世界に見捨てられた帝国による存亡を掛けた防衛は、圧巻だった。出し惜しみなど一切ない大盤振る舞いであり、魔族達も一進一退。統一帝国時代のゴーレムや金で雇われた魔法使い、犯罪者など全てを投入していた。
勿論、戦禍に紛れて敵前逃亡する者達もいた。こいつ等は運が良い。帝国側も魔族側も逃げる兵士に対応する程、余力が残っていない。
「どうですか、フリーレンさん。貴方が気に入りそうな魔法を使う者達は居ましたか?」
「そうだね~。目星は何人か付けた。戦いが終わったら、そいつ等の魔法をオマージュさせて貰うよ」
一つの魔法の研鑽を積む魔族達。その中には、今のフリーレンにとっても興味が惹かれる魔法もあった。特に、空間に関する魔法や概念に影響を与える魔法は、先天的な才能が必要になる。極めれば強くなるので、ある意味要注意人物として厳重管理対象。
後方から眺める戦争とは、実に素晴らしいと俯瞰的な視点で物を言うフリーレン一行。普段はこの最前列で戦っているが、立場と視点が違えば視野が広がる。
その反面、帝国側からも魔王軍の親玉が居る場所はよく見えるという事になる。
「皆も気付いているよね?」
「無論ですよ、フリーレンさん」
「当然よ。プルシュカだって伊達に場数は踏んでないわ。結構強いよね~」
「アリスも気付いてます。でも、今回は見るだけなのでアリスはお休みです」
帝国の魔道特務隊による斬首作戦だ。この場合、実に効率が良かった。魔王さえ殺せば、戦争が終わり色々と有耶無耶に出来ると帝国上層部は信じていた。寧ろ、信じるしかなかった。既に、女神様の啓示を隠蔽し嘘の情報を流布した事は各国に知れ渡っている。
帝国に残された生存ルートは、他国に頼らず自力で国防を成し遂げて成長したという実績を出すことだけ。勝てば官軍、負ければ賊軍を表す状況だ。
「どうしよっか、ボンドルド。この場に居る限り、流石に相手も何か手出しをしてくると思うけど」
「問題ありませんよ。このような場合に備えて、アリスにお願いしてゲストも招待して来ました。子供を守るのは、親の役目ですからね……期待しております。
………
……
…
『やれやれ、まさか僕がコチラ側に立って戦う事になるとは思わなかったな』
新生魔王軍を少数精鋭で突破してくる魔道特務隊の前に、二人が立ち塞がる。両名とも剣士であり魔力を微塵にも感じさせない。だからこそ、魔道特務隊も彼等が目の前に現れるまで認知できなかった。
アリスの強化魔法を受けたボンドルドは、史上最強の僧侶である。その回復魔法は、細胞を活性化させて全盛期の肉体を維持しようとする。コレを利用し、全盛期の肉体を取り戻した勇者がこの世に復活を遂げた。但し、髪だけは無い。だから、かつて魔王を倒した勇者だとは誰も気がつけない。
彼こそ、これから世に産まれてくるアウラの子の父親である。妻と子を守るのは、旦那の努めだ。
『ヒ、ヒンメル。貴方、どうしてここに!? それにその姿……髪がないじゃない』
『アウラも酷い事を言う。僕だって傷つくんだよ』
「少し早いですが、私からの建国祝いですよアウラさん。後、髪の事は言及してはいけません。男性にとって、繊細な部分です」
夫婦が離れて暮らすのは悲しい事だ。
ボンドルドの過去の所行はさておき、このサプライズにアウラの心は満ち足りてきた。そのお陰もあり、アウラの中ではボンドルドが悪魔から天使へと変わりつつある。一度落としてから、望む餌を与える。これぞ人心掌握に必要な事だ。
本日のゲストは、天獄より舞い戻ったヒンメルだけではない。子供のピンチに駆けつけたのは彼だけではない。
『折角、オレオールで過去の英雄達と剣を交えて楽しんでいたのに。それに、貴方は私を父親だと思った事はないでしょう?都合の良い時だけ、お父さんとか呼ばれても困ります。まぁ、
オペラ仮面を被ったジェントルマン。紫色のサイリウムを携えた人類最強のバグ。彼一人で帝国軍全軍を闇討ち出来る程の猛者だ。今のフリーレンでも彼とは戦いたくないと明言する程。
「アリス知ってます!! あのちょび髭おじさんは、アリスのお爺さんです」
息子と孫娘を守る為、年寄りが酷使される。だが、全盛期の状態で死んだ南の勇者。彼の能力は、未だに人類最強だ。ボンドルド一家が総力戦でも勝算は6割程度。恐ろしい化け物だ。
『み、南の……』
アウラがトラウマから叫びそうになった。100年前に七崩賢、全知さんを纏めて相手にして半数を討ち取った化け物。そんなのまでこの場に居る。しかも、ボンドルドの父親であり、アリスの祖父と言う情報はアウラは初耳。
つまり、彼等一族に手を出せば、天獄から何度も化け物が舞い降りてくる可能性がある。
『こうして、同じ戦場で戦うのは初めてですね。天獄ではお世話になりました。でも、黎明卿の父親だったなんて知りませんでしたよ』
『あまり自慢できる事じゃありませんからね。言うなれば、私も彼の父親になるくらいの覚悟をもって魔王軍と戦っていたという事です。お互い守るべき者がいます……後悔がないように頑張りましょう』
勇者ヒンメルと南の勇者が剣を抜いた。
人類は知ることになる。魔族の敵は人類だが、人類の敵は魔族と人類であると。
次で終わりの予定です!