世界最強の魔法使いゼーリエ。
世界最凶の魔法使いフリーレン。
この二人が、世界最狂の魔法使いボンドルドの次代の肉体を作ろうと、持ちうる全ての知識と財産を投入する。そして、双方の認識や見解の違いにより、今まさに二人はゼーリエが保有する秘匿施設の一つで、互いに睨みあっていた。
「おい、ゼーリエ。この計画書は、どうしても合意できない部分がある」
「は? 完璧な計画書だ。私が生きてきた人生で最高の出来だぞ。どこに不満がある」
二人の知識を持ち寄り、それを形にしたゼーリエ渾身の計画書。フリーレンから見ても、文句のつけようがないほどの完成度。――とある一点にだけ目を瞑れば、このまま計画を遂行してもよいと思えるほどに。
「なぜ、女性型なんだ? プルシュカとアリスから、パパを奪うつもりか?」
「……ああ、その程度の事か。別に大した問題じゃないだろう。性別ボンドルドみたいな奴だ。それに、アロナとプラナからすれば母親だ。だから、私は、次代の肉体は女にしたい」
肉体によって性別がコロコロ変わるボンドルドだからこそ起こる問題だった。ボンドルド自身は、性別に拘りなどない。男でも女でも、愛の前では些細な差異でしかない。
「大した問題じゃないなら、男でもいいだろう」
「フリーレン。考えてみろ。男は、子供を産めない。だが、私が開発した魔法ならその問題をクリアできる。女性型の方が何かと便利がいい。納得できないなら、この点については貸し1でカウントしていい。次は、お前の要望を通そう」
争いとは同じレベル同士でしか起きない。
だからこそ、この二人は次代のボンドルド作成において事前に取り決めをしていた。下手をすれば殺し合いに発展しかねない二人だ。双方が納得できない場合には、貸し借りで妥協という名の調整を行う。
今回、ゼーリエの希望が叶う形で決着がついた。
「ボンドルドなら男でも出産できそう。人間って凄いからね」
「フリーレン。薄々理解していると思うが、ボンドルドは決して標準的な人間ではないからな。あれを基準に“すごい”という判定は、相当ヤバいぞ。脳を焼かれ過ぎだ」
そして始まる――エルフの未来を支える存在を、その手で作る禁忌が。
………
……
…
** 一か月後。**
積み上げられる肉塊。人間を設計書通りに魔法で作り上げた、魂が籠っていない肉体。そこにフリーレンが持ってきたボンドルドの遺伝子(意味深)を使い、魂の定着を助けるエッセンスを付け足す。
だが、肉体の強度がボンドルドの遺伝子についてこれず、崩壊。
「1000年以上の時を選択交配で最強を産み出してきたボンドルドは伊達じゃないか。ただの人間の肉体じゃ、ボンドルドの身体になりえない事が分かった」
「で、どうするんだ? フリーレン」
研究者としてトライアンドエラーは非常に大事だ。
魂がない人体錬成とはいえ、倫理観が崩壊しつつあるなとゼーリエも感じている。人の心がないフリーレンからすれば、目の前に積みあがった肉塊を見ても何も思うところはない。魂がないならば、それこそ家畜と変わらない――と。
「簡単だよ。ただの人間を作る材料だったから問題だったんだ。だったら、材料を変えればいい。ゼーリエ、必要な材料を集めに行くよ」
「嫌な予感がするが、どこに行くんだ?」
こういう時、ゼーリエの勘はよく当たる。
フリーレンが自信満々で胸を張り言い放つ。
「
「やめろ、フリーレン。お前が“むふ~”とか言うと、どうせ碌な事にならない」
近似世界から誰も使う事がない勇者の剣を強奪する二人の強盗エルフが誕生した瞬間だった。自分の世界に迷惑をかけないなら問題ない。勇者の剣の防衛システムを回避する為、現勇者アリスの髪の毛を100%使って作った手袋を使用するなど、手抜かりはなかった。
ゼーリエは異世界に迷惑がかかるから止めろと言ったが、貸し1を使われた事で何も言えなくなる。
** さらに三か月後。**
肉体作成は、次なる課題に衝突した。複数世界から強奪してきた勇者の剣を溶かし、骨格は完成した。だが、肉体が耐えられない問題が発生する。しかし、その問題への解決策をフリーレンが見つけ出す。
ゼーリエは、フリーレンと一緒に研究をする事で、彼女の異常性をはっきりと認識した。問題に対しての解決策が、倫理観や人道などを無視しているという事だ。解決する事だけに焦点を当てている。
「なんだ、簡単じゃないか。魔素から魔物や魔族が作れるんだ。だったら、最初から魔素で肉体を構成して、マコーラ同様に適用する力を付ければいいんだ」
「馬鹿、止めろフリーレン。それはもう人間じゃない。魔族を作っているのと同じだ。当初の目的を思い出せ」
ゼーリエは、フリーレンを一人にさせるとこういう事が起こると理解する。無駄に何でもできるからこうなる。この場にゼーリエがいなければ、最強の魔族が産まれていた。人を作っていたはずなのに、どうしてこうなるんだと言いたくなるほどだ。
「そうだった。でもさ、ゼーリエ……次の肉体を作っても、寿命でダメになったら同じだと思う。だから、人間じゃダメなんだ。ゼーリエ、エルフを作ろう。協力してくれるよね」
「……」
ゼーリエは、その言葉を聞いてフリーレンから距離を取る。エルフを作る。無限にも思える寿命を持つエルフならば、次代のボンドルドの肉体になりえるだろう。現在、子供を産めるエルフは多くない。
今この場には、幸か不幸か子持ちのエルフが二人。女性同士だが、それを解消する魔法をゼーリエは保有している。
「ゼーリエ。なんでそんなに距離を取るんだ。これから計画変更について話し合わないといけないんだから、こっちこっち」
「近寄るな!! いいか、ボンドルドが
そこでフリーレンは、ようやくゼーリエが勘違いしている事に気が付いた。
「ゼーリエ、私にだって選ぶ権利はあるんだ。誰が、お前と子供なんて作るか。そもそも、私がその気になればいつでもボンドルドの遺伝子(意味深)を回収できる。だが、ボンドルドの知らない所で子供を作る気はない。子供を使えば、確かに想定できる全ての問題を解決するだろう……だが、ボンドルドは私達の子供に対して
「そうだな、確かにボンドルドなら出来てもやらないだろう。……じゃあ、どうする? ボンドルドの器になりえる肉体を持つエルフなんていない」
フリーレンが任せてと自身の胸を叩く。
「ゼーリエは発想力がないね。もっと柔軟に考えなきゃ。人体錬成にすべての要素を兼ね備えて、ボンドルドの器にはアテがある。じゃあ、鍵となるエルフの研究をしようか。過去に調べた事はあるけど、エルフと人間ってそこまで大きな違いはないんだよ。ただ、DNAの修復力が人間の比じゃないんだ。だから、あらゆる事象に適用する力を遺伝子レベルで組み込めば可能だと思わない?」
「お前は、神を作る気か」
だが、引くに引けないゼーリエ。フリーレンを放逐するほど無責任な事は出来ない。せめて被害規模を縮小させる事で何とか事態を収めようとゼーリエが奮闘する。床に散らばる彼女の長い金髪が、そのストレスを物語っていた。
神を作る為、髪を犠牲にする。
ゼーリエ様の髪以外の被害は今の所はない!
お目付け役がいると安心です。
魂がない人間をつくり飽きたフリーレン。
次は、エルフの研究を始める。