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『レイヴン。口座が開設できましたよ』
「ありがとう、エア」
エアに星外と言うか、この世界のちゃんとした領域にある(ルビコン3は無法地帯)複数の証券会社に口座を作って貰った。
通信回線は封鎖機構の星外との通信網を使ったらしい。
星外に通信をするのに各陣営の通信網を調べたが、オールマインドは星外へのチャンネルを持って無く。アーキバス、ベイラムの陣営も通常は回線が開いてないようだ。
封鎖機構のセキュリティも相当に固いのにコーラル凄い。
手持ちのCOAM9割を星外に移動させて、口座の管理AIへ条件を入力して管理を任せる。
何十億もCOAM持っていてもルビコン3では使い道がないのだ。
あ、これ来年は税金取られるのか?
まぁいい。ごすとエアとの平和な生活の為だ。
そのエアだが、演算能力を高める為に周囲に集まってきたコーラルたちのネットワークがキラキラしている。
エアが俺に憑いてる都合上、俺が赤いオーラを纏っているようにも見える。
エアがネットワークを切り離すと、コーラルたちは手近なネットワークに接続しようとして俺の知覚に干渉してくるので、俺がコーラル酔いする。
『…レイヴン。アーキバスとベイラムの通信ログを見ていたところ、送受信で改竄された痕跡が見つかりました』
改竄。
なんだろう。
封鎖機構はそんなまどろっこしい事はしないだろうから、オールマインド?
あいつ、ガバチャーしなければ優秀なんだよな。
原作でも最後までアーキバスを手のひらで踊らせていたし。
俺もオールマインドを(あまり)侮らないようにしよう。
「どんな改竄かわかる?」
『改竄の痕跡はあるのですが、送信先がどうなっているのかは本社側を調べないと解らないですね』
残っているログが改竄されているので、送信時に割り込みで書き換えられたのだろうとの見方。
「そっか。流石に本社は無理だよね」
『向こうと通信が繋がればログを落とす事は可能です。バックドアとウェアを仕掛けておきました』
やだ。このこ出来る。
実体があったら、あたまを撫でて上げたい。
「すご…最初から、そんなに出来たの?」
『いえ。ウォッチポイントで一人だったので、周囲の機器に干渉して覚えたのですが…レイヴンの役に立てればと、ネットの情報やウォルターやカーラの手口を見て学びました』
何この子、健気、可愛い。
…トイレも一緒だけど。
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中央氷原の適当な位置でビーコンを出してウォルターと合流した。
キャンプ生活もこれで終わりか。少し名残惜しく思う。
ハンガーにACを固定し…LOADER4の機体名称も、レイヴンになったしNIGHTFALLに変えようかと考えながら、ウォルターの待つ上のブリーフィングルームへ向かう。
普段はハンガーまでくるのに珍しいなと思っていたのだ。
ブリーフィングルームで出迎えてくれたのは、ウォルターと綺麗なパッケージ(等身大)に入った義体だった。
「…えっと」
「621。ベイラムからの依頼を確認して…出撃したようだな。大陸間輸送用カーゴランチャーを使うと言うのも発想としては悪くない。…これは、カーラから送られてきたお前の注文の品だ。…お前の稼いだ金だ。お前が何に使おうとお前の自由だ」
ウォルターって言い淀む時は「…」つくよね。
やめて!そんな息子が愛玩人形を通販購入したのを発見してしまった!見たいな目で見ないで!
カーラからのメッセージカードを、ウォルターから受け取って開く。
受け取る時にウォルターの手が微かに震えていたのは果たして…。
なんでわざわざメッセージカードと思いながらも目を通す。
そこには…
「ビジター、娼館向けの官能義体に注文の機能を詰め込んで置いたよ。感度3000倍スイッチは…」
俺は迷わずメッセージカードを床に叩きつけた。
「あんのババァ!!!」
俺が!頼んだ!のは!エアが!動かせる!コーラル動力の義体だッ!
「ど、どうした?621」
あ、うん。第4世代が急にこんな事したら心配するよね。
「違うんだ。ウォルター!俺がカーラに注文したのは友人が動かせる義体であって、ラブドールじゃないんだ」
それをこんな娼館向けの官能義体ベースに作って、里香ちゃん人形みたいなパッケージに詰めてウォルターに渡しやがって!
絶対、ウォルターをびっくりさせる気で狙ってやったな。
「そ、そうか。まぁ、お前の情緒が戻ってきているのは良い事だ。気にするな」
「だから違うんだって!エア!エア!その義体、エアが動かせると思うから動かしてみて!」
理解ある保護者の誤解を解こうと、構わずエアに話しかける。
俺の頭の中から、何かが抜ける感じがして箱の中の義体が赤い瞳を見開いた。
「始めまして、ウォルター。私はルビコニアンのエア…コーラル変異波形です」
エアの入った義体だが、注文する時の3Dデータを作る都合上クラシックゲームデータライブラリにあったニーアオートマタから2Bのデータを抜いて、瞳だけ赤くしたものだ。
シルバーブロンドのショートボブにカチューシャ、深いスリットの入った黒いゴシックドレス、サイハイブーツ。目隠しは無い。
だって、服のデザインとか思いつかなかったし…。
「動い、た?…621、これは」
「ウォッチポイントで交信したルビコニアンのエアです。自己紹介の通りコーラル変異波形で実体がないので、カーラに動かせる義体を注文していました」
「本当に…コーラル変異波形、なのか」
信じられない。信じたくないとの思いが表情に浮かんでいる。
「621、身体に異常はないか?」
「大丈夫。脳内のコーラル濃度がちょっと高い…くらい?」
最初に俺の心配をしてれる。ごすはやっぱりAC世界の住人じゃないな。
俺の返事に少し安心したようなごす。
そのごす…ウォルターは真剣な表情で箱の中のエアに向き直る。一寸シュール。
「その義体にAIの類が搭載されていないのは聞いている。コーラル動力なのもな。…お前がコーラル変異波形と言うのが本当ならば、どうして我々の前に姿を現した」
「最初は…コーラル集積地点まで行ければ良いと思っていました。次にレイヴンと一緒にありたいと思い。…オールマインドのデータを覗き見て、ショックを受けたのです。この思いは本能的な刷り込みと繁殖行動によるものでしかないのでは、と」
自分の行い、思いが予めプログラムされたようなものだと資料で突きつけられて、ショックを受けていたのだろう。
自己存在に衝撃を受けていたエアは切ない表情で切々と語り続ける。
「それでも、レイヴンと共にありたい。一緒にいたいとの思いは消せないのです。観測者たちにとって私は危険な存在でしょう。ですが、私にコーラルリリースをするつもりはありません。コーラルによる危機を未然に防ぐのであれば、それは私にとっても願ってもない事です。ですから、私がレイヴンのそばにいる事を許して欲しいのです」
思いを語る事で思いが形となり、感情を揺さぶり、その高まりに耐えきれず義体の赤い瞳からは涙が零れる。
うーん、高性能義体。
真面目な二人をこのままにして置くと危ない。
「いったん休憩にしよう。エア、いま梱包を解くからね」
箱を開け、義体を固定具から解放する。
うん?本当に官能義体か?ちょっと重いぞ。
「621。お前は良いのか」
「俺は、エアともウォルターとも一緒にいたいよ」
「そうか…621、お前にも…。エア、お前が621といるのは構わない。だが、コーラルの危機があれば…その時は」
「ええ、ウォルター。その時は…」
やめて、二人とも俺を挟んでフラグ立てないで。
俺はハッピーエンド以外許さないんだからな!
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しばらくして、二人が落ち着くとウォルターが再び口を開いた。
それは俺にとって青天の霹靂だった。
「621。俺の方の野暮用だが、星外で負傷し、療養していたハウンズが回復したので回収してきた。機体はこれから用立てる。しばらくはリハビリを兼ねて、お前がシミュレーションで相手をしてやってくれ」
617、620、入ってこい。
ウォルターの呼び声に二人の第4世代型の強化人間がブリーフィングルームに入ってくる。
それはPVで戦っていた3人のハウンズの2人。
619は「生体反応ロスト」と言っていたが、617と620は生体反応ロストとは言われていない。
あの617先輩に会えるとは…俺は思わず唾を飲み込んだ。
…ん?なんか小さい?
視線の先には10代前半の少女兵がいた。
あーそんなイラストもあったなぁ。
冷凍されて在庫処分になった少女兵とかウォルターが最高に曇るよね。
戦力として見るなら安定してる新型強化人間だし。
女として見るなら、わざわざ機能死んだ強化人間じゃなくて普通の女買えば良いし。
もう、この子たちには冷凍されたまま在庫処分か使い捨ての猟犬しか残ってないのを、ウォルターが引き取って、せっせとお世話して綺麗にしたんだろうな。
って、集団幻覚あった。
ウォルターが過保護気味なのも、子供だからって言われたら納得だし。
奇しくも、二人ともシルバーブロンドで赤い瞳をしている。
並んでいると義体に入ったエアと姉妹みたいだ。
サイズ的に特注であろう身体にぴっちりしたパイロットスーツを着ている。
うん。ジャンパー買ってあげよう。amaz〇nはお届けしてくれるかな。
「617、620、よろしく。俺は621」
「私は617。621、よろしく」
「私は620。621、よろしく」
情緒が死んでる強化人間らしく二人とも自己紹介は素っ気ない。
だが、620の方がエアを向いて疑問の声を上げた。どうやら620の方が好奇心がまだ生きてるらしい。
「それで、そっちのお姉さんが622ですか?」
「いいえ、私はルビコニアンのエア。C4-621レイヴンのパートナーです」
自己紹介するのが嬉しいのか楽しいのか微妙に得意げなエア。
しかし、なんか強化人間C4-621・レイヴンがフルネームみたいになってる。
「オペレーターですか。私はウォルターにオペレートして貰うので必要ないですね」
そう言って興味を無くしたように視線を戻す620。微妙に会話が噛み合っていない。
それを横目にウォルターへ、二人の機体は俺が発注して置くと伝える。
俺のライセンスなら結構パーツ購入できるし。
「そうか。請求は俺に回せ。払っておく」
ここでいやいや俺がと言い出しても切りがないので黙って頷く。
輸送ヘリも、もう1機欲しいな。1億もCOAMあれば足りるだろう。
ハウンズのデカールも作ってあるし、617と620の機体にもデカール入れよう。
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その日の夕食は豪勢だった。
煮込みハンバーグに焼きたてのパン。スープにサラダ。
解放戦線では考えられないご馳走だ。
まぁ、タンパク質はミールワームを加工した合成肉なんだが。
タンパク質だけでは人間は生きていけないので、炭水化物やミネラル、ビタミンを生産する工場もある。
あるにはあるが、設備無しでも(コーラルがあれば)飼育できるミールワームがコスト的にメインとなっている。
ルビコン3でも稼働している野菜工場が数か所ある。
目が飛び出る程に高いが、アーキバスやベイラム、封鎖機構なんかの現地員へ売りつけているらしい。
庶民と上層で食べるものが違うのは、いつの世も一緒だ。
ミドルフラットウェルは、この辺りを上手い事やって組織を切り盛りしてるんだろう。
ウォルターを手伝う617と620は親子のようで可愛らしかったが、それを言うとウォルターが曇るし、調理場に5人は邪魔なので俺とエアはハンガーに移動して、ACパーツの発注をしていた。
食事は元々4人分だったので、俺の分はエアと等分した。
食事も出来る高性能義体をベースにするとか…ほんと、なんで都合良くこんなものがあったのか。
RaDで全身義体を取り扱ってるとは知らなかった。
それとも誰か全身義体を使ってる人がいるのだろうか。
今時の時代なら全身義体よりも生体強化改造の方が便利な気もする。
「621。お前はそれで足りるのか?」
「ウォルター。俺は強化人間だから、これで足りる。それよりウォルターこそしっかり食べて」
「レイヴン。私は全身義体ですから、別に食べなくても」
「食べた後の始末は面倒だけど、食べる事の喜びをエアには感じて欲しいよ」
俺たちを交互に見ていた617と620が、切り分けたハンバーグを一切れずつフォークに刺して、「ん」と俺の皿に寄越す。
やだ。この子たち良い子。
これは受け取らないわけにはいかない。
てえてえ。てえてえ。
617と620はPVの作戦後に回収され、俺も保管されていた闇医者のところで再生ポットにぶち込まれて再生医療を受けていたそうだ。
それってかなりお高いんじゃ?
ウォルターが聞くなと目配せしてきたので、口には出さなかった。
状況が許せば、そのまま再手術して普通の人間に戻したんだろうな。
後片付けは俺とエアで受け持って、ウォルターと先輩2人には休んでて貰う。
ルビコン3にTV放送なんてないが、未来技術の端末にはアーカイブに映画やらなんやらが容量無制限みたいな勢いで保存されている。適当に再生しておく。
そして、翌日。
事件は起こった。
ハウンズは少女兵だと、より一層のウォルターが曇るとスッラに言われて。
スッラが悪いんです。
全てスッラが悪い。