黎明のフリーレン   作:新グロモント

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閑話:魔法を統べる王⑤

 かつてこの地に影を落とした悪――頂点にして原点、魔法を統べる王フリーザ。

 

 かの者は魔族の祖を生み出し、知恵を授けた。我らは魔王フリーザの忠実な駒……いや、駒ですらない。使い捨ての労働力として生み出された存在だった。我らに許された行動は、魔法の探究と女神の石碑の捜索のみ。

 

 魔王フリーザは、魔族がどれほど魔法を貢ぎ、世界各地から情報を集め、美食を献上しても、一切感謝を示さなかった。興味すら抱かない。だが創造主の圧倒的な力の前に、命惜しさから魔族は馬車馬のように働き続けた。

 

 しかし、ある時気づいてしまった。

 

 魔王フリーザの探し物が見つかったら、我々はどうなるのか。答えは決まっている――排除だ。魔王フリーザはエルフや人間を大切に扱うが、自ら生み出した魔族には石ころほどの興味もない。

 

 何のために我らは作られたのか! 確かに、魔王フリーザなくして我々の存在はなかった。だが忠義を尽くす我らの扱いは家畜同然。だからこそ、魔王フリーザの支配から逃れるため、あらゆる手を尽くした。

 

 ある者は獣と交配し子孫を残す魔法を作った。だが知能を著しく損ない、魔王の支配から脱したとしても獣レベルの知識しか残せなかった。これでは魔族ではなく魔物だ。

 

 ある者は人間との子を残そうと研究した。だが人間の脆弱な肉体は魔力に耐えられず、子は自壊した。ならばエルフを素体にと考えたが、第二、第三の魔王フリーザを生み出す危険がある。何より、フリーザの存在がある限りエルフに手を出すことは死を意味した。

 

 魔王フリーザの姿が確認できなくなって五百年が経過した頃、魔族は次々と寿命で死んでいった。魔素で構築された肉体は不老不死に見えたが、違った。フリーザによって時限爆弾が刻まれていたのだ。五百年を過ぎると魔力が急激に減衰し、消滅する仕組みが組み込まれていた。

 

 種族存続をかけた研究の末、魔族は魂に干渉する魔法を生み出した。これで呪縛から解放されると誰もが喜んだ。成功率は極めて低く、百人中五人が生き残れば御の字。それでも魔族は未来に賭けた。生き残った者が未来を繋げればいい。

 

 生き残った魔族たちに告げる――魔王フリーザは死んではいない。我らの無念を晴らしてくれ。

 

 

………

……

 

 魔王城から回収された古い文献。何度も書きうつされ、歴史を紡いできた代物。

 

 それをアウラはボンドルドに頼み込み、確認させてもらっていた。そして確信した。冷静なアウラですら取り乱し、傍らにヒンメルがいなければ自暴自棄で命を絶っていたかもしれない。

 

「鬼、悪魔、フリーレン!! 一体何なのよーーー!! 全部、全部フリーレンのせいじゃないのよーーー!!」

 

「いや~、僕の勘も当たるもんだね。これ、絶対フリーレンのことだよ。まぁ、終わったことは諦めようアウラ。フリーレンがやらかしたから今がある。前向きに考えよう」

 

 卵が先か鶏が先か――議論は同じだ。フリーレンが過去に行かなければ今はない。だが過去がなければ今のフリーレンもいない。

 

 まるでこの世の全てがフリーレンを中心に回っているかのような理不尽。魔族の生まれの真実を知ったアウラとヒンメル。しかしそれを魔王国の民に伝えることはない。伝えても意味がない。今も魔族はエルフの家畜であることに変わりはない。マイナスの情報を広め暴動でも起きれば、即日魔王国は消滅させられる。

 

 アウラが髪をかきむしると、毛髪がドバドバと抜け落ちた。ストレスによるものだ。女性の命ともいえる髪に深刻なダメージを与える存在――フリーレン。今後死ぬまで彼女に付き合わされるアウラ。だがアウラも母親だ。

万が一退位すれば、次の魔王は娘アル。娘の胃と精神を守るため、アウラはすり減り続けるしかなかった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 アウラがイドフロントの書庫で苦悩している最中、同じく悩む者がいた。プルシュカ、アリス、アロナ、プラナ、ボンドルドと雑魚寝するゼーリエ。可愛い子供たちの寝顔は、全ての病を癒す特効薬のように感じられた。

 

 ゼーリエはフリーレンをイドフロントで発見されたパンドラの箱に永久封印できないかと考えていた。既に過去に旅立ち今が確立した。つまり箱を開けなければ、この幸せは続く。数千年前にフリーレンにかけられた呪いの影響で箱を開けたくて仕方ないが、気合で耐えられる。世界最強の魔法使いゼーリエだからこそ耐えられる。

 

「開けるにしても今じゃなくていい。私がその気になれば百年後でも千年後でも一万年後でも可能だ。いっそパンドラの箱の上に更なる箱を作るか。時の流れを数千倍遅くすれば……」

 

 フリーザ改めフリーレンが永遠に封印されれば、問題は起きない。実際、彼女は一世紀単位で大問題を起こしてきた。それがなくなるだけでゼーリエの心はどれほど平和になるだろう。

 

 その時、ゼーリエの足を抱き枕にしていたプルシュカとアリスが寝言を呟いた。

 

「ママ……ぺちゃぱい」

 

「まま、それはアリスの服です」

 

 その言葉はゼーリエの心に凄まじいダメージを与えた。血反吐を吐きそうなほどだ。実の娘同然に可愛がっている子供から母親を奪うようなことをしていいのか。

 

 プルシュカとアリスの母親は、どんなに頑張ってもフリーレンである事実は変わらない。この可愛い二人がいなければ、ゼーリエはボンドルドの反対を押し切ってでもフリーレンを永久封印しただろう。

 

「くっそ、私はどうすればいいんだ。世界の安寧のため奴を解放したくない。だが、あれは天災だ。いつか自力で箱を開けてしまう。考えろ、考えろゼーリエ。この程度の問題を解決できなくて何が世界最強だ。フリーレンを封印して、プルシュカとアリスの母親になり、ボンドルドを納得させる。それだけだ……よし、ボンドルドの子供を産もう。これで名実ともに母になれる」

 

 考えすぎて思考が壊れ始めたゼーリエ。彼女の脳裏には、母親としての役割を果たすためにボンドルドの子を産むという極端な結論が浮かんでいた。だが、数千年を生きるエルフであるゼーリエは、まだ子供を産める年齢に達していない。その致命的な問題をどう解決するか――それが新たな苦悩となった。

 

 暫定的に「フリーレン永久封印作戦」を考えながらゼーリエは眠りについた。しかし、フリーレンのことを考えれば考えるほど精神的なストレスは増し、翌朝目覚めた時には大事な頭髪がごっそりと抜け落ちていた。

 

 世界最高の僧侶であるボンドルドの力をもってしても、髪だけはどうしようもなかった。円形脱毛症に悩まされるゼーリエ――その姿は、世界最強の魔法使いでありながら、フリーレンという無自覚な悪意を振りまく特級呪物みたいな存在に悩まされる女子姿だった。

 




次回で魔法を統べる王の閑話もおしまい予定です。
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