ボンドルドとアリスは、勇者の剣占いに導かれ東の果てまでやってきた。そこには、潮風が心地よい田舎町がある。漁業なども営んでいるが、大都市と比べて栄えているとは言えない。旅の道中でよく見てきた何の変哲もない町だ。
「ぱぱ、勇者の剣が倒れなくなりました。ままとお姉ちゃんは、この近くにいそうです」
「そうですか。では、夜も遅いですから宿をとって明日から探しましょう。幸いこのレベルの町ならば、宿屋は少ないはず。フリーレンさんが宿泊しているか聞いてみましょう」
エルフともなれば絶対数が少ない。一度見かければ大体印象に残る。今のボンドルドやアリスも服装が周囲から完全に浮いているので、彼らも同じだ。宿についた二人は、真っ先にフリーレンの写真を見せた。
「写真のエルフを見た記憶はありますか? 噂話でも構いません」
「ままは、フリーレンっていうのよ。銀髪のエルフで、いつもけだるそうな顔をしているの。たぶん、この町か付近にいるみたいなんだけど・・・」
宿の店主は、写真のエルフをよく観察した。プルシュカとアリスに挟まれて、苦しそうだがどこか幸せそうな母親がそこには写っている。人は容姿で判断したらダメだとは言うが、エルフの方がそのセリフは似合うだろうと店主は思った。あの姿で子持ちとは、世の中分からないものだな~と。
「あぁ、知っているよ。半年以上前から町の教会に居候している。写真のほうがキリっとしているが、間違いない。で、彼女が一体何をやったんだ?町の為に色々と魔法で貢献してくれた、いい魔法使いなんだが」
「武者修行に出た娘を探しに行ったのですが、半年もここで?同じく、こっちの銀髪のエルフの子供は知りませんか?プルシュカというのですが」
ボンドルドは、写真に写るプルシュカを指さす。
なぜ、娘を探しに行ったはずなのに田舎町で半年も時間をつぶしているのだろうか。完全に目的を忘れてしまったのだろうか。エルフの感覚でいえば、数年程度足止めをされたとしても気にしない可能性もあり、ボンドルドは一抹の不安を覚えた。
まさか、娘を探しに出たはずが、一休みするつもりで半年以上経過していたという恐ろしい可能性を。
「ぱぱ、早くままを捕まえに行きましょう。それで全てがわかります」
「えぇ、その通りですね。では、また後程」
ボンドルドとアリスが宿を出て、教会に向かう。集中してみれば、確かに教会から身に覚えのある魔力を感じる事が彼らにはできた。しかし、プルシュカの気配がない事から、一体どうしたものかと不安を感じる。
足取りが早くなる二人は、教会の扉をたたく。そうすると、中からぱたぱたと足音がして、シスターは扉を開けボンドルドとアリスを迎え入れた。町の外の住人で、怪しい服装をしており、そのうえ夜だというのに、快く迎え入れるのは教会のシスターが良くできた証拠だ。
シスターマリーは、夜中に訪れた二人を見て目を丸くする。元いいところのお嬢様であり、敬虔な信徒であるシスターは勤勉だった。
「ようこそ。ボンドルド様、アリス様。私は、この教会でシスターをしておりますマリーと申します。このような田舎の教会ですが歓迎いたします」
「おやおや、アリスだけでなく私の事もわかるのですね。あまり素顔を晒していないのですけどね。どこで、知りましたか?」
勇者アリスは、すでに銅像が立っている。だが、ボンドルドは肉体も変われば顔も変わる。更に鉄仮面を普段被っているので素顔を知っている人は少ない。
「フリーレン様が自慢の家族だとお写真を見せてくれました。フリーレン様のお部屋は、二階の角部屋になります。何かご入用な場合はいつでもお呼びください」
「ぱぱ、マリーはいい子な気がします。早く、ままを捕まえます」
「そうでしたね。フリーレンさんを一人にしておくのは危険です」
ボンドルドもアリスも知らない事がある。それは、フリーレンのそばになぜ勇者がこれほどまでに集まるのか。なぜ、ボンドルドやアリスが勇者の剣を持てるのか。それは、世界を守るためだ。
人の心を持たない無駄に廃スペックな存在が世界を壊す未来を女神は知っていた。だから、勇者をこの世界に呼んだ。家族を持つ事で最悪な未来を回避する。女神の判断は正しかった。ボンドルド、プルシュカ、アリスといった家族を見放さない暖かい存在がいる事が彼女の精神安定剤となり世界の均衡は保たれる。
仮に、ボンドルド達がいない世界の場合、どうなっただろうか。フェルンに寿命で先立たれた後、彼女の心を埋めるものはない。寂しさを埋めるために、魔法研究に心血を注ぎ世界は破滅の一途をたどるだろう。
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ボンドルドは、フリーレンの私室をノックする。扉には、『フリーレンの部屋』と書かれたプラカードがあり、完全に教会の一室を占拠していた。部屋の中にいるフリーレンがガタガタと音を立てて、扉を開ける。
部屋の扉を開けたら、半年以上も顔を合わさなかったボンドルドとアリスがいる。こんな田舎町の教会の一室までどうしてとフリーレンは思っていた。
「おやおやおや」
フリーレンは、咄嗟に部屋にあった通信機器をゾルトラークで証拠隠滅する。別に悪いことをしていたわけではないが、何か直感的にそうした方が良いと判断した。
「ちょっと、羽虫が居たみたいだ。ボンドルドにアリスまで、どうしたの?こんな場所まで」
「それはこっちのセリフです、まま。お姉ちゃんの事が心配で追いかけたんじゃなかったんですか?それなのに、この町に半年以上居座っていると聞きました。アリスは、悲しいです。ままがお姉ちゃんの事を忘れて、自堕落な生活を送っているなんて」
ボンドルドは、フリーレンの私室を確認する。掃除されており目立つような埃はない。ベッドのシーツも毎日洗濯されているかのように綺麗だ。ベッドメイクも完璧。今先ほど、何かを消滅させた場所以外は、綺麗そのものだ。
「むふ~、私は自堕落な生活なんてしてないよ。この部屋が証拠だ。それに、プルシュカの事はもう見つけているから安心して。母親たるもの時には、見守ることも大事なんだよ。そうそう、それより大変なんだ。なぜか、ヒンメルがプルシュカに戦いを挑んでいるんだ。早く助けに行かないと」
「そうでしたか、いくつか腑に落ちない点もありますが一旦は納得しましょう。ヒンメル様を助けにいきますか。ヒンメル様が死んだらアウラさんが壊れてしまいます。かの国には、まだまだ使い道がありますので末永く無事でいてもらわないと」
ボンドルドはフリーレンからプルシュカの居場所を聞き、空間を繋ぐ。迷いの森と呼ばれる場所に出た彼らは、プルシュカの魔力を感じる方へと歩みを進める。周囲の木々はなぎ倒されて、へし折られた剣や木々を貫通した様子が残っていた。
月明かりがさす場所にでると、ヒンメルが真っ白になりボロボロにされていた。足は砕け、胴体も半分に折れていた。だが、死に体のヒンメルは右手の中指を力強く立てている。それは、まるで「くたばれ、大魔王」と言っているようだった。
「指一本分だけは、負けを認めてあげるわ」
大魔王プルシュカに勇者ヒンメルが倒される瞬間に立ち会ったフリーレン一家。母親であるフリーレンは、娘がヒンメルを倒すほどに成長したのかと喜んでいた。妹のアリスは、勇者ヒンメルを倒した姉を尊敬していた。ボンドルドは、チートボディを持つ勇者ヒンメルをどうやって倒したのかと考えていた。
◇◆◇◆
思わぬ家族との再会にプルシュカは、舞い上がる。
武者修行の旅を終えて帰ろうと思った矢先に、家族の方から迎えに来てくれたと。プルシュカは、久しぶりに抱きしめる家族の感触に懐かしさを覚える。一人での修業は何かと寂しいものだったと。
ボンドルドは、プルシュカの切り傷や打撲を回復魔法で癒す。勇者ヒンメル相手にこの程度のケガで済んだのは、相手も配慮しての事だろうと察していた。だが、プルシュカは完全に心を殺しにいった事を薄々理解した。
「プルシュカ、武者修行の旅は満足できましたか?」
「うん!! プルシュカはとってもすごい魔法を手にいれたのよ。すごーーく、制御が難しい魔法でね・・・チラチラ」
プルシュカが褒めて欲しそうな顔で見てくるので両親が甘やかす。これはチャンスだとフリーレンが娘が望む言葉を言う。
「ママは、プルシュカの修行の成果を見たいな。どんなすごい魔法なんだろう」
「そんなに見たいなら仕方がないわね。ちょっと、威力があるから海に向けて撃つから」
目を輝かせるアリス。姉であるプルシュカがカッコいい魔法を使うと信じていた。いつも先を行く姉に絶対的な信頼を持っている。
その裏で、フリーレンはボロボロになったヒンメルを今すぐ教会まで運んであげてとボンドルドに頼んでいた。これからの事を知っているフリーレンは、旧知の仲であるヒンメルに配慮する。
遠くまで見渡せるレベルで空に上がるとプルシュカが新魔法を披露するため集中し始める。ヒンメルを魔法で避難させたボンドルドは、その様子にどこかで見たことあるような術式だと思った。各所でプルシュカや魔王の残留思念と名乗る人物のオリジナルが混ざっている為、ボンドルドでも気が付けない。
「すごい魔法だね、プルシュカ。流石は、私の娘だよ。なんて魔法なの?」
「むふ~、そうでしょう。この魔法はね、反物質魔法・・・プルシュカだけの特別な魔法なんだから!! 見ててね、これがアンチマター・ゾルトラーーーーク!!」
遠くの海上にもう一つの太陽を生み出す。
ボンドルドは、フリーレンの謎が多い行動と反物質魔法。これらが無関係のはずはないと確信する。確かに、フリーレンは魔法を開発していない。約束だけは守った。だが、はいそうですかと許してはいけない事だと。
しかし、プルシュカのためを思っての行動だという事もボンドルドは理解していた。母親として一応やる事はやっているから、実に責めにくい。ボンドルドは、フリーレンに甘すぎるところがあると自覚しながら、今回の事は何も事件が起きなかった事で処理しようと決めた。幸い、人的被害はほぼ出ていない。
プルシュカは自分が開発した素晴らしい魔法を褒めて褒めてと目で訴えてくる。
「素晴らしい魔法です、プルシュカ。パパとの約束です。その魔法は、誰にも教えてはいけません。あなただけの特別にしておいてください」
「当然よ。しっかりと管理しているわ」
ボンドルドは、プルシュカに一言、謝罪してからその居住場所を魔法で消滅させた。跡形もなく、全てを。半年程度だが暮らしていた場所が消されたのは残念だと思ったプルシュカ。だが、研究した内容はすべて彼女の頭の中にある。
その帰り道、ボンドルド一家は歩いて田舎町の教会へと向かっていた。娘達が騒ぐ最中、ボンドルドはフリーレンに小声で伝える。
「私の処からコピーした研究資料は、他にどこに保管していますか?」
「ごめんなさい。後、二か所に・・・」
ションボリした顔で正直にこたえるフリーレン。
「二人を寝かしつけたら処分しにいきますから案内してください。それと興味があるなら、一緒に研究をしましょう」
「いいの?科学の分野は、ボンドルドは誰にも教えないと思っていたけど」
「私利私欲のために使う分には構いません。技術を独占する事が大事です。知っての通り、我々の立場は、特別です。優位性を維持しなければ足元をすくわれます」
「そうだね。家族の為、すごい魔法やすごい科学でみんなを守ってみせるよ。手始めに、人の脳にある空き領域を共有して、マルチタスクをする新技術を思いついたんだけど、どうかな?技術的には、ボンドルドのカートリッジの発展応用に近いんだけど~」
その発想にボンドルドは、いつからファンタジーの世界を抜け出してSFの世界に来たのだろうかと思い始めていた。
次で終わりの予定。
実家に帰ろうとしたときにフリーレンは、ある者を持ち帰りたいと駄々をこねる。
ボンドルドの脳にダメージを与える結果に…。