学校でカウンセリング部を始めたら病んだ美少女たちの激重ハーレムができたんだが   作:崖の上のジェントルメン

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25.生徒会選挙(2/2)

 

 

……それは、暴挙に近かった。

 

厳しく言うなら、悪ふざけの悪目立ち。先生から大目玉を食らってしまうような、そんな演出。

 

初手でいきなりシナリオを裂くという、ボクのような凡人では、到底思い付かないような導入だった。

 

「と、透くん……」

 

彼の予想外の行動に戸惑いながらも、ボクは舞台裏から見守るしかなかった。

 

『すみませんね、みなさん。今からシナリオなしの即興で話をするので、ちょっとだけ聞いてくれませんか?』

 

彼がそう言うと、ざわついてた体育館が、一瞬で静かになった。

 

完全に、彼のペースだ。場全体がその空気に乗せられている。

 

さすが透くんと言ったところだろう。こんな導入されたら、誰だって話が気になるものだ。

 

(しかし、問題はここから……)

 

これだけ大風呂敷を広げておいて、中身が伴ってなかったらなんの意味もない。むしろ期待させた分、落胆も大きくなる。竜頭蛇尾ほど恥ずかしいものはない。

 

萎縮して蛇の尾となるか、龍のまま昇れるのか、これからが本当の勝負だ。

 

『まず最初にみなさんへ言っておきたいのは、俺の志望動機です』

 

透くんは、全校生徒を見渡しながら、話し始めた。

 

『ぶっちゃけ言うと、全部、自分の部活のためです。始めに言ったとおり、俺はカウンセリング部の部長です。カウンセリング部が活動しやすくするために、生徒会へ入ろうと思いました。みなさんのためじゃありません、俺のためです』

 

ここでもまた、透くんは思い切った発言をした。

 

学校内の選挙とは言え、ある程度建前があるのが普通だ。現に他の5人は『生徒の自主性』や『文武両道を目指す』など、それらしい目標を掲げていた。

 

実際は内申点を上げるために……自分の評価を上げるために入りたかったとしても、そんなことを口にはしない。それを透くんは、何の躊躇いもなくタブーに触れたのだ。

 

『カウンセリング部は、今結構細々と活動してるんですけど、これからはもうちょい大きくなりたいなと思ってて。今計画してるもののひとつに、お昼休みにカウンセリング部の放送をやろうかと思ってます。ラジオ番組のようなイメージで、悩みをお便りでもらってそれに答えるような感じですね。でも、これがなかなか生徒会から許可が下りなくて困ってるんですよ。だから、いっそ俺が生徒会に入って、生徒会を牛耳っちゃえばいいと思ったんですね。こういう逆転の発想ができるところが、俺って頭いいなと思いましてね』

 

 

はははは!

 

 

透くんの冗談に、笑う人が何人かいた。

 

なんとも上手いやり方だ。ほどよく笑いどころを作ることで、堅苦しさをなくし、話を聞いてもらいやすくする。

 

話し上手は聞き上手とはよく言ったものだ。カウンセリングを日頃しているからこそ、彼の話術は鍛えられているのだろう。

 

「す、凄いですね、あの人」

 

隣には、生徒会の後輩である木下くんがいた。彼女は額に冷や汗を垂らしながら、透くんのことを見ていた。

 

「なんか、カリスマっていうか、めちゃくちゃ目を引きますね」

 

「ああ、ボクもそう思うよ。彼のことは……いつの間にか、眼で追ってしまう」

 

ボクもカリスマがあるだなんて言われているが、それはほとんど顔の造形のお陰だ。

 

イケメンだから、カッコいいからという理由でカリスマ扱いされている。もちろん嬉しいことは嬉しいのだが、顔の造形に頼ってしまってるところがあるのは否めない。

 

だが透くんは、語りと演出で一気に注目を浴びた。これはまさしく、人柄そのものにカリスマが宿っているということなんだろう。

 

『そうそう、カウンセリング部の部長をやってると、「なんでそこまで人の気持ちがわかるんですか?」って、たまに言われることがあるんですよ。まあそれなりにね、俺は訓練を積んでるわけですから、みなさんの気持ちを測るのなんて、造作もないことですよ。たとえば、今ここで三つ、みなさんの気持ちを当てることだってできますよ』

 

透くんは右手を上げて、それぞれ順に親指、人差し指、中指を折り曲げた。

 

『はい、一つ目は「眠たい」』

 

 

はははは!

 

 

『二つ目は、「帰りたい」』

 

 

ははははは!

 

 

『三つ目は、「演説してる人カッコいいなあ」』

 

 

はははははははは!!

 

 

「………………」

 

いやはや、恐れ入る。きっちり全校生徒の笑いを掴んでいる。

 

笑いを取るって、思っている以上に高度な技だ。しかも彼の場合、奇天烈な動きや変顔といったものじゃなく、話で人を笑わせている。相当上手くないとできない芸当だ。

 

しかも抜かりないのは、自分を上げる笑いを使っているところだ。

 

自虐ネタだと、笑う側も罪悪感が産まれやすくなるし、卑屈な感じで悪い印象を持たれてしまう。逆に自分を褒めるような笑いだと、笑う側も安心して笑えるし、透くんが素直で自信のある人柄に見えて、好印象になる。

 

冗談ひとつを取っても、彼の高度な計算が見える。あれを本当に即興でやっているとしたら、末恐ろしい。

 

『さて、まあ冗談はこれくらいにして。そもそも、なんで俺がカウンセリング部をやりたいなと思うか、それを話しておきましょう』

 

透くんは咳払いをして間を置いてから、こう告げた。

 

『カウンセリング部と言っても、俺や部員にカウンセラーの免許を持っている人がいるわけじゃありません。多少心理学を齧っただけの、普通の生徒です』

 

「………………」

 

『そんな普通の生徒がカウンセリングなんかしたところで、効果なんてあるのか?専門のプロに頼むべきじゃないのか?って、そう思う人もいるでしょう。実際、そう言われたこともあります。子どもが子どものカウンセリングなんかして、意味はないと』

 

「………………」

 

『でもね、同い年だからこそ話せることって、あると思うんです。問題解決はできなくても、俺たちカウンセリング部にしかできないことが……きっとあるはずだと。事実、同じ学生だから相談したいと言われて部室に来る人もいました』

 

透くんは、さっきまでとうってかわり、真剣な眼差しとトーンで、生徒たちに語りかけていた。

 

みな、彼のことを見ていた。前は眠る者も多かったのに、今はほとんどの人間が彼の声に耳を傾けている。

 

もちろんボクも、その内の一人だ。

 

『このカウンセリング部は、地味な部活と言われます。確かに、それは事実です。運動部のように高校総体もなければ、文化部のように高校文化祭への参加もない。進学や就職の履歴書に書けるような実績は、この部活では作れない』

 

「………………」

 

『それでも俺は、この部活が素晴らしいものだと断言します。この活動を続けることは、眼には見えない心の豊かさを思い出させてくれます。物理的な実績よりも、それはきっと大切なことです。かのマザー・テレサはこう言いました。「一切れのパンにではなく、多くの人は愛に、小さな微笑みに飢えている」と』

 

「………………」

 

『この場にいる全員を幸せにすることは、難しいかも知れません。しかし、たった一人でも、心が軽くなり、救われる人がいるなら、そのためだけに活動することに、意義がある。俺はそう思います』

 

「………………」

 

他の候補者は残念だけど、これは……相手が悪かったとしか言い様がない。アマチュアの中に、一人プロが混じっていたようなものだ。

 

ここまで明確に差がつくとは、正直思っていなかった。透くんの演説は面白いだけじゃなく、カウンセリング部の必要性についても丁寧に触れていて、本来あるべき演説の姿も忘れていない。ウケ狙いのために雑にふざけた候補者は以前にもいたけど、彼はユーモアの域に昇華している。

 

これにはさすがに、先生も文句は言えまい。むしろ真面目に部活へ取り組もうとしているのだから、褒められるレベルの話だ。

 

『この生徒会へ入り、カウンセリング部の活動を広げていくとともに、少しでも多くの人を救えるような活動ができればと思っています。長くなりましたが、これで俺の話を終わります。聞いてくださり、ありがとうございました』

 

 

パチパチパチパチパチパチ!!!

 

 

体育館内に、盛大な拍手が響き渡った。

 

その音が、今回の選挙の結果を、如実に現していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……数日後。

 

ボクは、カウンセリング部の部室の前に立っていた。

 

ふうと息を整えて、扉を二回ノックをすると、中から「どうぞ」と返ってきた。

 

「失礼するよ」

 

そう言って扉を開けると、中には透くんがいた。

 

彼は座敷に胡座をかいており、気さくな態度で「やあ、南美さん」と答えてくれた。

 

「今は、君一人かい?」

 

「そうだね、もうすぐでみんな来ると思うけど」

 

「分かった。ちょうど君に伝えたいことがあったから、よかったよ」

 

ボクは彼の前に立ち、真正面から告げた。

 

「おめでとう、透くん。生徒会選挙、当選だ」

 

「おお、そっか。それはよかった」

 

透くんの反応は、想像していた通り薄かった。彼も、今回の選挙は当選して当たり前だと思っていたんだろう。

 

「さて、これで俺も晴れて生徒会か」

 

「………………」

 

「どうだったかな?“会長”。つまんない演説にはならないよう努めたけど」

 

「……ああ、とても素晴らしかったよ。実に君らしく、印象深い演説だった」

 

「ははは、そっか。会長直々にそう言ってもらえるなら、俺も嬉しいよ」

 

「………………」

 

ボクは、彼の前に座り込み、きちんとお手本のように正座をした。

 

「……?南美さん?」

 

「……透くん」

 

そして、彼の右手を取って、淀みなく言った。

 

「好きだ」

 

「………………」

 

「好きだよ、透くん」

 

「……み、南美さん」

 

「……ボクは、ずるい人間だ」

 

「………………」

 

「君の部活を人質に取って、生徒会選挙に無理やり出させた。許されないことだと思う」

 

「………………」

 

「でも、それもこれも、君が好きだからやったんだ。君に……ボクの隣にいて欲しかったから。ボクのそばにいて欲しかったから。そのためだけなんだ」

 

「………………」

 

「それで、その、き、君さえ……その、よければなんだけど、あの……」

 

ボクの顔が、熱したやかんのように熱くなっていた。動悸も早くなっていって、この鼓動音が彼へ聞こえるんじゃないかと思うほどだった。

 

「ボ、ボクと、お、お、お付き合いを……して、くれない、か?」

 

「………………」

 

「君には、ボクの全部を知ってほしいし、ボクは、君の全部を知りたい。そのくらい、ボクは君が好きなんだ」

 

「……南美さん」

 

「君は、ボクの言うことを聞いてくれた。今度はボクが、君の言うことを聞くよ。なんだって言ってほしい。君のためなら、ボクは……」

 

……と、そこまで口にして、ボクは止まった。

 

扉の向こう側……つまり、部室の外に、人の気配を感じた。

 

物音がしたわけじゃない。ただ、いる予感がした。

 

こういうのを、第六感というんだろうか。なぜ背を向けているのに、それが分かるのだろう。

 

「……円香くん、かい?」

 

ボクがそう尋ねると、扉がゆっくりと開いた。

 

そして本当に、そこには円香くんが立っていた。

 

「凄い、さすが伊集院さん。まさかバレちゃうとは思わなかった」

 

「……聞いてたのかい?ボクの……」

 

「うん、ごめん。たまたま聞こえちゃって」

 

「………………」

 

円香くんは、どこか含みのある笑顔をしていた。

 

それは、ボクの告白を聞いて気まずい……というものではない。むしろ、ボクが告白するのを分かっていたかのような顔だった。

 

そのせいで、ボクは告白を聞かれていた恥ずかしさよりも、その異様な空気への違和感が勝っていた。

 

「ねえ、中原くん」

 

円香くんは彼の方へ眼を向けた。

 

「中原くんは、伊集院さんと付き合うの?」

 

「………………」

 

「まだ、決めかねてるかな?」

 

「………………」

 

「ま、円香くん、決めかねてるって、どういうことだい?」

 

「中原くんはね、カウンセリング部のみんなから好かれてるんだよ」

 

「え!?」

 

「もちろん、私を含めて。ね?中原くん」

 

「………………」

 

透くんは、苦々しい顔でうつむいていた。

 

そうか……慕われているとは聴いていたけど、まさかもう恋愛感情を持たれるまでに至っているとは……。

 

いや、むしろ当然かも知れない。透くんのように優しくて聡明な人が近くにいたら、きっと恋をする者は多いはずだ。

 

「……ごめん、南美さん」

 

透くんは眼をぎゅっと閉じて、膝に置いた拳を握り締めていた。

 

「俺はまだ、一人に絞れない。みんながみんな、それぞれに大切で……幸せになって欲しいと思うんだ」

 

「透くん……」

 

彼は、誠実で思いやりのある人間だ。振る相手の気持ちを考えてしまうのだろう。そのせいで、前に進めていない。

 

器用でなんでもこなす印象のある彼の、唯一と言っていい弱点だった。でもそんなところも、ボクは可愛くて好きだ。

 

「透くん、すぐに答えを出さなくていい。ボクはいつまでも待つから」

 

「南美さん……」

 

「もし一人に決められたら、ボクであろうがそうでなかろうが、教えてほしい。君の……」

 

「待って、伊集院さん」

 

円香くんが、ボクたちの会話を遮ってきた。

 

「ねえ中原くん、私、ひとつ提案があるんだけど、どうかな?」

 

「……?提案?」

 

「うん。この方法なら、万事解決するよ」

 

円香くんは満面の笑みを浮かべると、子どものように無邪気な声で、こう言った。

 

 

 

「全員と、付き合っちゃえばいいんだよ」

 

 

 

「…………え?」

 

「無理して一人に決める必要ないよ。だって、中原くんはアイドルだもの。みんなの中原くんであるべきだよ」

 

「………………」

 

「なんなら、一人に決めないで欲しい。その方が……私、嫌かな」

 

「………………」

 

「中原くんは、彼女が一人しかいないなんて、もったいないよ。三人でも四人でも、もっと多くったっていい。それだけの魅力があるんだから」

 

「……東野、さん」

 

「ふふふふ」

 

円香くんは、言葉にし難い……異様な雰囲気を醸し出しながら、柔らかく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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