本当のママが分かる優しい魔法。世間一般的に、凄い民間魔法として各方面で役に立っていた。だが、開発者はその出来に納得していない。不要な要素を取り込んで、忖度や配慮しすぎた魔法など不要だと考えた。
そこで、今度こそ血縁だけを見て答えを出す魔法を生み出す事に尽力する。まさに、何世代も時代を先取ったDNA鑑定魔法だ。今の世では、血縁関係を証明する事は事実上不可能と言われており、それを魔法で成す事は偉業とも言える。
一見すると誰もが渇望する魔法に思えるが、誰も開発に至らなかった事には理由がある。絶対的なサンプルの不足と各方面からの謎の圧力だ。血統的に間違いなく親子だと言い切れる存在が思いの外少なかった。このご時世、托卵や不貞など溢れかえっている。
当然、時の権力者達でも同じだ。王侯貴族達は、この魔法は良しとはしなかった。内戦の火種になるからだ。
しかし、ここに一人の天才魔法使いが現れてしまう。金と権力と知識と設備も全て揃っていれば、発明してはいけない魔法が出来上がるまで時間の問題だった。
「むふ~、完璧だ。私だって人の心が分かるんだからね。ボンドルドが寂しくないように『本当のママが分かる優しくない魔法』『本当のパパが分かる優しくない魔法』をペアで作ってあげた」
肉体を入れ替えて、擬似的な不老不死を体現しているボンドルド。彼の子供は、DNA的には親族だが血縁的にはパパには該当しない。この場合、彼女が本当に用意すべきだった魔法は、『本当のパパが分かる優しい魔法』だったのは言うまでも無い。
魔法の出来に満足したフリーレンは、早速魔道書の量産を始める。両方の魔道書を100冊ずつ用意して魔王国経由で世にばらまいた。流浪の魔法使いアーニャとして…。
………
……
…
それから数ヶ月後。フリーレンが世に放った魔法の評判は……賛否両論だった。超一流の魔法使いが作った歴史に名を残すレベルの魔道書。その完成度の高さに、一級魔法使い達ですらべた褒めする程だ。
この魔法の凄いところは、本当の(ガチ)パパや本当の(ガチ)ママが居る方角まで分かると言う事だ。更には、魔力消費も少なく一般人でも魔力が少しでもあれば、使えてしまう。
この結果、人類圏では内乱や離婚、相続争いなどが勃発して混沌を極め始める。更に、魔王国経由でばらまかれたという事で、魔王国が人類に牙を剥いたと言う声まであった。コレに対して、魔王国は無関係だと各方面に通達する。そもそも、アーニャという人間が魔法学校の生徒であった事から、人類側の画策ではないかと魔王国も応戦を始めた。
まさに、人類と魔族の戦争が秒読み状態になりかけている。
そんな世間事情とは隔離されているイドフロント。フリーレンは、ふーーん戦争か~大変だね程度の気持ち。そんな世間事情よりも今は、世間一般的に魔法の出来が証明された事で、家族にも使って貰う時が来たとワクワクしている。
「むふ~、今世間を騒がせている伝説の魔道書を
フリーレンが自慢げに見せびらかした世間を騒がしている二冊の魔道書。
ボンドルド、プルシュカ、アリスはこの魔道書を作った人物は、人の心が分からない人なんだなと思っている。『本当のママが分かる優しくない魔法』までは、ギリギリセーフだ。子供は母親が産むのだから、確率的に母親が本人だ。
だが、『本当のパパが分かる優しくない魔法』は、マズイってレベルではない。その理由なんて、子供でも分かる。
「ねぇ~、フリーレンお姉ちゃん。あんまりこう言う事は、言いたくないんだけど……
「アリスは、フリーレンお姉ちゃんがクソボケなのは知っていますが……酷いです。あんまりです」
プルシュカとアリスは、ボンドルドが肉体を入れ替えている事を当然知っている。だから、『本当のパパが分かる優しくない魔法』の結果がどうなるか分かりきっていた。
「家族とは、血の繋がりのみを言うのでしょうか?私は、そう考えていません。慈しみ合う心がヒトを家族たらしめるのです。血は、その助けに過ぎません。愛です、愛ですよプルシュカ、アリス。それに家族とは、他人同士が出会い築き上げるものですよ。……さぁ、フリーレンさんが泣きそうなので、魔法を使ってあげてください」
「ママ~!? 大好き」
「やっぱり、ままは素晴らしいです。アリスも見習いたいです」
プルシュカとアリスがボンドルド♀に抱きつく。魔法の結果で変わる事がない愛がそこにはあった。
「「本当のパパが分かる優しくない魔法」」
プルシュカとアリスの頭部に父親の名前が表示される。それぞれ、父親だった者の個体名+(ボンドルド)という独自表記になる。だが、父親がいる方角はボンドルド♀が居る場所を示す。
「凄いね、ボンドルド。まさか、個体名の横に(ボンドルド)という固有表記は初めて見たよ」
制作者の理解を超えた仕様。それは、バグ存在のボンドルド独自仕様だった。
そして、続いてママが分かる魔法をプルシュカとアリスが唱えた。
「「本当のママが分かる優しくない魔法」」
フリーレンという文言が確かに、浮かび上がる。ソレに満足するフリーレンは、子供達二人に言い放つ。
「むふ~、ママはこっちだよ」
「はぁ~、これだからフリーレンお姉ちゃんって呼ばれるんだよ。
「それは賛成です。アリスも含めて美少女エルフ三姉妹です」
本当のママがフリーレンだと分かったのに、何故か娘達が抱きついてこない。更には、娘達と一緒にボンドルド♀に抱きしめられてしまったフリーレン。その心地よさに、試合に勝ったが勝負に負けた気がしてきた。
「………欠陥魔法だね。次は、もっと良い魔法を持ってくるから!? 首を洗って待っててね」
失敗は成功の母。
フリーレンは、次なる魔法を開発するため引き籠もる。出産経験の無いボンドルド♀に母性を感じる事が誤り、自分こそ母性がある事を証明する魔法………『女性の経験人数、性病歴、出産歴が分かる魔法』だ。言い換えれば、ブライタルチェック魔法。
彼女は忘れていた。ボンドルドが、女性体で何度も出産経験があった事を。
内乱、離婚、少子化……人類が減っていく。
どうしてこうなった。
早く何とかしないと