天才美少女魔法使いエルフは、約束を守る大人の女性だ。そう、約束は守っている。許可なく魔法を開発しない。だから、自分と同等の知識がある者ならば同じ道を辿れるだけの準備をする事は約束を反故していないことになる。
科学という麻薬は、劇薬だった。
同時に危険性もしっかりと理解した。核分裂を使った魔法は、土壌を汚染し人体に有害になる。魔族相手に使うのならば別に気にする事でもないが、その土地が住めなくなっては採算が合わない。
核分裂ではなく、核融合を使ったニュークリア・ゾルトラークの構想もあったが凍結せざるを得なかったのは彼女にとっては心残りだ。その構想を同じ知識人であった彼女の夫や師の師に話した時にはこっ酷く怒られてしまった。それこそ、二度と魔法が使えないように永久封印処理される手前までいった事は彼女にとっても記憶に新しい。
反省ができるエルフは、何が問題だったのか考えた。そして、導き出された結論は……核汚染が発生する事による健康被害が問題だと理解した。だからこそ、クリーンな魔法にすべく禁書庫で見た知識からいろいろと検討した。
「ねぇねぇ、聞いてる?本当に、すごい魔法を使えるようになるのよね」
『当然だ。魔王を信じろ』
プルシュカは、己が所有する魔王の杖にむかって話しかけた。杖に残った残留思念と自称する魔王の声。
彼女も疑いはした。だが、魔法に関しての知識が極めて高い。更には、魔王が勇者に討伐された時の状況を鮮明に説明されたり、七崩賢達についてもこと細かく説明されては、信じてしまう。
また、プルシュカの性格を知っているかのように相手をその気にさせて持ち上げるのが大変うまかった。
「まぁ、一応信じてあげるわ。で、魔王だと今は二代目魔王アウラになっちゃうから、何て呼べばいいの?名前はあったんでしょ?」
『・・・な、名前。そうだな、ジャバウォックと呼べ。むふ~、かっこいいでしょ』
謎の声は、なぜか名前を聞かれて詰まってしまったが咄嗟に思いついた偽名を伝えた。偽名の割には、なぜかしっくりくる名前だなと誰もが思う。
「えぇ~、でも魔王って女性だったんでしょ?なんか、男みたいな名前じゃない」
『こ、細かい事を気にすると強くはなれないよ。もう少し先に結界で守られているセーフハウスがあるから頑張って。むふ~』
半信半疑のプルシュカは、警戒心は緩めなかった。万が一の時は、周囲への被害を度外視すれば逃亡程度は可能だ。それから、二時間程度森の中を進むと本当に非常に高度な結界に囲まれた場所を見つける。
意識しなければプルシュカであっても見落とすほどの結界。人の無意識下に割り込んでこの場所にたどり着かないように人の足を遠ざける人払いの結界だった。
「なかなか、やるわね。この結界魔法は、ママが七崩賢からオマージュした魔法に似ているわ。フランメお姉さんの結界魔法とは別ベクトルの物ね。参考になる~」
『これで信用したか。さぁ、私の考案した魔法をここで開発するんだ』
「えっ!? 魔法を私が開発するの?出来合いの魔法をくれるんじゃないの?」
『プルシュカ。アリス達のような次世代のエルフが持つヘイローの物理防御耐性は、現存する現代魔法や古代魔法で突破する事は困難だ。今までにない革新的な魔法でなければ不可能。だが、安心してほしい……環境にやさしいクリーンな魔法を開発する下準備はできているから』
妙に、プルシュカ達の事情に詳しい魔王の杖。自称残留思念さんは、プルシュカ達の様子を近くで見てきたのだから不思議なことではない。だが、どこか腑に落ちなかった。
「仕方ないわね。プルシュカは、これでも魔法の開発はそれなりに得意なんだから。で、どんな魔法か、早く教えて!!やっぱり、魔王アウラみたいな魂に関係する魔法?」
『ふっふっふ、聞いて驚いてね。この魔法は、”神の杖”という。大気圏から地上に向けて特殊な金属を落下させる魔法だよ。宇宙空間に事前に用意した金属を正確無比の精度で落下させる。むふ~、すごいでしょ』
「・・・いや、なんか地味。全然かっこよくない!! それに魔王の残留思念なのに神ってなんなの? 女神様の杖ってこと?」
『いや、語呂が良かったから。地味だなんてひどいよ、プルシュカ。この魔法は、本当にすごい威力なんだよ。一撃で魔王国首都を壊滅させる破壊力を約束する。しかも、事前準備した物を落下させるだけだから魔力消費も多くない。必要なのは、精密コントロールだけ。これほどコスパに優れた魔法はないよ』
必死に”神の杖”がどれほど優れた魔法かを力説する自称魔法の残留思念。コスパを考えれば本当に素晴らしい魔法だ。なにより土壌汚染が発生しないクリーンな魔法という言葉に嘘偽りはない。
宇宙空間に発射する金属を用意するのは大変だが、高度な技術を持つ魔法使いには可能だった。質量ある分身を用意できるので、死ぬことを前提に片道切符で行かせる事もできる。他にも、ボンドルドのような空間系魔法を使える物に運んでもらうなど様々だ。
しかし、当然のごとくプルシュカにダメ出しされる。
「はい、次は?」
『凄い魔法なのに。だけど、まだまだあるよ~。次は重力魔法。今では使い手が殆どいない希少な魔法だよ。もちろん、ただの重力魔法じゃない。これは、その中でもとびっきりだ。重力子に指向性を持たせて放出するんだ。その威力は、あのボンドルドのスパラグモスを凌駕する。アリスの消滅魔法にも匹敵する可能性がある』
重力子放射線魔法とでもいうべき魔法だ。これもある意味、核分裂や核融合と同じく原子の臨界を利用した恐ろしい魔法の一種だ。しかし、開発して試射してみない事には分からないこともある。この魔法は、貫通魔法の性質だけでなく原子崩壊の特性もあるため、開発してはいけない魔法の一つだ。
「貫通魔法は、ゾルトラークやスパラグモスがあるからお腹一杯よ。これ以上あってもね~」
『この魔法も本当にすごい魔法なんだって。革新的な貫通魔法になるんだけど……酷い』
魔王の杖から今にも泣きだしそうな声が漏れてきていた。そこまで、酷いダメ出しはしていないプルシュカだが、相手はそう思っていなかった。
「はいはい、次も当然あるんでしょ? もっと、大魔王が使うにふさわしい魔法ってないの?」
『今は、焦らない。いずれは、これらも現実に……。そんなプルシュカにお勧めの魔法があるよ。それは、反物質魔法よ。見た目も威力もド派手なのは保障する。並の魔法使いなら、その威力を見ただけでひれ伏す事まちがいない。このセーフハウスの本棚にある三番の資料を確認して。ボン……協力者のところからコピーしてきた資料があるから』
三度目の正直との事で自称魔王の残留思念に乗せられる事にしたプルシュカ。母親譲りの高い知性がその資料に書かれたことを湯水のごとく吸収していく。魔法という万能に近い力を使い存在しない物質を生成する。
その狂気じみた発想により実現する反物質。かつて、ボンドルドが住む地に大きな泉を作ったのがこれによる物だった。
◆◇◆◇
ボンドルドとアリスは、家出をした家族を探す旅にでる事にする。ゼーリエの元を訪れてから表現できないような不安感に駆られていた。
「アリスは、ろくでもない事になる予感がします。ままもお姉ちゃんも強いから、身の心配はしてません。でも、なんか嫌な予感がします」
「アリスの直感は当たりそうですね。実は、私も嫌な予感がしているんです。なんと言いますか、勇者としての勘ですかね。先ほどから、亜空の矛が急げと急かしている気がします」
女神が与えた勇者装備は、世界の危機に力を貸す。
世界の危機の可能性があるというのに、大陸魔法協会のトップであるゼーリエは我関せずの態度をとっている。それどころか、今から次の子供の名前を考えている始末だ。まるで、どこかの誰かさんが失敗して尻ぬぐいをするのを前提とした行動だ。
「では、ままとお姉ちゃんを探す旅に出発です。アリスは、ぱぱと二人旅だけど……ままとお姉ちゃんは大丈夫かな。特に、ままは生活力がないから心配です」
「大丈夫です。フリーレンさんは、あぁ見えて一人旅のプロです。私と結婚する前は、1000年くらいは一人で暮らしていたんです」
今の母親からは想像すらできないと驚くアリス。
勇者一行のメンバーとして魔王討伐をしたまでは知っているが、過去1000年もどうやって生きてきたか謎すぎる母親の生態に興味がわいてきたアリス。その実態を父親から旅の道中で聞かされることになる。