黎明のフリーレン   作:新グロモント

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閑話:リィンバウム事変⑧

 イレギュラーが存在しない一級魔法使いの二次試験。ダンジョンの特性、モンスター、罠、マップの全てが分かった状態での攻略。まるで、攻略本を片手にダンジョン攻略をするかのようだ。

 

 これぞゼンゼが良く口にする平和的な試験。誰も犠牲にならない。

 

 最短ルートを最大火力で突き進む攻略部隊を止められるモンスターは居ない。道中に出くわした複製体ですら、全員で攻められては消し炭も残らない。誰もが、このまま攻略出来ると確信して、最深部の扉を開けた。

 

 そこで待ち構えていたのは、デンケン、フェルン、メトーデの三人の複製体だ。攻略メンバーの中でも特に戦闘力に秀でた者を配置されており、水鏡の悪魔も馬鹿ではなかった。ある程度は、ダンジョンの特性を無視して複製体を自由に配置ができる。

 

「勝ったな」

 

 デンケンは、この場に居るメンバーを確認して勝利を確信した。完璧な複製体ならば、本人が相手をしつつ、仲間からの支援があれば負ける要素はない。

 

「拍子抜けでした。一次試験より断然楽です」

 

「やはり、フリーレン様達を置いてきて正解でした」

 

 メトーデもフェルンも外で待機している仲間が来なくて本当に良かったと思っている。試験の残り時間も十分だから、これで全員合格がほぼ確定だ。

 

 そう、今この瞬間までは、この場に居る全員が二次試験突破を疑わなかった。

 

 バチバチと最深部で何かが弾ける音がする。重くのし掛かるような重圧な魔力を全身で受けた攻略部隊の者達。誰もが、フリーレンがトラブルでダンジョン内部に入ってしまったかと勘違いする。

 

 魔王を倒した勇者PTの魔法使いだ。規格外の魔力を持っていても不思議じゃない。それがコピーされてしまっては、完全コピーされる前に最深部の悪魔を殺さなければ、生存の道はないとデンケンは勘違いする。

 

 最深部の広間上部の空間が丸く開く。そこからコツンコツンと足音が響く。まるで誰かが降りてくるような音だ。一歩ずつ、優雅な足取り。洗練された魔力制御、美しさ、立ち振る舞いに攻略部隊の者達は見惚れてしまいそうになった。

 

「フリーレンさんの複製体が居ると思ったのですが、当てが外れてしまいました。デンケン殿、フェルンさん、メトーデさんが代役だとは、力不足ですね」

 

 ボンドルド♀が原作世界に足を踏み入れた瞬間。目の前にいる複製体を脅威と感じていない。しかし、水鏡の悪魔にとっては、真逆だ。最深部にいきなり化け物が出現しては反則でしかない。

 

 複製体フェルンから品性のないゾルトラークが放たれるが、全て亜空間に消える。亜空の矛が布状に変わり、一瞬で複製体のフェルンを串刺しにした。そして、亜空間に収納したゾルトラークをお返しする。

 

「一人目です。まだ、若いですね。老年の貴方ならもう少し持ちましたのに」

 

 ボンドルド♀が指をくいっと引くと、引っ張られるかのように複製体デンケンが引き寄せられる。

 

「デンケン殿の経験は甘く見ておりません。力の限りあらがってください」

 

 先ほどとは反対に複製体デンケンが水平に壁へと吹き飛ばされる。

 

 ボンドルド♀の魔法で突起した正方形状のクリスタルに衝突する。人間なら死んでも可笑しくないが、複製体は存外丈夫だ。追い打ちを掛けた。上下左右からクリスタルが複製体を覆う。ルービックキューブ状となったクリスタルを回転させて中身をシェイク。

 

 最後に亜空の矛がクリスタルごと複製体を消滅させた。

 

「これで二人目。さて、メトーデさんの複製体で打ち止めです」

 

 水鏡の悪魔は、突如最深部に侵入してきたボンドルドの解析を急いでいた。コピーできれば、理想的な最高の戦力だ。だが、間に合わない。本来、複製体作成にはある程度の時間が必要。強ければ強いほど、リソースを消費する。

 

 水鏡の悪魔は、ボンドルド♀を複製している最中、目的を理解してしまう。複製体を作るという希有な能力を持つ悪魔の確保。コレに尽きる。この悪魔もアウラ同様に未来永劫、囚われの身になる。悪魔が生き残る道はただ一つ、ボンドルド♀への服従だ。賢い悪魔の選択肢は決まっている。

 

………

……

 

 最深部で圧倒的な実力で複製体達を鎮圧した謎の女性に、攻略部隊の者達は対応を迷っていた。どう考えてもフリーレン級の化け物だ。最深部に居た水鏡の悪魔と何か話した後に亜空間へと収納する所を彼等は目撃する。

 

 フェルンは、この時初めて女性の顔をよく見た。初対面だが彼女の事を知っていると気が付く。

 

「あぁ、プルシュカとアリスのパパ(・・)ですよ」

 

 パパという事は、つまり男と言う事になる。世間一般的には、その通りだ。

 

 あの見た目で男なのか。確かに、プルシュカとアリスのパパならば美形だろうが、あれは美形ってレベルじゃない。胸もあるし、雰囲気も完全に女性だった。アレが男だというなら、世の中の女は男以下だ。

 

「じゃあ、つまり味方で良いんだな?」

 

「あ、いえ……その~、怒らないで聞いて下さいね。実は、プルシュカちゃんとアリスちゃんは、フリーレン様が召喚魔法の事故で実質誘拐してきたんです」

 

 デンケンの問いに正直に応えたフェルン。

 

 これには、その場にいた全員が聞き間違いだと思いたかった。三姉妹だと思っていたエルフが実質二人が誘拐されてきた側だったとは。しかも、その親が迎えに来た。この場合、許されるだろうかと言われれば難しいだろう。

 

「おやおやおや、皆さん。どうされたんですか、そんな扉の側でお隠れになって。どうぞ、姿を見せてください。未来の一級魔法使いの皆さん。皆様には、聞きたい事がありますので、正直に答えて下さい………フリーレンさんと子供達は何処ですか?」

 

 ボンドルド♀の想定では、あのフリーレンと子供達がダンジョンを前にして、大人しくしているなど考えていない。我先にとダンジョンに足を運ぶだろうと思っている。このダンジョンの特性を知っていても進むだろう。そう言う性格だ。

 

 だが、この場にいない。最深部を守らせるのならば、あの三人の誰かが適任。下手したら全員居る事も考えていたが拍子抜け。何か、不慮の事故があったのかとボンドルド♀は考えている。寝過ごして試験日を間違えたとか。食べ過ぎて三人揃ってトイレの住人になっているとか。ゼーリエ様にしばき倒されているとか。

 

「フリーレン様達は、外で待機して貰っています。えーーと、プルシュカとアリスのお父さん?直ぐに、呼んできたいのですが水鏡の悪魔がまだ……」

 

「問題ありません。水鏡の悪魔とは、平和的な取引をしました。これからは、私が管理します。皆様の試験に横やりを入れてしまい誠に申し訳ありませんでした」

 

 深く頭を下げるボンドルド♀。先ほどまで、圧倒的な戦闘力で複製体達を滅ぼしていた人物だとは誰も思えなかった。子を持つ親になれば、見本になるべく当然の行動だった。

 

 ボンドルド♀は、怪我をしていた全員を治療する。そして、デンケン含む年寄り達の肉体を全盛期へ戻す回復魔法を掛けた。人知を超越した魔法で有ることを理解したデンケンは、驚く。溢れ出す活力と若さから来る全能感が戻ってきていた。

 

………

……

 

「あれ?パパの魔力が最深部近くに……ずるーーーい!! プルシュカもダンジョン行きたかったのに」

 

「こうなれば、アリスも今から突入します」

 

 フリーレンもダンジョン内部から魔力を感じている。少なくともアウラを越える魔力があるのは間違いない。全力の自分を越えるかも知れない魔力に、世の中にもまだまだ強い人って居るんだって思っていた。

 

「いやぁぁぁぁぁ~、ボンドルドがくるーーーー。この地にまでこれるなんて、アイツ化け物じゃない。ありえないわ。こんなの魔王様でも無理よ。助けてヒンメル~」

 

 その時、アウラの肩にポンと優しく手を置く存在がいる。

 

 世界を越えられる人物にとって、近場へ空間を繋げて移動する事は難しくない。アウラは、決して振り向きたくなかった。トラウマ製造器の紫のサイリウムでなかったとしても中身は同じだ。姿形を変えた程度ではアウラのトラウマは克服されない。

 

「お呼びですか、アウラさん。まさか、生きたアウラさんを五体満足で見られる日が来るとは、縁起が良いです。目にも生気があります。よくぞ、今までご無事でした。旧知の仲として嬉しい限りです」

 

 チョロチョロチョロと水が滴る音がする。

 

 最愛のアウラは、世界を越えて思い人と再会をした。その感動で涙腺が緩くなった。そうに違いない。

 

 だが、ボンドルド♀にとって本日の目的は生アウラではない。大事な娘達のお迎えこそ最重要任務。プルシュカもアリスも久しぶりの親との再会を喜んでいる。

 

「パパですよ。プルシュカ、アリス」

 

「パパ!! お迎えが遅かったわよ」

 

「ぱぱ~、アリス達を差し置いてダンジョン攻略は狡いです」

 

 娘達に熱い抱擁をするボンドルド♀。その最中、水鏡の悪魔に指示して、フリーレンの複製体を作らせていた。

 

「へぇ~、凄いね。今のは転移魔法?さっきまで、ダンジョン最深部にいたはずなのに一瞬でここまで来るなんて凄い魔法使いだ。それに、とてつもなく強いね。私より強いかもしれない」

 

『フリーレン複製体。製造工程の80%が完了。ロールアウトまで残り時間30秒』

 

 地面の土から徐々にフリーレンの形を模した複製体が出来上がりつつあった。ボンドルド♀が水鏡の悪魔を完全掌握しているとはフリーレンも想定外。

 

 出来上がった複製体フリーレンに対してボンドルドがある物を挿入する。それは、フリーレンの血液と髪が入った試験管だ。

 

「思い出しました。この土くれを使った魔法……卑劣様が開発したアレです。穢土転生。これから、この魔法を卑劣様が使っていた魔法とでも言いましょう。プルシュカ、アリス。ママが心配していたので安心させてください。後、フリーレンさん、悪い事をしたら謝りましょうね」

 

 100%のスペックでロールアウトされたコピーレンinママ。異世界よりその精神を複製体に上書きする魔法。これにより、フリーレンは元の世界に居ながら異世界への侵入を成功させる。

 

【■☆`#$#%”】

 

 声帯が存在しない複製体からは声は届かない。だが、何を口にしているかはしっかりと子供達に通じていた。娘達を抱きしめるコピーレン。少しは母親らしくなってきた。100年越えてやっと、成長を見せ始めた。その最中、コピーレンは親の敵をみるような目で、(原作)フリーレンを睨みつけている。

 




ゼーリエママもそろそろご到着かな。
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