学校でカウンセリング部を始めたら病んだ美少女たちの激重ハーレムができたんだが   作:崖の上のジェントルメン

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21.優柔不断

 

 

「ありがとうございました」

 

そう言って、相談に来てくれた女の子は、こちらにぺこりと頭を下げてカウンセリング部を出ていった。

 

「ふー……」

 

私は一仕事終えた充実感に包まれながら、お腹に溜まった空気を口から吐いた。

 

夕方の五時過ぎ。窓の外から真っ赤な夕焼けの光が差し込んでいて、部室の中を赤く染めていた。

 

そんな夕日の光を、私はぼんやりと見つめていた。

 

「さすがだね、西田さん」

 

私の隣に座っていた中原くんが、満足そうに笑っていた。

 

「もう俺が途中に入らなくても、一人でカウンセリングをこなせられてたね」

 

「うん。私もようやく、女の子相手なら慣れてきたかも」

 

「この調子なら、そろそろ一人でも対応できるんじゃないかな?」

 

「そ、そうかな?」

 

「うん」

 

中原くんからそう言われて、私は喜びと不安が同時に襲ってきた。喜びは、シンプルに自分が成長できて、中原くんから信頼されていることへの喜びだった。

 

でも、できることならまだ中原くんに同席してて欲しい。一人で相談者を相手するのは、まだ怖い。予想外の質問をされたり、相談者が泣き出したりした時は、どうしたらいいか分からずにおろおろしちゃうこともあるから。

 

(大丈夫かな?私なんかが一人で……。でも、中原くんの重荷にならないためには、一人で頑張る方がいいよね……)

 

私は顔を少し伏せて、下唇を軽く噛んだ。

 

「………………」

 

そんな私の気持ちを察したのか、中原くんは「大丈夫」と言って、私に笑いかけてくれた。

 

「できそうだなって西田さんが思ったら、その時にしてくれたらいいよ。今すぐにお願いって話じゃないから」

 

「う、うん。ありがと、中原くん」

 

「うん」

 

「ごめんね、まだ上手く独り立ちできないで」

 

「いいよ、心配しないで。できることから進めよう」

 

中原くんにそう言われて、私は心底ホッとした。

 

「中原くんって、やっぱり凄いね。私が不安になってたの、分かったんだ」

 

「まあ、ちょっと顔が強張ってたからね。それに、“下唇を噛んでたから”」

 

「え?」

 

「西田さんってさ、何かに悩んでる時は、下唇を噛む癖があるんだよね。だから不安なのかなって思ってね」

 

そ、そうだったんだ……。私、自分では気づいてなかったけど、そんな癖があったんだ。

 

本当、中原くんはよく人を見てるなあ。自分でもカウンセリングをやるようになってから、余計に中原くんの観察力に驚かされることが増えてくる。

 

 

『あれ?なんか伊集院さんと中原くん、仲良くなってない?』

 

 

「………………」

 

つい昨日、生徒会室へカウンセリング部のことについて相談しに行った。そしたら、いつの間にか伊集院さんと中原くんの距離が縮まっていた。

 

伊集院さんは中原くんのことに興味津々で、中原くんが喋る時はいつも、目が輝いている。

 

もしかしたら、伊集院さんも中原くんのことを……。

 

「………………」

 

私は、膝を抱えて、目を閉じた。

 

一体、どうしたらいいんだろう。中原くんの周りに女の子が増えてくるのが、凄く辛い。

 

アイドル張りに綺麗な東野さんに、お人形のように端正な北川さん、そしてカリスマイケメンの伊集院さん……。

 

ただでさえ自分に自信がないのに、こんな人たちが集まってくると、本当に自分の存在がちっぽけに感じてしまう。

 

はっきり言って、私なんかじゃ勝ち目がない。そもそも勝負にすらならない。

 

三人が中原くんへ恋してるのかどうかは分からないけど、好意的なのは絶対間違いない。

 

「……はあ」

 

胸に渦巻く不安が、いつの間にかため息になって出ていた。それを、中原くんに聞かれてしまった。

 

「どうしたの西田さん?何か困ったことでもあるの?」

 

「え?あ、いや……」

 

「よかったら、俺、話聞くよ?」

 

「う、ううん、大丈夫……」

 

「本当?無理してない?」

 

中原くんは真っ直ぐな瞳で、私のことを見つめてきた。うう、やだ。そんなに見られたら、ドキドキしちゃう。

 

恋のことを考えてたせいもあって、余計に中原くんのことを意識しちゃう。

 

「西田さん、なんだか顔が赤いね。もしかしたら、熱でもあるかも?」

 

「え?い、いや、そういうのじゃ……ないんだけど……」

 

「そう?」

 

「うん……」

 

私は、心臓がバクバクと揺れて、仕方なかった。じんわりと、手の内側に汗をかいていた。

 

ああ、顔が熱い。なんだかぽーっとする。

 

「……あの、中原くん」

 

「なに?」

 

「……中原くんって、好きな人、いる?」

 

「え?」

 

中原くんは私からそう聞かれて、目をまんまるにしていた。その瞬間、私はハッとした。自分の発言が、あまりにも直球過ぎたから。

 

「あ、あの!ごめん!やっぱなし!」

 

「なし?」

 

「う、うん!き、気にしないで!ほ、ほんとにその、なんていうか、ちょっと気になっただけって言うか……」

 

「………………」

 

「で、でもデリケートなことだし、き、聞くのもよくないよね!だ、だから!今のは忘れて……!」

 

なんとかさっきの発言を取り消そうとするけれど、もう吐いたつばは飲めない。中原くんは慌てふためく私のことを、どこか切なそうな目で見つめていた。

 

「……西田さん」

 

「は、はい」

 

「ごめん、俺は今……好きな人はいないんだ」

 

「い、いない?」

 

「うん、今は“まだ”ね」

 

それだけ答えると、中原くんは右足の膝を立てて、そこに右腕を置いた。

 

そして、すっと……静かに目を伏せていた。

 

なんだろう……?中原くん、いつになく寂しそうな顔をしてる。いや、寂しそうというより、苦しそう?

 

眉をひそめて、口を真一文字に閉じていて。こんな顔をする中原くんって、珍しい気がする……。

 

「……西田さん」

 

「え?」

 

「西田さんは……」

 

「う、うん」

 

「………………」

 

「な、なに?どうしたの?中原くん」

 

「……前にさ、西田さんが話してくれたよね?好きだった先輩に傷つけられて、恋をするのが辛くなったって」

 

「……うん」

 

「今はどう?」

 

「今は?」

 

「うん、西田さんは……新しい恋を、することができた?」

 

「………………」

 

「ん、いや、ごめん。これは失礼な質問だったね。恋をしなくたって、何も悪いことじゃないのに……」

 

「……できたよ、中原くん」

 

「うん?」

 

「新しい恋、できたよ」

 

「………………」

 

私は、中原くんのことを、じっと見つめた。緊張のあまり、ごくりと生唾を飲んでしまった。

 

中原くんはそんな私のことを見て、少しだけ微笑んでくれた。そして、「そっか」と、優しい声で呟いた。

 

「君が新しい恋をすることができて、俺、本当に嬉しいよ」

 

「……うん」

 

「西田さんが幸せになって欲しいって、心から思う」

 

「……中原くん」

 

「………………」

 

「………………」

 

もしかして、と思う。

 

もしかして中原くんは、私の気持ちを分かってるんじゃないだろうか。

 

中原くんは凄く観察力があって、人の気持ちを察する能力が高い。ってことは、自分に向けられた恋心も、なんとなくは分かってるのかも知れない。

 

だから、「ごめん」と言ったのかな。私の気持ちに応えられなくてごめんって、そういう風に……。

 

もちろん、これは確信があるわけじゃない。単なる私の推測……いや、妄想に過ぎない。でも、この中原くんのあの質問は、そんな裏があることを、どうしても想像させてしまう。

 

「………………」

 

なんでだろう。

 

なんで、私。

 

泣いてるんだろう。

 

「中原くん」

 

「うん?」

 

私は彼に向かって、はっきりと告げた。

 

 

 

「好き」

 

 

 

「………………」

 

「私、中原くんのこと、好き。出会った時から、ずっとずっと」

 

「………………」

 

「ごめんね、中原くん。私なんかが、あなたのこと好きで。でも、きっと中原くんは、私の気持ちに気づいてる気がして……」

 

「………………」

 

中原くんは苦しそうな表情を浮かべながら、小さく「うん」と答えた。

 

「なんとなくは、気づいてた」

 

「………………」

 

「ありがとう、西田さん。君の気持ちは、本当に嬉しい。今までそんなこと、言ってくれた人、いなかったから」

 

「………………」

 

中原くんの優しい声が、余計に涙腺を刺激した。ポタポタと涙が垂れて、制服の胸の辺りに落ちていった。

 

「……ごめんよ、西田さん。俺……今はまだ、君の気持ちに応えられるほど、立派な人間じゃないんだ」

 

「………………」

 

「俺はね、君が幸せでいて欲しいと本気で思ってる。だけど……」

 

「……だけど?」

 

「……本当に申し訳ないんだけど、君以外にも、幸せでいて欲しいと、思う人たちがいる」

 

「!」

 

「こういうのが、きっと浮気性って言うんだろうね。本当にすまない。君の気持ちに、素直に応えられなくて……」

 

「………………」

 

中原くんの言う“他の人”というのは、きっと北川さんや東野さん、そして……ひょっとすると伊集院さんのことも含めて言っているんだろう。

 

私には、なんとなくそれが分かっていた。

 

「俺はさ、恋愛がよく分かんないんだ。そもそも、他人を好意的に思うこと自体、俺にはよく分からない。友人と恋人の境い目が曖昧なんだ」

 

「………………」

 

「それに俺は……優劣をつけたくない。誰が一番好きだとか、誰となら付き合えるとか、そんなこと思いたくない。だって、みんな等しく大事な人なんだから。傷ついた人たちが、どうか幸せでいて欲しいって、そう思ってるだけなんだ」

 

「………………」

 

「でも、たぶんこれは、不誠実な態度なんだと思う。恋愛事に関しては、特定の相手をはっきりさせないと、みんなにとって失礼になる。そのことは俺も理解しているつもりだ」

 

「………………」

 

「あー……ごめん。今日の俺、なんかダメだ。言葉を重ねれば重ねるほど、言い訳がましくなってしまう」

 

「ううん、こっちこそ……ごめんね。中原くんを、困らせちゃって」

 

「いやいや、何言ってるのさ。西田さんが悪いわけないよ。俺が優柔不断なのがいけないんだ」

 

「………………」

 

「気持ちを話してくれて、ありがとう。俺、きちんと自分の気持ちに向き合ってみるよ。だから、少し時間をくれないだろうか?ちゃんと答えを出してみせるから」

 

「……うん」

 

私は、また涙がぼろぼろ溢れてきてしまった。視界が滲んで、何も見えなくなってしまった。

 

「西田さん……」

 

中原くんの優しい声が、私に届いてくる。その時私は、震える声で彼の名を呼んだ。

 

「中原くん、ありがとう」

 

「え?」

 

「私を、幸せにしたいって、言ってくれて」

 

「………………」

 

「それだけで……それだけで私、中原くんを好きになれて、よかったって、そう思うから……」

 

「………………」

 

中原くんは、何も答えなかった。何も答えずに、ただ黙って、私の背中を擦ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

俺は、ポケットに手を入れて、夕暮れの街をぼんやりと歩いていた。

 

壊れかけの街灯が、ちか、ちかと明滅していた。

 

 

『私、中原くんのこと、好き。出会った時から、ずっとずっと』

 

 

「……初めて会った時から、か」

 

俺は後頭部をガリガリと掻きながら、ふうと息を吐いた。

 

西田さんから好意を持たれていることは、確かに気がついていた。しかし、まさか初めて会った時からだとは思わなかった。

 

(……いよいよ、この問題に向き合わなきゃな)

 

そう、俺は前々から、“彼女たち”からの好意とどう向き合うかを考えていた。

 

西田さん、東野さん、北川さん。

 

自意識過剰でなければ、おそらくこの三人から……俺は好意を持たれている。多少の主観は入るかも知れないが、客観的に観ても好意的な行動だと思えることは、いくつかあった。

 

俺の勘違いで済むのならそれでよかったんだが、今日、こうして西田さんからはっきりと告白された。と言うことは、俺の予想はあながち的外れじゃないんだという証明になってしまった。

 

「………………」

 

俺は、自分の親から虐待されてた。

 

暴言は当たり前に言われるし、殴る蹴るなんかも平然とされてきた。

 

そして、そんな俺を学校の先生は観てみぬフリをしてた。誰も俺のことを、助けてくれなかった。

 

だから、ずっとずっと、みんなを恨んでた。いつかこいつら全員殺して、俺も死んでやるって……そんなことを毎日思ってた。

 

当然、家庭なんか持ちたいと思ったことがない。自分の家庭環境が最悪過ぎたせいで、家族というものに対して嫌悪感が強かった。

 

それに、虐待されて育った人間は、自分の子どもにも虐待をしてしまうケースが多い。それを思うと、余計に家族を作る気にならなかった。

 

それでずっと、恋愛を遠ざけてた。

 

恋愛は、いつか家族になることを視野にいれた関係を構築することだ。学生の内からそう考えるのは気が早いかも知れないが、恋人とはすなわち、“夫婦候補”に当たる人なわけで。

 

それから考えると、恋愛=家族を作ることだと言っても、差し支えない。

 

だから、ずっと恋愛をすることが怖かった。絶対しないと誓ってはいるが、俺ももしかしたら……あのクソ親どものように、恋人へ暴力を振るってしまうかも知れない。俺の中に流れる醜い中原家の血が、妻や子どもを不幸にさせてしまうかも知れない。

 

そう思って、ずっと恋愛のことを考えることから逃げていた。

 

……でも、もう俺は……それからきっと、逃げちゃいけない。告白してくれた西田さんのためにも、他のみんなのためにも、誠実な答えを見つけなきゃいけないんだ。

 

「………………」

 

 

ピリリリ、ピリリリ

 

 

その時、俺のポケットに入れていたスマホに、着信が鳴った。

 

「はい、もしもし」

 

『……やあ、中原部長かい?』

 

電話に出てみると、それは伊集院さんだった。おかしいな、伊集院さんへは連絡先を伝えていないはず……。

 

「伊集院さん、こんばんは。あの、なんで俺の携帯番号を知ってるんだ?」

 

『中原部長、今どこにいる?』

 

「え?」

 

『緊張の用事があってね、至急生徒会室へ来て欲しいんだ』

 

「至急……」

 

『ああ、無理を言ってすまない。頼む、どうしても急ぎの案件なんだ』

 

「どういう内容の案件になる?カウンセリング部に関わるものなのか?」

 

『もちろんだ。詳細は、会って話そう』

 

「………………」

 

正直、俺はあまり行きたくなかった。

 

西田さんに告白された今日の今日で、他の女性に会いに行くのは、いかがなものかと思ったからだ。

 

でも、至急の案件だと言われたら、仕方ない。伊集院さんにはいつもお世話になっているし、カウンセリング部のことなら、部長として俺が動かなきゃいけない。

 

「分かった、ちょっと学校から出てしまったから、すぐ戻るよ」

 

そうして俺は踵を返し、学校へと走っていった。

 

 

 

 

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