黎明のフリーレン   作:新グロモント

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閑話:リィンバウム事変④

 魔族は、サーチアンドデストロイの方針を貫くフリーレン。和平交渉に来た魔族を殺害しようとしたところ衛兵に捕らえられてしまった。大人しく捕まり投獄される彼女だが、それを見送るフェルンは心配だった。

 

 師の身より、衛兵達の心配だ。

 

 その気になれば、街を地図から消せるフリーレンだ。その事は彼女もよく知っており、場合によっては街の安全のため、フリーレンを脱獄させようとすら考える。

 

「行きますよ、シュタルク様。このままでは、フリーレン様が何かやらかしそうな気がします」

 

「分かった。プルシュカとアリスはどうする?やっぱり置いて行く?」

 

 これから行う事は犯罪行為。それに子供を巻き込むのはどうなんだろうかと考えるフェルン。だが、二人ともフェルンより遙かに年上だ。見た目こそ幼いが、その力量はフリーレンが認める程だ。

 

「アリスとプルシュカは、これから会いたい人がいるからお出かけする。だから気にしないで良いよ」

 

「生アウラにサインを貰いに行きます。レアアイテムとしてお部屋に飾ります」

 

 子供のエルフ二人だけで街の外まで行くつもり。本来なら止めるべきなのだが、フル装備の二人から発せられる洗練された魔力。一瞬、フェルンは、彼女達をフリーレンと錯覚してしまう程だ。

 

「無事に帰ってきてくださいね」

 

「危なかったら助けを呼べよ」

 

 子供の心配より自分の心配をすべき状況。犯罪者の脱獄を手引きなどしたら、指名手配されて今後の人生設計が崩れるだろう。

 

「大丈夫よ!プルシュカとアリスは、二人で最強なんだから」

 

「アリスも光の剣スーパーノヴァを解禁します」

 

 魔王装備を取り出したプルシュカ。勇者装備を取り出したアリス。この本気の二人を前に立ち向かうことになる七崩賢アウラは、勇敢を通り越して無謀だ。彼女は、存在しない記憶を見ることになる。

 

………

……

 

 脱獄犯フリーレンは、事の元凶であるアウラを処理してから次の街に逃亡をする事を決めた。魔族が衛兵を一人殺したが、それに対して自らの無実の証明をするのが面倒だという理由。

 

 街の中には、まだ二人の魔族がいるがフェルンとシュタルク、プルシュカとアリスが居れば余裕でお釣りがでると考えている。フリーレンの見立てでは、プルシュカもアリスも必殺技を隠しており、それはフリーレンを殺すに足る魔法だと彼女の勘が言っていた。

 

「…あれ?なんで二人もコッチにいるの?」

 

「フリーレンお姉ちゃんにそれを言われたくないな~。今から、アウラに会いに行くのよ!! アリスが生アウラのサインが欲しいって言うしね。私は、身の回りのお世話役が欲しいからお願いしようかなって」

 

「アウラの料理の腕前は、パパには劣りますがママ以上です。でも、アリスはママの料理も大好きです」

 

 これでは戦力比がコチラに傾きすぎているとフリーレンが少し困った顔をする。しかし、あの程度の魔族二人に後れを取るなら、今後の旅は難しいという判断もできるので、それもありかとフリーレンは受け入れた。

 

「そっか。それにしても、二人とも中々良い装備を持ってるね。プルシュカの方は、凄く見覚えがあるな~。この間倒した魔王が似たようなのを持ってたよ」

 

「でしょ~。だって、これ魔王が付けていた装備一式なのよ。パパとママと一緒に集めたんだから」

 

 魔王装備を持つエルフ。まさに、今代の魔王であると言われても不思議で無い。黄金郷マハトがエルフを魔王として君臨させる作戦にでたかとフリーレンは考えた。

 

 アリスがフリーレンの方をソワソワして見ている。そして、自慢気に光の剣スーパーノヴァを見せ付けてくる。これは、早くコッチも褒めてと言っている子供らしい行動だ。

 

「アリスの方も格好いいね。なんか、時代にそぐわない未来的な杖にみえるよ……本当に、誰がこんなの作ったの?」

 

「これは、アリスの専用装備の光の剣スーパーノヴァです。原材料に勇者の剣を使い、キーゼルさんを筆頭に一流のドワーフ鍛治師が鍛え上げた一品です」

 

「え?今、原材料に勇者の剣って言った?あれは、抜けないはずなんだけど……」

 

「勇者の剣を抜けるのは勇者だけです。アリスは勇者なのです」

 

 魔王プルシュカと勇者アリス。両名が魔族陣営の可能性があるとフリーレンは考えた。状況証拠的には、それが正しいのだろう。だが、何故か二人の事を疑いたくないと思う心が彼女にある。

 

 フリーレンの脳内では、プルシュカとアリスが敵だった場合を想定したシミュレーションが行われた。不意打ちで一人を確殺しなければ、勝つのは難しいと判断する。

 

「むふ~、大丈夫よ。フリーレンお姉ちゃん。私もアリスも人類側だからね。今、私達が魔族側だったら、殺そうと思ったでしょ?まだ、ネタばらしは早いから少しだけ情報を追加で教えてあげるわ。アリスの魔法の先生は、ゼーリエママ様なんだから」

 

「その通りです。ゼーリエ師匠(せんせい)がアリスの魔法の先生なのです。それで、アロナちゃんのパパは、ゼーリエパパです」

 

「……ママなの?パパなの?私の記憶だと、ゼーリエは女性だったんだけど。でも、確かにこの目で確認した事はなかった。そういえば、男だったかもしれない。きっと、そうだね!!」

 

 下半身を確認するまでは、ワンチャン性別が男かも知れないと謎の理解をしてしまうフリーレン。同族のゼーリエがパパになっていたという衝撃な事実を知ってしまう。

 

 そんな家族ネタを話していると目的地に着いた。そこには、アウラが大軍を率いて待ち構えている。悪夢にうなされ睡眠不足気味のアウラだが、自慢の魔法は健在。更には、前に現れた三人のエルフは、自分より魔力量が低いので安堵した。

 

「久しぶりじゃない。フリーレン。まさか、子連れで来るなんて、ちょっと常識がないんじゃない」

 

「80年振りかな。コッチにも事情があるんだよ。まぁ、ヒンメルなら確かに連れてこなかったかもね」

 

「ふーーん、まぁいいんじゃない。だって、ヒンメルはもういないじゃない(・・・・・・・・・・・・・・)。ヒンメルがもう……うそよ。私を置いて」

 

「そうか。よかった。やっぱり、お前達魔族は化け物だ。二人の親族だから許そうと思ったけど気が変わった」

 

「フリーレンお姉ちゃんストップ!! ストップだって」

 

「生アウラのサインをまだ貰ってません」

 

 アウラの前に立つプルシュカとアリス。その二人を見た瞬間、生アウラに流れる存在しない記憶。それは、ボンドルド時空でのアウラが経験させられた思い出したくもない鮮明な記憶だった。

 

 どこぞの忍者漫画に出てくる月読並の経験をさせられてしまったアウラ。脳みそを鷲づかみにされてシェイクされたかのような痛みが彼女を襲う。

 

「ア゛アァァァァァァァァ。止めて止めて。もう痛いのは嫌なの、もう教えられる情報は本当に無いのよ。殺して、私を早く殺してよ~……助けて、ヒンメルーーー!! また、フリーレンが私を虐めるの。もう解放してよ、私が一体何をしたって言うのよ」

 

 白眼を向いて口から泡をふいてのたうち回るアウラを見たフリーレン。流石に、この状況で殺すのは少し気分が悪いと思ってしまった。色々垂れ流して、大魔族としての威厳など何処にも無かった。

 

 それに、なぜ、ヒンメルに魔族が助けを求めるのか疑問で仕方が無いという事もあった。そもそも、ヒンメルが死んだから魔族達が動き出した。それなのにヒンメルに助けを求めるのは理屈が合わない。

 

「仕方が無いな~。《アウラ、落ち着け。そして、アリスが持ってきた色紙にサインしろ》」

 

「お、ねがいフリーレン。今しかないの……ころじで。もう、いぎだぐない」

 

 アウラの魂は、しっかりと命令を覚えていた。そして、肉体にその命令を忠実に実行させる。アウラが誇る魔法は、世界を越えても有効化されてしまった。

 

 気合いと根性で必死の抵抗を見せるアウラ。最後に殺してくれとフリーレンに願う。今しか彼女にはチャンスがない。魂に刻まれた命令がこの世界に完全に順応する前に逃げ切らねば彼女に未来はない。

 

「生アウラお婆ちゃんは、捨てるなんて勿体ない。アリスは、アウラお婆ちゃんの魔法が凄い事を知っています。だから、仲間に引き入れます」

 

「《アウラ、プルシュカとアリスの命令に従え》……なんてね」

 

 プルシュカの真似をしてアウラに命令を出してみたフリーレン。アウラに対して優先命令権を持つ一人にフリーレンがいる。この世界にも魂の命令が順応されつつあるアウラは、それに逆らうことが出来なかった。

 

 

 

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