ゼーリエは、フリーレンを殺すなら絶対に逃げられない環境を用意し、塵一つ残さず消滅させる必要があると理解している。取り逃がせば魔法を解析され、さらに成長して舞い戻ってくる。死にかける度に強くなって戻ってくるなど、どこの戦闘民族かと言いたくなる。
エルフの手で生命を創造する。今でも魔素から魔物を産み出せるフリーレンだが、これは次元が違う。
魔法使いとして極致に達しているだけでなく、生命の創造にまで手を伸ばす。孫弟子の暴走を止めるのも師の務めだ。道を誤ろうとするなら、それを止めるのが年長者。しかしゼーリエであっても、フリーレンを止めるのは容易ではない。
だが、エルフの種存続のため。未来のため。子供たちのため。
ゼーリエの覚悟が固まる。
「フリーレン。貴様は自分が何を言っているのか理解しているのか? それを私に聞かせて何の意味がある。言っておくが、刺し違えてでもお前を殺す覚悟は今できた」
「だろうね。だから最初に全部伝えたんだ。後で知ったら、それこそ大惨事だ。でもね……ゼーリエは、私に協力するよ。だって、当事者の一人になるんだから」
フリーレンは静かに続ける。マッドサイエンティストでもなければ、頭のネジが外れた魔法狂いでもない限りあり得ないと鼻で笑う。その間、ゼーリエはフリーレンを殺すためのあらゆる魔法の準備を始めていた。
「ボンドルドは秘密にしている。プルシュカやアリスも気づいていない。……最近、アンブラハンズの数が減り続けている」
「はぁ? ふざけているのか? あの、殺しても死なない残機制のボンドルドが減っている」
いつになく真剣な顔でフリーレンの口から漏れた言葉は、ゼーリエの予想の遥か斜め上だった。千年を超える付き合いだからこそ、ゼーリエがそのような物言いをするのも当然だ。
「そうだ。
「その通りだ。
歴史上、ボンドルド以外に
「貪欲さが欠けた。エルフと家庭を持ち、子供を成したことで、ボンドルドの目的の大半は達成された。本人も言っていたよ。私やゼーリエ、子供たちが寂しくない未来を作れたことを誇りに思っているって」
「……続けろ、フリーレン」
いわば燃え尽き症候群だ。
ボンドルドは望むものをほぼ手に入れた結果、生への執着が薄れつつある。そんな状態で
「アンブラハンズの数は全盛期には200名を超えていた。今では30人程度にまで減っている。それこそ、次代のボンドルドとなり得る死装束は2名しか残っていない。恐らく、
「人間の寿命は短いからな。だが、別に死んだなら死んだで構わないだろう。女神の祝福であるヘイロー持ちの子供たちがいれば、オレオールからいつでも戻ってこられる」
歴代すべてのボンドルドが収監されているオレオール。死生観が色々とバグってしまう原因だ。
「人の死を何だと思っているゼーリエ。そんな簡単に死んでもいいなんて口にするな。ボンドルドは私の夫だ。死んでいいとか……プルシュカやアリスの前でも同じことが言えるのか? 殺すぞ」
「お前に言われるとなぜか釈然としないが、まぁ、その通りだったな」
ゼーリエからすれば「お前が言うな」と言いたいが、ぐっと堪えた。今まで間接的に何人を死地に追いやったと思っているんだ、と。
「死んだボンドルドはオレオールから出ることはできない。それはアリスが既に証明している。それができるなら、今頃イドフロントはボンドルドで溢れている。元々バグみたいな存在だからね。なにが原因かさっぱりだ」
「それでもオレオールで会えるならいいじゃないか」
誰もがその発想に行きつく。だが、そこは当然フリーレンも通った道だった。オレオールに収監された過去の英雄たちだって、永久にそこにいるわけではない。既に数名が成仏してオレオールから消えていることを、フリーレンはゼーリエに伝えた。
そして、事の重大さを理解する。
ボンドルドという異質な存在が、エルフたちの輪を繋いでいる。その存在が完全に消滅する可能性は、ある意味、人類滅亡の引き金になりかねない。
「そういうことだ、ゼーリエ。もう残された時間は多くない。ボンドルドがこの世から完全に消えたら……私は耐えられない。恐らく、プルシュカやアリスもだ。ゼーリエ……過去のことは水に流して、手伝って欲しい。ボンドルドの新しい体を用意するんだ」
「エルフの人生をここまでかき乱しておいて、ヤり逃げなんてさせるか。手を出した以上、最後まで責任を取るのが男というやつだ。・・・いいだろう。お前の監視も必要だ。私に何も言わずにこの世から退場しようとした馬鹿弟子は、ゆるさん。未来永劫エルフを見守る役目をしてもらわないとな」
ゼーリエは、フリーレンが興味本位――例えばアリスからのお願いで妹を人造しようとしていたとか――そんな理由なら殺すつもりだった。だが今の話を聞いて、手伝うことを決意する。エルフという種族に、ボンドルドという存在は必要不可欠になっていた。
「そうそう、ゼーリエ。ヤり逃げって……手を出したのはゼーリエじゃん。私は、その件を許してないからな」
「奇遇だな。私もお前のせいで脱毛に悩まされたことは許さないからな」
お互い仲直りの握手をしつつ、全握力を集中させる。
元々、肉体的にも強い魔法使いを目指している二人。双方の手の骨にヒビが入るほどの握手を交わし、教会で治療を受ける事になる。
愛する者のため、禁忌に手を染める。
愛、愛ですよ。