教会にあるフリーレンの部屋で一家全員が寝ていた。正直に言えば、狭いし、熱い。だが、家族が一堂に揃う事に幸せを皆が感じていた。しかし、翌朝に大事件が起こる。
早朝になり、ボンドルドやプルシュカ、アリスが目覚める。規則正しい生活は、心身に良い影響を与える。だが、一人だけ一向に目覚めず眠りこけるエルフがいた。この半年以上の間、規則正しい生活を送っていたと自称していたフリーレン。
その様子が全く感じられない。それどころか、イドフロントで生活していた時よりも堕落しているのではないかと思えるほどだ。
プルシュカとアリスが、フリーレンのほほを突くが目を覚ますことはない。母親としての威厳ある姿はどこにもなかった。ボンドルドが見るに見かねて、起こそうと優しく彼女をさする。
「フリーレンさん、朝ですよ。朝食の準備をしますので起きてください」
ボンドルドの声に反応したフリーレン。彼女は、眠気によって夢の国の住人だ。そして、次の一言が勇者の心に大ダメージを与える。
「マリー。朝は勝手に目が覚めるまで起こさないでって…お休み」
マリーという人物。それは、この場にいたボンドルドとアリス、プルシュカも知っている。昨晩遅くに挨拶をしたからだ。非常に人柄もよい敬虔なシスターだというのが共通認識だ。
だが、その程度の認識では足りなかった。
「パパ、その、大丈夫よ。ママはちょっと寝ぼけているだけだからね」
「その通りです、ままはボケボケなだけです」
ボンドルドの情緒を心配した娘達が気を回す。だが、その気遣いを無駄にする追い打ちをするのがフリーレンだった。
「マリー。洗濯した服は、そこに置いておいて。後、お昼ご飯はパンがいいな。隣町で売ってる限定パンが・・・」
「フリーレンさんのお世話は、私の仕事なのに。一体、どうしてこのような事に」
ボンドルドの脳にダメージが蓄積する。思わぬダメージに膝ががくがくとしていた。娘たちは今までこのような父親の姿は見たことがなくオロオロとする。ボンドルドは、悲しそうな声で寝ぼけているフリーレンから本音を聞き出す。
「フリーレンさんは、イドフロントの生活が肌に合わなかったのですか。できる限りの事はしていたのですが」
「マリー、眠いから寝かせてよ。あっちの生活は、厳しいからたまの息抜きくらいは~」
半分寝ているフリーレン。彼女が厳しいというイドフロントの生活は、世間一般的に厳しいとは言えない。
起床時間は、朝7時。
三食全てボンドルドやアンブラハンズ達が作った栄養バランスを意識した食事。
健康維持のための適度な運動や美容の為の入浴やマッサージ。
他にも掃除洗濯なども全て全自動で、最高の環境を用意していた。
確かに、ジャンクフードや二度寝や間食、夜の9時を過ぎてからの食事などは制限されている。
「絶対にママがずぼらなだけだから、パパは何も悪くないわ。世間一般的に、イドフロントの生活は緩いくらいよ」
「その通りです。これからままを、お姉ちゃんとしっかりと教育します。ぱぱは外で待っていてください」
愛する妻をNTRされかけたボンドルドは、想像以上にダメージを負っていた。まさか、脳破壊とはこれほどまでの威力を誇るのかと。ボンドルドは、プルシュカによって脳破壊されたヒンメルに同情した。少しだけ、魔王国に配慮しようと思うほどに。
だが、ボンドルドの苦悩はまだ続いた。
娘達が母親を再教育する最中、ボンドルドは教会を見て回る。地方教会に潤沢な資金はないにしても少しさびれていると感じる。教会の権力と影響力を保つため、しっかりとした運用をできるように常日頃ボンドルドは眼を光らせている。
特に予算については、細心の注意を払っていた。不正の温床になることを避ける事が大事だ。ここでボンドルドは気が付いた。この教会に回される予算は、シスターマリー一人分。フリーレンの部屋にあった品々や彼女の食費はどこから調達されたのか。
魔法使いとしてフリーレンが稼いだ可能性もある。だが、気まぐれのフリーレンだ。衣食住を提供してくれる人がいれば、お金の事など気にしない。
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ボンドルドは、教会にあるマリーの部屋を覗いてみる事にした。とても嫌な予感がする。だが、見て見ぬふりはできない。
気配を殺して確認したマリーの部屋は、質素という言葉がふさわしい。極貧生活とも言い換えてもよい。服などはシスター服しかない、ベッドもフリーレンが使っている物の方が上等だ。机の上には、書物の複写をしていた内職の跡があった。
教会の外には自家栽培の野菜もあり食費の足しにしていたのが分かる。
ズキズキとボンドルドの良心が痛む。マリーは、自分に使うお金や貯蓄を減らしてまでフリーレンを養っていた。それを誰にも言わず、文句ひとつ言わずに淡々とこなしている。それが当たり前だと言わんばかりに。
マリーの部屋でボンドルドが佇んでいると、部屋の主が戻ってきて声をかけた。
「お恥ずかしい部屋を見せてしまい申し訳ありません。朝食の準備ができましたので、食堂にお越しください」
「おやおやおや、これはご丁寧に。ですが、その朝食にはあなたの分はあるのですか?」
「その~・・・ありません。お願いです、フリーレン様には内緒にしていただけないでしょうか」
「訳を聞かせてください。納得できれば、この事は私の心のうちに留めましょう」
身を削っての献身にボンドルドは、まさかフリーレンが魔法で何かを・・・と一瞬疑ってしまう。出来る出来ないでいえば、フリーレンにはそれが出来てしまうからたちが悪い。
それから、マリーは身を削ってまでフリーレンに献身する理由をポツポツと言葉にする。彼女は、いいところの元お嬢様であり、三代目魔王が世界にバラまいた魔法により出生の秘密が露見する。その為、母親と一緒に追放された。
このくだりだけでボンドルドのお腹はいっぱいだ。
当時、この問題解決に尽力したのが大陸魔法協会、教会、魔王国だ。特にフリーレンが中心となり、問題を解決したのは有名だ。捨てる神あれば拾う神あり。教会に身を寄せる事で母親と娘は、窮地を救われる。当時の教会は同じように、追放された子供たちが多数いる異常事態。
「私は、その教会でフリーレン様に初めてお会いしました。フリーレン様は、迷える子供達に食事を配っていました。私もその時にフリーレン様から食事をいただき、決めたのです。彼女のように無償の愛を人に与えられる存在になろうと。ご納得いただけましたでしょうか」
当時の事を思い出すボンドルド。確かに、あの時は色々な場所で炊き出しを行った。子供達への教育なども手配して、イメージ戦略にも力をいれた。その結果、地方にもシスターを派遣できるだけの人材が出来上がった。
今目の前にいる彼女は、フリーレンの被害者の一人だ。被害者の一人に身を削らせて世話をさせているこの状況には、ボンドルドも頭を抱えそうになる。
「えぇ、納得もしました。理解もしました。・・・シスターマリー、貴方の事を誤解しておりました。フリーレンさんの事について感謝します。また、どうか何も言わずに私の謝罪を受け入れてください」
ボンドルドが床に手をついて頭を下げた。その様子はまるでご下座そのもの。人の心があるボンドルドには、なかなか心に来るものがある。田舎町に住む一介のシスター相手に土下座する教会最高権力者。
「分かりました!分かりましたから頭を上げてください。こんな様子を誰かに見られたら、私は生きていけないです」
「ありがとうございます。情けは人の為ならずという言葉があります。私は、貴方にとても大きな借りが出来てしまいました。フリーレンさんが受けた恩は必ず何倍にもしてお返しします」
知らぬが仏という言葉もあるので、ボンドルドは事の真相は彼女には伝えない。流石にそこまで空気が読めない男ではなかった。
それから、娘達によって説教をされた母親と娘たちは食堂で信じられない光景を目にした。まさか、父親と年端もいかないマリーの距離感が縮まっていたからだ。
マリーは聖都にある教会にて英才教育を受ける事が決定する。聖都で暮らして幸せな生活を送る彼女の元には、たびたびフリーレンやボンドルドが訪ねてくる事で教会でも一目置かれる存在になる。
ゼーリエ様は、フリーレンの尻拭い準備をしつつ子供の名前を考えていましたがすべてが無駄に終わり、不機嫌モード全開です。
アウラは、事が終わりバラバラにされたヒンメルを見せられて「鬼、悪魔、フリーレン」と泣きながらヒンメルをつなぎ合わせて目覚めるまで片時も離れませんでした。まさに愛を知る魔王です。
ふぅ~、この閑話もこれにておしまいです。
ネタが思いついたらまた、突発投稿します。
そういえば、原作だと新しいエルフが出てきたとか。ついに使い潰しても問題ない母体の可能性があるよね。