龍門 近衛局ビル
ビル内部はレユニオンに占拠されており、迅速に隠密に進む必要があるのだが
「先手必勝ッ!」
「おいムサシ、勝手に動くな、指示を待て」
「生憎、ムサシちゃんは脊髄反射。敵は切れるときに切る、これが戦場の常識でーす」
ここに常識が通用しないサムライが一人。
それも当然である。ムサシは、別に軍隊で特別な訓練を受けたわけではない。
ロドスによって最低限の基礎は叩きこまれているが、
彼女自身そこまでスペックが高いわけでもなく、
基本、後方支援。毎回、単独行動マンである。
おそらく上手く扱えるのはドクターかケルシーぐらいである。
「ですが......」
「ホシグマ、気にするな。それより、
ムサシに切られたレユニオンの兵士。
その動きは緩慢で、一太刀で致命であった。
だが、斬られた兵士は生きている。
それも、まるで斬られたことを気にしていないように
「確かに、ムサシの行動はどうであれ。その太刀筋は本物、妙ですね」
「うーん、これ似たようなのを見た気がするわね。確か、チェルノボーグかしら?」
「その話、詳しく頼む」
「えーとよね。レユニオンの幹部で無限に兵士を差し向けてるやつがいて―――――」
―――――結局、相手するのに困って、肉壁にしたり、相手の爆弾を
使って吹き飛ばしたんだっけ?
これを聞いた近衛局隊員は、そんな医療会社の職員がいてたまるかと、
心の中で叫ぶハメになる。
そんなことをつゆ知らず、近衛局隊長チェンは
「なるほど、面倒な相手だな。全体に次ぐ、呼称ゾンビ兵を見かけた場合、
捕獲はせずに足を切っておけ。それで十分機動力は削げるはずだ」
そんな、現実的なことを言うのであった。
◇◆◇
あれから、数十人のゾンビ兵を無力化し、モニター室を奪還した近衛局隊
モニターの情報から、敵本体の位置割り出しにかかる。
敵は、ビル上層部に集中しており、レユニオン幹部、メフィストに至っては、
カメラに手を振ってくるサービス精神である。
「どうします、隊長?」
「どうもこうも、十中八九、罠だな」
あからさまもすぎる。
――――大方、私を本隊から離した後、ゾンビ兵共に
内部に残った近衛局隊員を襲わせる算段だろうが
その目論見は、ムサシの情報により破綻している。
だからこそ......ここは相手の目論見を利用する。
「ホシグマ、ムサシは別の任を与える。屋上は、私一人で行く」
「なっ、隊長!」
周囲に動揺が走るが、最速で問題を片付けるにはこれしかない。
龍門とレユニオンの戦いは、単純なものではない。
これは、時間との戦いでもある。
誰もが気にしてはいないが、時間をかければかけるほど、
この都市と、感染者の溝は深くなる。
―――――――それだけは、それだけは、止めなくてはならない。
「私の代わりを務めれるか、ホシグマ――――お前しかいない。頼んだぞ」
「ッ了解しました!」
不安になる部下に向けて、私は微笑みながら言う。
「安心しろ、私にいい考えがある」
◇◆◇
近衛局ビル 屋上
対峙するはレユニオンの幹部メフィスト
周囲には奴の取り巻きと思われる感染者が数人
「あれれぇ、一人で来たのかい?君のお友達を連れてきてもよかったんだよ」
「笑わせるな。貴様一人、私一人で十分だ」
「ふぅん、その強気がどれだけ持つか見ものだね。おもちゃ達、奴を殺せ!」
ヤツの指示に従って、感染者共が動き出す
だが、その動きは―――――――遅い
剣が効かないのは脅威ではあるが、ただ、それだけの話だ。
「余り、近衛局をなめるなよ?」
一太刀で、奴らの足を切断していく。
機動力を奪えばいくらゾンビでも使い物になるまい。
数秒もしないうちに、這いつくばるゾンビ兵の山が出来上がる。
「チッ、役立たず共が......」
「では、キサマを捕らえ――――――」
刹那、背後に――――――――矢だと!?
剣を振り、迎撃することで難を避けるが、
矢による急襲......
それも後方から、
「まさか、ステルス兵かッ!」
他のビルの屋上に目を凝らすと、
背景に溶け込むようにレユニオンの弓兵が見つかる。
だが、剣では、分かったところで、
どうすることもできない......
「ちょっと、僕たちを、舐めすぎていたんじゃないかなぁ。んじゃあね、さようなら」
機動力を奪った感染者が再び動き出す
奴ら手を足代わりにして
もはや、人というより獣だな
そんな思考を隅に、今置かれている状況を整理する。
目前からは、ゾンビ兵が多数
後方からは、矢が多数
と、なれば―――――――こちらも切り札を切るしかない。
腰に差した剣を鞘ごとつかみ取り、正面に構える。
この剣――――――赤霄に必要なのは[思い]
それは、未だ足らないものであり、
自分の師が持つものである。
頼む、そんな、一抹の望みをかけ――――――――
「赤霄、抜剣!」
―――――――だが、赤霄は鞘から抜ききれない。
それでもアーツが使えるなら十分
「焼き尽くせッ!」
その炎は、人を焼くには十分な威力だったはずだが、
幸か不幸か、メフィスト本体は感染者が、折り重なり、盾になった結果、
傷一つかず。
「今のは驚いたよ。そんな、アーツが使えるなんてねぇ」
「はぁ......はぁ......、本体には、届かずじまいか」
「だが、その様子だと連発は無理そうだね。ならば、死ね」
再度、自分にクロスボウの矢が降り注ぐ
こちらは、先程の疲弊により、避けることは不可、
「だが、それで十分だ―――――――――」
「!?」
瞬間、下から盛大な爆発
――――――威力は、屋上にいた我々にも伝播し
衝撃に耐えきれなくなった、屋上の床にヒビが入る。
近衛局ビル、屋上の地面が崩壊する。
◇◆◇
「よくやった、おまえたち」
私の指示、それは
上で爆発が起きたら、屋上の天井を爆発させろというもの
単純にして、爽快
罠があるなら、上から踏み抜けばいい
何処ぞやのサムライめいた、無茶苦茶なものであった。
「全く、それで隊長ごと落下されては困るんですが」
私の顔を上から覗き込むように、こちらを見るホシグマ。
その顔は、あきれた、という一文字であった。
「そろそろ、降ろしてもらうと助かる」
そう現在、私はホシグマに抱えられた状態
―――――いわゆる、姫様抱っこである。
流石に、部下の前の隊長として威厳に関わる。
「ここまでの、無茶をして威厳もクソもない気がしますが......いいでしょう」
何かを惜しむように、降ろされる。
ちょっと、背中がヒヤッとしたが気のせいであろう。
目前の、メフィストは、まだ生きている
――――――だが、その腹部には、痛々しくも、
原石が突き刺さっていた。
下には、物言わぬ人の形をした物体たち。
どうやら、落下の衝撃を少しでも減らそうとした結果らしい。
「痛い、イタイ、いたいよ、ファウスト。
ああ、どうしてボクが、こんな目に合わないといけないんだ.....」
「おとなしく投降しろ。その傷で,この場から逃げれるとでも思うなよ」
周囲には、近衛局の隊員、ムサシ、ホシグマ等々
ビルの外壁に囲まれた、上からの見通しも悪い
ここならば、クロスボウの射線も気にする必要はないだろう
「貴様らの負けだ。聞きたいことは山ほどあるが―――――――」
「ボク達が、負けた......?
――――――ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁッ!」
「チッ、総員、撃てッ!」
―――――急激なアーツ反応
直感で、クロスボウの斉射を行ったが、
矢は、奴に届くことなく、巨大な岩に阻まれた。
「なんなんだよ、アレは......」
隊員の一人がつぶやく。
気持ちはわかる。アレは、あれはいったいなんだ......
それは、もはや人というよりは、
――――――原石の竜
そう表すのが正しいかもしれない。
「潰す、潰す、潰す、つぶす、つブs、ツブs」
「総員、陣形をとれ。自分の身を第一に考えろッ!」
周囲に激を飛ばし、竜を見る。
ヤツは声にならない咆哮をあげ、こちらを睨む。
予感めいたものとともに、迫る巨体を回避、
その首に剣を振り下ろす。
だが、剣は無慈悲にも弾かれるのみ。
さて、どうしたものか。
使える手持ちの武器でダメージが通りそうなものはない。
やはり、赤霄を抜剣する以外には―――――――
「何者だッ」
「メフィストをどこにやった!」
飛んでくる矢を回避し、竜から離れる。
周囲を見ると、レユニオンの弓兵共が集まっていた。
上空からの援護は無理だと判断し、グライダーから、窓から侵入でもしたか。
全く、仲間思いなのは結構だが、今は、状況が悪い。
「どこだと聞かれても、そこの化け物がそうだというしかないが」
「なッ、貴様ら、メフィストに何をッ!」
「何も。しいて言うなら、投降を促したぐらいだ」
そう言い切り、化け物を一瞥。
ヤツの標的は未だ、私。
よほど、屋上から落とされたのが、腹に据えかねたか?
まあ、なんにせよ。隊員が狙われるよりはマシだが。
「メフィスト......俺だ、俺だファウストだッ!」
「おい、よせッ!」
竜の前に、すがるように黒服の弓兵が出てくる。
いや待て、どう考えても、ソイツは、今、まともじゃないッ
「めfガが、がs、が」
「そうだ、今すぐ帰ろう。メフィスト、オレたちは、俺たちは―――――――」
「―――――――tuぶs」
無音――――――――――、
その後に、衝撃
―――――――――今、何が、起こった......?
「ホシグマァ!」
「隊長ッ!、こちらは無事です。しかし、奴のブレス攻撃で隊員の大半が離脱」
ブレス攻撃......今のは咆哮か、
離れていて、この威力。
まともに、喰らえば......
「まて、馬鹿者はどこにいった」
「いてててて、大丈夫ですよ......隊長ちゃん、このムサシは、天下一なので」
そこには、黒服の弓兵、いや、ファウストに被さるように倒れているムサシ
ファウスト自体は、かすり傷だが
ムサシは――――――
「――――――手の空いている隊員は、その大馬鹿を引っ張って後ろに下がらせろッ!」
「残念ながら、まともに下がれる隊員は私ぐらいです、隊長」
後方は味方
前方は竜
芽は無し、退路も無し、
「ならば、力ずくでこじ開けるまでだ。ホシグマ、前は任したッ!」
「チェン。任されたッ!」
近衛局のビルでの再び決戦が始まる。