北側諸国要塞都市フォーリヒ。
物資補充に立ち寄った際に、思わぬ依頼が舞い込んだ。世界には、自分と同じ顔の人間が三人はいると言われている。だが、その実例を目にすることになるとは誰も想像できない。
「フリーレンさん、流石に呪われているんじゃないですか。行く先々で、どうして色々と巻き込まれるんでしょう。シュタルクさんが、領主の亡くなったご子息の代わりに、社交界に出席するとか」
「本当になんでだろうね。言われてみれば、ヒンメルと旅をした時も同じような事が多かった」
勇者PTのフリーレン、北側諸国の英雄ボンドルドの立場として、色々と頼られることは確かにある。それが有名人の収入源の一つだ。
幸いな事に今のところ路銀には困っていない。だが、魔道本の報酬を多めに貰えると言う事でフリーレンが快諾してしまった。社交界の場は、今から三ヶ月後でありそれだけの期間を過ごすというのを本当に理解しているのかとボンドルドは疑問に思っている。
三ヶ月あれば、次の街へ着くには十分だ。だが、年単位での在留を考えないようになったのだけは成長したと褒める事ができる。
「プルシュカも久しぶりの街での休暇を楽しめるので良しとしましょう」
「ボンドルド、一度聞いてみたかったんだけどプルシュカって名前……あれって、どういう意味?」
フリーレンが、周りに人が居ない事を確認してプルシュカの名の意味について、ボンドルドに聞いた。一昔前なら名の意味など気にしないような性格であるフリーレンが少しずつ変わりつつある。そんな心境の変化がこれほどまでとは、勇者ヒンメルとはどれだけ偉大な事をしたのだとボンドルドは今は亡き彼に感謝する。
「『夜明けの花』という意味です。フリーレンさんは、花は好きですか?」
「私が一番好きな魔法は、花畑を出す魔法」
「存じていますよ」
「そうだったね」
静かな沈黙が流れる。
静かな時は長くは続かない。折角の社交界との事で、ドレス合わせをしていた皆が戻ってきた。ボンドルドを見つけると、プルシュカが走ってくる。
「パパ~!! 見て見て、このお洋服。可愛いでしょう」
「可愛いですね、プルシュカ。フェルンさん、シュタルクさん、お二人とも良くお似合いです」
プルシュカの頭を撫でつつ、二人の事もしっかりと褒めるボンドルド。フリーレンは、へぇ~と声を出すだけで終わる。こう言うときは、嘘でも似合いますとか言うべきだと後でコッソリとボンドルドがフリーレンに常識を教え込む。
これから、社交界の場に出る者達は、地獄の礼儀作法講座が始まる。金を貰った以上、完璧に遂行するのがプロ。つまり、投げ出す事はフリーレンとボンドルドの顔に泥を塗るに等しい。彼等にはいつも以上に気合いが入っていた。
社交界当日。
シュタルクがフェルンをダンスに誘う。その様子を温かく見守っているボンドルド。横では、ケーキに夢中のフリーレンとプルシュカがいる。花より団子とは、この事だ。
「フリーレンさん、気が付いていないかも知れないのでアドバイスしておきます。フェルンさんは、シュタルクさんに対して好意を持っています。今後、さり気なくサポートしてあげましょう」
「何を言っている。そんな事ある……のか。うーーーん、でも、まだ早くない?」
本当に困った顔をしているフリーレン。流石に、これには気が付いて欲しいボンドルドだ。フェルンの人生の半分以上付き添った、フリーレンがそれに気がつかないでどうすると。
フェルンとシュタルクは、お互い良い年齢だ。世間一般では、結婚適齢期と言われている。特に、女性はそういった時期は非常に大事だ。エルフには、余り関係無いが人間の女性にとっては、最も大事な時期。
片道10年の旅路を行く最中、彼女にどれだけの出会いがあるだろうか。ハッキリ言ってない。つまり、PT内で調達するか、諦めるかとなる。師として、その辺りも応援してあげるのが親心。
「人の寿命は短い。我々と比較してはだめです。特に、女性においては出産適齢期という物が存在しております。どうしてもと言う時は、何とかしてあげます」
「その時は、お願いね。それより、何か言う事無い?」
両手を広げて何やら自信満々の笑みを浮かべるフリーレン。負けずに、プルシュカも両手を広げる。似たもの同士過ぎて、思わず笑いそうになるボンドルド。
「とても良くお似合いです。お嬢さん、よろしければ一曲踊って頂けませんか」
ボンドルドが膝をつきフリーレンに手を差し出す。その手を取るフリーレン。踊った後に、フリーレンのケーキはプルシュカの胃袋の中にあった。
見事に依頼を達成した、フリーレン一行。
報酬を貰って、オイサーストを目指す道中でフリーレンが、近くに長寿友達が居ると言う事で挨拶に行った。高齢のドワーフ戦士であり、たった一週間の滞在期間であったがシュタルクの戦士としてのレベルを一段階あげるほど成果を出す。
当然、ボンドルドは種の保存の観点からイドフロントへ遊びに来ないかとお誘いを掛けた。こうした声掛け運動が何時かは実を結ぶと地道な活動を怠らない。だが、ボンドルドの長い人生においても、女性ドワーフを見たことがない。エルフより幻の存在ではないかと本気で考え始めた。
珍しく旅路は順調であった。しかし、街から出立しようと思った矢先に大寒波に見舞われる。この地方の大寒波は、一ヶ月は続く。諦めて、吹雪が止むまで滞在を余儀なくされてしまう。
山小屋と違い、街中での足止めであったのが不幸中の幸い。怪しい老人がやっている魔法店を漁るのが楽しみだというフリーレン。そう言う場所には伝説の魔法が眠る事が多いと経験を語る。
「"カビを消滅させる魔法"や、"しつこい油汚れを取る魔法"だよ」
「あれは確かに世界を一変させるほど便利でした」
フェルンも同意するレベルの伝説の魔法。民間魔法としては、共に破格の性能である。そういった生活に密接した魔法は、もう少し世に広がり改良されるべきだ。
「パパだって、凄い伝説の魔法使えるよ」
プルシュカの一言で獲物を狙う目をするフリーレン。
自分と同様に長生きしているボンドルドが、どれだけ自分が知らない魔法を集めているか興味深かった。彼女は、強制的に教えて貰おうとすら考えている。
「どんな魔法があるの?ボンドルド」
「フリーレンさん好みか分かりませんが、"仮面を付けたまま食事が取れる魔法"、"小指を家具にぶつけても痛くない魔法"、"玄関の鍵を閉めたか思い出す魔法"、"紫外線を防いで肌荒れを防ぐ魔法"、"新しい靴を履いても靴擦れが起きない魔法"……後は、"切れの良い大便が出て、紙が要らなくなる魔法"といった感じでしょうか」
ボンドルドがこの長い年月で手に入れた役に立ちそうな魔法を伝えた。
フリーレンとフェルンがお互いの顔を見合わせる。そして、示し合わせたかのようにボンドルドに詰め寄った。
「ボンドルド、ちょっと話があるから外にでよう」
「ボンドルド様、手間は取らせませんので少し外で話しませんか」
女性二人の目は、マジだった。
長年旅を続けて、今の今までそんな便利魔法を独り占めしていたと許しがたい事実。だが、魔法を教えてくれるなら今までの事は水に流す所存である。
大寒波の中、ボンドルドは引きずられて外へと連れ出された。
本当に、誤字脱字ご指摘ありがとうございます!
ネタが尽きてしまったので、どのようなお話を知りたいか読者様にお伺いできればと思っています。全て何話程度やるかも全く未定です。
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過去編(1000年前、初代ボンドルド)
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過去編(人類防衛ライン戦)
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過去編(50数年前、居候フリーレン)
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閑話(ゼーリエとプルシュカの文通)
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閑話(プルシュカと女神の魔法)
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バカか、全部やれ