北部高原における補給線は細い。一部の大商会がその役を担っている。だから、食感などを無視した長期保存可能で栄養価がある食料が旅路では役に立つ。
「はい、これがシュタルク様の分の栄養食です」
「なぁ、聞いたか?この栄養食、カランっていったぞ…食べ物が出していい音じゃねぇよ」
街で購入してきた保存食に文句を言いたいシュタルク。だが、北部高原において潤沢な食料はない。いつ何が起こるか分からない北部高原では、長期保存食が非常に大事だ。
「おやおやおや、行動食4号がお嫌いですか。これは、人が生きるのに必要な栄養素を全て賄える完全食です。80年前の魔王軍との戦いの時には、前線の兵士達の胃袋を支えた物です」
「贅沢言わないの。北部高原は、ビーア地方を除けば不毛の土地だし。今は物資が流通していないんだから。ちなみに、これの開発者はボンドルドだよ」
フリーレンも行動食4号には世話になっており、食べ慣れていた。
対魔王軍との戦争では、物資不足を解消するためボンドルドは色々と手持ちの情報を出していた。南の勇者との約束で出し惜しみはしなかった。保存食の技術、戦略物資、戦力……秘匿技術以外の全てを使い魔王軍と戦っていた。
「味より保存性と栄養価に全振りした品物です。壁の味がしようが、前線では好評でしたよ。腐らず、匂わず、長持ちする。軍用レーションとして採用もされております」
「まぁでも半日もあるけばまともな食事ができるかな」
フェルンとシュタルクの食事に対しての意欲が薄れているのが伝わる。食事は、旅における大事な要素。その為、フリーレンが半日後にまともな食事ができるという希望を与えることで雰囲気が明るくなった。
………
……
…
ノルム商会、北部高原の物流を支配している豪商。独自の軍事力を持ち、事実上の北部高原の支配者だ。物流網の支配に陰りが生じており、80年前の力は今では感じる事ができない。
それでも強い影響力を持つ事には変わりが無いため、波風立てないように城塞都市のルールに従い入場を果たす。しかし、波風は必ず立つ。それがフリーレン一行だ。
城塞都市の入場審査にて、フリーレンが要注意人物として情報管理されていた。そのまま、ノルム商会のトップである商会長と面談する事になる。何故呼ばれたのか、フリーレン以外は心当たりがなかった。
「商会長のノルムです。勇者一行の魔法使いフリーレン様。80年前の借金、耳をそろえて返して頂きましょうか」
「フリーレン様。借金なんてしていたんですか」
「でも、返すのはいつでもいいって…」
フェルンも寝耳に水。師が借金をしていたとは。しかも80年間返済せずにいる。エルフの時間感覚がおかしい事に付けいった悪徳金融では無いかと考えていた。
借金には利子という物が存在する。その結果、フリーレンの借金は雪だるま式に増えていく。返すのはいつでもいいが、利息が増えていくという……このあたりの感覚は、人間でなければ理解が難しい所だ。
「書面上では、そうなっておりません。口約束はいけませんな。先々代はそこら辺が甘かったようですが、私はそうはいきません」
「借りた物は返す。私も同意します。書面があるとの事でしたので、少し見せて頂いてもよろしいですか?ノルム商会長」
「構いませんよ、黎明卿」
ボンドルドが確認した書面には、確かに返済期限が存在した。50年という期間で利子も常識の範囲内。良心的だと言える。当時のヒンメルPTは世間的に期待されていなかったにも関わらず、似合わない投資額。当時の商会長には先見の目があったのだろう。
だが、一つだけノルム商会長が言っていない情報が載っている。債務者は、ヒンメルとなっていることだ。勇者PTの代表であり、顔なのだから当然と言えば当然だ。この紙切れ一枚では、フリーレンを拘束する事など出来ない。
「借金は、
「えぇ、私もその通りだと思います。よろしければ、黎明卿に良い話がございます。後ほど個別に会話させて頂いても?」
北部高原における支配者として立場があるノルム商会長。その顔を立てることで恩を売る事に成功したボンドルド。
ボンドルドがあっさりフリーレンを見捨てた事に戸惑うフェルン達。だが、借金をしたのが悪いという事で対応に困っていた。
その結果、フリーレンは炭鉱で300年労働で借金の残金を返す事になる。炭鉱へと連行されるフリーレンを見送るフェルン達。その気になれば、何時でも逃げ出せるフリーレンだが、ヒンメルPTが借りた物を返さないという汚点は残したくないという思いがあった。
「フェルンさん、鉱山など襲撃しなくても大丈夫ですよ。あのノルム商会長は、中々強かな男です。北部高原における支配者であるには、この程度の度胸が必要です。では、改めて、ご挨拶に向かいましょう」
「ボンドルド様、フリーレン様はどうなるんですか」
「問題ありません。人が良すぎるのも問題ですので、良い薬になります。いいですか、フェルンさん、シュタルクさん、プルシュカ、大人の汚さを覚えておいてください。貴方達が思っているほど、大人は綺麗ではありません」
それから、フェルンは真実を知る。フリーレンの借金ではなく、勇者ヒンメルの借金であった事。本来ならば、フリーレンに返済義務はないが、全ての事実を教えずにまるでフリーレンの借金であるかのように伝えたこと。書面を確認しないフリーレンの不手際が利用されたこと。
ノルム商会長は、そこで何故このような暴挙に及んだのか説明を始める。その理由が魔族との交戦で物流網が崩壊し、資金が欲しかった。伝説の魔法使いフリーレンならば、開発中の銀鉱から鉱脈を見つけ出して商会を立て直せる。物流網が回復出来れば、北部高原の民が助かり、柔らかいパンを届けることも出来るという崇高な目的があった。
「それなら最初からそう言ってください。フリーレン様なら魔道書一つでその位やってくれます」
「伝説の魔法使いがその程度の事で動くなど」
フェルンから聞かされた衝撃の言葉をノルム商会長は、理解できなかった。商人であるが故に対価は等しくなければならないと教え込まれていた。
一般的に考えれば、その通りだ。魔王を倒した勇者PTの魔法使いが、二束三文の値段にもならない民間魔法で労働してくれるなど思わない。だが、現実は違う。
「フリーレンならやるだろうな」
「フリーレンお姉ちゃんだもんね。銀鉱どころか金鉱だって探しちゃうよ」
シュタルクもプルシュカも魔道書一つで働くフリーレンを想像するのは容易い。
「フリーレンさんならやるでしょうね。ですが、甘い汁ばかりすするつもりなら、私が相手になります。それと、彼女には勇者PTのやり残しを完遂した体裁で話は進めてください」
「承知している。フリーレン様と黎明卿を敵に回したいとは思っていない。炭鉱で彼女には万が一が起こらないように信頼できる者達をそばに控えさせている。だから、安心して欲しい」
釘を刺すのも大人の仕事。悪い人間に騙されないように色々と手回しは大変だと思うボンドルド。
翌日、フリーレンは借金を無事に返済してPTに合流した。その手には、魔道書が握られており、満足そうな顔をしていた。
ネタが尽きてしまったので、どのようなお話を知りたいか読者様にお伺いできればと思っています。全て何話程度やるかも全く未定です。
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過去編(1000年前、初代ボンドルド)
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過去編(人類防衛ライン戦)
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過去編(50数年前、居候フリーレン)
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閑話(ゼーリエとプルシュカの文通)
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閑話(プルシュカと女神の魔法)
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バカか、全部やれ