過去の時代において、文字通り最強であるフリーレンを脅かす存在など誰もいなかった。やがて彼女のもとにエルフたちが集い始める。彼女の叡知は、この過去時代のエルフが持つ魔法技術を遥かに上回り、誰もが彼女の知恵を授かろうとする者ばかりだ。
フリーレンが魔法を振るえば、天は裂け、大地は震え、津波が押し寄せ、嵐が荒れ狂う。さらに天から神の杖が降り注ぎ、大地を消し飛ばし、反物質の光が島を消滅させる――未来の世界では禁忌とされるフリーレン産の魔法を、彼女は自在に操っていた。家族の誰も見ていないんだし、少しくらいハメを外してもいいんだろうという心だ。
その結果、フリーレンに敵対しようなどという愚かな考えを持つ者は、エルフであれ、魔法生命体であれ、誰一人いなくなった。そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。
頂点にして原点――魔法を統べる王、フリーザ。
幾年かが過ぎ、フリーレンのもとには百名を超えるエルフが集まり、集落を形成した。彼らはこの地で魔法技術を磨き、数々の魔法を生み出しては魔術書に記録していった。
また、フリーレンが野に放った魔法生命体も徐々に数を増やし、大陸全土に生息圏を広げていく。彼らが集める情報をもとに、フリーレンは女神の石碑に関する手掛かりを得ては現地へ赴き、率先して活動を続けていた。
その旅路には常に幼いゼーリエを伴い、徹底した魔法指導を施す。感覚ではなく理論で魔法を操るフリーレンは、人に教えることに長けていた。ゼーリエの高い知性と魔力は吸収も応用も早く、未来の最強を予感させる器だった。
「ゼーリエ、墓参りに行ったら少し遠出になる。女神様の石碑に関する情報を手に入れた」
「だったら先に石碑探しをすべきだろう。エルフの時間感覚で毎年墓参りするなんて奇特な方だ。だが、私の本当の両親のためにありがとう、フリーザお母様。……この際だから聞いておきたい。二児の母ってところだけは信じられない。本当は嘘なんだろう?」
最初こそ世話をしてもらった記憶があるゼーリエだったが、最近はむしろ自分が面倒を見ることが多いと感じていた。魔法以外のことに関しては、フリーレンはあまりに不器用だった。
「本当だよ。私は人間と結婚して子供を作ったんだ。だから、こういう感覚は、人間基準にしているんだ」
「人間……あの姿形は私たちに似ているが、魔力は脆弱で寿命も一瞬しかない存在のことか?」
ゼーリエは信じられなかった。世界最強の魔法使いであり、ほぼ無限の寿命を持つエルフが人間との間に子を成すなど理解できない。人間など、エルフの感覚からすれば目を離せばすぐに老いて死ぬ脆弱な生命体だ。
「と、誰もが思うよね。でも世の中にはバグみたいな人間が結構いるから侮らない方がいい。油断しているとすぐ殺されるから……ということで、ゼーリエは魔法だけじゃなく肉体も鍛えよう。強い魔法使いを殺すのは簡単。でも、魔法も肉体も強い魔法使いを殺すのは本当に難しいんだ」
「わかった。で、参考までに聞いておくけど、どんな人間と結婚したんだ?」
「そうだね~。私の夫は千年以上生きているし、死んでも残機制で蘇るし、魔力も私と同程度で外付け強化もできる。歴史上最高レベルの僧侶で即死でない限り無限に回復するし、戦士としても強く、女神様に選ばれた勇者でもある。たまに性別も変わるし……まぁ、このくらいのバグみたいなのが結構いるんだよ」
「私は人間の話を聞いているつもりだったんだが、いつから化け物の話に切り替わったんだ?どう考えても人間の域を外れているだろう」
フリーレンの誤った知識は、ゼーリエに「人間=化け物」という誤解を植え付けた。遠い未来でその化け物に子を産ませることになるとは、想像すらしないだろう。
そしてその日から、ゼーリエの大強化計画が始まった。大魔法使い矯正ギプスを常時身につけさせ、肉体を飛躍的に強化する。魔力を込めるほど重量が増す金属を手足に装着し、肉体を鍛えるのだ。これを死ぬまで続けることになるゼーリエは、あの柔らかそうな肉体の下には範馬勇次郎並の筋肉密度がある。
当然、フリーレンも同じ訓練をしており全身で四十キロ程度の重りを常時つけている。身体は魔法使いの資本。魔力が尽きて逃げられないでは話にならない。
◇◆◇◆
その頃、現代ではフリーレンが消えたという事でアウラが大歓喜していた。
「胃痛の種であるフリーレンが居ないと言うだけで、こんなにもお酒が美味しいなんて最高よね。ほら、ヒンメルも飲みなさいよ。今日は無礼講よ」
「何もそこまで祝わなくてもいいんじゃないかな。かれこれ長い付き合いなんだからさ……平和なのは認めるけどね。そういえば、オレオールの英雄さん達に聞いたんだけど、昔は魔物とか魔族がいなかったって本当なの?」
既に、事実を知っている者など居ない。本当に伝承レベルで残るおとぎ話だ。魔族は長生きであり文明的だったことからそういった情報が残っているのではないかと思いヒンメルは興味本位でアウラに聞いてみた。
「あぁ、その話ね。私も詳しくは知らないわよ。私が産まれるずっと昔のことで初代魔王様から少しだけ聞いたくらいね。なんでも、数千年以上前に突如現れた魔王…原点にして頂点である魔法を統べる王が魔族を産み出したとか言っていたわ。確か、名前はフリーザ。天を割り、大地や島を消滅させたり凄まじい存在だったらしいわ。現代まで生きていたら、魔族側が戦争で勝利していたでしょうね」
「それは困るね。そうなったら、アウラとこうした関係になってないじゃないか。・・・うん? 今、フリーザって言ったかい? 巷で流行っている漫画と言うやつに出てくるアレの事かい?」
アウラは、そういった流行には弱かった。だが、魔族の産みの親であるフリーザ様の名を使う事など、魔王国としては許しがたい事だ。販売元にクレームの一つでも入れたつもりで、ヒンメルから一冊の本を受け取る。
販売元は、教会。つまり、ボンドルド絡みである事は明白だった。
よって、アウラは今の考えはなかったことにする。
「漫画の事は知らないけど・・・なんでも、銀髪の美しい女性だったらしいわ。」
「銀髪の女性。フリーザ。フリザ、フリー………レンだったりして。はははは、流石にないよね」
無駄に直感が冴える勇者ヒンメル!!
「面白い冗談ね。仮にそれだったら、初代魔王がエルフを全滅させようとしたのもフリーレンが原因じゃない。魔素から生物を産み出すような化け物魔法使いが二度と産まれないように徹底して殲滅するわよ。でも、流石にないわよ。自分で魔族を作って、エルフを追い込み、恨みで魔族を虐殺して回るなんてマッチポンプもいいところじゃない……な、無いわよね?ないよね? あれ……でも、今フリーレンって何処に行っているんだっけ」
「魔法学校でプルシュカからまた聞きした話じゃ、アリスが過去の世界で魔王討伐をする為に数千年前に現地調査に向かったとか言ってたかな。だから、ちょうどそのくらいの時代にいる…いいや、居たんじゃないかな」
ヒンメルとアウラの顔から脂汗が滴り落ちる。
常識的に考えてあり得ない。だが、そのあり得ない事で何度人類を滅ぼしかけた事か、フリーレンには前科がある。この世のすべてはフリーレンを中心に回っていると思えるほどに、奇跡的にそれらすべてを回避してきた。
「ちょっと、ボンドルドの所にいって魔王城から回収したっていう書物を漁らせてもらうわ。もしかしたら、万が一…本当にフリーレンが魔法を統べる王だったら、魔族って何なのよ。昔も今もエルフの奴隷ってことじゃない。私達が何をしたっていうのよ」
「そりゃ、人類とバチバチの戦争してたじゃん」
その通りだった。その結果、敗北したがエルフたちが魔族に首輪をつける条件で生存が許されている。これが、エルフの所業であり、魔王がエルフを執拗に殺して回ったのも納得の理由だ。
人の心かないんか が 似合いそうなフリーザ様。
そろそろ、未来への帰り支度を始める・・・だが、彼女は大事な事を忘れていた。
過去に来た目的だ。
ゼーリエ育成計画で満足して帰ってしまいそうだ。
正直原作でもこの展開はワンチャンあるんじゃないかと作者は思っています。