黎明のフリーレン   作:新グロモント

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閑話:水三十五リットル、炭素二十キロ、カルシウム…④

 数多の実験と積み上げられた肉塊。倫理観と道徳観を全て置き去りにし、全てのピースを揃えたフリーレンとゼーリエ。肉体を錬成する魔法は、ついに完成した。あらゆる事象に適用する魔法を組み込み、エルフを構成する魔法式。

 

  ゼーリエとフリーレンの全リソースを消費する事でようやく実現する、狂気と天才の結晶。今、フリーレンは世紀の人体錬成魔法の最後のピースとなる者達に、静かに別れを告げようとしていた。

 

 この場に連れてこられたのは、次代のボンドルドとなる最後の死装束。彼らこそ、ボンドルドの魂を受け取れる存在であり、精神隷属機(ゾアホリック)にも適用可能な逸材。何もない所からボンドルドの受け皿を作るのは現実的ではない。1000年以上の時を費やしてボンドルドが完成させてきた成果は、並大抵のことでは再現できない。

 

 よって、完成品を原材料とし、改良を加えてエルフとして再構築する。頭ボンドルドでもここまでやるのかと言いたくなるほどの所業。もしこの世界に錬金術師が存在したのなら、フリーレンの二つ名は『綴命』になっていたに違いない。

 

「ごめんね。リメイヨ、ギャリケー……エルフの為、子供達の為、ボンドルドの為、そして私の為に死んで欲しい」

 

『喜んで、フリーレン様。……ゼーリエ様、フリーレンさん。この場を見て理解しました。もう私達の命が長くない事をお気づきになられていたんですね。上手く隠していたつもりでしたが』

 

 ギャリケーが仮面を外す。死装束としてではなく、ボンドルドとして二人に迷惑をかけた事を謝罪し、このような事態になった事について深く頭を下げた。

 

「本当なら、二人も助けたい。でも、無理なんだ。愛してるよ、リメイヨ、ギャリケー……いいや、ボンドルド。後さ、私からも言いたい事があるんだ。なんで、相談してくれなかったんだ」

 

「それは私も聞いてみたい。フリーレンは今までの事もあるが、私にまで隠す必要はなかっただろう。もっと早ければ、別の方法も模索できた可能性もある」

 

 フリーレンとゼーリエは、ボンドルドとはある程度以上の信頼関係を築いていた。相談があれば当然、対処に動いたはずだ。

 

『魂のすり減りを感じていた事と……やはり、満足感がありました。既に、私がいなくともフリーレンさんやゼーリエ様、子供達も幸せに暮らせると。確かに、フリーレンさんとゼーリエ様の仲には不安要素はありますが、子供達が架け橋になってくれる。そう信じております』

 

 リメイヨの言葉を聞き、フリーレンは深いため息をついた。

 

「リメイヨ――いいや、ボンドルドは、私の事を過大評価しすぎだよ。私は、ボンドルドと出会い、子供を産んで強くなった。でも、弱くもなったんだ。だから、ボンドルドがいないと生きていけない体にされたんだよ。覚悟を持ってエルフに手を出したんだから、最後まで面倒を見なきゃダメだ。エルフの愛は重いんだからね。だから、私と一緒に永遠を歩んで欲しい。これは、愛。愛だよ、ボンドルド」

 

「お前達には悪いと思っている。私には、フリーレンが提示したこの手段以外に方法が思いつかなかった。リメイヨ、ギャリケー……お前達の事は決して忘れない。最後に、言い残す事はあるか?」

 

 フリーレンとゼーリエが、次代のボンドルドの肉体の素材となる二人に最後の言葉をかける。自分のために自分を犠牲にする。自己犠牲の極致である二人に悔いが残らないように願いを叶えたいと思っていた。

 

『ゼーリエ様、今生の別れではありません。ですが、お言葉に甘えて、リメイヨとしての最後のお願いです。フリーレン様と仲良く……ああ、凄く嫌そうな顔をされますね』

 

『フリーレン様。この流れで察したと思いますが、私――ギャリケーからもお願いがございます。ゼーリエ様と仲良くしてください。子供同士は問題と思っていませんが、親同士が仲が悪いと子育てに悪影響です。自分たちの為ではなく、子供達の為と思い仲良くしてください。今回の一件でわかったように、二人が揃えば解決できない問題はありません。一人より二人、二人より三人です』

 

 これから犠牲となる二人の最後のお願いを無下にする事が、フリーレンとゼーリエにはできなかった。二人は嫌そうな顔をしながら肩に手を回し、仲の良い同級生のような雰囲気を作る。無理やり感は否めないが、それでもリメイヨとギャリケーは満足した。

 

 そして二人はこの世から消滅し、次代のボンドルドへの礎となった。

 

 

◇◆◇◆数時間後◇◆◇◆

 

 ボンドルドは子供達の訓練の様子を眺めていた。フリーレンが家を空ける事が多く、最近コソコソ何かをしているのは知っていた。しかし、プルシュカやアリスの勘が「今回は大丈夫そう」と言うので、自由にさせていた。

 

「パパ!! 見て見て、プルシュカのヘイロー《方陣》!! これでアリス達とお揃いなんだから」

 

「可愛いですね、プルシュカ。ですが油断してはダメですよ。事象に適用するまで最大4回はガコンしないといけません。被弾しても大丈夫だと思ったら負けです」

 

 既に魔王討伐時代のフリーレンより強くなったプルシュカ。さすがはエルフ族フリーレン種。そして、アリスも負けずに成長していた。ちなみに、エルフ族ゼーリエ種も存在している。

 

「お姉ちゃんに負けないように、アリスは装備を更新しました。今日の模擬戦は絶対に負けません。10回に3回しか勝てなくても、絶対にあきらめない気持ち、それが勇者の資格です」

 

「えぇ、もう貴方は立派な勇者です。とても可愛らしいですよ、アリス。アリスの機動力に追いつける魔法使いは、もはやいないでしょう。ですが油断大敵です。追いつけないなら、それを無力化する方法を考えるのが魔法使いです」

 

 世界で一番可愛い魔王と、世界で一番可愛い勇者の戦闘訓練。いつどこから現れるか分からない敵対者と対峙する為に余念のない訓練を行っている。

 

 力なき正義は正義であらず、力なき悪は悪であらず。

 

 すべての事は暴力が前提で成り立っている。今の平和な時間も、ボンドルドの自治領も、全て暴力が前提にある。

 

 ボンドルドは自分が死んだ後を見据え、子供達にできるだけの事を教えていた。教会という巨大組織の管理運営、各国に潜伏させている諜報機関との連絡方法、そして大事なフリーレンの面倒を見る方法を、こと細かく書き起こしていく。

 

 だが、その苦労が数時間後に無駄になる事をボンドルドは知らなかった。リメイヨとギャリケーがフリーレンの依頼で手伝いに出かけたきり、帰らぬ人にされている事など、ボンドルドとて想像の遥か斜め上だ。

 

………

……

 

 ボンドルドの元に届けられた一通の手紙。記された場所にボンドルドは子供達を連れてやってきた。その手紙は信じられない事に、フリーレンとゼーリエの連名で名が刻まれており、誰もが目を疑った。

 

「ゼーリエママ様とママ、いつの間に仲良くなったのかな。最近出かける事が多かったけど……プルシュカ分かっちゃった。これは、バレンタインデーが近いからチョコで間違いないわ」

 

「そうなると、アリスはゼーリエ師匠にチョコを渡してホワイトデーに3倍返しを貰います。こんなこともあろうかと、おやつのチロルチョコを隠していたのです」

 

 3倍返しどころか、ゼーリエなら100倍返し以上のお礼をする。実際、プルシュカとアリスからチョコを貰ったゼーリエは、好きな魔法をお返しに渡そうとするほどだ。

 

 到着した謎の施設を三人は何も考えずに歩いているように見えるが、実際はここのセキュリティを完全に無力化して進んでいる。ゼーリエ謹製の強固なセキュリティが導入されており、ここに潜入できるだけで1級魔法使いの試験をパスしてもよいレベルだ。

 

「想像以上に血なまぐさいですね。どことなくこの施設はイドフロントの地下と似ていますね。あと、ゼーリエ様の魔力、フリーレンさんの魔力。そして、知らない魔力……相当の魔力です。二人と比べると劣りますが……いえ、ですがこの波形は」

 

「うーーーん、この魔力ってパパのだよね? でも、パパはここにいるよね? リメイヨやギャリケーじゃここまで魔力は多くないし」

 

「間違いありません、パパです。それに、勇者の剣の反応も沢山」

 

 ボンドルドの中でいくつかの可能性が思いつく。

 

 プルシュカとアリスは長い時間ボンドルドと過ごしている。その彼女たちが父親の魔力を見間違うなどあり得ない。それに、近くにいるゼーリエとフリーレン。

 

 研究施設の奥へ進み、最奥の扉を開けるプルシュカとアリス。

 

 広間の中央には、クリスタルに封印された女性の姿があった。その姿は、数代前の歴代最高傑作『K-423』と酷似していた。だが細部が異なる。クリスタルには「アスモダイ」と個体名が書かれていた。命名者はフリーレンであるようで、彼女のネーミングセンスが素晴らしい事が示されている。

 

「むふ~、よく来たねボンドルド。それに、プルシュカとアリスも。他のみんなはもう揃っているよ」

 

 目の前の光景に飲まれ、周囲に居るエルフ達に気づくのが遅れるボンドルド。現存する全エルフ達がこの場に集められている。これは、有事の際に武力をもって鎮圧する為の安全装置だ。

 

 ボンドルドは、クリスタルに封じられている女性を観察する。

 

「す、素晴らしい。まさか、人造でエルフを作る事に成功するなんて。……随分と苦労されたでしょうに。しかも、禁忌に踏み入ってますよ」

 

「それがどうした、ボンドルド。エルフの愛は重いって知らなかったのか。私達エルフをこんな風にしたんだ。ボンドルドは言ったよね。過去も現在も未来も私の味方であり続けるって。勝手に未来を諦めないでよ。私を置いていくことは、約束違反だ」

 

 フリーレンが心の内を吐露する。

 

 そしてフリーレンが懐から小さな箱を取り出し、ボンドルドに投げる。ボンドルドがそれを開けると、中には鏡蓮華の指輪が入っていた。しかも、それはかつて初代ボンドルドが彼女に送った物だ。

 

 今日という日のため、フリーレンはかつてと同じ方法で過去に戻り、これを回収して自力で戻ってきた。真実の愛を証明するために。

 

「ボンドルド。私は自分より強い相手じゃないと興味がないからね」

 

「そうでしたね。人間である私に無理難題を言いますね。ならば、最後の精神隷属機(ゾアホリック)は絶対に成功させないといけません。……ですが、それならば男性型で用意して欲しかったです」

 

 現時点でボンドルドの実力はフリーレンを下回る。だが、次の肉体に全てを継承する事で、間違いなくフリーレンを超える実力が手に入る。そしてその時こそ、この指輪を受け取るという彼女なりの応援だ。

 

「それはゼーリエの趣味だ。私は男性型にしたかったんだ」

 

「おい、今この場では止めろ」

 

 周囲から白い目を向けられるゼーリエ。

 

 そんなゼーリエを横目に、ボンドルドは鉄仮面を脱ぎ捨てる。クリスタルから解放された新しい肉体に鉄仮面を覆いかぶせ、歴史を紡いできた究極の魔法を行使した。

 

「それならば仕方がないですね。私も愛に応える必要があります……精神隷属機(ゾアホリック)

 

この場に集まった現存するエルフ達は、歴史的瞬間に立ち会った。

 

人の終着点――エルフを超えた新たな女神の誕生の瞬間だ。

 

………

……

 

 それから、公の場に姿を現したフリーレンの左の薬指には、古めかしいデザインの鏡蓮華の指輪がはめられていた。

 




アニメも絶好調で楽しく思い付きのネタでしたが、全てが丸く収まってよかった。
これで今回のネタ閑話は終了です!

若干、アウラ視点で絶望するシーンも入れたかったけど、それは今度思いついたらにします。

ア「神は死んだ」
(|)「呼びましたか、生きてますよ」

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