二人の幼いエルフがお互いのすべての能力を使い、真っ向勝負をしていた。
片方のエルフは、古き良きファンタジーに出てくるようなエルフの子供。銀髪を靡かせて、あらゆる魔法を行使する。失われた魔法として名高いフランメの結界魔法、全ての病を内包した呪いの魔法、伝説級の攻撃魔法……その手数の多さは、人類では習得できない程だ。長い寿命、極まった才能を持つエルフだからできる。
片方のエルフは、SFファンタジーに出てくるようなエルフの子供。黒い艶やかな長髪を持ち、頭部には光輪がある。現勇者にして、他の追随を許さない消滅魔法を持ち、物理攻撃に絶対的な耐性を持つ次世代のエルフ。エルフの可能性を世界に知らしめた次世代最初のエルフが彼女である。
「ぬぉーーー!! パパが焼いてくれたクッキーの最後の一枚は、プルシュカの物なんだから~。ゾルトラーク」
「お姉ちゃんは、昨日も一枚多く食べたのでこれはアリスの物です!! お願い、スーパーノヴァ」
三時のおやつの争奪戦。実に平和的な姉妹の争いだと、両親ともども生暖かく見守っていた。プルシュカとアリスは、双方を信頼している。さらには、両親もこの場にいる事から抑えることなく全力を出している。
魔力とセンスという面において、姉であるプルシュカの方が何枚か上手だ。だが、妹であるアリスは、基本スペックが高い事と物理攻撃耐性が極悪の為、プルシュカには決定打がなかった。
「ねぇ、ボンドルド。アリスの武器が小さい塊になって、自由行動しているんだけど…なにあれ?」
「そんな機能は、ないはずなのです。しかし、様子をみるにファンネルみたいなものです。オートガードに加え、自動攻撃まで行っています。まぁ、元は女神様からの贈り物だった勇者の剣です。どのような機能があっても不思議ではありません」
どこぞの〇星の魔女に登場した主人公機に備わったファンネルみたいな行動を始めるアリスのスーパーノヴァ。放たれる攻撃が消失魔法の飽和攻撃となり、プルシュカが防戦一方になる。
フランメの結界魔法を応用した対消失魔法結界も魔力消費は馬鹿にならない。
そして、姉妹のおやつ争奪戦に決着がついた。
「ま、負けちゃった。フランメお姉ちゃんにもいろいろ教わったのに……くやしぃーーー」
「アリスは、お姉ちゃんに初の白星を上げました。アリスの勇者の経験値は更に増えました」
勝負は、勝者と敗者が存在する。それは避けられない事だ。姉であり、妹に負けたショックを隠せないプルシュカ。ボンドルドが優しく頭をなでる。プルシュカとて、決して弱くない。世界的に見れば上澄みの上澄み。
「むふ~、流石は私の子供達だ。二人とも私やボンドルドの子供の時代よりはるかに強いね。誇っていいことだよ。プルシュカとアリスは、間違いなく私やボンドルドを超えられる。焦らず、頑張ろう」
「フリーレンさんのいう通りです。プルシュカは、短所を無くしあらゆる状況に対応できるようになっております。アリスは、長所を伸ばしてその分野において先駆者と言っても差し支えないでしょう」
これからの子供の成長を楽しみにするボンドルドとフリーレン。だが、この時、プルシュカの心の内を察する事が出来ていたのは母親であるフリーレンだけだった。
◇◆◇◆
プルシュカは、少し落ち込んでいた。もちろん、妹であるアリスの成長は喜ばしい。お互いに切磋琢磨して、確実に強くなっている実感があった。しかし、妹に負けてしまったという事実が彼女を落ち込ませていた。
アリスより50歳以上も年上で、世界を旅した経験もある。
仮に、プルシュカにヘイローがあれば勝敗は異なっていただろう。物理攻撃に対して絶対的な耐性とは、それほどまでに厄介だ。防御魔法の弱点である質量魔法を己の特性だけで無効化。更には、どこぞの第三魔王のおかげで精神魔法に対しての防御魔法も凄まじく発展した。よって、次世代のエルフに決定打を与える事は大変難しい。
この状況を正しく理解したプルシュカは、置いて行かれると不安を感じていた。
「プルシュカにもっと力があればな~」
『力が欲しいか!!』
プルシュカがあたりを見渡す。だが、誰もいない。幻聴かと思った彼女だが、違うと理解する。
「ちから……力があったら、プルシュカはアリスに勝てたのかな」
『力が欲しいか!!』
再びどこかから声が鳴り響く。
力があれば、本日のおやつも一枚多く食べる事が出来た。プルシュカは、嘗て父親であるボンドルドが言っていた言葉を思い出した。
【よいですか、プルシュカ。力なき正義は、正義とは言いません。正義も悪も力の上で成り立っております。これは、世界の理です。だから、強く優しい大人になってください。あなたには、それだけの才能があります】
旧世代最後のエルフとして、ボンドルドとフリーレンの子供として、プルシュカは強くあろうと立ち上がった。
そして、悪魔のささやきに答えてしまう。
「力が欲しいわ」
【力が欲しいなら……くれてやる!! むふ~】
その翌日、プルシュカが武者修行に出てくると書き置きを残して家出してしまう。時同じくして、フリーレンがここは母親に任せてと謎の自信を携えて旅に出た。
それを見送るボンドルドとアリス。二人は、言いようのない不安を抱えていた。プルシュカは、どちらかというとフリーレン似だ。本人は否定するが、その事実はゼーリエも認めている。そして、フリーレンは過去に世界を何度も滅ぼしかけた。二度あったことは三度ある。
………
……
…
ボンドルドは、自分の直観に従いすぐにゼーリエの元を訪れた。アリスを連れてきていたことにより、ゼーリエのご機嫌は最高に良い。アリスを実の娘のように可愛がっている事が誰の目にも明らかだった。
「珍しいな。ボンドルドがアリスだけを連れてくるとは。プルシュカは、どうした?いないなら、後でお土産を持たせてやるから必ず渡しておけ」
「実は、ゼーリエ様にご意見を聞きたい事があり来ました。昨日、プルシュカが武者修行の旅に出ると家出をしてしまいました。アリスとのおやつ争奪戦に負けてしまった事がショックだったみたいです。なので、こちらに来た時はそれとなく接してください」
ゼーリエとしては、可愛いプルシュカが遊びに来るのならばいつでも歓迎するつもりだ。今から歓迎のための準備を始めていいほどだと彼女は思っていた。
「それだけではないだろう?私が、プルシュカを歓迎しないわけがない。で、本題のほうは?」
「プルシュカの家出と時期を合わせて、フリーレンさんが私に任せてと言ってプルシュカを探しに行きました。一応、母親として正しい行動だったので、止めませんでしたが……」
この言葉に、ゼーリエの顔は絶望に染まっていた。
フリーレンの過去の所業を知っているボンドルドが、彼女を監視下から外して自由行動をさせている。これは、まさに人類への反逆に等しい。フリーレンが今もなお、五体満足で無事な要因は、ボンドルドの管理下にいる事とプルシュカとアリスの母親である事が大半を占めている。
「ボンドルド、今までのフリーレンの所業を言ってみろ」
「魔王討伐、魔族の駆逐、七崩賢の大半を討伐、人類を物理的に一番殺した魔法であるゾルトラーク開発に貢献、人類を精神的に滅亡まで追い詰めた倫理魔法の開発、核分裂魔法の開発未遂などですかね」
「ぱぱ、もしかしてままって世間一般的には、かなり要注意人物なのでは?」
魔族も人類も苦しめたという点においては、彼女を超える人物は二度と出てこないだろう。
つまりだ、そんな人物を野放しにしてよいのだろうか。それも、彼女似であるプルシュカまで加わってしまう。プルシュカがフリーレンのようになってしまったら、エルフの損失だとゼーリエはボンドルドを責めるだろう。
「その通りだ。だから、一分一秒でも早く二人を見つけ出せ。その為なら、大陸魔法協会のメンバーも自由に使っていい。フリーレンの事だ・・・良かれと思った行動が裏目に出てドツボにはまる。賭けてもいいぞ」
「おやおや、いくらなんでもそれは言い過ぎですよゼーリエ様。フリーレンさんとて、成長して母親をやっているんです。確かに、野放しにした事は私に非がありますが……一から十まで行動を監視束縛するのはよろしくないかと」
ゼーリエとしては、それで良いなら構わないといった態度を取る。ボンドルドとフリーレンに恩を売れば売るほど、ゼーリエとして家族が増える可能性があるのでうれしい事につながる。
ボンドルドは、知る事になる。高い才能を持つ者に与えてはいけない知識をインプットするとどうなるかを。