学校でカウンセリング部を始めたら病んだ美少女たちの激重ハーレムができたんだが   作:崖の上のジェントルメン

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12.推し

 

 

 

 

 

……何かの部活に入るっていうのは、あたしにとってすごく久しぶりだった。

 

 

『ねえ北川さん、いい加減にしてよ』

 

『あれだけ教えたのに、まだできないの?』

 

 

……中学一年生の時にバドミントン部へ入ったけど、部員といざこざが起きて、数ヶ月で辞めた。その日から「二度と部活なんか入るもんか」って思ってたけど……。

 

「やあ、北川さん」

 

部室へ来ると、中原が笑ってあたしを歓迎してくる。

 

あたしは中原みたいに上手く笑えないけど、さすがに無視はしたくなくて、「ん」とだけは頑張って返すようにしてる。

 

本当なら「中原おはよう!」って元気よく返したいんだけど……どうしても、言葉にしようとするとどもってしまう。

 

こんな、挨拶すらまともにできないあたしを、それでも中原は歓迎してくれている。

 

「ど、どうも……北川さん」

 

それから西田っていう子も、あたしが部室へ来ると、挨拶してくる。

 

いつもビクビクしてて、全然元気なさそうな感じだけど、それでもこの子から挨拶されるのは嫌じゃなかった。

 

なんとなく西田からは、あたしと同じ匂いを感じていた。不器用で人間が苦手で(あたしは苦手どころか大嫌いだけど)、でも……なんか、それでも寂しがりやっぽそうなところ。

 

だから西田は、そんなに嫌じゃなかった。ビクビクし過ぎてるところがたまにイラッとする時があるけど、それくらい。

 

「やっほー北川さん!お疲れ様~」

 

……問題は、この女だった。

 

東野 円香とか言う、この女。

 

あたしはこの女が、嫌いで嫌いで仕方なかった。

 

この女から挨拶されても、一言も返さない。ハナから返す気なんてない。

 

その理由は、よくわからなかった。

 

なぜかこの女は、性に合わない。顔を見るだけでイライラする。声を聞くだけで耳がキンキンする。そして……一緒にいるだけで、心臓がぞわぞわする。

 

この女は、見かけは普通に良いやつそうに思える。明るくて元気で、分かりやすく意地悪なことを言わない。

 

でも、なんかこの女は癪に触ることが多い。カウンセリング部として何日か過ごしたけど、毎回毎回見てるだけでぞわぞわする。

 

(なんなんだろう?この気持ち)

 

どうしてあたしはこの女が嫌いなんだろう?と、自分で自分のことを不思議に思うくらいだった。

 

……その理由がわかったのは、あたしらが入部してから10日目のことだった。

 

新入部員のうち、東野はもう普通に相談者をカウンセリングできているけど、あたしと西田は、まだ相談者と上手く話す勇気がない。そのため、中原や東野が誰かの相手をしている時に、あたしらは付き添いでいることになっている。

 

そのためいつも、相談者1人に、カウンセリング部が2~4人みたいな状況になる。でも時々「相談相手は1人がいい」って言われる時もあるので、そういう場合は、他のメンバーはみんなカウンセリング部から一番近い図書室で時間を潰す。

 

その日も、中原が1人で相談者に対応してて、他のメンバーであるあたしと西田、そして東野がみんな図書室にいた。

 

最初の内は図書室にある心理学の本とか、なんかカウンセリングに役立ちそうな本を読んで勉強しようとか思うけど、それも日が経つに連れて飽きてきて、みんな勝手に各々過ごす空間になった。

 

音楽を聞いたり、漫画読んだり、眠ったりといろいろだった。

 

「ねえ、西田さん。北川さん」

 

ただその日は、東野があたしらに対して話題を振ってきた。

 

図書室にある長いテーブルの端っこに場所を取り、東野が1人に、それに対面してあたしと西田が2人隣同士で座ってた。

 

「なに?東野さん」

 

西田がそう聞くと、東野は辺りをキョロキョロして、自分たち以外誰もいないことを確認してから、あたしらにこう言った。

 

「2人って、中原くんのことどう思ってる?」

 

西田が「中原くんのことを?」と聞き返すと、東野は嬉しそうに頷いた。

 

「どう思ってる?どんな人だと思う?」

 

「ど、どうってそんなの……えっと……」

 

西田は頬を赤めて、しばらく答えなかった。目があっちこっちに泳いで、なんかテンパってる感じだった。

 

「や、やさ、優しい……かな」

 

「うん!中原くんって優しいよね。あんな人、なかなか見たことない」

 

「……うん」

 

西田の答えに満足した東野は、目一杯の微笑みを浮かべると、そして次は、あたしの方へ眼を向けてきた。

 

「北川さんは?どう?」

 

「……………………」

 

「中原くんのこと、どう思ってる?」

 

「……別になんとも」

 

「えー?ほんと?」

 

「…………まあ、嫌いじゃないけど」

 

「そっか!ふふ、なるほどね」

 

東野は頬杖をついて、意味深な微笑みを浮かべている。なんだこいつ、気色悪い。

 

「なにをいきなり訊いてくんの?なんの意味があんの?その質問」

 

あたしがそう告げると、東野は「うーん、何て言うのかな」と前置きしてから、こんなことを語り始めた。

 

「中原くんってさ、もっともっと、人気になるべきだと思うの」

 

「人気?」

 

「だって、あれだけ言葉も巧みでさ、寄り添ってくれるような人、本当にいないと思わない?」

 

「……………………」

 

「中原くんの魅力をさ、もっともっと学校中に広めなきゃいけないなと思ってるところなの」

 

……なんか当たり前のようにそんなことを言っている東野を見て、あたしと西田は思わず目を合わせた。

 

「……あの、東野さん」

 

「うん?どうしたの西田さん?」

 

「それって……好きってこと?中原くんのこと」

 

「えっ!?いやいや!好きなんてそんな!私なんかが好きなんておこがましいよ!」

 

「……………………」

 

「何て言うか、こう、尊敬?みたいな」

 

「尊敬……」

 

「あ、待って!推しに近いかも!」

 

「推しって……いわゆる好きなアイドルとか、好きな漫画のキャラとかをさすやつだよね?」

 

「うんうん!そう!」

 

「じゃあ……中原くんが東野さんにとっての、推しってこと?」

 

「だね!そう言われると、すごく自分でも納得かも!」

 

東野は隣の席に置いてた鞄から、スマホを取り出した。

 

「ね、西田さん、北川さん。これ

聞いて?」

 

そう言ってニヤニヤしながら、東野は録音アプリを起動した。

 

 

『……カウンセリングにおいて一番大事なのは、誠実であることだ』

 

 

そのスマホから流れ出したのは、中原の声だった。

 

「これって……この前の、中原くんがいろいろ教えてくれてた時の?」

 

「そう!西田さん、よくわかったね!」

 

 

『ここで言う誠実さって言うのは、嘘をつかないことだ。どんなに美しい言葉でも、そこに心がなければ意味がない』

 

 

中原の声を聞いて、東野はうっとりとした顔をしていた。

 

「ここ、すっごい良いこと言ってるよね~……!私、家に帰って何回も聞いちゃった」

 

「「……………………」」

 

『不格好な言葉でも、簡単で安易な言葉でもいい。心がこもった言葉を口にすること。それが一番大切なことだと思う』

 

「うーん!素敵!この言葉を壁紙に張って飾っておきたいくらい!」

 

……そう言ってきゃっきゃきゃっきゃとはしゃぐ東野の姿が、あたしの眼にはすごく……異様に映った。

 

言葉にし辛いけれど……この女は何か、ヤバい気がした。

 

西田もそれは感じているらしく、顔が固まってて、上手く動けない感じだった。

 

「ねえ、西田さん、北川さん」

 

東野がスマホを手に持って、微笑みを浮かべたまま、どんどん話を続ける。

 

「私、この中原くんの言葉をね?学校のお昼休みとかで放送してもらおうかなって思ってるの」

 

「ひ、昼休み……に?」

 

「そうそう!だから明日、ちょっと放送部に相談しに行こうかなって!」

 

「……………………」

 

「絶対みんな、感動するはずだもん!こんなに素敵なことを言う人がいるんだって知ったら、きっとみんなカウンセリング部に殺到するよ!」

 

「は、はは……そうかもね」

 

西田はなんだか、苦笑するしかないみたいな雰囲気を醸し出してた。あたしはそれとは真逆に、もう黙っている以外何もする気になれなかった。

 

昼休みに中原の声を放送?何言ってんのこいつ。

 

「……え、えっと、じゃあなんか……あれだね」

 

「うん?なに?西田さん」

 

「東野さんにとって、中原くんはもう……アイドルなんだ」

 

「えー!なんかはっきりそう言われると照れちゃうかも!」

 

「も、もし……もしもね?中原くんに告白してる女子とかいたら、どう思う?」

 

「告白?全然何も思わないかも。だって中原くんがモテるのは当然だし、なんならモテてもらいたいくらいだもん」

 

「そう……なんだ」

 

「……………………」

 

あたしはその時、ひとつだけ疑問が胸の湧いた。その疑問を……全く加工せず、そのまま東野へぶつけてやった。

 

「なら東野、中原に好きな人ができたら、どうすんの?」

 

……その瞬間だった。

 

さっきまで浮かべていた笑みがすっと消えて、いきなり無表情になって、ガラス玉のような目玉を私に向けてきた。

 

そして、声までもがいきなり抑揚がなくなって、機械のような言葉でこう言った。

 

 

 

「そんなことあり得ない。だって中原くんだから」

 

 

 

「「……………………」」

 

あたしも西田も、言葉を失った。

 

正直に言って、背中に鳥肌が立って仕方なかった。

 

私は、自分の言った言葉が元でトラブルになることは、今までにも何回かあった。その都度「あんなこと言うんじゃなかった」と自己嫌悪に陥るのが常だった。

 

でも……でも今回ほど、「あんなこと言うんじゃなかった」と思ったことはなかった。絶対に、こんな質問するべきじゃなかった。

 

そう思わさられるくらいに、東野の顔は異様だった。

 

「あっ、ねえねえ西田さん、北川さん」

 

東野はさっき見せた無表情から一変して、またいつものような朗らかな笑顔を浮かべながらスマホを見て、「中原くんがカウンセリング終わったって」と言ってきた。

 

あたしも自分のスマホで確認してみると、カウンセリング部のグループLimeに「今終わったよ」と、確かに中原から連絡が来ていた。

 

「さ、部室へ帰ろ?」

 

東野はあたしらに向かってそう言って、席を立った。

 

「……………………」

 

……カウンセリング部へと帰る廊下の途中で、あたしは東野の背中をずっと眺めていた。

 

いつもみたいに、また全身がぞわぞわする。

 

やっぱりあたしは、この気持ち悪い東野が嫌いだし……

 

 

 

とんでもなく、怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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