学校でカウンセリング部を始めたら病んだ美少女たちの激重ハーレムができたんだが   作:崖の上のジェントルメン

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22.いつだって自由だ

 

 

 

……コンコン

 

「はあ、はあ……。すみません、中原ですけど」

 

学校まで走って戻ってきた俺は、息を切らしながら生徒会室の扉をノックしていた。

 

すると中から「どうぞ」と、伊集院さんの返答が聞こえてきた。

 

「失礼します」

 

ガチャリ……

 

扉を開けてみると、生徒会室は異様に暗かった。電気がつけられていないのだ。

 

そのせいで、窓の外から差し込む夕日の光が、余計に強く赤く見えた。

 

伊集院さんは、窓の前に立ち、こちらに背を向けて立っていた。

 

「……伊集院さん」

 

俺が名前を呼ぶと、彼女はゆっくりと顔だけを振り向かせた。そして、口許に薄く微笑を浮かべながら、「やあ」と一言告げた。

 

「すまないね、中原部長。わざわざ学校まで戻ってきてもらって」

 

「いやいやこっちこそ、こんな放課後遅くまでカウンセリング部のために、いろいろしてもらって申し訳ない」

 

俺は扉を閉めて、彼女の前まで歩いていった。伊集院さんは俺が近づくにつれて、身体も俺の方へと向けていった。

 

伊集院さんは赤い夕日を背にして、目を細めて笑っていた。彼女の青い髪と蒼い瞳も、その夕日のせいで赤みがかって見えた。

 

「そう言えば中原部長、君の下の名前は、確か透と言ったね?」

 

「え?」

 

「よかったら、透くんと呼ばせてもらってもいいかい?いやなに、中原部長といつも呼んでいるが、それだとあまりに他人行儀な気がしてね」

 

「……あ、ああ。別に俺は構わないけど」

 

「よかった、じゃあ遠慮なく、透くんと呼ばせてもらうよ」

 

「………………」

 

「そうだ、君もボクのことは、南美って呼ぶといい。そっちの方が呼びやすいだろう?」

 

「は、はあ……。わかりました、南美さん」

 

なんとも奇妙なやり取りだった。カウンセリング部について至急の案件があると言っていたのに、なぜここで名前の話題なんて出すのだろう?

 

それに、あの丁寧な伊集院さん……南美さんにしては、若干強引な印象を受けた。だって、彼女は俺を下の名前で呼んでいるのに、俺が彼女を下の名前で呼ばないのは、さすがに気を遣ってしまう。俺もそう呼ばないといけないムードを無理やり作ったように見える。

 

南美さんは聡明で、賢い人だ。俺がそうして気を遣うタイプであることは絶対に分かっている。分かった上で、そうしているんだろう。

 

「あの、南美さん。カウンセリング部についての至急の相談って、なんなんだ?」

 

早く本題を知りたかった俺は、彼女へそのことを尋ねてみた。すると南美さんは「ああ」と言って、目を伏せた。

 

彼女は窓に背をもたれて、窓の冊子の部分に手を置いた。

 

「そう、そうだ。カウンセリング部の話だったね」

 

「………………」

 

「実はね、透くん。君に残念なお知らせがある。君たちの作ったチラシと放送原稿だがね……あれは先生方の審査で通らなかったんだよ」

 

「え?」

 

「君も知っているだろう?あの北川くんが起こした騒動を。あれのせいでカウンセリング部に悪いイメージがついてしまってね。いやはや、人というのは勝手な生き物だよ。騒動を起こしたのは個人なのに、その個人が所属している組織にまでイメージが飛び火するなんてね」

 

「だ、だけど南美さん、あれは……」

 

「もちろんボクは、君たちの事情をきちんと理解しているよ。北川くんが騒動を起こしたのも、毒島先生が彼女を煽ったからだろう?だからボクとしては、君たちばかりに非があるとは思えなくてね」

 

「………………」

 

「ボクも会議でそのことを弁明したんだが、それでも審査は通らなかった。先生方が言うにはね、『確かに毒島先生も悪いが、椅子を投げつけるという危険な行動を取った北川くんが問題児であることに変わりはない』って……そういう判断を下されたんだよ。だからカウンセリング部の活動は、なるべく自粛するようにってね」

 

「………………」

 

俺は、手をぎゅっと握り締めて、唇を噛んだ。

 

確かに騒動を起こしたこと自体は、よくなかったかも知れない。でも原因は明らかに毒島先生なのだ。大事にしているものを貶されて、怒るなと言う方が無理がある。先生たちの言うことも全く理解できないわけじゃないが、それでも悔しいことに変わりはない。

 

「すまないね、透くん。ボクの力不足で」

 

「……いや、南美さんが悪いわけじゃないよ。むしろ俺たちカウンセリング部のことを大事に……」

 

と、そこまで口にしてから、俺は言葉が出なくなった。

 

南美さんは、泣いていた。

 

口に微笑みを浮かべながら、すっと透明な涙を流していた。

 

それは夕日に照らされて、きらりと鈍く光っていた。

 

「……み、南美、さん?」

 

「………………」

 

「ど、どうしたの?なんで……泣いて……」

 

「……ふ、ふふふ。ボクってとことん、バカがつくほどに真面目だなあ」

 

「え?」

 

南美さんは顔を上げて、俺の方を見つめた。そして、口角をひくひくと揺らしながら、「ごめん」と告げた。

 

「嘘なんだ、さっきのは」

 

「……う、嘘?」

 

「ああ、先生が認めなかったなんて、口先三寸の出任せだよ。ボクが勝手に作った真っ赤な嘘さ」

 

「………………」

 

「なんでそんな嘘を?って顔だね。ふふふ、そうだよ。そうだよね」

 

南美さんは歪んだ笑みを浮かべたまま、こっちへ歩み寄った。

 

鼻と鼻が触れあいそうになるほどに、彼女は顔を近づけてきた。南美さんの吐息が頬に当たって、俺はついびくっと肩を震わせてしまった。

 

「透くん……」

 

彼女の塗れた瞳が、真っ直ぐに俺を射貫いている。

 

「君たちカウンセリング部のチラシや放送原稿はね、ボクが会議の場で許可しなかったんだよ」

 

「……え?」

 

「北川くんが問題児であることを強調して、先生たちや生徒会員たちを説得したんだ」

 

「……な、なんで、南美さんは俺たちのチラシや放送原稿には、全然問題ないって言ってたのに……」

 

「ああ、確かにそれに問題はない。問題なのは君だよ、透くん」

 

「お、俺?」

 

「そう。君がいけないんだ。ボクのために、生徒会へ入ってくれない君が」

 

「……!」

 

南美さんの目の端には、水の粒が貯まっている。瞬きをすると、それがまた涙となって、頬を滑り落ちる。

 

「いいかい?透くん。カウンセリング部のチラシや放送原稿を会議に通したかったら、君はボクの言うことを聞いて、生徒会に立候補するんだ」

 

「………………」

 

「もし立候補してくれたら、チラシと放送原稿は間違いなく許可を下ろそう。でも、君が立候補してくれなかったら……ボクはどんな手を使ってでも、カウンセリング部の活動を邪魔するよ」

 

「………………」

 

「言っておくけど、ボクは本気だからね。やろうと思えば、カウンセリング部を廃部に追いやることだってできるんだから」

 

「廃部……」

 

「ああ、せっかく作った部活なのに、そんなのは嫌だろう?透くん」

 

「………………」

 

「さあ、もう君に選択肢はないよ。生徒会選挙へ立候補するんだ。もちろん、立候補した上で選挙に落ちるのなら、それは仕方ない。でも、君なら間違いなく、当選すると思うけどね」

 

「……南美さん、ひとつ訊いてもいいか?」

 

「なんだい?」

 

俺は彼女の顔から目を逸らさずに、はっきりとした口調で問いかけた。

 

 

 

「なんで、あなたは泣いてるんだ?」

 

 

 

「………………」

 

南美さんは一瞬だけ目を見開いて、本当に驚いた顔をしていた。でも、またすぐに目を細めて、「ふふふ」と声を上げて笑った。

 

「さすが透くんだね、一番訊かれたくないことを訊いてくる」

 

「………………」

 

「正直に言うとね、ボク、苦しいんだ」

 

「苦しい……?」

 

「ああ。本当は……カウンセリング部のことを、応援したい」

 

「!」

 

「チラシも放送原稿もちゃんと許可を出して、どんどんどんどん活動を広げて欲しい。だってカウンセリング部は、君が大切にしている部活だから」

 

「………………」

 

「でも、でも、こうするしかないんだ。君が生徒会選挙へ立候補するためには、君の大事なカウンセリング部を人質に取るしかない」

 

「………………」

 

「最初はね、それっぽい言葉で誤魔化そうと思ったんだよ。先生から許可がおりないなら、悪いイメージを無くすために、内申点のよくなる生徒会へ立候補するのはどうか?とか、そんな風な言い訳をね」

 

「………………」

 

「でも、喋ってる途中で、どうしても罪悪感が沸いてしまってね。君のことを騙してる罪悪感に耐えきれなくなって、こうして……無様にも泣いてるんだ」

 

「……どうして」

 

「うん?」

 

「どうしてそこまで、俺にこだわる?まだ会って数日ほどなのに」

 

「ふふふ、透くん。君ならよく分かるはずだよ?人の心は、理屈ばかりではできていないって」

 

南美さんは左手で、そっと俺の右頬に触れた。

 

「透くん、君は前にボクへ言ってくれたね。『自分に正直に、自由でいたい』って。ボクもね、君のように正直で、自由になりたいんだ。自分のやりたいことを、存分にやってみたいんだ」

 

「………………」

 

「ねえ、透くん。ボクにまた、カウンセリングしてくれないかい?」

 

「……カウンセリング?」

 

「ボクは、完全無欠な王子様かい?それとも、卑劣で卑怯で……汚ならしい生徒会長かい?」

 

「……いいや、南美さん。あなたはどちらでもない」

 

「どちらでもない?」

 

「あなたは、真面目で優しい……寂しがりやの女の子だ」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「……ふ、ふふふふ」

 

「………………」

 

「ふふ、ふふふふ、ふふふふ、そうだ、そうだね。ボクは、女の子だった……」

 

南美さんは心底おかしそうに、肩を震わせて笑っていた。

 

「……ねえ、透くん」

 

「ん?」

 

「……好きって、言ってもいい?」

 

「………………」

 

俺は、ゆっくりと首を縦に振った。

 

「南美さん、あなたの心は、いつだって自由だ」

 

「………………」

 

その時の彼女は、本当に嬉しそうだった。今までのカッコいい彼女の微笑みではなく、自分の胸のうちが解放された、あまりにも晴れやかな笑顔だった。

 

「好き」

 

「………………」

 

「透くん、好き」

 

「………………」

 

「どうかボクのものに、なっておくれ。いつまでもボクのそばに、いておくれ」

 

「……南美さん」

 

「君だけなんだ。君にだけは、ボクの心を全部見せられるんだ。君だけはボクのことを、ありのままで見てくれるんだ……」

 

「………………」

 

「好き、好きだよ透くん。本当に、本当に……」

 

 

 

──おかしくなるくらい、君が好き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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