黎明のフリーレン   作:新グロモント

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閑話:叡智と破滅は紙一重⑧

 狂気の勇者PTが魔王国を目指しているという情報をいち早く入手したアウラ。彼女は、この世界を地獄に堕とした犯人が魔王国にいないか、何度も調査を行った。力のある魔族達は個々に呼び出されアウラの魔法により、嘘偽り無く無実が証明されている。

 

 その状況なのに、化け物達が魔王国を目指すという事は本当に諸悪の根源が、魔王国に居るのではないかと思うのは仕方が無い事だ。

 

「うな~、落ち着けよ、私。ボンドルド達が魔王国目指しているのは分かるが、たんに立ち寄るだけかも知れねーだろう。北には、エンデ地方とかもあるしな」

 

「コレが落ち着いていられるわけ無いでしょナナチ!! というか、なんであんたは、そんなに落ち着いているのよ。あんたもアーニャとかいう子供と同じ魔法学校の生徒だったんでしょ。探しに行きなさいよ!」

 

 アウラは、自分の魂の欠片から生み出されたナナチに文句を言う。アウラと違いナナチは、安心していた。立場や性質上……何があってもナナチが死ぬ事はない。魂レベルで完全服従させられている存在である上に、アンブラハンズから産まれた子だ。言い換えれば、ボンドルドとは血縁関係でもある。

 

「いざとなったら、オイラも頭を下げてやるよ。ボンドルドは、話の分からない奴じゃ無い。出来る事を精一杯やった結果がこれなら、許してくれるさ」

 

 アウラは、未だにボンドルドに対して苦手意識が抜けない。会うだけで動悸するほどだ。場合によっては呼吸困難で倒れそうになる。それ程までのトラウマが植え付けられている。何度も、いっそ殺してくれと懇願しそうになったことか思いだしただけでも呼吸が乱れてきた。

 

………

……

 

 魔王国の食糧事情は、人類が混沌に落ちるほど良くなる。犯罪者などが大量に魔王国に売り込まれて、魔族の腹を満たす。だが、一度贅沢を覚えてしまうと人も魔族もソレが忘れられない。

 

 新鮮で美味しい食事が食べたいと欲求が湧いてしまう。魔族にとって最高のご馳走は人間だ。その中でも女子供の肉が特に人気がある。しかし、女子供への無差別な殺しはアウラの魔法によって、魂レベルで抑制されているというジレンマが生じている。

 

 大の大人なら多少の我慢はできるだろうが、育ち盛りの子供達には苦痛でしか無い。当然、未来の魔王国を支えるであろう便利屋に所属するメンバーもそうだった。だが、そんな所に目を付けた人物がいる。

 

 その人物が、本日魔王国にある便利屋に仕事を持ってきた。便利屋の代表で現魔王アウラの娘アルが応対する。

 

「話は聞かせて貰ったわ。私を雇うなら高く付くわよ」

 

「えぇ。問題ありません、さぁ何でも望みを言ってください」

 

 ボンドルド♀が持ち込んだ依頼は、三代目魔王として君臨して表向きに討伐されて欲しいと言う内容だ。勿論表向きである為、生命の保証はするし色々と補填も準備している。つまり、魔王アーニャの汚名を全て背負って欲しいと言う内容だ。

 

 事実、二代目魔王アウラの子供なのだから、三代目を名乗っても不思議じゃ無い。アーニャと髪の色も似ているし、実は子供の頃には人間に紛れて学校に通っていたというカバーストーリーも用意出来ている。消息が追えなくなったのも魔族ならどうとでもなる。

 

「………ほ、本当に高く付くわよ!!」

 

「えぇ、ですから問題ありません」

 

 魔王アーニャの存在については、アルも当然耳にしている。その代役になってくれという依頼がくるとは彼女も想定していなかった。汚名を被って、表向きに死んでくれなど簡単に頷ける内容ではない。だが、便利屋を営業している以上、依頼をうけないのは彼女の心情に反する事があった。

 

 よって、相手に無理な報酬をふっかけて、諦めさせようと考えた。

 

「そうなの。……そうだわ。私って、これでも魔王の娘なのよ。アウラ御母様が健在なのに、三代目を名乗るなんて出来ないわ。いや~、残念だったわ。と言う事でこの依頼は申し訳無いけど」

 

「なるほど、その通りでしたね。では、アウラさんには引退して貰いましょう」

 

 アルは、ヤバイ事を口にしてしまったと本能で理解した。今目の前にいる狂気の勇者PTは、一人でも魔王国を鎮圧できそうな化け物揃い。魔王を物理的に引退させる事もできる恐ろしい連中だ。

 

「ごめんなさい。間違ったわ。………そう!私が大きな仕事を受けるのには、七崩賢全員の承認が必要なのよ。魔王の娘で希少な概念魔法をもってるから」

 

「なるほど、では問題ありません。今すぐ、ナナチとファプタからも承認を得れば問題ないという事ですね」

 

 魔王国の七崩賢は、全てボンドルド一派の仮の姿だ。ソレを知っているのは、アウラとヒンメルだけである。アルですらその事実はしらない。魔王アウラを越えるかも知れない七崩賢がいるからこそ、魔王国は健在だと考える魔族も多かった。

 

「駄目よ。七崩賢全員からの承認よ。ソレが取れないのなら、やっぱりこの依頼は無理ね。いや~残念だったわ。私の力が皆に披露できなくて」

 

「あぁ、そういえばアルさんはご存じなかったんですね。魔王国の七崩賢ボロスとは私の仮の姿ですよ。後、フリーレンさん、アリス、プルシュカも七崩賢を兼任しております。声に聞き覚えがありますよね?いや~、良かった。ナナチとファプタは私が作った次世代の魔族です。コレで安心して依頼が受けられますね」

 

 何を知ったか理解したくないアル。頭の中を巡る情報が、完結しない。魔王国が傀儡国家である事実を受け入れたくないと思っていた。だが、彼女の目の前に居る化け物達の声は確かに聞き覚えがあった。

 

 アルにはまだ依頼を断れる可能性が僅かに残っている。それは、依頼報酬だ。払いきれない物を要求すれば相手が引き下がる!!

 

「まだよ!! 私を雇うにはそれなりの覚悟がいるのよ。安くないんだから……そうね~。魔族は、人間を食べるのよ。だから、貴方の心臓をくれるのなら、この依頼を受けてあげるわ。その位の覚悟を見せて……え!?」

 

 ボンドルド♀が目の前に亜空間を広げた。その先に映るのは己の心臓。躊躇無くわしづかみにして、心臓を引き抜いた。女神の領域に足を踏み込んだボンドルド♀ではあったが、心臓を失えば、流石にキツい。回復魔法で修復をかけるがしばらくは安静にする必要がある。

 

「依頼報酬は先渡しです。これで、契約成立ですね……ゴホゴホ」

 

 便利屋は、自ら退路を断ってしまった。相手の覚悟を見誤った。ソレが全ての原因だ。下手に理由を付けずに断れば良かったが、相手を辞退させようとした結果コレだ。彼女もフリーレンと同じくドツボに嵌まる属性をもつ。

 

 後日、アウラが娘に起こった事を知り、フリーレンに苦情を入れる。「人の心とかないの?」と。だが、フリーレンは「ごめんて。それと、人の心はないよ。エルフだからね。むふ~……あ、これ言うとエルフの皆も同じにするなって怒るんだった。何て言えば良いかな?アウラ」と打ち返すやり取りがあった。

 

………

……

 

 アルを含めた便利屋が快く依頼を引き受けてくれた事を契機に事態は動く。大陸魔法協会と教会が、魔王アーニャの足取りを掴んだと世界に公開。そして、旧魔王城跡地を根城にして活動をしていると。

 

 嘗て、人間に追われた魔族が魔法学校で生徒に紛れ込んでいた。そして、正体がばれそうになり、行方をくらましたというストーリー。

 

 幼名はアーニャ。今の名は……リクハチ=マアル として改名して君臨。これで、魔王国のアルとは無関係だという事にされている。

 

 その魔族が世界にばらまいた魔道書のお陰で、家族や未来を失った人類から恨み言の如くこう言われた。

 

「殺してやるぞ、リクハチ=マアル」

 

「なななな、なっ、なんですってーーーーーー!!!???」

 

 親子二代にわたり、フリーレンというエルフの餌食となった魔族。そんな彼女からは、鳴り止まないBGMが年単位で続いた。BGMがキレると死ぬ可能性があり、彼女は毎日白眼を向いて、吐きながら依頼をこなす。

 

 狂気の勇者PTとの偽りの決戦が行われて、表舞台から退場するまでの間……アルを含めた便利屋は、エルフと関わると碌な事が無いと魂レベルで理解した。

 

◇◇◇◇

 

 フリーレンは、今回の一件で大陸魔法協会……主にゼーリエに特大の借りが出来てしまう。カバーストーリーからお膳立て。三代目魔王リクハチ=マアルに相応しい側近達も魔法の分身で用意した。まさに大盤振る舞い。普段の彼女からは考えられないほどだ。

 

 だが、そのお陰でもあり実に信憑性がある魔王討伐の旅を終えられた。アリスも大量の経験が積めて御満悦だ。

 

「さて、フリーレン。そろそろ、精算の時間だ」

 

「分かったよ、ゼーリエ。今回は、本当に世話になったよ。ありがとう。私に出来る事なら、何でもするよ」

 

 何でもする。それは、彼女にとって本当の気持ちだ。今回の一件は、ゼーリエの協力で解決した事が大きい。フリーレンもその位の感謝の気持ちがある。例え、アリスが養女に欲しいと言われても、許そうと思っている。

 

「そうか、何でもするか。では、二つ要求がある。一つ目は、お前はこれから自分が世界にばらまいた魔法の対抗魔法を作れ。開発者が作るのだから、他の誰が作るより早くできるだろう。マッチポンプみたいで嫌いだが、そうも言ってられない。当然だが、検証作業には私とボンドルドが関わるからな。勝手に公開するなよ」

 

「そうだね、ゼーリエの言うとおりだ。私が、責任をもって開発するよ」

 

 コレにはフリーレンも納得だ。誰かが開発するだろう……しかし、一番最速で高度な防御魔法が作れるのはフリーレンだった。開発者の強みがココで活きる。

 

「では、二つ目だ。フリーレン……お前に何ら被害がないのは私は納得していない。お前が一番得意な魔法だ。フリーレンの脳を破壊する魔法(ゾルトラーク)

 

 ゼーリエが『男性の経験人数、性病歴、経済力、顔面偏差値、身体能力、将来性、テクニック叡智レベルが分かる魔法』。

 

 ボンドルド♀が『女性の経験人数、性病歴、出産歴が分かる魔法』。

 

 二人がコレを使った。一瞬、フリーレンも咄嗟のことで理解出来なかったが、そこに並んだ項目をみて、おかしな点に気が付く。

 

「…あれ?ぼ、ボンドルド。あれ?あれ?」

 

「すみません、フリーレンさん。断れない筋からの依頼だったので。でも、愛しているのはフリーレンさんだけです」

 

「うっ脳がぁぁぁぁぁ~、脳がぁぁぁ」

 

 コレを実現したのがゼーリエが開発したお前がママになるんだよ(生やす魔法)だった。

 

 頭を抱えて苦悩するフリーレン。かつて、彼女は同じ事をヒンメルにやっていた。因果応報とはこの事だ。

 

 そして、ゼーリエはトドメを刺す事を忘れない。別室で、アリスとプルシュカとは既に面会を終えていたゼーリエの娘。その子供が、部屋へと乱入して来た。

 

パパ(ゼーリエ)~、ママ(ボンドルド)~。プルシュカお姉ちゃんとアリスお姉ちゃんからお菓子を貰ったの……あれ?こっちのお姉ちゃんはどうしたの?頭が痛いの?」

 

 脳破壊の痛みを味わったフリーレン。NTRされた心の痛みを理解し、人として少し成長を遂げる。人の脳を破壊する者は自分も破壊される……これが世の心理だった。

 

 




ふと思いついたネタ話は、コレで完了!!

最後までお付き合い頂きありがとうございます。
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