元勇者のモンクは、ただ者では無かった。その圧倒的な実力を前にズタボロにされる魔物達。彼は、今まで惰性で身体を鍛えて女神に信仰心を捧げてきた。だが、遂に報われるときが来たと、気合いが1000%だ。肉体が絶好調でどんなに働いても疲れを感じない。
「無駄無駄無駄ーーーー!! 貴様等なんぞ、アリス様の手を煩わせるまでも無い。このクラフトが全て倒してくれる」
数十匹は居たはずのオオカミの魔物が文字通り、時が止まったかのように一瞬で死滅した。何より恐ろしいのは、今の状況でもアリスの強化バフが掛かっていない事だ。掛かれば当社比2割増しになる。つまり、時を止める時間も2割長くなる計算だ。
「クラフトさん、凄いです。アリスも負けてられません。このダンジョンで近道します!! ……光よ!! さぁ、早く攻略して次のお使いクエストに行きます」
ダンジョン構造をゼーリエが魔法で把握し、最深部目がけてアリスが極太の消滅魔法を打ち込む。全ての壁や天井、床を貫いて最深部まで一直線にいけるルートが確立される。ダンジョンを力業で攻略するのは良くない事だ。
地道に旅で経験値を稼ぐアリス。魔王アーニャ討伐というメインクエストの影にあるお使いサブクエストの消化も忘れない。戦争の仲介をしたり、薬草を探したり、魔物の間引きをしたりと旅らしい旅を続けている。
だが、一向に魔王アーニャの足取りだけは掴めなかった。
国内、国家間がギスギスしすぎて火種がそこら中に転がっている。これ以上注ぐ油が無いくらいな状態だった。ボンドルドですらそう感じる程の雰囲気があった。
「そろそろ、プルシュカお姉ちゃんが溜めた経験値を超えたかも知れません。アリスは、沢山の功績を積みました」
「甘いよ、アリス!! プルシュカは、フランメさんの結界魔法で沢山の場所で経験値を溜めたんだから。まだまだ、負けないわよ」
フリーレンは、娘達が確固たる功績を積んでいる事を理解している。自分が見ていない時に子供がどんな成長を積んだか確認出来る良い魔法だと徐々に思い始めた。そして、大量に用意した魔道書……『相手の功績と犯罪歴が分かる魔法』を出荷する。
人の心が分かるフリーレンは、負の面もしっかりと見つめ直す機会を用意するため犯罪歴が分かる仕様にしている。何事も正の面だけ見ていては駄目だ。相手の良い所と悪い所を全て受け止めてこその人間関係の有るべき姿だ。
………
……
…
それから、一ヶ月後。魔王国経由で各国にばらまかれた魔王アーニャの魔道書が物議を醸し出す。
「むふ~、プルシュカとアリスの功績が分かる魔道書を仕入れてきたよ」
「ママが仕入れてくる魔法にしては、凄いまとも!!ねぇねぇ、プルシュカの功績ってどんなの?」
「アリスの功績も早く教えて欲しいです。きっと、凄く溜まっているはずです」
コレまでの汚名を挽回できると自信を持って言える魔道書。これで、少しは良い方向に世界が傾くとフリーレンは、本気で思っていた。
「ちょっと待っててね。相手の功績と犯罪歴が分かる魔法~」
フリーレンが魔法を唱えた瞬間、ボンドルド♀は聞き間違いだと思った。相手の功績までは良い魔法だ。だが、犯罪歴なんてプライバシー侵害も良い所だ。この世界がどんな場所なのか、彼女は本当に理解しているのだろうか。
賄賂一つで殺人すら無罪になる世界だというのに。
「フリーレンさん!! その魔道書はもしかして、魔王アーニャが著者だったりしませんか?」
「え、そうだけど。偶然、近所の魔法店で見つけたんだ。ほら、大丈夫だよ。プルシュカもアリスも犯罪歴はなしって出てる。ちなみに私もないよ。魔王討伐の功績とかもあって、凄いでしょ」
ボンドルド♀は嫌な予感が止まらなかった。人の心を解剖したかの様な嫌らしい魔法を作る魔王アーニャという存在が、そんな生易しい魔法を作るはずが無いと。
「フリーレンさん、この場に居る全員にその魔法を使って犯罪歴が表示された人を教えてください」
「えぇ~、仕方ないな。『相手の功績と犯罪歴が分かる魔法』……あれ?ボンドルドだけ、なんか凄い数の罪状が出てるよ。皆は出てないのに」
「私が検分してやるフリーレン。魔道書を貸してみろ」
ゼーリエがフリーレンから魔道書を取り上げた。
ゼーリエが少し読み始めると、頭を抱える。それ程までにこの魔法が酷かった証拠だ。吐き気を催すほどの邪悪を感じたゼーリエは、魔道書をボンドルド♀に渡す。ソレを読み解きボンドルド♀も理解する。
「こ、これは……罪状だけ人間のみが対象ですね。エルフや魔族はどんな罪も無罪とでる。参考辞典に六法全書?と記載があります。どこかで聞いた記憶が……」
この魔法は、罪状の横に何故その罪が計上されたかを事細かく理論的な説明文が表示される。まるで長い歴史で精錬されたかのような内容は、言い返すことが難しい程だった。
「何が問題なの?功績もだせば帳消しじゃない?」
「ママ~。駄目に決まっているでしょ!! そもそも、この功績ってかなりのレベルが求められているわよ。地方政府レベルを救済した案件じゃないと計上されないよ。アリスの功績は、戦争仲裁しかないのよ。プルシュカだって、フランメさんの結界修復案件や大魔族討伐した時の物しかないんだから」
「アリスは、これから人類がどうなっちゃうか心配です」
隣人を見たら泥棒と思えの世界をリアルで実現してしまった魔法。人類とは、0.1%以下の天才とその他無能で構成されている事をフリーレンはよく理解出来ていなかった。
一般人出身のボンドルドや、一般エルフ出身のフリーレンがある程度纏まった功績が立てられたのだから、皆数個くらいはあるよねって思っている。
「いや、でもこの魔法も意外と価値が高いかもしれないよ……ほら、そう思わない?功績とか分かるし」
「フリーレンさん、物の価値とは人それぞれです。この魔法が使いこなせる程人類は優れていません。それより、早く回収に回りましょう。既に遅いかも知れませんが、可能な限り出回るスピードを落とさないといけません」
自慢の魔道書をボロ糞に言われたフリーレンは若干傷ついた。
そして、この魔法の価値を理解して貰おうと、魔法を思いつく。人によって価値が変動するのが間違っている。この魔法の価値が分かれば、きっと正しい方向に進むはずだと。
次なる魔法は『物の価値が分かる魔法』だった。この魔法……物の原価だけでなく、人の価値まで測定してしまう事になる。
人類がこの苦難を乗り切れば、きっと成長できるはず。
まぁ、生き残った人類だけが正しい人間って可能性もあるけどね。
この人類滅亡案件があるから、勇者が同じ時代に三人もいる可能性がある。