最近、何故か弟子達からの視線が余所余所しいと感じるゼーリエ。
弟子達から彼女に振られる話題も何故か家族の話題や子供の話題ばかり。書類仕事も何故か急激に減ってきて、もっと大切な事に時間を使ってくれと懇願されるという不可解な事が続いている。
「お前等、何か私に隠している事があるだろう?レルネン」
「それが……ゼーリエ様の子供を名乗るエルフが二人。今回の一級魔法使い試験に参加しております。既に一次試験を突破し、二次試験へと本日挑む事になっております。二次試験は、零落の王墓です。お子様に、万が一があったらどうしようかと」
耳を疑うゼーリエ。
この1000年でゼーリエですらエルフを見た事は片手で足りる。だというのに、エルフの新生児が二人も一級魔法使い試験に来たことは驚きだ。何より、私の子供を名乗って参加してくるエルフを馬鹿正直に信じる弟子達には、もっと衝撃を受けた。
大事な事だが、プルシュカもアリスも一言もゼーリエの子供だとは名乗っていない。ゼーリエママ様と受付で伝えただけだ。勝手に勘違いして尾びれ背びれが付いた結果がこれだ。
「そんな与太話をお前が信じるとは、何年私の弟子をやっているんだ?馬鹿か?」
「私もそう思いたかったです。しかし、証拠を持ち込まれました。どのような角度から検証を行っても、本物だと示しています。一体、どういう事ですかゼーリエ様。私は、今、冷静さを欠こうとしています」
ゼーリエは、コッチが聞きたいと疲れた表情を見せる。
まだ、ぼけるには早いだろうと。呆れた顔でゼーリエは、その証拠と言われた一枚の写真を確認する。見た事も無い場所でゼーリエがエルフの赤子を愛おしそうに抱きかかえる証拠写真が確かに存在していた。
世の中には、三人はそっくりさんがいるという。エルフで三人もそっくりさんが居る事はあり得ない。エルフ人口の半数近くがゼーリエになってしまう。
「記憶に無い。コレを持ってきた奴等は何者だ?他には誰が居た?」
「最年少で三級魔法使い試験を突破したフェルン魔法使い。その写真に写っているアリスというエルフの姉であるプルシュカ。それと、フリーレン様と断頭台のアウラがおりました」
「なんだ、その面子。私に喧嘩を売っているのか?それに普通は、私の子供で無くフリーレンの子供だと思うんじゃないか。なぜ、私なんだ?」
一級魔法使いの中でもキレ者だと言われているレルネンがクソボケになっていたことにゼーリエは若干ショックを受ける。状況証拠から考えても、フリーレンの子供だというのが筋だろうと。
後、大魔族アウラが一級魔法使い試験を受けている事に何か疑問は無いのかと、それも突っ込みたかった。門を広く開いているからと言って、魔族は無いだろう。
「ゼーリエママ様と受付で騒いでおりましたので……確かに、プルシュカと呼ばれていたエルフは、銀髪でした。後、アウラの件ですが、大陸魔法協会の規約に魔族は所属できないとはありませんでしたので、致し方なく進めております」
「しかし、あのフリーレンが魔族と行動を共にしているか。断頭台のアウラの魔法は、確か
フリーレンは、アウラに操られていると考えるゼーリエ。
魔族絶対殺すウーマンであり、魔族なんてサーチアンドデストロイをしているフリーレンが魔族と仲よく旅をする事などあり得ないと考えていた。三度の飯より、魔族を殺す事が大好きなフリーレンが何をとち狂ったんだと。
ゼーリエは重い腰を上げた。
「ゼーリエ様、どちらへ?」
「零落の王墓だ。同族の顔を少し拝んでやろうと思ってな」
孫弟子に恩を売るのも悪くないと思い、二次試験会場へと足を運ぶ。
その横でヒソヒソとやっぱりお子さんが心配でとか陰口が聞こえるが、ゼーリエは一時の事だとおもい我慢する。まだ、子供が産めない身体である事を彼女は知られたくなかった。
◇◇◇
プルシュカは、これから始まる二次試験をどうするか迷っていた。一次試験は、問題無い。鳥を捕まえる事なんて、現物さえ見つかれば大した苦労もしない。だが、問題は二次試験だ。
過去の経験から、このダンジョンに入った段階で複製体が作られてしまう。プルシュカは間違いなく複製される。アリスの場合は、女神様の加護の都合上、怪しいところだった。仮に複製された場合、最深部から消滅魔法を放たれて一方的な虐殺が始まる可能性がある。
「アリス。今、入った受験生がどの段階でコピーされたか見えた?防げそう?」
「多分、アリスもコピーされちゃいます。ですが、問題ありません。女神様の加護ヘイローと光の剣はコピー不可能です」
プルシュカは、先に入った一人には悪いけど、受験生の命を無駄に消費しても仕方が無いので、残っていた者達に情報を開示する。協力プレイ前提の試験だから、情報共有は大事。
「はいはい!!皆注目。プルシュカから残った皆に良い情報提供がありまーーす。……ゼンゼさんが嫌そうな顔をしていますが、教えちゃいます。この零落の王墓には、
「おぃ、まさかそれだとフリーレンの複製体も作られると言う事か?お嬢ちゃん」
「その通りよ、デンケンちゃん。なに?プルシュカの方が年上なんだから、ちゃん付けでもいいわよね? それを前提にした攻略作戦検討と協力体制をしよう」
「ハッキリ言います。フリーレンお姉ちゃんを相手にしたら、ここに居るメンバーの大半が死にます」
これには、ゼンゼが反論する。協力プレイすればクリアは不可能じゃない。それに、万が一に備えて、脱出用ゴーレムまで準備した試験だ。ここまで安全に配慮して、何故そこまで文句を言うのかと彼女は理解できない。
「いやまて、何のためにゴーレムを配ったと思っている。アレがあれば、最低限の安全は確保出来る」
ゴーレムは、回復魔法まで使える。ゼンゼの髪での攻撃も防げる。確かに、助かる可能性は高いだろう。だが、無理だ。そんな便利なゴーレムを使わせる前に殺せば良いだけ。
「無理よ。フリーレンお姉ちゃん、私、アリスならその瓶を割られる前に殺せるわ。ゴーレムごと吹き飛ばす事もできるのよ。フェルンお姉ちゃんも同じよ。ゾルトラークの抜き打ち速度は、私より速いんだから」
「まぁ、そうだね。私ならそのゴーレムを使われる前に大半の受験生は殺せるだろう。今持っている知識がそのままコピーされるならゴーレムに関する情報も持っていかれるはずだ。そんなミスを私はしないよ」
この試験の核心部分を公開されては、誰も零落の王墓に入ろうとしない。完全な複製体が作られてしまう。複製体が確実に各個撃破できる状況ならば人数で押せる。だが、そうはならない。
そうこうしている内に、最初にダンジョンへと入った受験生がゴーレムに助けられて入り口まで戻ってくる。早いお帰りだ。
「私は、別にお前達がこの試験を放棄しようが、進もうが構わない。だが定刻までに最深部に到達する事が二次試験の合格条件だ。それに変更は無い」
魔法使いとして地位も経験もあるデンケンが、提供された情報を纏めて攻略の糸口を考え始める。更に、ラヴィーネも持っていた情報を公開する。彼女の兄が先遣隊の一人であり持ち帰ってきた情報を大陸魔法協会が隠している事も露見する。
様々な角度から攻略方法が検討される。
複製体の魔力はどこからくるのか、裏口はないのか、精神魔法で複製体をあやつれないかなどだ。中でも一番有益な作戦がこれだった。
「金でオイサーストでエキストラを雇って、入り口付近で待機させるのはどうだ?複製体を作るにしても操作するにしても限界数はあるだろう。こう言う場合、相手のキャパを越える人数を一気に押しかけて潰す方法が良いと考える。金は気にするな、儂がだそう。宮廷魔法使いとしてため込んだ金が使い切れないくらいある」
「えぇ~、ダンジョンは正面から攻略するから楽しいんじゃないか。そんな姑息な方法を使わなくても良いと思うな。ヒンメルならそうしたよ」
「簡単じゃない。私がフリーレンを除く全員の複製体を服従させればいいのよ。そうすれば、物力で押し切るだけよ」
アウラは、フリーレンの案に賛成する。魔族であるが故に魔力勝負で押し切るという思考が抜けていない。その考えを捨てないと何時か痛い目を見るだろう。
「それは無理よ、アウラ。だって、複製体は心が無いの。それに、魔力量だって不明確だから、アウラが操られる可能性が有る限り駄目。プルシュカ一人だけで突入した方がまだ勝算があるわよ」
「いや、でもその考えは案外悪くない。複製体は、時間と共に最深部に集まる習性がある。逆に言えば、それまでは周辺をグルグル回っているって事だ。全員で固まって行けば、数で押せるだろう……そこに居るフリーレン達を除けば」
「つまり、フリーレン、プルシュカ、アリスをこの場に残して他の者達全員で一致団結して最深部を目指せば良いって事だな。簡単な事だ。最深部で
リヒターが合理的な最適解を出した。その通りだ。特記戦力がいるから問題になる。ならば、特記戦力を外に追い出して、攻略が終わってから合流させれば良い。この試験の合格条件は最深部への到達だ。その過程での評価などない。結果が全て。
「そんな~、アリスはダンジョン攻略に参加したいです。アリスは足手まといですか?」
「まさか、皆のために情報提供したら情報だけ持って行かれて置いてけぼりになるなんてプルシュカも想定外。酷いよ、プルシュカとアリスのような子供をこんな場所に置いて行くなんて」
「いや、儂の事をデンケンちゃんって言ってたよな。年上なんだから我慢しなさい、プルシュカ。さて、時間的な問題もあるし行くぞ。悪いがエルフの三人とアウラはここに残ってくれ。それが一番勝算が高い作戦だ」
しょぼくれるフリーレン、プルシュカ、アリス。まるで三姉妹と言われても誰も疑問に思わないレベルだった。フェルンは、いい子にしててくださいねと三人に言い渡して、デンケン率いる攻略部隊に加わる。
ゼンゼが最後尾からさり気なく付いて行こうとするが、デンケンが止める。
「お前さんもここに残ってくれ。一級魔法使いがいると試験の邪魔にしかならない。事が終わったら、フリーレン達を連れてくる為に人を送る。それまで決して入るなよ。お前さんの複製体まで相手にする余力はない」
正論パンチを食らいゼンゼは、大人しく外で待つことにする。不可能を可能にするのが一級魔法使いだが、その不可能のレベルを上げてしまうような存在は、受験生達は求めていない。
………
……
…
キュピーン
ダンジョンの外で暇すぎてフリーレンの膝枕でお昼寝をしていたプルシュカとアリスが何かを感じ取った。
「あ、パパがもうすぐ来る」
「パパにしては、お迎えが遅かったです」
「なななな、なっ、なんですってーーーーーー!!!???」
異世界の記憶を持つアウラは、自らを苦しめた悪魔がこの世界にやってくる事を聞き、驚きすぎて白眼をむいていた。