魔王討伐という偉業を成し遂げた元勇者。対するは、元勇者PTのエルフの魔法使いの実の娘であり、自称大魔王。
この戦い事態が偶然の産物だ。本来はフリーレンの無自覚な大罪を止めるために旅だった元勇者ヒンメル。しかし、フリーレンに似ている銀髪エルフが遠くの海上に対して戦略級魔法を放っていれば、勘違いもする。この魔法が拡散したら、世界が終焉に向かう事は確実だ。作った禁忌の魔法をバラまくのはフリーレンのお家芸というのがヒンメルの認識だ・・・残念ながら歴史がそう語っている。
だからといって、手違いで攻撃してしまったのは悪手だ。
ヒンメルは、戦士として最高峰の強さを誇る。歴史上でも彼を超える存在は片手で足りるほどだ。だが、そんな男であってもプルシュカというエルフを相手にするのは簡単ではなかった。
「「(戦いにくい)」」
二人の思っている事は、全く同じだ。対魔法使いの戦法をとるヒンメル。対戦士の戦法をとるプルシュカ。双方が相手にとって嫌な戦い方をしている。上空から一方的に絨毯爆撃で蹂躙したいプルシュカ。だが、ヒンメルは絶対にそれを許さない。距離を詰めて空へ逃がさないどころか、死なない程度の攻撃を繰り出してくる。ヒンメルは、魔族であれば女子供であっても決して容赦しない戦いができる男だ。それをプルシュカにもある程度適用していた。
「"二酸化炭素の濃度を上げる魔法"」
プルシュカが両親から授かった対人魔法をバラまく。周囲の二酸化炭素の濃度を上げる事で相手を戦闘不能に追い込む魔法だ。周辺の空気に含まれる二酸化炭素の濃度が20%を超える。だが、生者でないヒンメルは、呼吸を必要としていない。つまり、二酸化炭素濃度があがったところで全く影響がでない。
「なにか、魔法を使ったみたいだけど僕には効かない。大人しく捕まってくれ。君が作った魔法は危険すぎる」
「ヒンメルさんって、人間辞めすぎ!! これだから、バグは困るのよ。アンチマター・ゾルトラークはプルシュカの必殺技なんだから、誰にも教えないからいいじゃない」
人間をやめていると言われたヒンメル。ボンドルドの女神様の魔法により、死んでも全盛期の肉体を取り戻して、この世に住んでおり、子供までいれば辞めていると言われても仕方がない。
だが、オレオールから連れ出したのもフリーレン一家が原因、子供を作る事になったのもフリーレン一家が原因、全盛期の肉体を取り戻したのもフリーレン一家が原因。よって、人間の枠組みから彼を逸脱させたフリーレン一家が、それを言う権利は決してないだろう。
「無理だ。ボンドルドさんやフリーレン、君の妹が教えてと言ったらどうする?」
「当然、教えてあげるわ」
「せめて、フリーレンには辞めてくれ。本当に頼む」
「ママだって大人なんだから大丈夫よ。それにみんなは心配しすぎなの。ママはね、私やアリスの為なら別次元にまで助けに来てくれる位にはママをやっているんだから。確かに、過去に世界を滅ぼしかけたわ、でもママだって成長しているの!!」
なんだかんだで母親の事が大好きだと伝わる。ヒンメルも子供を持つ身だ。子供からここまで慕われているフリーレンの事を少しは信じてもいいかもと思った・・・一瞬だけ。だが、すぐに「むふ~」とか言って得意顔で大問題を起こす様が脳裏を横切る。
「くっそ、埒が明かない。ちょっと強引だが、捕まえてボンドルドさんに頼むしかないか。ごめんね、本気を出すよ」
「こっちだって本気を出すんだから!! “
地中の砂鉄を剣に錬成するプルシュカ。彼女の周囲には、何本もの剣が高速で周回している。本来であれば、血中の鉄分を操作して相手を殺す魔法だが、ヒンメルは血液もないチートの無敵ボディを持っていた。
『プルシュカ。ヒンメルの基本戦術は、一撃離脱だ。一撃の威力は重い。決して正面から受けてはだめだ・・・あ、ごめん。ちょっと、来客みたいだ。おやおやおや――ブツリ』
プルシュカとヒンメルの間に言い難い沈黙が発生した。突然、謎の声がしたと思ったら来客だと言って通信が切断される。ヒンメルからしたら本当に誰だよと言いたくなる。しかも、妙に自分の戦い方に詳しい。
だが、この間もプルシュカは魔法を使い続けていた。すでに、30本を超える剣を錬成し終えており、プルシュカがそれらを意のままに操る。
「おぃおぃ。フリーレンの奴は、子供になんて魔法を教えているんだよ」
「むふ~、大丈夫よ、プルシュカは優しいから刃は潰してあるわ」
ヒンメルの剣とプルシュカの魔法が衝突し、夜の森の中に金属音が響く。全方位から飛んでくる剣の全てを弾いてへし折るヒンメルのチートぶりに、勇者の名は伊達じゃないとプルシュカは思っていた。
だからこそ、自分のすべてをぶつけるだけの価値があるとプルシュカは考えていた。
「質量魔法で倒すのが難しいなら、これならどう。ふっふっふ、これは勇者を壊す魔法よ・・・”
プルシュカの杖から周囲を照らす光が放たれる。その光を見た者は一種の催眠状態となる。
ボンドルドとフリーレンの夜の営みを見せつける魔法を使った。相手の脳に直接イメージをたたきつける。現実時間では僅か1秒程度なのに、対象の体感時間は24時間。本来は、伝説の拷問魔法として、ゼーリエが保有している魔法だが、それをベースにプルシュカがアレンジしたものだ。
パリンパリン
ヒンメルの色素が抜け落ち、所々にヒビが入る。膝までつき、剣を地面に突き立ててかろうじて立っていた。
「そ、その魔法はやめてくれ。俺に効く。魔法使いのくせに、酷い魔法ばかり使いやがって。流石の僕もキレていいよね」
「なん・・・だと・・・。対勇者の必殺の魔法が。成長したわね、ヒンメルさん。まさか、今の魔法を耐えられるとは思ってもなかった。でもね、プルシュカは弱った獲物に時間を与えるような愚行はしないのよ。知ってるわ、ヒンメルさんが耐えられたのはアウラという心の支えがあるからよね」
ヒンメルの直感が働く。今すぐこの場から離れないと心が死ぬと。しかし、回避不能の”
「ゼーリエママ様から教えてもらった、必殺技。大魔王プルシュカが誰にも見せた事がない魔法なんだから!! この魔法は、事前に魔法の内容を説明する事で威力を増すのよ。縛りっていうんだから」
「ごめん、アウラ。僕は、約束をまもれない」
プルシュカは、指で帝釈天印を作る。
「どんなに強くなって無敵な体を手に入れても心の弱さは守れない。ママをアウラに挿げ替えて、ヒンメルさんの脳内に叩き込んであげる。パパとママの夜の営みから幸せな家庭を築くまでの映像を!! 領域展開……」
フランメの結界魔法を継承し、ゼーリエから魔法を教わり、フリーレンとボンドルドの元で研鑽したからこそ完成した精神汚染魔法。フリーレンが生み出した精神魔法に対して極めて高い性能を誇る防御魔法であっても、押しつぶすほどのパワーがある。
この魔法は、嘗てプルシュカの手紙を読んだ結果、情報処理が追い付かずに思考停止した事からゼーリエが開発した新しい魔法。その手紙も大体は、フリーレンが原因だ。
勇者一人では大魔王プルシュカには勝てない。ヒンメルの心を砕く事により、魂が嘗てのアウラのごとくボロボロになってしまった。