いこう。ここも腐海に飲み込まれる。
グリット086侵入
/*/
グリット086。
ルビコン3に無数にあるメガストラクチャーの一つだ。
地上高は数千メートルに達し、上部は監視衛星砲の狙撃範囲に入ってる。
ここはルビコン3でも大手に入るドーザー集団「RaD」の縄張り。
下部構造の隙間を愛機LOADER 4で飛行しながら侵入口を目指す。
と、どこからかオープンチャンネルで必死な声が聞こえてきた。
「待て!待ってくれ!俺はしがない債権回収業者だ。
ここがあんたらのシマとは知らなかったんだよ!
あいつは逃げ隠れるのが得意なんだ。
今頃このグリッドのどこかに…
やっ…やめてくれ!
殺さないで…!」
ああ、フレーバーテキストの人だ。
まだ溶鉱炉にぶち込まれていないんだ。
『レイヴン?』
オープンチャンネルを入れた俺の脳内にエアの訝し気な声が響く。
「…こちら通りすがりの独立傭兵レイヴン。あなたの生命はお幾らCOAM?」
なるべく空気を読んでないアホっぽい感じで声を出す。
「に、20万COAM!い、いや30万COAM!出す!助けて!」
「50万COAM」
「わ、わかった!50万だな。払う!払うから助けて!」
「…と、言うわけでRaDの皆さん。俺とゲームしよう」
「あん?なんだ、お前ぇ?」
RaDの誰かの声が返事をしてくれる。
とりあえず取り立て屋は殺されないで済んでるかな。
「通りすがりの独立傭兵だよ。俺はいま下層の垂直カタパルトのとこにいる。ここからRaDの皆さんの妨害を撥ね退けながら…そうだな。10分以内に取り立て屋のところに辿り着いたら、俺の勝ち。その借金取り生きたまま渡しておくれ。辿り着けなかったからRaDの皆さんの勝ち…100万COAM払おう」
ゲームをしようと持ち掛ける。
「はぁ?10分だぁ?なめやがって!」
AC6で幾度となく聞いた声が聞こえる。
「その声は無敵のラミーかな?…30秒で片づけてやるよ」
「はぁ?その前にここまでこれたらな!」
(エア、お願い)
垂直カタパルトの定位置に機体をセットする。
『お任せください
システムにバックドアを作成。
垂直カタパルトロック解除。
スチームシリンダー接続』
カーラとチャティが管理してるグリッド086に簡単に侵入し、バックドアを作ってしまうのは流石の手並みだ。
企業もオールマインドも出来なかった衛星砲の掌握までやってしまうエアは、変異波形としてもハッキングの才能が特別あるのだろうか。
「おい、垂直カタパルトが勝手に動いてるぞ?」
「誰だ動かしてんの?」
「お、俺じゃねぇぞ!?」
オープンチャンネルからはRaDの構成員たちの慌てた声が聞こえてくる。
『射出します』
アサルトブーストより強いGが掛かって機体は垂直に射出された。
ブースターを吹かせて機体を展開させながら、グリッド086の広い通路に着地する。
ACの足裏と通路が擦れて盛大に火花が飛び散った。
『…さあ、レイヴン。ゲームを始めましょう』
/*/
「俺の…マッドスタンプがぁぁぁッ!?」
無敵のラミーの悲鳴がグリッド086に木霊する。
無理もない。
マッドスタンプはACの4つある武装ポイントに2つしか武器を装備していない上に作業用ACのような機体だ。
それでも傭兵支援システムのアリーナのランキングに入っているのは流石だが、相手が悪かった。
両腕を破壊され、膝をついたマッドスタンプを前に俺は降伏勧告をする。
「降伏するなら殺さないけど?」
AC世界を生きる者として俺も甘かった。
ならず者たちの面子を見くびっていた。
「姐さん…見てて下さいよぉッ!この無敵のラミーをッ!!」
両腕を失った機体を立ち上がらせ、ラミーはアサルトブーストを全開に突っ込んできたのだ。
(特攻!?覚悟ガン決まりぃぃ!?)
コーラルで常にハイになってる。特に技術もなく、番犬役として、ここにいるラミーは死を恐れない特攻で外敵を退けてきたから、ここにいられる。ここにいられると自分で価値を勝ち取っている。
降伏など考える理由などなかった。
それでも…
マニュアルエイムでパルスブレードを振るう。
神経接続で機体を自身の身体として扱える強化人間だからこそ出来る手動操作。
マッドスタンプの突進を斜め前に進みながら避け。
コア(胴体)と脚部パーツのジョイント部分をパルスブレードで振り払う。
カウンターで差し込まれたパルスブレードが火花を上げながら接続部のケーブルやらジョイントを破壊し、マッドスタンプのコア(胴体)と脚部がバラバラに転がっていく。
『敵機システムダウン。完全停止です』
俺はエアの声を聞きながら、シートベルトしてなかったらコックピット内で大怪我してそうだなと考えていた。
「俺は君を殺さないよ。…この俺が殺したくないからだ」
とりあえずオープンチャンネルで決め台詞を言ってみた。
/*/
カーラの「ビジター。好き放題やってくれているじゃないか」との広域放送を聞き、開いてくれたシャッターを潜って内部へ侵攻する。
あとあとラミーが舐められないように、ちょっと遠回りして、巡回しているBAWSの4脚タイプっぽい2体を蹴散らし、MTも蹴散らし、シャッターにアクセスしたら、上から降ってきたトイボックスも蹴散らして、溶鉱炉のある工場内部に辿り着く。
「ついた!溶鉱炉。
あれ?いない…?」
多分、ここで取り立て屋は締め上げられてると思ったのだけど?
ゲームではここの溶鉱炉で機体丸ごと蒸し焼きにされていたし。
「賞品の取り立て屋は私が預かったよ。こっちまで来て貰おうじゃないか」
また広域放送でカーラの声がする。
無線で呼びかけてこないのは生身でうろついてる構成員にも聞かせる意図があるからだろうか。
「ゴール動かすのは無しじゃない?」
こちらも外部拡声器もオンにして返事をする。
「取り立て屋を溶鉱炉焼きにして、あんたから金を毟るところだったんだ。むしろ感謝して貰いたいねぇ」
「あ、はい。ありがとうございます」
流石、AC世界の住人。
そのぐらいの悪辣さは必須か。
じゃーそこのシャッターを潜る前に…使われていない溶鉱炉のパイプを潜って…。
「汚いぞ、取り立て屋!」
「うるせぇ!この多重債務者!無駄に良い声しやがって!」
壁際に隠れているノーザークをレーザードローン(エアちゃんに制御して貰っているのでファンネルみたいに動く)で追い立てて、飛び出してきたところをアサルトアーマーと重ショットガンとキックとパルスブレードで達磨にして引き摺っていく。
このままカーラの歓迎の花火にぶつけてやる。
「な、何をするだァーッ!」
天井から吊り下げられたタンクにビタープロミスが衝突し、ノーザークは満点の叫び声をあげて吹き飛んだ。
「へッ、きたねぇ花火だ」
「おや、歓迎の花火に気が付いたのかい?あんた、カンが良いね」
爆発で吹き飛んでいくビタープロミスを見ていると、カーラの広域放送が入って残りのタンクも落下していく。
下にいた軽MTが吹き飛んで、BAWSの4脚タイプ?が残る。
(軽MTは無人機だったのかな?)
残った4脚タイプにアサルトブーストで突っ込みながら、グレネードをバレルロールで躱し、左右の重ショットガンを撃ち込む。
左の重ショットガンをウェポンハンガーに戻し、同時にハンガーからパルスブレードを左腕に装着させる。
コアをキックで揺さぶり、パルスブレードで切り捨てた。
そのまま衝撃で中の人が気絶したのか4脚タイプは動かなくなった。
安定の良い4脚タイプなので、バランスを崩すことはないが動かなくなった機体の後ろに回って様子を伺う。
「…わかった。あんたの実力はわかったよ。ビジター
これ以上は割に合わないからね。通してやるよ。いきな」
広域放送と同時に大きくRaDと掛かれた巨大な扉が左右に開いていく。
ゲームであれば補給シェルパがいるのだが、生憎と非武装のシェルパが襲われると困るのでグリッドの外に隠してある。
補給無しでスマートクリーナーと対戦する事になるが…バルテウス戦と違って、ちゃんと武器を持っているのだ。
大丈夫、問題ない。
「ビジター、あんた向こう見ずだね。…嫌いじゃないよ」
カーラの声で開く扉の向こうにスマートクリーナーが見える。
そして、奥の壁に磔にされているAC。そこから聞こえる取り立て屋の声。
「あ、これ時間内に倒せないとスマートクリーナーにポイされる奴だ」
「よくわかってるじゃないか、ビジター」
楽しそうなカーラの声。
開幕。
突っ込んでくるスマートクリーナーを回避しながら、重ショットガンを打ち込むがクリーナーの重装甲に弾かれる。
「散弾ではなぁ」
ちゅぃぃんと火花を上げて跳弾していく散弾を眺め、散弾でなくても弾かれるのは知ってるけど、散弾が弾かれたら言わねばならないセリフを言っておく。
開口部を弱点にしてくれてる親切設計なのは理解っている。片付けるのは難しくない。
(エアはレーザードローンで上から煙突を攻めて!俺は正面から行く!)
『わかりました』
「おや、クリーナーの弱点に気づいたのかい?…それにしても、レーザードローンをここまで器用に扱う奴は始めて見たよ」
(一人じゃないからね!)
『ドローンの制御はお任せください』
グリッド086に来る前、エアが電子機器をハッキングしたり、コーラル動力のACを動かしたり出来てるのは知っていたので、試して貰ったらレーザードローンもいけたのだ。
個別にレーザードローンを制御して貰えるなら、プラズマミサイルを飛ばすよりも圧倒的に強力な兵器になるので担いできた。
粉砕アームを掻い潜りながら、左右の重ショを交互に打ち込み続ける。
スマートクリーナーがACS負荷限界で動きが止まったら、パルスブレードを展開しつつ、アサルトブーストで突撃。
正面開口部にパルスブレードを突き立てて切り払う。
オレンジ色に溶けた鉄が切り払われて、内部構造が露わになる瞬間…アサルトアーマーを展開。
その追い打ちで内部構造を吹き飛ばし、同時にエアが新しいレーザードローンを突っ込ませる。
スマートクリーナーの内部にドローンが飛び込んで、レーザーを目茶苦茶に撃ちまくった。
そうして、スマートクリーナーが停止するまで戦い続けた。
/*/
「やるじゃないか、想像以上だよ。ビジター。
あんたとは仲よくした方が良さそうだ」
取り立て屋を下ろしてやっていると、カーラの広域放送が聞こえてくる。
「そう言って貰えると助かるよ。もともと俺はRaDに依頼があって来たんだからね」
そう返しながら、ゲームも終わったし皆で一杯やらないかと伝える。
コーラルは無いが、大豊のレーションやらベイラム系列から入手した食材がある。
美味い飯が食える…その言葉にRaDの構成員から歓声があがった。
/*/
遠隔操作で呼び寄せた何台かの補給シェルパの1台から、大豊のレーションや食材を取り出し、RaDの構成員に渡す。彼らは早速、宴会の準備を始めた。
その準備が整うまでの間、俺はカーラのところへ案内されていた。
通された部屋にはカーラと思しき女性。その他スマートクリーナーを人間サイズのデフォルメキャラに縮小して、脚をつけたようなロボットがいる。
集団幻覚でみた「らっどん」だ。このロボットにチャティが入っているのだろうか。
「始めまして。シンダー・カーラ」
そう挨拶するとカーラと思しき女性は嫌そうな表情をした。
おや?
「やめな。その言い方。どうしようもないクズ野郎を思い出す」
丁寧な物言いが、ご友人を思い出させたようだ。
俺は肩をすくめて。
「それじゃ、頼みたい仕事なんだが…」
カーゴランチャーを使いたい事と、作って貰いたいものがあると伝えた。
作って貰いたいものについては、イメージ図と要望をまとめたファイルをタブレットに表示してカーラに手渡す。
メモリに入れて渡すのも考えたのだが、それだとウィルスとか疑って直ぐに受け取って貰えないのではと思ったのだ。
「カーゴランチャーの操作はやってやるが…」
タブレットを見ていたカーラの肩が震え始め、そのうち腹を抱えての爆笑に変わる。
「ビジター、あんた本当に脳を焼かれてるのかい?いや、脳を焼かれてもそれだけは残るものなのかもねぇ」
こいつは…いや、あいつのびっくりする顔が目に浮かぶよ。いや本当に傑作だ。
などと言いながら、タブレットに何か入力して、こちらに返す。
受け取ると、納期と金額の見積だった。
AC1機組むよりは安いのか。意外と納期も速い。前金で半分振り込む。
「即決かい。こんなことに大金つぎ込んで、あんたの飼い主はどう思うかねぇ」
「ウォルターには内緒で」
「どのみち完成したらバレるだろうに」
面白がるカーラに、しーっと指を立ててお願いする。
あとゲーム通りなら、ジャンカー・コヨーテスの襲撃があるハズ。
その時に備えて、パーツを出すからラミーのマッドスタンプの改造をお願いする。
「マッドスタンプを?なんでだい」
「いや、壊したものでパーツ持ってるのがそれだけだから」
「まぁ構わないけどね。ラミーは扱えるかねぇ」
無理だろうなぁ。