黎明のフリーレン   作:新グロモント

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閑話:魔法を統べる王②

 推定三千年以上前の世界に転移を成功させた、歴史上ただ一人の魔法使いとなったフリーレン。その壮大な光景に彼女も息を飲んだ。今まで見てきた世界とは一変していた。近未来的に時代を先取りしているイドフロントと比べれば、その差は歴然だった。

 

「あれ?千年前と実質あまり変わらないな。やっぱりボンドルドのところが異常なんだよね。さて、とりあえず人がいる場所を探そう」

 

 衣食住を誰も助けてくれないこの場所で、フリーレンの生活力が試される。魔法で家を作り、水を出すこともできる。さらに洗濯の魔法も習得しているため、困るのは食料だけだ。キノコを増殖させる魔法など食生活に役立つ魔法もあるが、現物を見つける必要がある。

 

 こうして三千年前の世界で、フリーレンのサバイバルライフが始まろうとしていた。

 

 彼女の目的は、この時代に存在していたという原初の魔王を探すこと。そして娘アリスを連れて再びこの時代に戻り、魔王討伐の偉業を達成させることにある。

 

 だが、この時フリーレンは気づいてしまった。

 

「あれ?帰るのに女神様の石碑が必要なんだけど、どこにあるんだっけ?帝国の近くだったと思うけど、この時代に帝国ってあったかな……。うーん、とりあえずエルフを探そう。きっと、この時代なら沢山いるはず」

 

 フリーレンは千年以上前の記憶を頼りに、生家のあった場所を探すことはしなかった。当然だ。この時代に両親が生きているとは限らないし、下手に接触すれば未来が変わる可能性もある。つまり、何か問題が発生すればプルシュカやアリスといった存在が消えてしまう恐れがある。

 

 よって彼女は現在地から近隣を探すことにした。魔法という万能の力と圧倒的な魔力で半径十キロを網羅できる。そして運良く最初の現地人を見つけることに成功した。

 

「この魔力の質は……エルフかな。幸先がいいな。でも死にかけてる?急がないと」

 

 フリーレンは普通に飛んでいては間に合わないと察し、力技で解決する。近くの木を魔法で倒し、それを浮遊させて上に乗り、魔力で足を固定。そして――魔力で打ち出す!これはボンドルドが副業で広め、大流行している漫画「DB」に登場する桃白白流の移動方法だった。

 

 ちなみにこの移動方法は、ボンドルドが広めた「DB」の影響で魔法使い達の流行となっていた。魔力次第でどこまでも速く遠くへ移動できる究極の方法である。

 

………

……

 

 過去の世界では魔法技術は秘匿され、一子相伝に近かった。そのため咄嗟に発動できない魔法も多く、野生動物に殺されるエルフもいた。今まさに、野生の熊に襲われて死にかけているエルフの一家がいた。

 

 彼らは定住の地を求める流浪の民だった。長寿を持つエルフは集落単位で生活し、よそ者を受け入れることは滅多にない。流浪の民となったエルフは罪を犯した者と見なされ、どこからも受け入れられないのだ。

 

 エルフの男はすでに息絶え、女は熊に襲われ重傷を負い長くは持たない。だが彼女が必死に生を繋いでいるのは、腕に抱く子供を守るためだった。

 

「あぁ……どうか、娘だけでも」

 

「ゾルトラーク!間に合わなかったか。私では、その重傷を治せない。最後に何か言い残すことは?」

 

 熊どころか周囲一帯を薙ぎ払ったフリーレンの魔法。その卓越した魔法を前に、長年生きてきたエルフの女は彼女にすがる事にした。残された時間は短い。

 

「娘を……せめて独り立ちできるまで」

 

「まだ乳飲み子か。わかった。私は二児の母だ。安心していい。子供の名は?」

 

 フリーレンは未来に連れて帰ろうかと思った。エルフが一人増えても大した問題ではないし、むしろ良いことだと考えた。

 

「ゼーリエ」

 

「ゼーリエか。いい名……ん?ゼーリエ?今、ゼーリエって言った?」

 

 母は娘の名を託して事切れた。

 

 赤子を抱き上げると、健やかに眠る様子をフリーレンは複雑な顔で見守った。ぷにぷにと頬を触ると、赤子は反射的に彼女の指を握った。

 

「母親が子供を人に託す思いは理解できる。だから、私が責任を持つ」

 

 フリーレンはゼーリエの両親を丁寧に埋葬し、子供が大きくなるまでこの地を拠点として女神の石碑を探すことを決意した。

 

 三度目の子育てとなるフリーレン。誰の助けも借りず一人で全てを行うことになるが、百年以上の母親経験者でもある。天災フリーレンの力の見せ所だった。

 

………

……

 

 それから十数年後。

 

 エルフの子供ゼーリエは、立派に育った。ボンドルドの子育て完全マニュアルを元にすれば、子育てなんて楽勝だ。本当にその通りだった。

 

「フリー()お母様。早く起きてください」

 

「まだ、朝早いって…ゼーリエ」

 

 フリーレンは、この時代において偽名を使っている。ボンドルドが未来で流行させた漫画から流用し、フリーザと名乗っている。語呂もフリーレンと似ており、それなりに気に入っていた。

 

「それより、早く魔法を教えて。ねぇ、魔法魔法!! フリーザお母様より凄い魔法使いなんてこの世に居ないんだから」

 

「むふ~、よくわかってるね。覚えが早いゼーリエには、この時代で教えられる全てを教えてあげる。きっと、未来で役に立つ。でも、訓練の時はフリーザ師匠(せんせい)と呼ぶように」

 

 フリーレンは子育てと並行して未来に帰るキーである女神の石碑を探す事も忘れない。ただ、手が足りないという事実がある。よって、彼女はこの十数年で作ってしまった。

 

 魔素から生命を生み出す魔法。

 

 これにより生み出された生命は、フリーレンの忠実な駒となる。最初は、犬や猫程度だったが徐々に高度な生命体も生み出せるようになった。更には、高度な生命体に自ら魔法を研鑽させ、最終的にその成果を貢ぐように指示を出している。これで寝ていても数々の魔法がフリーレンの手元に集まるというやつだ。

 

 それが遠い未来で魔族と呼ばれる事になるなど、フリーレンは知らなかった。

 

 いつしか生み出された魔法生命体は、主の制御を外れ自由意思で行動する。仮にボンドルドがいれば、最終的なセーフティ機能を埋め込むなどをやっただろう。魔法に絶対など存在しない。万能であるがゆえに、生みの親であるフリーレンから制御を逃れる魔法を開発する存在も現れる。

 

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