bluearchive esper teacher 作:浜北
「私のミスでした」
静かに響く声で、目が覚めた
見た覚えも来た覚えもない場所だった
酷く損壊した電車の中
眩い朝日が目を突き刺す
割れた硝子から流れてくる潮風が車内に漂っている
正面の座席には青空の写った清水のような髪色の少女が佇んでいた
間違いなく初めて見る顔だが、不思議とその少女と初めて会った感じはしなかった
少女の体は傷だらけで、左脇に大きく血がにじんでいる
手当をしようとするも、口も体も一向に動かない
息を切らす様子もなく、少女は続ける
「私の選択、そしてそれによって招かれたこのすべての状況」
「結局、この結果に辿り着いて初めて、あなたが選ぶ道が正しかった事を知るなんて」
シンの脳裏に、うっすりと覚えのない風景が浮かぶ
弾痕が刻まれたタブレット、銃口を向ける白髪の少女
悲哀に満ちた目をしていた
「…今更ですが、お願いします、シン先生」
「どうか、導いて」
なぜか少女は彼の名前を知っていた
だが、なぜかそれに対して違和感を感じることは無い
感じたことのない、不思議な感覚だった
「…いつか、先生は私に責任を負うものについて話してくれました、同じことをあなたにも話してくれたはずです」
「今になってわかります、あの人の切り拓かんとした道も、背負おうとした重荷も」
少女の麗しい瞳がこちらを向く
その精密な彫刻のように整った顔が、柔らかな笑みを浮かべる
「どうか、このねじれて歪んだ先とは違う、別の道を…どうか…」
「そこへ繋がる、散らばった選択肢…あの人が唯一信頼した、あなたなら…見つけられるから」
「お願いします、シン先生」
ーーーーーーーーーー
「起きてください!!朝倉先生!」
「うおぁっ!!!」
ひと際大きくオフィスに響く声
シンは睡眠を打破した勢いのまま、椅子から転げ落ちた
視界には、絹のような長髪を肩から流している長身の女
霞む眼でもはっきりとわかる、瓢箪のようにメリハリのあるスタイルをしている
女性ーーーあらため生徒はこちらを一瞥して、浅くため息を着いた
「少し待っていてくださいと言いましたが、酷くお疲れのようですね 大丈夫ですか」
「いや悪ぃ、行きの飛行機の中で一睡も出来なくて… 多分大丈夫だ」
日本殺し屋連盟、通称殺連を潰すために×(スラ―)が引き起こした大騒動が終わりを告げ、坂本商店でのバイトに勤しんでいた彼のもとに送られてきたのは、顔も見たことが無い相手からの推薦状
店主の葵の提案により、第二の家でもあった坂本商店を離れ、キヴォトスに来たわけである
「…それなら問題無いです 申し遅れました、私は連邦生徒会首席行政官、七神リンです よろしくお願いします、朝倉先生」
シンが埃を払って立ち上がる
「いきなりで申し訳ねぇんだけどよ、俺がここの先生に推薦された経緯を教えてくれないか いつも通りバイトしてたら、いきなり推薦状が送られてきたって感じで俺もイマイチ分かって無いんだ」
「…先生も分かりませんか 実はこちらでも、把握しかねていまして」
「は!?まさか俺に推薦状送って来た連邦生徒会長は何も説明してねぇの!?」
「…特に説明されていませんし、連邦生徒会長は、数週間前に失踪されています」
虚ろを着かれたシンが、大きく口を開いて停止した
「混乱されてますよね、分かります」
「どっちかっつーと苦労してんのはそっち側なんじゃねーのか」
「…そうですね、この数日間、生徒会長が不在になってから、我々も様々な問題に直面していまして…とりあえず、私に着いてきてください、どうしても先生にやっていただかねばならないことがあります」
リンが踵を返すと、不自然なほどにタイミングよくエレベーターが到着した
乗り込むと同時に、それが沈み始める
エレベーターは透明な硝子張りになっていて、外の景色が鮮明に見える
(やっぱマジでSFの世界だよな)
麦畑のように乱立する高層ビルは、キヴォトスと外との文明レベルの違いを感じさせるには充分だった
「ここがこれから先生が働く場所です きっと先生がいらっしゃったところとは色々なことが違って、最初は慣れるのに苦労されるかもしれませんが…まぁ心配無いですよね」
「なんでそう思う」
「生徒会長が選んだ方ですし、何よりその背姿が語ってくれてます」
「…そんな頼もしく見えるか?」
「ええ」
ささやかな笑みを浮かべるリン
少しでも、憧れの坂本と同じような視線で見てもらえた事が余程嬉しいのかシンが頬をかく
ーーーーーーーーーー
そうしていると、エレベーターがレセプションルームに到着し、それを知らせる音が鳴る
レセプションルームに到着するなり、一人の少女がこちらに駆けよって来た
青紫の髪を左右に纏めて、白い上着を崩している
「代行、見つけた 待ってたわ、生徒会長を呼んで…隣の大人の方は?」
「今日からシャーレの先生に…」
シンが自己紹介を始めようとした間隙、もう二人生徒がゆっくり歩み寄って来た
片方の生徒を見て、シンは思わず凝視する
(待て待て待て、なんだあれ)
1人は黒い柳のような黒髪を流していて、古風なセーラー服の少女
驚くことに身長はシンを超えていて、坂本に届くほどである
目を見張るのは巨峰のごとき胸とスリットから垣間見えるガーターベルト
シンの目に毒として作用するには充分であった
もう一人は薄い茶髪の髪を肩で纏めた眼鏡の少女
彼女のそれも中々だが、隣の長身の彼女の前には霞んで見えた
「首席行政官、お待ちしておりました」
「連邦生徒会に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得の行く説明を求めています」
詰め寄る三人
リンが重いため息を着いた
「こんにちは、わざわざここまでお越しくださった各学園の生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇…大事な方々がお越しくださった理由はよく分かっています 今各学園に起きている混乱の責任をな…問うためにですね?」
「そこまで分かってるならなんとかしなさいよ!何のための連邦生徒会よ!もう既に数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!」
「ゲヘナ自治区でも、連邦矯正局で停学中の生徒の一部が脱走したという情報があります」
いつからいたのか、黒髪の生徒の脇に居た銀髪の少女が前に出てきた
髪色を除けば、他の生徒たちに比べて幾分か落ち着いた身なりである
「私からも、スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も急激に高くなりました」
「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も急激に高まっています。これでは正常な学園生活に支障を来たします」
「こんな状況で、連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせなさい!」
ギスギスとした雰囲気が辺り一面に漂い始める
見かねたシンが口を開いた
「悪ぃけど、生徒会長は今ご無沙汰してんだ 行方不明らしい 俺で良かったら力に…」
その瞬間、四人の矛先がシンに向いた
「なんであなたが知ってるんですか?その情報のソースは?」
「同意見です とても信用できる情報ではありません」
「そもそも外の人ですよね?とてもじゃないですが助力は…」
「ええ、風紀委員としても負傷者を不用意に増やす訳にはいきませんので…」
「申し訳ありませんが、お静かにお願いします」
「は…はい」
自分よりも幾分か年下の少女四人の辛辣な口撃が、シンのメンタルを木っ端みじんに砕いた
遂には助太刀しようとしたはずのリンにも口撃を喰らったシンが、その場にへたれこむ
「生徒会長が失踪したのは紛れもない事実です 結論から言うと、「サンクトゥムタワー」の最終管理者が不在のため、現在連邦生徒会は行政制御権を失っています」
「「「「っ…」」」」
「認証を迂回できる方法を探していましたが、先程までそのような方法は見つかっていませんでした」
「その言い方からすると、今は方法があるということですか」
「はい こちらの朝倉先生こそが、フィクサーとなってくれます」
瞬間、またもや四人の視線がシンに向く
「「!?」」
「この方が?」
「俺?」
「はい」
「俺か~!」
遂に俺の出番か、とシンが意気揚々と肩を回す
先程と打って変わってその目には確かに活力が漲っていた
「待って、そういえばこの方が先生?どうしてここに?」
「外からお越しになった方のようですが…先生だったのですね 先程は失礼しました」
「気にすんな気にすんな、ま、とりあえずそのサンクトゥムタワーとやらの…」
「こちらの朝倉先生はこれからキヴォトスで働く方であり、連邦生徒会長に特別に指名した人物です」
「俺を無視して話進めんなよ!ちょっとはカッコつけさせろ!」
出鼻を挫かれたシンだが、すぐに持ち直して顔を上げた
「今日から就任する、朝倉シンだ ぶっちゃけイマイチ事態がわかってねーけど、みんなで協力してなんとかしようぜ」
「こ、こんにちは、ミレニアムサイレンススクールの…いやいや、今は挨拶とか…」
「そのうるさい方は気にしなくていいです 続けますと…」
「だーれが五月蠅いってぇ!?…んん、私は早瀬ユウカ、覚えておいてください、先生!」
「はは…おう、よろしくな」
シンは拳を差し出すも、リンが小さな咳をしたのを片目で見て、拳を引く
「朝倉先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました
連邦捜査部 『シャーレ』 単なる部活ではなく、一種の超法規的機関であり、各学園の生徒を制限なく編入させる権限を所有しており、各学園の自治区で、制約なしに戦闘活動を行うことも可能です なぜこれだけの権限を持つ機関を連邦生徒会長が作ったのかは把握しかねますが…とにかく、ここから30km程離れたシャーレの部室に先生を案内しなければなりません そこの地下に「とある物」を持ち込んでいます 今しがたヘリが到着します、少しお待ちを…すいません、担当者からの連絡が…」
スマートフォンを凝視するリン
一斉に振りかかる膨大なストレスからか、すらりとした指でそれをスクロールするたび、彼女の体の震えが強くなっていく
「…緊急事態です。矯正局から抜け出した生徒が不良たちを引き連れてシャーレのオフィスを占領しようとしているという報告が入りました シャーレは只今戦場となっています」
「…早速だな 俺は慣れてっから…」
「なりません 先生は弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性が十分にあります 先生がそのような事態に陥ってしまっては本末転倒です」
「…」
「この事態を解決してくれるのは、ここにお集まりの各学園を代表した頼りになりそうで暇そうな皆さん…しかいませんね」
「…えっ…何よ」
「皆さんが掲げるキヴォトスの正常化という夢のため、暇を持て余した方々の力が切実に必要です 共に行きましょう」
「ちょ、ちょっと待って!なんで私達が!」
こんな荒事に巻き込まれるとは思わず、最後まで抵抗を続けるユウカをリンが引きずっていく
(力強っ…)
傍目にそれを見ながら懐から『SAKAMOTO』とサインが刻まれたグロックを取り出し、取り出したマガジンに弾薬を込める
脳裏に浮かぶのは、憧れの人と、JCCの今は亡き恩師
「誰かが体張ってるのに大人しくしてるなんて、俺にゃ無理だな」