっちすぎますよ」

「ん、何が――んんっ!」

 

 今度はシュピラーレの口腔に舌を突っ込む。キスもしたことのないお嬢様の神聖な場所を、舌で蹂躙していく。

 歯の形、歯茎の形、口の形、全部舌だけで分かってしまうくらい、舐めまわしていく。胃の中まで染めて行こうと、唾液を流し込み、無理やり飲み込ませていく。

 

「ん、ぐっ、んむぅ! は、ぁむ、じゅ、んんんっ? な、ぁむっ、んぁ?」

 

 シュピラーレは行為の意味をよく分かっていないのか、困惑ばかり浮かべていた。

 それが余計興奮させる。何もわからない、それなのに好き放題できる。その都合のよさが酷く……酷く、素敵に思えた。この都市の一番の権力者ってのもいいスパイスだよね。

 

「んんっ、むぅぅ! まっ、は、む、んじゅ、じゅ、んく、んぅっ」

 

 息も絶え絶えで、シュピラーレの顔も赤くなってくる。バランスを崩しそうになるところを、ラグナを支えにすることでどうにかバランスを取った。はたから見たら抱きしめているような体勢だ。

 ラグナは自分の舌を押し付ける。シュピラーレの頭を強く抱いて、彼女をめちゃくちゃにしていく。シュピラーレもまた、それに応えるべきだと考えたのか、負けじと舌を絡めてくる。うるさいくらいにぐちゃぐちゃと湿った音が鳴り続けた。

 

「ん、はぁっ! はぁ、はぁ……」

「は、ぁ……はぁ……っ!」

『これ……すご……っ』

 

 離れると、銀色の橋が架かる。世界で一番淫靡な橋だ。

 シュピラーレの頬を涙が伝う。酸素が足りず、喘ぐように呼吸していた。それが滴り落ちたその先――散らばった紙。ラグナは目で追うようにそれを見つめていた。

 

「これで……報酬は終わりでいいのよね?」

「……はい。報酬を頂いたからには、やり遂げますよ」

「そう。辛い戦いになると思うわ。私の侍従にもサポートするよう伝えてあるから、何かあったら言うのよ。……私はちょっと、眠るわ。くらくらして、ぼーっとして、身体が熱いの」

 

 口の端から垂れたよだれを拭うことすらせず、シュピラーレはふらふらと部屋の奥にあった扉の先へと行ってしまう。ちらりと見た感じ、寝室になっているようだった。

 ……いやあ、すごかった。あんな世界があるなんて思いもしなかったや。間違いなく一つ、私の大事な何かが壊れてしまった気がする。それを歓迎すらしつつあるあたり、私はやはりもうおしまいなのだろう。

 

 とりあえずこれで、私たちは守護龍アグダートの討伐を達成しなくてはいけなくなった。

 そうと決まれば準備をしないとな。シュピラーレの言った通り、相手は龍。簡単な戦いでは決してないはずだから。

 

「……違うよなあ」

『相棒?』

 

 カトレアを呼びに行く直前、ぽつりとつぶやいたラグナの言葉が、なぜか耳に残り続けた。

 

 

 

 

「――僕はお姉さん”から”えっちなご褒美をもらいたいんだよ!!」

『うるさ』

 

 霊殿からの帰り道、カトレアに紹介してもらった宿屋へ向かう途中、突如としてラグナは叫び出した。この辺りには人通りもなく人が住んでいる家もないため、叫んだところで誰かが聞くこともない。

 

「ちょっと強気でぐいぐい来るのもいいし、恥じらいを感じながらいっぱいっぱいになりながら来るのもいいし、とにかく僕からは、なんか、違うんだ!!」

 

 難儀な性癖だ。

 

「確かに事務的なキスというのも、こう、催眠モノみたいでいいというか。こっちが欲望丸出しなのに向こうは冷たい顔してるギャップ感というか。お人形さんを好きに穢してるような悦びというか、しばらくオカズが固定されるくらいには好きになっちゃったけど!!」

『めちゃくちゃ気に入ってんじゃん……』

「でもやっぱり、向こうから来てほしい! ただの報酬としてだけじゃなくて、もっと内側から湧き出る欲望をぶつけてほしいぃぃぃぃい!!」

 

 うー……まあ、分かるよ、相棒。私もお姉さんに苛められてから、そういうのも好きになっちゃったし。

 シュピラーレみたいな子が、ちょっと無知っぽい子が向けてくる欲望に溺れたいって願望、正直ちょっぴりある。先ほどのキスも良いには良いが、でもやはり一方的なのだ。双方向に矢印が向き合ったキスというのがしたいんだ。独りよがりのものではなく。

 でも、だからと言って報酬はすでに貰っちゃったわけだし。お姉さんみたいな人ならともかく、ああいう人がまたキスしてくれるかと言われれば、ぶっちゃけ無理だと思う。だから、今回はそういうものだったとして諦めるしかないんじゃないかな。と、私は思うんだけど――

 

「仕方ない。相棒、今回の依頼は結構骨が折れそうだ」

『でもやり遂げるんだろ? 相棒は勇者で、私は聖剣だから』

「だけど――さて、どうしたもんかな。僕にはどう考えても、守護龍アグダートを殺せば済む話ではない気がするんだよ」

 

 ラグナは振り返り、先ほどまでいた霊殿を、そして霊峰を見据えた。

 

「もし。もし、もっともっと良い結末があったとして、それを迎えることが出来たなら。シュピラーレ様、君は僕の望むご褒美をくれるのかな?」

『もっと、良い結末……』

「僕は勇者だ。守護龍アグダート――僕は君も救いたいんだぜ? そしてそれは、たぶん、僕だけの思いじゃないんじゃないかな」

 

 ラグナが何を考えているのかは分からない。

 だけれど、流れ込んでくる感情は温かなもので、私を握る手にも力が入り、それが安心感となって私を包み込む。それは確かな決意として、彼の瞳に宿っていた。

 

「絶対に、自分から、ノリノリでキスしてもらう!! 僕は君に溺れたいんだ、シュピラーレ様!!」

『なんて勇者だ』

 

 んで、なんて聖剣なのだろうね。

 私もまたワクワクが止まらない。ラグナの言ったより良い結末と、ノリノリでキスするシュピラーレという期待に。なんとなくだが、ラグナなら手繰り寄せてくれる気がするんだ、その運命を。リッチを討伐したあの日のように。

 そうだもんな。かつて3英雄と謳われるくらいの偉業を成し遂げ、今に至るまでこの都市を守り続けた結末が、人の手によって――それも、勇者と龍姫の手によって殺されることなんて、あまりに悲しすぎる。そうでない結末が……そう、守護龍アグダートもまた笑って終われるような結末があるのなら、私もそれが良い。

 

「あっはっは! さあ行くぞ、相棒! まずは情報収集だー!!」

『おー!!』

 

 ああ。

 ああ、相棒。

 私はやっぱり、お前のことが気に入ってるよ。

 

 ラグナはカトレアに教えてもらった道から外れ、人が集まっていそうな場所へと足を運んでいくのであった。

 

 




 ドラゴン娘は平均より背が高いという設定です。
 なぜなら、その方がえっちだからです。

 感想評価、誠にありがとうございます。
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