学校でカウンセリング部を始めたら病んだ美少女たちの激重ハーレムができたんだが   作:崖の上のジェントルメン

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24.生徒会選挙(1/2)

 

 

「……はあ」

 

お腹の中に溜まった固い空気を、俺はため息として排出していた。

 

現在、夜中の1時過ぎ。俺は自室の机でルーズリーフを開き、生徒会選挙の演説のシナリオを作っていた。

 

しかし、頭に浮かぶのは演説のことなんかじゃない。四人の……女の子のことばかりだった。

 

西田さん。

 

北川さん。

 

東野さん。

 

南美さん。

 

どんなに目蓋を閉じても、その闇の中に彼女らの顔が鮮明に浮かぶ。その度に、胸をぎゅっと捕まれるような痛みを覚える。

 

「あ~……。俺、ほんとどうしたらいいんだ……」

 

にわかには信じがたいが、俺はこの四人から好意の矢印を向けられている。

 

東野さんは少し違うようだが、他の三人は恋愛感情も込みだ。

 

(くそっ、何かいい方法はないのか……?)

 

彼女たちはみんな、それぞれに悩みを抱えている。心の奥底に眠る苦しみを、俺にそっと話してくれた。

 

そんな彼女たちは、みんな幸せでいてくれと思う。だからこそ、1人に絞ることができないんだ。

 

(いつだったか、カウンセリング部のみんなへ『相談者には共感し過ぎないように』とか言ったことあったけど、肝心の俺ができてないじゃないか……。口先だけなのもいいとこだ)

 

自己嫌悪に苛まれて、俺は頭をガリガリと掻きむしる。

 

(ダメだ、埒が明かない。今日はもう止めだ、寝よう)

 

バッサリと諦めをつけた俺は、ルーズリーフをパタンと閉じ、明かりを消してベッドにもぐった。

 

こういう時に、睡眠を削りすぎるのはよくない。一晩寝て、体調を万全にしなきゃもとも子もない。

 

ひとまずは心身を整えて、それから考えよう。具合の悪い時に出した決断は、信じない方がいい。

 

(一朝一夕で結論を出せる話じゃない。焦るな焦るな……)

 

自分の逸る気持ちを落ち着かせるように、何度か深呼吸をしながら、俺は静かに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふう、やっと終わった」

 

ようやく演説のシナリオが完成したのは、選挙前日のことだった。

 

放課後の、カウンセリング部室。今はまだ俺しかおらず、ノートを広げてシナリオを書き込んでいた。

 

「やっほー、中原くーん」

 

ちょうどそのタイミングで、東野さんが入ってきた。西田さんや北川さんも、その後ろについていた。

 

「やあみんな、お揃いで来てくれたね」

 

「あっ!中原くん、もしかしてシナリオ完成した?」

 

「うん、ようやくね」

 

「凄ーい!ね、見せて見せて!」

 

「あ、うん」

 

俺はそう言ってルーズリーフを渡すと、彼女は子どものように眼を輝かせながら、そのシナリオを読んでいた。

 

「中原くん、明日の演説、頑張ってね」

 

西田さんは俺の隣へと座り、応援の言葉をくれた。

 

「うん、ありがとう西田さん。こういうの初めてだから、なんだかんだ緊張するよ」

 

「わ、私も。自分のことじゃないのに、中原くんが出るって聞いて、凄くドキドキしてる」

 

西田さんはそわそわした様子で、胸の辺りにぎゅっと拳を作っていた。

 

あの告白があってからも、西田さんはいつも通り接してくれるお陰で、あまりギクシャクせずに済んでいた。

 

でも眼があったりすると、彼女は頬を赤く染めて、すっと目線を下ろしたりするのだった。

 

「それにしても、あの生徒会長はクソ野郎だよ。中原を無理やり生徒会に入れようとするなんてさ」

 

北川さんは俺の対面に座って、眉間にしわを寄せていた。

 

「まあまあ、今はあまり言わないであげてよ。俺は俺で、生徒会に入れるメリットはあるから」

 

「でもさ……」

 

「それに、これはあくまで選挙なんだから、票が取れなきゃどっちにしろ入れない。そういう意味でも、ある種フェアだよ」

 

「……うーん。まあ、中原がそこまで言うならいいけど……」

 

北川さんは渋々ながらも、とりあえず納得はしてくれた。

 

「うん!素敵!とってもいいと思うよ中原くん!」

 

俺のシナリオを読んだ東野さんは、満足げな笑みを浮かべて、俺にルーズリーフを返してくれた。

 

「もう間違いなく、中原くんなら当選するよ!」

 

「そ、そうかなあ?」

 

「うん!私が保証する!」

 

いつになく前のめりな東野さんに、俺は少々圧倒された。でも、こうして自信を持たせてくれるのは、やはりなんだかんだ嬉かった。

 

「ありがとう、東野さん。みんなの……カウンセリング部の部長として恥ずかしくないよう、できる限り頑張ってみるよ」

 

俺がそう言うと、彼女たち三人はこくりと頷いてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……翌日の、お昼3時ちょうど。

 

とうとう、生徒会選挙の時間となった。

 

選挙は体育館にて行われ、立候補者は壇上へと上がり、演説を行う。それ以外の生徒は床に体育座りで腰を下ろし、演説を聞く。

 

すべての演説が終わった後、各教室に戻ってから、それぞれ投票を行う。これが大まかな選挙の流れだった。

 

今回、候補者は6人おり、俺の演説は一番最後だった。

 

「こんにちは、一年三組の漆原 紫音です。私の公約は……」

 

候補者の、最初の演説が始まった。壇上にあるマイクの前に立ち、手に持っているシナリオに視線を向けながら、緊張した声色で話し出す。

 

俺や他の候補者、そして現生徒会役員たちは、舞台裏からその演説の様子を見守っていた。

 

(いよいよ、か)

 

俺は腕を組んで、ごくりと息を飲んだ。

 

「やあ、透くん」

 

ふと、俺の背後から声をかけられた。それは生徒会長……すなわち、南美さんだった。

 

「ついに始まったね、生徒会選挙が」

 

「……そうだね」

 

「君がどんなことを話すのか、凄く楽しみだよ。シナリオは書いてあるのかい?」

 

「ああ、準備してあるよ。さすがの俺も、こんな場で何も考えず喋るのは骨が折れるからね」

 

「うんうん、なら問題ないね」

 

南美さんは俺の隣に立ち、一緒に今演説している一年生の女の子を見つめていた。

 

「透くん。君のことだから大丈夫だと思うけど、念のために釘を刺しておく」

 

「釘を?」

 

「くれぐれも“つまらない演説”は、しないで欲しいな」

 

「……なるほど、故意に落ちるなということだね」

 

「………………」

 

「つまらない演説をわざとして、当選しないようにするなと……そう言うわけだね」

 

「さすが透くん、話が早くて助かるよ」

 

「元からそのつもりはないよ。俺だって、生徒会に入るメリットがあると思ってちゃんと立候補したんだ。やるからには本気だよ」

 

「そっか、それが聞けて安心したよ」

 

「………………」

 

「……ふふふ、不思議だな」

 

「え?」

 

俺はちらりと、横目で彼女を見た。

 

彼女の方もこちらへ顔を向けて、頬を赤く染めながら、微笑みを浮かべていた。

 

「自分が壇上へ立った時よりも、ドキドキする」

 

「………………」

 

「本気の君を、是非、見せて欲しいな」

 

「……うん」

 

俺がそう答えた途端、ちょうど候補者の演説が終わったらしく、まばらな拍手が聞こえてきた。

 

そして、二番目の候補者へと順番が変わっていった。

 

「………………」

 

この舞台裏からも、全校生徒の反応は確認することができる。

 

ほとんどがぼーっと上の空だったり、隣の人と話していたり、膝に顔を埋めて眠ったりと、そんな反応ばかりだった。

 

演説に耳を傾けている人は、数えるほどしかいなかった。

 

(まあ、生徒会選挙って、多くの人はあまり興味ないもんな)

 

正直言って、他の候補者たちの演説も、あまり面白いとは言えなかった。

 

生徒会に立候補するくらいなのだから、だいたいがクラスの学級委員長だったり、内申点を上げようと頑張る真面目な人たちなので、自分の作ったシナリオを一言一句間違えることなく、精密に読み上げることに努めていた。

 

それはそれで木訥と頑張っていると思うのだが、聞く側は退屈だなと言わざるを得なかった。少なくとも、俺の前に演説を行った5人には、そんな印象を持ってしまった。

 

『えー、私は、生徒自身の自主性を促すために、次のことを公約に掲げます……』

 

『部活動と勉強の文武両道を目指し、高校生らしい生活を……』

 

「……むーん」

 

この調子だと、最後の俺の番では、今以上に誰も話を聞いていないだろう。

 

後半になるにつれて、起きていた人も寝たりするだろうし、長丁場で疲れてきたから早く終わって欲しいと、そういう態度になりかねない。

 

また、人の単純な心理として、一番最初に見たものへ情を持ちやすい傾向がある。よっぽど差をつけないと、「どうせ誰選んでも変わらないし、最初の人でいいや」という結論に至る。

 

まさしく、シンプルに不利な状態だった。

 

(……今回の選挙は臨時募集だ。6人の中で、たった1人しか選ばれない。選ばれるためには、ただシナリオを読むだけじゃいけないな……)

 

『……以上で、演説を終わります。ありがとうございました』

 

パチパチパチ……

 

5人目の演説が終わり、まばらな拍手が聞こえた。いよいよ、俺の番だ。

 

「よし」

 

俺は制服の胸ポケットに折り立たんで入れていたシナリオを取り出した。

 

「透くん、頑張ってくれ」

 

「ありがとう、南美さん」

 

彼女からのエールを受け取り、俺は壇上へと上がった。

 

「………………」

 

全校生徒が一望できるこの場所は、立つだけで萎縮させる力があった。

 

手の平に、じんわりと汗をかいた。

 

(……まあ、やっぱり考えてた通りだな)

 

他の候補者の時と同じように、みな気だるげで、俺に興味なんてなさそうだった。

 

眠っている者もさっきより多い。特に前列にいる人なんて、ほとんど膝に顔を埋めていた。

 

「………………」

 

でもその中に、俺は彼女たちの姿を見つけた。

 

西田さん。

 

北川さん。

 

そして、東野さん。

 

彼女たちは、みんな俺のことを真っ直ぐに見てくれていた。

 

西田さんは、どこか不安そうに。北川さんは、じっと見つめるように。東野さんは、楽しみに待っていた子どものように。

 

(いつも俺は、みんなに助けてもらいっぱなしだ)

 

そんなみんなに報いるよう、俺は……目一杯、やれることをやってやる。

 

『んんっ、それでは、演説を始めます』

 

俺はマイクの前に立ち、シナリオを広げて、それを読み上げ始めた。

 

『えー、こんにちは。私は二年三組の中原 透と申します。私はカウンセリング部の部長を勤めており……』

 

……だが、そこまで口に出してから、俺はぴたりと止めた。

 

そしてしばらく、沈黙を貫いた。

 

「……?なんだ?」

 

「おい、なんか突然止めたぞ」

 

「え?なにあれ?どういう状況?」

 

少数の起きていた者たちが、俺のことを見つめながら、ひそひそとざわついていた。

 

「と、透くん、どうしたんだい?」

 

舞台裏にいる南美さんでさえ、俺の行動に困惑している様子だった。

 

「………………」

 

そんな中、俺は自分の手に持っていたシナリオの紙を、マイクの前へと持っていった。

 

そしてそれを……真っ二つに裂いた。

 

 

ビリビリビリビリ!!

 

 

「………………」

 

マイクのお陰で、体育館中にその音が響いた。

 

「ふぁっ……。な、なに、今の音?」

 

「ちょ、おい起きろよ。今なんかヤバいことなってんぞ」

 

この音で目を覚ました者もいれば、俺の突然の行動に驚いて、隣の人を起こす者まで出てきた。

 

「ちょ、ちょっと、透くん?」

 

狼狽えている生徒会長を横目に、俺はマイクにもう一度顔を近づけて、こう言った。

 

『いや、すみませんね。シナリオを用意してたんですけど、なんか……それだとつまらないなと思って』

 

 

ざわざわざわざわ……。

 

 

全校生徒のざわつきが増した。

 

「待って待って、今回の人、なんかおもろそう」

 

「なあ、今カンペ破ったよね?」

 

「どういうこと?演出?」

 

困惑の波紋がさざ波のように広がっていき、次第に体育館全体を飲み込んでいた。

 

「な、中原くん、どういうことですか?」

 

「中原!お前真面目にやる気あるのか!」

 

とうとう、先生からも野次が飛ぶ事態になった。

 

そう、こういう空気感が欲しかった。

 

俺が勝つために必要なのは、エンターテイナーであること。

 

この演説、面白いぞと、そう思わせること。

 

真面目な他5人の候補者の印象を、俺が全部上書きする。そのくらいのインパクトを残す。

 

『先生、俺は至って真面目ですよ。真面目だから、こうしてるんです』

 

俺はマイク越しに先生たちへ反論した。

 

そして、唖然とする全校生徒たちに向かって、俺はこう告げた。

 

『すみませんね、みなさん。今からシナリオなしの即興で話をするので、ちょっとだけ聞いてくれませんか?』

 

 

 

 

 

 

 

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