天上天下唯我独尊を体現するエルフ──その名はフリーレン。世界の危機を何度も救い、歴史の教科書に名を刻む常連。その彼女が再び動き出した。
裏事情を知るエルフにとって、それは本当に“世界の危機”を意味する。
そのフリーレンが本日、家族に内緒でゼーリエの元を訪れていた。ゼーリエはフリーレンのことが大嫌いだ。だが、彼女の子供であるプルシュカとアリスのことは目に入れても痛くないほど大好きで、その分だけ感情は複雑になる。そんな相手のもとへ、フリーレンは一人でやって来た。
本来なら門前払いしたかった。だが、経験上、ここで追い返せばろくなことにならない。マッチポンプで世界を救った回数を数えれば、片手では足りないのだ。
応接間で向き合う二人。先に口を開いたのはゼーリエだった。
「まだ、7回目の人類を滅ぼしかけてから五十年しか経っていないだろう。また飽きずに世界を滅ぼしかけるつもりか?」
「悪いけど、そんなくだらない話をしている時間はないんだ」
世界を滅ぼしかけた事件を“くだらない”と断言され、ゼーリエは眉をひそめる。あの事件だけで数万人が死んだ。事故や不幸が重なったとはいえ、諸悪の根源が言っていい台詞ではない。
エルフの訓練用サンドバックとして、フリーレンが生み出したあらゆる事象に対応できるように生み出した魔法生命体…マコーラ。プルシュカですら勝利を収められず、負傷して敗北する程の性能を有していた。
その過程で生みの親であるフリーレンの呪縛にも適用して逃亡。その結果、人類に被害が出た。表向きは、魔王国からの侵略者として各国に魔族が未だに共通の敵であることを再周知する事になる。そして、リベンジに燃えたプルシュカが地図を書き換える程の魔法を行使して消し炭も残さず消滅させた。
「ふざけているのか? あの事件のせいで、年単位でプルシュカとアリスに説教されて凹んでいただろう。……いや、違うな。それどころじゃないということか」
「まあ、そういうこと。そうでなきゃ、家族に内緒で真っ先にゼーリエのところに来ないよ」
ゼーリエの胃がきゅっと痛む。聞きたくない。しかし聞かなければ、もっと最悪な事態になる。せっかくストレスから解放されて生えてきた髪が、また抜けていく気がした。
フリーレンは数枚のレポート用紙を差し出した。
「なんだこれは?」
「アウラが使う魔法だ――
ゼーリエは確かにその通りだと思った。必要悪として便利に使われている魔族。人類は、共通の敵を持つ限り一定以上の世界平和が訪れている。人類は、殺し合う事が大好きで、魔族がいなければそれこそいつでも戦争をしている。
そんな戦火にエルフが巻き込まれるのは、非常に問題だ。他にも、エルフの子供達がそんな面倒ごとに巻き込まれて欲しくないと思うのが親心と言うやつだ。
「手土産としては上々だ。子供達の身の安全を考えるならば、魂への干渉を防ぐ手段は大事だからな。で、本題は? 」
「話が早いね。実は手伝って貰いたい事がある。大陸魔法協会という隠れ蓑があれば、ボンドルドや子供達に気づかれずに研究ができる」
ゼーリエは、フリーレンが何を言っているのか深く考えた。
ボンドルドが教会の権力をフル活用して再建したイドフロントより優れた研究施設など、この世に存在しない。1000年先を独走しているといっても過言でない場所だ。ゼーリエからしても理解が追い付かない叡知が詰まっている場所だと言える。
だが、そこを捨ててでも外部に協力を求めるのはなぜか。
「断る。私はお前の事が大嫌いだフリーレン。過去の一件も、人類を滅ぼしかけた様々な一件も、禁忌に等しい魔法開発の一件も含めてだ」
「私だって、反省はしているんだ。でも、なぜか大惨事につながってしまうから仕方ないじゃん。それに、全部問題は解決させているから問題ない」
そして、歴史に名を刻み続けている。
だが、エルフの立場的に既に事の真実は公表できない。エルフ全員が墓場まで持っていく覚悟をしていた。全てマッチポンプでしたなんて言えば、世界から批判を受ける事は間違いない。
「というわけだ、だから帰れ」
「いいや、帰らない。ゼーリエは、私に協力しなければならないんだ。しないと、プルシュカやアリスだけでなく子供達からも嫌われる」
対ゼーリエとの交渉において、子供をダシに使うなど良いと大人がやっていい事ではない。だが、効果は絶大だ。フリーレンを今すぐ追い返そうとしていたゼーリエだったが、プルシュカとアリスが関わるとなれば掌が180°ひっくり返る。
「頼みの詳細を話せ。聞いてから判断してやる」
「ゼーリエは、人の構成要素を知っているか? 水三十五リットル、炭素二十キロ、カルシウム……。魂については、アウラのおかげで研究を終えている」
科学方面にも手を伸ばし才覚を発揮するフリーレン。ゼーリエは、フリーレンが言う元素の意味を完全には理解できないが、無知というわけでもない。だからこそ、嫌な予感が背筋を凍らせる
フリーレンは淡々と説明を続けた。その内容を聞くうちに、ゼーリエは本気で“今ここで殺すべきか”と考え始める。
もはや、ボンドルドやプルシュカ、アリスに嫌われても構わないと思わせるほどの内容だった。フリーレンは今までも禁忌に手を出してきたが、今回は度を越している。知恵も設備も金も時間もある彼女なら、遠くない未来に実現してしまう。
フリーレンさんにも事情があるんです・・・次話で底あたりをご紹介予定です。