運命を選べと手招きして誘っている。
私たちの名前を今一度呼ぶのです。
それは偉大なる嘘の歌。
響き合って羽ばたく事の意味を伝えたい。
ブランチの回線には予想通り枝(盗聴)がついていた。
枝を払って情報が抜かれていたと伝えると、リンクス(元レイヴン)以外は怒ったり落ち込んだり忙しい。
多分、盗聴していたのはオールマインドだと思うが…ブランチメンバーにコーラルリリースを知ってるか聞いたが、リリース計画は知らないようだ。
キングとシャルトルーズはコックピット内部で全身打撲でボコボコになっていたので、キングだけ指さして笑ってやった。
シャルトルーズは女性なので外見を笑うのはNG…おっぱいに見惚れたわけではない。断じて。
「あんたが思ったより紳士的で良かったよ」
私達は賞金首でもあるからね。と、続けるシャルトルーズ。
そのシャルトルーズに不思議そうな表情を作って返事する。
「え?だって、キングのお手付きなんでしょ?女3人も侍らせてる変態って有名だよ(大嘘」
「違う!」
「誰よ!そんな事言ってるのは!」
「オールマインドの傭兵板の書き込み」
「ラナ!削除依頼出しておいて!」
「今は削除依頼を出すと足が付きます」
「くっ」
ブランチのオペレーターさんは「ラナ」と言うらしい。
レイヴンを育てる人ですか…思わず「大丈夫?その人裏切らない?」ってリンクスに聞いちゃった。
手駒が足りないので捕獲したブランチに依頼を出す。
その依頼の条件なんかを詰めていく分けだが…。
「報酬は必要経費以外は全額後払い。これは譲れない」
「どうしてですか?」
「だって、あんたら自分たちの目的優先して、依頼放棄する時あるじゃん」
きっぱりと言い切った俺に食らいつくラナであったが、俺の答えに眼を逸らす。
そういうとこやぞ。
「くっ言い返せない」
「流石はレイヴン。ブランチの解像度が高い」
「騙して悪いが、これも仕事なんでな」
シャルトルーズは悔しそうにするが、キングは何故か嬉しそうだ。
リンクスは有名な台詞を楽しそうに口ずさんでいる。
ブランチへの依頼は洋上都市『ザイレム』の制圧とその後の護衛任務。
期間は1年で状況を見て、契約延長。その間の食事や整備はザイレムに派遣されたRaDの技師たちが見る。
/*/
俺たちはザイレムに出発した。
先行調査は俺とエアで行い。現在稼働中のECMフォグを停止させる。
その後、ブランチとエンキドゥが上陸ポイントを確保。
確保したポイントから、カーラとチャティ、RaDの技師たちとワイルドギースが上陸し、内部に侵入。
中枢部まで侵攻し、制御権を奪う手筈だ。
なんでか、オールマインドにはバレるんだろうなぁ。
輸送ヘリから降下し、周囲の安全を確認。
ECMフォグで視界もレーダーも探知距離は短い。
『レイヴン、私の交信であればECMの干渉は受けません。…ロックオン距離にも影響が出ているようです。周囲に警戒を』
カーラたちが飛ばした調査ドローンの残したビーコンを探す。
機体CC-2000 ORBITERの前部に搭載されている探査用複合センサーを全開にするが、アクティブレーザーセンサーの類はECMフォグで拡散してしまい精度が落ちる。
と言うか、ゲームで初期機体の頭部センサーが弱いと思ってたが、探査用複合センサーは胸にありましたってオチ。
そりゃ頭部のスキャン距離が短いわけだ。
ビーコンを辿っていくと防衛兵器の小型ドローンに襲われたりもしたが、特に苦戦もなく1つめのECMフォグ制御装置に辿り着く。
『ECMフォグ制御装置を発見。ORBITERのアクセスアームを展開。直接アクセスしてみます。機体を近づけて下さい』
エアに言われた通り、ACほどの大きさのあるECMフォグ制御装置に近づくと、エアの制御で胴体ORBITERのアクセスアームが展開し、制御装置に取り付く。
『ECMフォグ制御装置から大元の警備システムにハッキングを仕掛けます。少々お待ちください』
しばらく待っているとザイレムに広域放送が鳴り響いた。
「侵襲処置。恒常化プロセス停止」
同時に立ち込めていた霧が風に流され始める。
ECMフォグが綺麗になくなるまで、しばらくかかるだろう。
『ECMフォグ制御装置全機停止しました。消息を断った調査ドローンの撃墜位置も引き出しました。マーカーを表示します。そちらへ向かいましょう』
複合センサーでビル街の地形を読み込みながら、ACを進める。
『…そう言えば、僚機抜きで二人だけのミッションも久しぶりでしょうか。調査ドローンも逃げはしないでしょう。ゆっくり探して下さい。レイヴン』
エアがそう言うと、頭の中の一部が温かいようなこそばゆいような感覚が湧き上がる。
んーなんだろう。
この指を絡め合って恋人繋ぎしてるような温かいこそばゆさ。
しばらく前からこんな風になんとも言えない感情?感触?が湧き上がってくる事が増えた。
「ねぇ、エア」
『はい、なんでしょう?レイヴン』
なんて聞こう?
「しばらく前から…エアの気持ち?心?がダイレクトに分かるような、伝わってくるような…そんな感じがする時があるんだけど…エアは、どうなの?」
「!」
ピクン、と頭の中で何かが跳ねた。
「エア?」
『…その、レイヴン。この間の、あの時…私の一部が、あなたのネットワーク(脳内コーラル)に絡みついてしまって…』
「なにそれ、滾る」
なんか、ぽっぽっぽと身体熱くなってきた。
『侵食はしていないようなので、悪影響はないと思うのですが…』
「エアと繋がったままミッションに出撃するなんて、頭がフットーしそうだよおっっ!」
『レイヴン!』
「…エアが近くに感じられて、俺はこのままが良いよ」
『――はい、レイヴン。私もです…』
/*/
その後、調査ドローンの残骸から情報ログを抜いて、ザイレムのセンタービルまで移動した。
ECMフォグ制御装置があった場所から、制御センタービルを見上げている。
『ECM解除確認。暗号通信に切り替え。
登録番号Rb23識別名レイヴン。作戦中失礼します。貴方を追跡していた存在がいます。まもなく接触するでしょう』
薄っすらと残った霧の向こうから、封鎖機構の大型武装ヘリコプターが見えてくる。
そして、その上から振ってくる1機のACも。
「灰かぶりて我らあり。…ルビコンの脅威よ、ここで朽ちるが良い」
そのACは赤いアサルトアーマーを展開しながら、左拳に集中させる。そして、左拳をルビコプターに叩きつけると赤い光がルビコプターを貫いた。
爆炎をあげて、墜落していく大型武装ヘリコプター。
『機体名アストヒク…機体からコーラル反応!』
「すげぇ、まるでアサルトキャノンだ」
それぞれ別の意味で驚愕する俺たち。そこへオールマインドからの通信が続く。
「識別名レイヴン強化人間C4-621。当該ACの撃破をお願いします」
「…いいのか?」
「お願いします」
オールマインドの重ねる声を聞きながら、俺は「なんか予想とは違う戦闘力を持ってそう」とドルマヤンを見ていた。
「ルビコンの脅威よ。恐らくお前は、あの声を見ているのだろう。かつて、私がそうだったように」
「そうだよ」
武器を巧みに持ち替え、ナパームで戦場を制限し、ハンドミサイルで追い込み、ランセツRFで牽制してくるドルマヤン。
いや、ふつーに上手いなこの人。
「お前も唆されているのだろう?コーラルを解き放てと。共生の名の下に、人間世界を塗り替えろと」
「そんな事もあったな」
『私はそんな事はしません!レイヴン以外と一体化なんてしたくありません!』
エアの告白を聞きながらパルスブレードの斬撃を潜り抜け、反転しながらアストヒクを蹴り飛ばす。
ワイヤーを巻きつけてやろうかと思ったけど、この人は近接戦が得意そうなので止めておく。
「その声、似ている。無自覚な無垢。しかし、それ故に残酷よ」
レーザードローンを包囲するように飛ばし、ランセツRFで回避行動を誘導するが、ドルマヤンは後ろにも眼があるように全弾回避してみせる。
「…若者よ。コーラルを解き放ってはならん。そこを越えれば人間世界の悲惨が待つ」
「それは知ってるよ」
「魅入られているのか。懸想しても良い事はないぞ」
「懸想どころか睦み合ってるよ」
「既に…手遅れか」
そんな沁み沁み言うの止めてよ。
俺が痛い人みたいじゃないか。
ドルマヤンの…アストヒクの纏う空気が変わる。
周囲から風が吹き込むように…風が強くなり、それは真紅に染まる。
アストヒクが赤い光に包まれていく。
『…これは…サム・ドルマヤンの意思が…コーラルに干渉している!?』
「片利共生してんじゃん」
エアの驚愕の声に俺の溜息。
周囲の環境コーラルがドルマヤンの意思に呼応して、引き寄せられ、真紅の輝きとなっていく。
技研兵器がEN干渉でコーラルを制御するように…この老人はコーラル浸けになった自らの意思を持って、コーラルに干渉しているのだ。
この人こそイレギュラーだろ。JK。
「人間同士でも解り合えず殺し合う我々が…異なる種族と共生など所詮は…絵に描いた餅よ」
「ハッ!しっかりコーラルと片利共生してる癖に何言いやがる!」
軽口を叩く俺の前でアストヒクのパルスブレードが赤く染まる。
うゲッ!コーラルブレードになってる…って、ことはー。
斬撃から赤い光波が飛んでくる!
全開のブースター推力と脚部の跳躍で巨大な光波を跳んで躱す。
「ルビコンの脅威よ。初見でこれを躱すか」
「ぎ、技研の研究に生身で喧嘩うってんじゃねぇッよ!」
推力そのものは最新型から数段劣るアストヒクのキカク・ブースターが赤く噴射炎を吹き出し、跳躍。
機体の運動性が上がった!BASHOシリーズの動きじゃない!?
アイビスシリーズ並みの機動でビルを壁蹴りしてまで追い掛けてくる。
『コックピットからアストヒクの全身にコーラルが侵食するように伸びています!』
エアの声はもう悲鳴だった。
サム・ドルマヤン。
自身に絡みついたコーラルに干渉して、逆に自分の知覚神経ネットワークにしている。
最早、天然の強化人間。いや…それ以上だ。
半世紀前の機体でも最新機と渡り合える筈だ。
ナパームも、ミサイルも、赤い光を纏っている。
周囲の残存するアイビスの火の余燼も…環境コーラル全てがサム・ドルマヤンの味方だ。
「おいおいおい。これじゃコーラルの愛し子じゃないか」
『レイヴン!?このままでは!』
大丈夫!
機動性にも!火力にも!勝る敵とは何度だって戦ってきたんだ!ファイナルエアちゃん号とか。
だから、機体性能が勝ったくらいで、元プレイヤーに勝てると思うなよ!
こっちは全実績解除してんだ!
「結局、私にはコーラルを力尽くで従わせる事しか出来なかったのだ」
「いやいやいや、大分おかしいからな、これ!イレギュラーじゃん!」
寂しげな、悲しそうなドルマヤンの声。
それに付き合って気の利いた言葉を返す余裕はない。
「交信を断て、若者よ」
「嫌だね。俺はエアと添い遂げる」
「…ならば死ねい!」
跳ね上がった機体性に奢る事無く、きっちりランセツRFやナパームでこちらのブーストを使わせてからのコーラルブレードの斬撃。
広範囲を薙ぎ払う光波付き。前にブーストして避けたいが、コンマ1~2秒が足りない。
右腕のランセツRFをコーラルブレードに合わせながら、機体を捻り肩から前方に転がり込む。
ランセツRFがコーラルブレードに切断され、マガジンが爆発。
爆発を受けて機体に傷がつくが、回転も僅かに加速。コーラルブレードに右腕を削られながら地面に叩きつけられた。
そのままブースターを全開。仰向けのままアストヒクの脇を滑り抜ける。
倒れた場所にコーラルブレードの2撃目が叩き込まれ、地面が裂ける。
致命の一撃を回避したが、代償は大きかった。
仰向けにブーストを吹かした際に地面と接触した左ハンガーからランセツRFが外れてしまったのだ。
残る武器はパルスブレードとレーザードローンだけだ。
このピンチに俺は舌なめずりして、無理矢理に笑った。
「…だから、笑うのさ」
機体を立ち上がらせ、左腕に右手を貸して目の高さで構えた。軸足を動かし、左足を半歩下げる。
いつでも大上段からパルスブレードを撃ち込める弐の太刀を考えない構えだった。
胸の位置にある複合センサーが周囲を睥睨するようにゆっくりと揺れた。
「俺は思う。俺に勇気がある意味を」
俺はきっと幼い目をした後、悲しい表情になって、それでも出来る限り凛々しく言うのだ。
憑依転生なんて望外の幸運を得たのに臆病風に吹かれて堪るか!
俺は憧れたヒーロー達のように戦うんだ!
「この勇気は生命ある限り戦えと、俺が憧れたヒーローが残したものだ。サム・ドルマヤン…俺が諦めるのを諦めろ!」
/*/
人の形は戦う為にあると思った。
人の形は触れ合う為にあると思った。
一人きりだった私の声が初めて届いた人。
その心には色々なものがあった。
暗い痛みと明るい憧れがあった。
一人きりだった私が憧れていたものを持っていた人。
私はAyre。一人きりの歌。
私は孤独。誰かと寄り添いたかった。
私は何故、孤独なのか分からなかった。
だから、でも、しかし……私は思う…。
私たちの出会いに意味があるのなら、私は手を取り合う事を…それを選ぶ為に出会ったのだ。
/*/
エアは自身の波形が存在するコーラルをAC:NIGHTFALLの機体全体へ薄く伸ばす。
只の人間に出来るなら、コーラル波形である自分に出来ない理由などない。
『私とレイヴンの…この心、この命が、響き合うのなら、一方的な主従関係ではなく、本当の相利共生が出来る』
そっと、レイヴンの脳深部コーラル管理デバイスに手を伸ばす。
この想いが、レイヴンを愛しく思う心が…決して彼の人を傷つけないと信じて。
『願い、祈り、戦い、決して諦めない人の精神を私は信じます。
あの孤独な暗闇の中で…私はずっと待っていた。
いつか誰かと触れあいたい話し合いたいと…私に光をくれたレイヴンを…死なせません!』
エア…Cパルス変異波形は自分自身が取り込むのではなく、自分自身の全てをレイヴンのネットワークに投げ出した。
「ぬぅッ!?」
ドルマヤンの時以上の環境コーラルがNIGHTFALLに引き寄せられる。
突然、そこに竜巻が発生したように風が渦巻き、赤い風が燃え上る。
「コーラルが共振している?」
半世紀前…アイビスの火が燃え上った時のように赤い光に引き寄せられるコーラルにドルマヤンは驚愕の声を漏らした。
火が点いたように赤い光に照らされた中心。
そこには真紅の輝きに包まれたAC:NIGHTFALL。
その色は…夕暮れの赤ではなく、朝焼けの空のようだった。
周囲の環境コーラルにエアの声が共振する。
『『力を合わせるから、人は強い。証明しましょう――レイヴン。私とあなたで…共に、新たな時代を――メインシステム・戦闘モード再起動』』
NIGHTFALLのOSが次々と書き変わっていく。
赤い…コーラルの光に包まれたNIGHTFALLを前に、ドルマヤンは狼狽える事無く呟いた。
「コーラルの力を手に入れたか…これで…互角と言う事か」
「いいや…悪いが、互角じゃない」
強化人間C4-621レイヴンに成った男はそう言って、掲げたパルスブレードを発振させた。
「2つの心が一つになれば、一つの力は百万パワーって知らないか?」
そして、天に届くような鮮やかな真紅のブレードが振り降ろされた。
/*/
「セリア…臆病な私を…許してくれ…」
全力の打ち合いだった。
己の意思で集められる限りのコーラルを集積してのコーラルブレードの打ち合いは、若い二人のコーラルブレードが押し通った。
自分以上にコーラルに干渉して見せた。
その若者の情熱が、何処へ向かうのかは分からないが、それでも臆病風に吹かれて足を止めた自分よりはマシな未来に成る事を願い…サム・ドルマヤンは瞳を閉じた。
しかし、止めの一撃は無かった。
「…老い耄れの…死に場所すら奪うのか」
「俺もあんたも人外に恋をした男だ。セリアに恋をして、あんたは…サム・ドルマヤンは不幸だったか――」
コックピックを解放して、姿を見せた強化人間C4-621レイヴンは、歯を見せて笑った。
「否。断じて否。触れ合う心は安らぎ、癒しだった筈。囁く声は喜びを与えてくれた筈。
遠いあの日、二人並んで見た夢から覚めても、あの日の想いはあんたの心を照らし続けてきた筈――。
だから、辛い。
だから、悔恨の念に捕らわれる。
自分の心に嘘をついて生きるのは辛いから。
それを納得するのは、もっと辛いから。
他の全てに耐える事が出来ても、サム・ドルマヤンはその辛さに耐えられない」
まるで見てきたように、その若者は誰も理解できなかったドルマヤンの胸の内を代弁した。
「そうだ。それ故に私は全てを捨てた」
ドルマヤンもアストヒクのハッチを開け、この若者と直接向き合って答えた。
自分と同じ境遇で、自分と同じ選択を迫られた者同士なら、解り合えるものもあるのかも知れないと一縷の希望を持って。
「だから、俺が来た。
全てを無くしたその時に…それはその者の胸に燦然と輝きだす。
サム・ドルマヤンの胸にも戻ってくる。失われそうになれば舞い戻り、忘れられそうになれば蘇る。それは偉大なる嘘の歌」
強化人間C4-621レイヴンは、強く…何よりも強く、拳を握りしめる。
大切なものを無くさないように。その覚悟を先達であるドルマヤンに見せつけるように。
「愛するものの嘘を現実にする為に、俺たちはどれだけ苦労するだろう。――けど、それが人生。誇り高き男の生き方」
強化人間C4-621レイヴンの言葉と共に、真紅の輝きが戻って来る。
死力を尽くして戦った戦士達を包み込むように、優しく…静かに、雪のように…深々と静かに降り注ぐ。
「セリアは…あんたの彼女は、あんたの死を願ったのか?あなたの存在を、生きている事を望まなかったか」
「知った風な事を言う」
『私もレイヴンと同じに思います。例え自分が消えても、セリアはあなたの生存を望んだ筈です』
それがズルい言い方だと分かっていても、エアは言わずにはいられなかった。
『わかります。…だって、私も同じ、Cパルス変異波形ですから』
自分も同じ立場なら、間違いなくそう思っただろうから。
「…死ぬ事すら許されないのか」
悔恨を抱え、破綻を恐れ、愛するものを守れなかった事を悔やみ、それでも生きる事を望まれる。
その重さにドルマヤンは重い息を吐いた。
「サム・ドルマヤン…それが、愛されてるって事だ」
強化人間C4-621レイヴンの言葉が、ドルマヤンの胸にすとんと落ちた。
血を吐くと、サム・ドルマヤンは空を見上げて笑った。
空に穴でも空いていれば諦めも着くだろうと思ったのだ。
そこには…思ったよりも近くに――小さな赤い光点が明滅していた。
小さな小さな赤い光点。吹けば飛ぶような細やかな光。
だが、それはサム・ドルマヤンにとっては開けの明星にも勝る光だった。
絶望と悲しみに染まった瞳では見る事の出来なかった小さな小さな希望の星。それは…。
「…そこに、いたのか…セリア」
震える老人の手が伸ばされる。愛おしさ、寂しさ、悲しみ、憧れ、後悔、あらゆる感情に震える手が小さな小さな赤い光点を包み込む。
声を届けるほどの力も無く。強く煌めく事も出来ない弱々しい光。だが、それは何よりも強い想いの証。
「ずっと…そんなになっても――傍にいてくれたのか…私は――私は、自分を愚かと思うよ」
申し訳なさ、愛しさ、不甲斐なさが、濁流となって次々とドルマヤンの両の瞳から溢れだす。
そうだった。私は戦士だった。戦士として戦い…未来を勝ち取る事だけが私に出来る事だった。
一人孤独な世界で、夢を描き、祈り願った彼女が見た未来。
この星、この世界の全てを愛した彼女に、破滅以外の未来を届けられるのは私だけだったのだ。
愛した彼女はずっと寄り添ってくれていたのだ。信じてくれていたのだ。
なら、セリアの望んだ未来をより良い形で実現する為に戦えば、それで良かったのだ。
サム・ドルマヤンは汚れた白いヒゲを震わせた。
「私は…それで十分だと、気が付けなかったのだな」
amaz〇n新生活応援セールは後1日ありますが、私の投稿セールは終了です。
区切り良いし。
テキスエディタで小説を書いてるのでルビ振りが面倒です。
テキスト打つだけなのにエディタを乗り換えるのも面倒とか、私って面倒すぎん?
勢いで書いてるところがあるので「どうしてこうなった!?」と困惑。
次の私が上手い事やってくれると信じて次回に期待!