黎明のフリーレン   作:新グロモント

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ちょっとだけ、フェルン一家の話を。


閑話:人の心とかないんですか

 フェルン達とオレオールを目指したときより半世紀以上が経過した。今では、フェルンも立派な老魔法使い。レルネンを越える一級魔法使いとして、ゼーリエからの評価も高い。そんな彼女を心配してか、フリーレンもそれなりの頻度で彼女の元を訪ねている。

 

 人間の寿命は短い。彼女と会う度にソレを実感させられていた。

 

 そんな弟子思いのフリーレンが、昼食のタイミングでボンドルドに助けを求める。

 

「助けてよ、ボンドルド。フェルンが怒っちゃって口も聞いてくれないんだよ。過去に無い位の感じでさ~。人の心とかないんですかとか、言われちゃってさ。何が不味かったんだろう」

 

「……それは、相当な事をやらかしましたね。確か、先日は『むふ~、少し前にフェルンが私に老魔法使いって言ったよね。これで仲間入りだね』とか言って、怒らせていましたよね」

 

 エルフ的感覚で少し前だが、フェルン的には何時の話をしているんだというレベル。この場合、問題なのは中身だ。女性に対して年齢に関する事は禁句だというのに、彼女はまだまだ理解が足りない。

 

 その発言をしたのがフリーレンでなければ、ゾルトラークの早撃ちで殺されていただろう。事実、大陸魔法協会の殺し屋と名高いフェルンにババァ発言した若者の魔法使いが、永久に再起不能にされた事件もある。

 

「あれは、酷い事件だったね。フェルンも自分が言われて嫌な事は人には言ったら駄目なのに……」

 

「何時も言いますが、人間の感覚をもう少し学んでください。で、今回は何を言って怒らせたんですか?フェルンさんもフリーレンさんとの付き合いは長いです。余程の事じゃ無いと怒らないと思います」

 

 フリーレンが、その時を再現しようと魔法を使って状況を再現し始める。

 

■■■■

 

 イドフロントで生活をするフェルン一家。伝説の殺し屋一家的な存在となり、家長のフェルンが一番偉い。本人には全くその気は無いが、周囲がそのように評している。

 

 それも運命だ。フェルンとシュタルクの子供達は、立派に育った。フェルンの魔力とシュタルクの肉体を継いだ優秀な戦士、魔法使い、魔法戦士を量産した。彼女達一家が揃えば、街一つ落とすのは容易い。

 

 そんな子供達を立派に育て上げたフェルンとシュタルクだが、両名とも高齢だ。後10年も生きられないだろうというのがボンドルドの見解。だからこそ、フリーレンも気に掛けた。

 

 手土産を持ってフェルン宅にお邪魔しているフリーレン。手土産は、魔王国産の果実だ。魔族達が魔法を使い品種改良を行った結果、一般市場に出回る物より遙かに品質が良い。魔族達は一つの魔法を極める為に頑張っているので、こっち側路線の魔法を極める連中は重宝されている。

 

「フリーレン様。これって、魔王国の名産品でしたっけ?良く手に入りましたね」

 

「献上品だから気にしないで良いよ。これでも、裏向きの顔は魔王国七崩賢の一人だからね」

 

 フェルンも知るボンドルド達の裏の顔。彼女は、魔王国建国の裏事情を知る数少ない人物だ。アウラが魔王として復活した時点で、フェルンは事情を察していた。

 

「相変わらず無茶苦茶でございますね、フリーレン様。魔王国と言えば、ヒンメル様もいらっしゃいましたよね。髪はありませんが、若い頃の身体で。私がお会いした時は、ご老人だった記憶があります。もしかして、魔王国では若返りの魔法があったりしますか」

 

「無い。だって、魔族は年齢とか気にしないから」

 

「そうでございますか。この歳になって、若さがどれほど大事だったか思い知りました。フリーレン様は、何時までも変わらず羨ましく思います。昔は、大人になりたいと思うことも多かったですが、今では若返りたいと思うのは人の業ですね」

 

「別に若さなんてどうでも良いと思うよ。……あっ」

 

 フリーレンは、この時思い出した。だが、ソレを今のフェルンに伝えるとブチ切れられるだろうとも理解する。

 

 同時にフェルンも感づく。伊達に、フリーレンと長い時間付き合っていない。今の「あっ」の発言と何かを隠そうとする不審な行動は直ぐに目をひいた。

 

「フリーレン様。今、思い出した事を一字一句間違わずに口に出してください。内容次第では、怒りませんから」

 

「20年ほど前、魔王国建国した頃だったかな。ボンドルドからフェルンに伝言を頼まれていたんだよ。『フェルンさん達には、大変お世話になりました。次世代の私にも協力頂いた恩をお返しさせて頂きたいと思います。細胞を活性化させて全盛期の肉体を取り戻すレベルの回復魔法を何時でも無償でお掛けしましょう』ってね。正直、興味が無い魔法だったのですっかり忘れてたよ」

 

 エルフにとって、今が全盛期。つまり、ボンドルドの革新的な若返りの魔法など、エルフ視点では無用な長物に等しい。フリーレン内で価値が低いと判断されてしまい、魔法と一緒に記憶がお蔵入りしていた。

 

 ちなみ、ボンドルドの今の肉体はフェルン達の孫にも相当する。フェルンの子供(デューク君)の血が流れている。歴代最高の出来だった頃には劣るが、総合評価で言えば悪くない。

 

「それって、私達人間にとって若返りと不老です。それの機会を数十年失っていたという事なんですか………人の心とかないんですか?フリーレン様」

 

「エルフだから、人の心はないかな。エルフの心なら確かにここにあるよ」

 

 むふ~といったドヤ顔で薄っぺらな胸を自慢する師匠を見たフェルン。

 

■■■■

 

 という、魔法での再現映像を見せられたボンドルドは、頭を悩ませた。その映像を一緒に確認していたプルシュカとアリスも絶望的な表情を浮かべている。まさか、自分の母親がここまで鈍感だったとは想像できなかった。同じ血筋として、少し恥ずかしくも感じていた。

 

「フリーレンさん、残当です。これから大事な伝言は紙媒体で用意しますので確実にお渡しするようにしてください。私もこれから一緒に謝りに行ってあげます」

 

「結局なんで怒っていたんだろう。魔法使いにとって、全盛期って今だと思うんだよね」

 

「はぁ~なの。ママが本当にパパと付き合えているのが疑問に思えてきたわ。今のフェルンお姉ちゃんの気持ちなんてプルシュカでも分かるわ」

 

「アリスは知ってます。こういうのは、クソボケって言うんだって先生(ゼーリエ)が言ってました。ママは、まだまだ子供です」

 

 永遠の若さを持つフリーレンには、老化という現象がどれほど恐ろしい物か理解ができていない。

 

………

……

 

 イドフロントに実の子供や孫より若々しい男女が増える。肉体が全盛期に戻ったという事は夫婦のやる事はただ一つ。人間は何歳まで高齢出産に耐えられるかチャレンジを始めていた。

 

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