勇者アリスの魔王アーニャ討伐の旅が始まり、一年が経過した。初代魔王討伐は1000年の時間を要した事を考えれば、まだ旅の序盤だと言える。だが、三代目魔王アーニャが人類に与えた被害は、未来分を含めると初代魔王の1000年分を越えようとしていた。
荷物持ちという立場を守ってきたボンドルド♀だったが、そろそろ限界を感じ始めた。本腰を入れて裏で調査を始めて、ボンドルド♀はある事に気が付く。複数の魔王アーニャ作の魔道書を並べた時、規格が統一されすぎた文字に人間業じゃ無いと。
「大量の魔道書を用意するのに、当初は人海戦術だと思っていました。だが、ボロが全く出ない。常人離れした単独犯だと思っていましたが、本当に常人離れしていました」
ボンドルド♀は、ため息をつく。
まるで印刷したかのような文字。誰にもばれずに大量に魔道書を用意できる所がこの世界で一箇所だけ存在していた。更に、魔王国に秘密裏に輸送もできて、幅をきかせられる人物。
犯人は、身内に居る。それも、イドフロントを自由に使えて、資財も使える。更には、魔王国の七崩賢として、作った魔道書を密輸してばらまける。
「しかし、思い込みで犯人を特定してはいけませんね。念のため、一芝居打ちましょう………で、ゼーリエ様はいつからお気づきでしたか?」
この場にしれっといるゼーリエ。ボンドルド♀が本腰を入れると知り、手伝う名目でこの場に居る。ボンドルド♀が問いかけると、ゼーリエはやっとかと言う雰囲気を醸し出す。
「『相手の嘘が分かる魔法』からだ。あのレベルの魔道書を作れる奴なんて、フリーレンくらいだ。私は、これでもアイツの事を高く評価している。お前等が盲目過ぎたんだ。もう少し俯瞰的に物事を見れば、もっと早く分かっただろうに」
「そう言われると痛い限りです。惚れた弱みですよ。ですが、ここまで被害が出る前に教えてくれても良かったのでは?プルシュカやアリスにまで、少なからず被害が出てしまいますよ」
プルシュカとアリスの事が大好きなゼーリエとしては、苦渋の選択だった。だが、コレも必要な事だと涙をのんでいた。その理由は……
「フリーレンに、貸しを作る必要があった。ソレも特大のな!! 理由は、言わないでも分かるな?私は、孫弟子と戦争なんてごめんだ。プルシュカとアリスにも嫌われたくないからな」
「私としては、このまま内緒にして欲しいのです。しかし、長寿の方達は墓場まで秘密を守るのは難しいから、仕方がありませんか。アリスは、感づいていたみたいですよ。最近、ゼーリエ様があまり構ってくれないって言ってましたから」
嘗てフリーレンは、ゼーリエに言った。ボンドルドに手を出したら戦争だと。ゼーリエに借りがある場合、どうなるだろうか。特大の借りだ。本人も言っていたが、功績で罪は帳消しできると。ソレを実演して貰おうじゃ無いかとゼーリエは、ほくそ笑む。
………
……
…
ある日、ボンドルド♀が提案をする。世に出回る魔道書より価値がある魔道書を皆で世界に回せば良いと。そして、各々が開発した魔道書がここに集結する。その考えはありだと、フリーレンも出来たてホヤホヤのオリジナルの魔道書を持ってきた。
「では、言い出しっぺの私からいきましょう。『伝線したストッキングを元通りにする魔法』です。女性体というのは思いの外、不便でしたので開発しました」
女性にしか分からない悩みを解決する魔法。これには、女性陣営から好評を得た。ストッキングをこの世界で開発し布教したボンドルド♀の叡智の魔法。
「次は、プルシュカがいきまーーす。『靴紐が上手に結べる魔法』だよ。蝶蝶結びって難しいから、これで形の綺麗な結びが出来ちゃいます」
魔法を使って再現する程かと言われれば微妙だが、苦手な人には有り難い魔法だった。まさに、魔力の無駄遣い。
「アリスの番です。『お洋服を綺麗に畳める魔法』です。アリスのお洋服は、たたむのが大変なので便利な魔法を作りました。コレでお洋服がしわしわになりません」
自分の洋服を洗濯してたたむ良い娘だった。母親も見習って欲しいと、近くに居る夫は思っていた。
「最後はフリーレンに譲ってやる。そうしないと魔法が披露できなくなるからな。私はこれだ『子供の成長を遠くから見守れる魔法』……使い方はその名の通りだ。ミリアルデもフリーレンの前に終わらせておけ」
子供思いのゼーリエらしい魔法だった。今も継続して使われている。だから、万が一の場合には何時でも飛んで帰る事が出来てしまう。
「そう?じゃあ、私はコレよ。『水をスピリタスに変える魔法』。これで何時でもお酒が飲めるわよ」
産まれる場所と時代が違ければ、間違いなく聖人扱いされたであろう魔法を開発しているお酒好きのエルフだった。きっと、ハイターがいたら気が合っただろう。
そして、モンクは才能が無いのでお休みだ。最後に出番が回ってきたフリーレン。ご自慢の魔道書を見せ付ける。
「むふ~、コレが私が開発した『物の価値が分かる魔法』だよ。これで、世界の平和が訪れる。……え?皆どうしたの、そんなため息をついて。それに、アリスもプルシュカもそんなに抱きついたら魔法を見せられないって。ボンドルドまで」
犯人を確保した、ボンドルド達。フリーレンの手から魔道書が取り上げられて中身が検分される。そこには、魔王アーニャが作った魔道書と同じ文字と印刷。更には、恐ろしいトラップまで仕込まれていた。
取り上げたゼーリエが試しに魔法を使ってみる。
「フリーレン……お前、この魔法は碌にテストをしてないだろう。物の価値が全て原価表示で、人の価値までみえるぞ。どんな基準でつくったんだ」
「信じたくなかったけど、ママが魔王アーニャだったなんて……あれ?でも、そうなると学友だったアーニャちゃんてママってことじゃない!!酷いよママ。プルシュカを信じて学校に通わせてくれていたと思ったのに監視していたなんて」
「アリスの大冒険が大惨事になっちゃいました。アリスは、怒りました。ままが反省するまで、一緒に寝てあげません」
なぜ、魔道書一つでそこまでばれてしまったか理解出来ないフリーレン。言い訳を始めそうだった事を察して、ボンドルドが助け船を出す。過去も現在も未来もフリーレンの味方であるボンドルドは彼女を決して見捨てない。
「フリーレンさん、言い訳してはいけません。まずは、言う事がありますよね」
「………ごめんなさい。自分でも、収拾が付かなくなってきたのは分かってたんだ。でも、何とかなると思って。くずん」
半べそをかいて謝るフリーレン。そこには、魔法を使った本気度を測る必要などない。相手の雰囲気をみれば、どの程度本気なのか分かる。
「まぁ、そんな事だろうと思っていました。じゃあ、フリーレンさん私に何か相談やお願いしたい事はありますか?」
「助けて、ボンドルド」
「えぇ、お任せ下さい」
フリーレンは、助けてと言った。ボンドルド♀が任せろといったので、思わず思ったことを口にしてしまう。
「え!? 今から助かる方法なんてあるの?」
その言葉に彼女の娘達は、そういう所だよって力強く母親を締めあげる。苦しいというフリーレンをみて全員が残当だと言い放つ。
「もう少し早く相談して頂ければ、色々と手はありましたが……彼女を頼りましょう。幸いな事に、アーニャと特徴も被っておりますし立場的にも、魔法的にも何とか出来るでしょう」
赤髪で、角があって、爆発オチを付けられる概念魔法を持っていて、三代目魔王を名乗っても違和感が無く、名前もアから始まる彼女なら何故か何とか収められる気がする。
勇者アリスPTが魔王国を目指していることを知ったアウラは、胃痛に悩まされていた。
最後の魔法は何とか出回らなかったので、今から持ち直せる?はず。
次話くらいで終わらせないなと……。