ボンドルドとシュタルクがソリテールを攻め立てる隙間をフェルンがゾルトラークでソリテールを狙い撃つ。コレを基本戦術として戦いを進める中、フェルンは一つの疑問に辿り着く。ボンドルドが切り札を使っていない事だ。一級魔法使いの二次試験で見せた獣化状態が使われない。
勝率を高める事を考えれば、その札は切っておくべきものだ。
「ボンドルド様、手を抜ける状況では……」
「
ソリテールは、戦い上手だった。人類が開発した防御魔法を活用し、更にマハトの黄金を盾にして隙間無く魔法を防ぐ。フェルンが速射ゾルトラーク、高圧縮ゾルトラークの双方を使い分けても何回かに一度しか防御が抜けない。
「へぇ、凄いわ。針の穴を通すようなゾルトラーク。でも、防御しながらでもこの程度の事は出来るわ」
ソリテールの魔力から考えれば、全方位防御魔法を展開しつつ、黄金を操ったとしても数時間は戦える。そこに、攻撃魔法を使っても大差は無い。それ程までの魔力を有していた。
彼女の勝利条件は、時間を稼ぐだけでも達成出来る。マハトが合流すれば、形勢逆転は分かりきっていた。
「……え?」
「フェルン!?」
ソリテールが出した魔法で生み出した剣が、フェルンの左肩を貫いた。フェルンが防御魔法すら張る暇なく、剣が突き刺さる。人間が瞬きする瞬間に視界が途切れる事を利用したやり方だ。それを実現可能とする動体視力は、世界最高峰だ。
「これは、いけませんね。
人間の特性を理解しているソリテールは、意図的にフェルンを負傷させた。その気になれば、心臓を貫けたにも関わらず狙われたのは肩。これは、負傷兵を庇った者達を潰していくという非道極まるやり口だ。
その手段にシュタルクが嵌まる。仕方が無いとは言え、大切な者を守る為なら罠にでも飛び込まないといけないという習性が利用されている。
即死していなければ、救わねばならない。
フェルンの肩には大きな傷跡があり、放置すれば失血死は確実だ。後遺症が残らないようにするため、今すぐにでも回復魔法が必要。大魔族相手にそのような時間を稼ぐ事は困難。
「私は、七崩賢のような特別な魔法なんて無い。でもね、この魔法だけは得意と言える。別に避けても構わない。プルシュカちゃん含めて消し炭にする威力はあるから」
ソリテールの手に魔力が集まる。彼女が一番得意とする魔法。それは、単純に魔力をぶつけると言った物だ。魔力を何かに変換するのではなく、高速且つ高圧縮でぶつける。単純である為にその威力は魔力量に比例する。
ボンドルドの後ろには、治療中のフェルン、シュタルク。更に後方にプルシュカ達が居た。ボンドルドだけならば、ダメージ覚悟で回避も出来る。だが、それを行えば、死人が出る。
片手をフェルンに添えて回復魔法を続けつつボンドルドは、防御魔法を多重展開する。一枚、二枚、三枚と次々に展開し、計10層に及び全方位防御魔法。
「………防御魔法って、消費魔力が大きい。それを10層の多重展開は流石ね。とても綺麗な魔法式に構築術式。そこまで技術を磨き上げるのにどれだけの歳月か掛かったのか分からないほどに」
「防御魔法を張った事で逃げ場を失いましたか」
ソリテールは、魔法を撃つ構えをしただけだ。相手が防御するのが分かっての行動。防御魔法は、魔力消費が激しい。それを10層にも展開すれば、ボンドルドとて長くは持たない。彼女は、ボンドルドの防御魔法が薄れた所に自身の最大魔力をぶつければ良かった。確実に殺せるタイミングまで、いつまでも構えて待つだけ。
「魔力が減り続けているのが分かる。後、何分持つの?早く、防御魔法を解いて出てきた方がいいわ。私は、防御魔法が貫通できるという自信ができ次第、攻撃をする。でも、貴方だけが防御魔法の外に出てきたら直ぐに魔法を使う。貴方以外は、助かる可能性があるのよ」
「では、お言葉に甘えて」
ボンドルドは、フェルンがある程度回復したのを確認して防御魔法の外に出た。フェルン達を守る為、防御魔法は解いていない。
「本当に出てきた。最後に、プルシュカちゃんにお別れの言葉くらい言わせてあげるわ。人間ならそう言う事をするんでしょう」
「特にありません。娘は強い子です。………後の事は頼みましたよ、私」
「そう。さようなら、プルシュカちゃんは私が可愛がるから安心してね」
ソリテールの魔法が、生身のボンドルドを直撃する。大地を切り裂く程の圧倒的な威力。強靱な戦士でもその身が引き裂かれてしまう。ボンドルドも例に漏れなかった。手足が吹き飛ばされ、体が四散する。身につけていたカートリッジ達もろとも粉々になってしまった。
ボンドルドの最後の魔力で展開された防御魔法が消えてゆく。残されたのは、ボンドルドだった肉片や血の跡、そして仮面だけだった。
ゴロゴロと頭部だけとなった仮面が転がり続ける。その生首がプルシュカの近くで止まった。
………
……
…
仲間を守っての名誉の戦死。そういえば、聞こえは良かった。英雄と呼ばれた存在の最後には相応しいと聞く者が聞けば賛美するだろう。
だが、残された者……目の前で父親がバラバラになる瞬間を目撃してしまった娘の気持ちを想像する事は難しい。
プルシュカの目には大粒の涙が溢れていた。アンブラハンズの手を払いのけて、父親だった首を抱き上げた。響く鳴き声。悲痛の叫び。
「うそ…パパ…パパ…返事して…パパ…お願い……パパ」
「あぁ、素敵よ。人類は、肉体的な痛みでなくても泣ける。エルフも同じなのね。今どんな気持ちなの、何を思っているの?もっと、お姉さんに聞かせて。今の気持ちを言語化して欲しいわ、プルシュカちゃん」
ソリテールの目には、既にプルシュカしかうつっていない。その場に残っている有象無象の者達など、すでに敵ですらないと判断されていた。マハトが間違って彼女を黄金にしないように、彼女をここから遠ざける算段をしている。
「ぼ、ボンドルド様が……ごめんなさい、私のせいで。プルシュカちゃん、必ず仇はとります」
「俺がもっと考えて行動していたら。くっそ……早く、プルシュカを連れて行けよアンブラハンズのひと」
痛みを堪えて奮い立つフェルン。全快とは程遠いが、立ち上がり杖を構える。シュタルクもこの状況を招いてしまった事の責任を感じており、プルシュカだけでも逃げられるように逃亡時間を稼ぐつもりだった。
「ひどい…ひどいよ。うぇっ、えっ」
「やっぱり、父親だからそこまで感情を表すのかしら。知りたいわ。私達が持たない概念、感情…貴方が居れば、私はもっと人類を理解できる」
「パパ…、パパぁ。つらい…お願い。あたしを置いていかないで…」
「大丈夫よ、これからは私が一緒に居てあげる。ママになってあげるわ。ママって呼んでみて、さぁ」
ソリテールなりの気遣いであった。パパとママという単語がセットである事は彼女も知っている。それがどういった言葉で、どのような意味があるかも。だが、所詮は人語を話す獣。この場で、それを言う事がプルシュカの心にどのような影響を与えるのか、彼女は分からない。
人間、怒りで痛みを忘れる瞬間があるとフェルンとシュタルクは理解した。二人の脳内ではアドレナリンが大量分泌され、肉体的なパフォーマンスが最高域に達しようとしていた。
死力を尽くす第二ラウンドのゴングが鳴る直前、沈黙を守っていたアンブラハンズがプルシュカの頭を優しく撫でる。首と一緒に近くに落ちていた白笛を拾い上げた。プルシュカが持つボンドルドの首を持ち、その場にいる全員に背を向けた。
ガコンという音がして、アンブラハンズの仮面が外れ落ちた。そして、ボンドルドの仮面を外し、付け替える。一体何をしているのだろうかと、その場の全員が止まる。アンブラハンズが被った鉄仮面が紫に怪しく光る。
アンブラハンズから膨大な魔力が放出された。彼の白衣の内側から漆黒の服に身を包んだ、ボンドルドが生まれ落ちる。今そこで死んだばかりのボンドルドが再び舞い戻ってきた。
これにはフェルンもシュタルクも、何が分からないのかすら分からない状況だ。
だが、一人だけがハッキリと理解していた。大粒の涙を流していたプルシュカの顔に笑顔が戻る。
「パパ…?パパ!!」
ボンドルドに抱きつくプルシュカ。
「パパですよ、プルシュカ」
「パパ…!! よかった!!」
娘を抱き上げる英雄ボンドルド。このシーンだけで、銅像が建つレベルだ。その神々しい雰囲気にソリテールすら飲み込まれていた。これには、女神様もニッコリだ。親子二人の背景に女神様の祝福が見えそうなほどだ。
「何処にも行ったりなんかしません。あなたの愛があれば、私は不滅です」
"愛"という理解できない魔法が、ボンドルドを復活させた。つまり、人知が及んでいない
ネタが尽きてしまったので、どのようなお話を知りたいか読者様にお伺いできればと思っています。全て何話程度やるかも全く未定です。
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過去編(1000年前、初代ボンドルド)
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過去編(人類防衛ライン戦)
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過去編(50数年前、居候フリーレン)
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閑話(ゼーリエとプルシュカの文通)
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閑話(プルシュカと女神の魔法)
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バカか、全部やれ