bluearchive esper teacher   作:浜北

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プロローグ
旅立ち


とある日の夕、朝倉シン宛てに一通の手紙が送られてきた

差出人はキヴォトス連邦生徒会長…氏名は書かれておらず、シンを新しく設立する『シャーレ』という機関の『先生』に推薦する…という旨の文章が書き出されていた

手紙を受け取ったのは同じく従業員の中華マフィアの一人娘、ルー

買い出しから戻ってくるなり受け取った手紙を勢いよく投げつけてきた

「シン宛ての手紙アルよ~」

「お前人宛ての手紙くらいもうちょっと大事に扱えよ!」

受け取った手紙の封を切り、中身を読む

舐め回すようにそれを呼んでいたシンの目の動きが止まる

「どうしたシン、もしかしてラブレターカ?春がくるのは存外早かったアルね~」

「いや…縁もゆかりもねぇ所の重役によくわかんねぇ役職に推薦されてる…」

「じゃあ送り間違えネ、シンが」

「いや…宛先は間違いなく俺なんだよ」

「どういう事カ…」

ルーが露骨に意味が分からない、という表情を浮かべる

「あら、今のご時世お手紙なんて珍しいわね」

バックヤードから出てきた葵さんが声をかけてきた

半年前に夫の太郎を亡くしても、彼女は一切変わらないように気丈に振る舞っている

「ですよね~ キヴォトスって所の新しくできるシャーレ?っていう機関に俺を推薦するらしくて」

シンが手紙を彼女に手渡す

「へ~ シンくんってそういうコネあるのね~」

「それが本当に身に覚え無いんですよ」

「…よくわかんないわね」

「閉店作業が終わりました、葵さん」

「後は閉店カードを提げるだけだ」

そうしている内に外の片付けが終わった周と鹿島が店内に入って来た

JCCでこれまでを過ごして来た影響かイマイチ普通の生活に馴染めなかった周だが、JCCを抜け出したここ半年で見事な程に一般社会に染まりきっていた

鹿島も、スラ―を亡くして路頭に迷っていた時に夏樹に働き口として商店を紹介されてからものの一週間で適応して見せた

「どうしたシン」

「いや、マジで身に覚えがない手紙が来ててよ…」

「貸してください」

シンから差し出された手紙を手に取り、舐め回すように読んでいた周と鹿島が硬直する

「シンさん…」

「なんだよ」

「悪いことは言いません、辞退することを進めます」

「だな」

「え!?」

 

ーーーーーーーーーー

 

坂本家の一人娘、花ちゃんが眠った後、シンは周にバックヤードに呼ばれた

きゅうう、とできる限り音を出さないように、シンがドアを閉める

「どうしたんだよ」

「とりあえずこれを見ろ」

周のタイピングが止まり、ノートパソコンをこちらに向ける

見せられたのは殺連から出された内部資料だった

「シンさん、キヴォトスは一言で言うなら魔境、日常的に銃弾が飛び交う様な都市です キヴォトス外の人間が住める場所ではない」

「別にそこは殺し屋も同じだろ、さすがに持つ人間も限られてるんだろ?」

「そんなことは無い、一般人も携帯してる」

「は?」

「何なら自販機やコンビニで弾薬や手榴弾が売ってあります、あの都市に置いて銃火器は日用品のようなものですよ。そしてキヴォトス人は小銃を何十発か喰らってもピンピンしてる耐久性をお持ちです あそこの人間は銃に対する恐怖や忌避感などないのです 外の人間が何人か立ち入った記録があるが、全員が殺されるか異常さに耐えかねて逃げ出しているんです」

「…イカれてる…」

液晶には、スーツを着た女性とスケバン不良が銃撃戦を繰り広げる様子が映っていた

坂本さんの言う通り、生身で何発喰らおうと微動だにしない

下手な殺し屋なら十数人で束になって一人倒せるか倒せないか…という感じである

特に目を引くのは、頭上に浮遊する天使の輪のようなもの

「…周、この輪っかなんだよ」

「これはヘイローとかいうヤツだ これに関しては良くわからん」

「はぁ…」

「お前がどうしても行くというなら止めはしない、だが俺としてその推薦は受けない方が良いと思う …お前はどうなんだ」

「…」

シンが唇を噛んで俯く

キヴォトスへの恐怖もあるが、何よりシンには坂本商店に留まらなければいけない理由がある

スラ―との決戦で、坂本を亡くしてから家族や商店はシンにとって大きな楔となっていた

坂本が守ろうとした、この日常を守らねば

意識の奥深くに根付いた使命が、シンをここに繋ぎとめていた

バックヤードに、少しの静寂が訪れる

しばらく沈黙が続いた後、その静寂を破るようにドアが開く

「こんな遅い時間まで何してるの、あなた達」

ドアを開けたのは葵さんだった

「いえ、シンさんの手紙の出元のキヴォトスについて、少し説明していまして…」

「かくかくしかじかで…」

「ふ~ん、結構物騒な所ね~」

鹿島と周から説明を受けた葵は、感想を述べるとシンの方を向く

「シンくんは結局行くの?」

「…いや、辞退します」

「あらなんで ここでバイト続けるよりずっといいと思うわよ」

「俺には…あの人が、坂本さんが守ろうとした、この日常を守らなきゃいけないんです それが…あの人を死なせてしまった事への俺なりの償いです」

ぐっと唇を噛みしめ、嗚咽に似た声を上げるシンを見て、葵さんが口を開く

「…別にあの人は償ってもらおうだなんて思ってないと思うわよ?逆にそれが重荷になっている事を苦しく思う筈」

「っ…」

「本当にあの人になりたいなら行くのよ あの人は助けを求める声を拒まないわ」

そういう葵さんは、寂し気な笑みを浮かべていた

シンは少しの間固まった後、口を開けた

「…っ、行きます、俺…」

それを見て、ふふっとにこやかに葵が明るい笑みを浮かべる

「ふふ、頑張りなさい、シンくん ここは私に任せなさい ルーちゃんとか鹿島さんとか、周くんとか 頼れる仲間もいるし 平助君は今お留守だけど…」

「…そうですね、ここは従業員で守ってみせます 気にせず行きなさい、シンさん」

ここは任せろ、と周が満更でもない顔をする

大粒の涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったシンの顔から、決意が漲っていた

ーーーーーーーーーー

シンの出発の日、空港まで葵さんと花ちゃんが迎えに来た

「応援してるからね」

「ありがとうございます!」

「けが、きをつけてね、シンくん」

「ありがとな、ハナちゃん 怪我したらこれ使わせてもらうからな」

差し出された絆創膏をポケットにしまい、搭乗口に向かおうとした時

「…?」

こちらに走ってくる人影が見えた

「おっさん…」

もっさりとした髪形、薄汚れた白衣。シンの養父、朝倉であった

「シーン!まだ時間大丈夫か!」

「全然大丈夫だけど」

「これを…持ってってくれ」

渡されたのはキーホルダー

養父との懐かしいツーショット写真が挟まれていた

「あっちでも元気にな、シン」

「へへっ、あんがとな、おっさん」

それを見ていた葵が、少し考えた後に笑みを浮かべ、自信の首に掛けてあったロケットペンダントを外す

「シンくん、これも持っていきなさい」

「えっ…でもこれ、葵さんの…」

返そうとするシンの手を、葵さんが着き返す

「いいのよ、あなたに着けてもらうならあの人も本望だから」

「…っ、ありがとうございますっ…」

思わず感涙にむせぶシンを、二人がふふっと笑う

「はははっ、まぁ無理せずにやれよ、いつでも待ってるからな」

「そうね、健康第一よ!あの人もきっとそういうはず!」

「シンくん、がんばれー!!!」

「…うっす、あざます!」

深く頭を下げて、搭乗口に向かう階段を昇るシン

途中、ふっと気配を感じて、後ろを振り返る

ほんの一瞬だけ…ほんの一瞬だけ、葵と朝倉の横に、居ないはずの坂本が手を振っているのが見えた

シンは口元に笑みを浮かべ、小さく呟く

「行ってきます、坂本さん」

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