黎明のフリーレン   作:新グロモント

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41:手紙

 北部高原ヴィッセン山脈。

 

 険しい山道を進むフリーレン一行。彼等が進む崖道に一人の男性がいた。崖の側に立っており、遠くを見つめている。どう見ても飛び降りる五秒前だ。

 

 どうか、通り過ぎてから飛び降りてくれるようにとボンドルドは願った。年頃の娘に飛び降り自殺のシーンなど見せたく無いのが親心。死ぬのならば、人に迷惑にならない場所でやって欲しいものだ。

 

 そのボンドルドの思いは通じなかった。フリーレンが話しかけてしまう。何故学ばない。その一言で一週間以上、足止めされたことなど旅を始めてから数え切れない程だ。

 

「魔法使いとお見受けしますが、空は飛べますかな?」

 

「一応は」

 

 空が飛べない魔法使いなど、現代魔法使いではいない。一般攻撃魔法と飛行魔法は必修レベル。そこから話は、トントン拍子で進む。自殺志願者改め薬草家から、空から落ちてきた木の実の正体が知りたいと依頼を受ける。

 

「木の実?」

 

「派手な色合いで、南側諸国の果実に似ている気がします。小粒で皮が固いですね」

 

 フリーレンもフェルンも、専門家ではない。木の実を見せられても、それの正体など分からない。当然、ボンドルドも同じだ。一般的に流通している果実や薬草レベルなら全員が分かるが、ニッチな専門分野だ。

 

 回復魔法がある為、この分野の研究は進んでいない。

 

 昔からこの地方では、空から謎の木の実が落ちてくる事が多く、有益な効能がある物が多々発見された。街のため、その原因を調査したいという話だ。

 

「うーーん、報酬次第かな」

 

「魔法薬の素材を提供できます」

 

「よし、乗った」

 

 長い旅路で初めて魔道書以外の報酬で働く事にフリーレン一行は、驚きを隠せない。ボンドルドは、空模様を確認して明日は、嵐かという。シュタルクは、震えが止まらず何かに恐怖を感じていた。

 

「…え!?フリーレンお姉ちゃんが、自主的に(・・・・)魔道書以外で依頼を受けてる。これは、魔王の復活の兆しじゃない」

 

「違いますよ、プルシュカちゃん。フリーレン様は、熱があるんです。薬を飲んで寝かしつけないと…」

 

 フェルンが、フリーレンのおでこに手を当てて熱を測る。だが、熱が無い事を知り、もっと悪い病気かと思い込む。ボンドルドに、女神の魔法で病名調査まで依頼するほど、フェルンは本気だ。

 

「なんで、そこまで心配されなきゃいけない。私だって、たまには魔道本以外でも仕事をする。700年前にだって一回やった」

 

「700年前と言えば、大地震と大飢饉。風土病が大流行しました。人口の二割も死にました。プルシュカ、直ぐに宿の手配をしてください。女神様に祈祷して、再度病気を調べます」

 

 納得いかないフリーレンだったが、二日に渡り拘束されPTメンバーから本気で心配される。彼女は、これを機に絶対に魔法書以外で依頼は受けないと強く誓った。

 

 ベッドから起き上がろうにもフェルンとプルシュカが交代で24時間体制で見張り、ボンドルドが48時間も女神様の魔法を使い続けていた。その間、シュタルクが一人でせっせと木の実について情報収集を続ける。

 

………

……

 

 二日後に解放されたフリーレン。

 

 ふて腐れたが、謎のフリーレンカウントが1増える事で皆が許される。3ポイント溜まると三日三晩泣き続ける1000歳児エルフが誕生する。勇者PT時代に3ポイント溜まった事があり、数日泣き続けた。

 

 気を取り直して、依頼を受けた木の実の調査を再開した。フリーレンは、シュタルクが集めてきた情報で竜というキーワードが気になり、過去の思い出から一つの答えに行き着いた。

 

 よく晴れた日……遠くの大空を飛行する竜が見えた。

 

「フリーレン様。あれって…」

 

「分かっている。魔力探知も届かない。あれは、かなりの高度だよ」

 

「天脈竜ですか。そう言うことでしたら納得です。さぁ、依頼主に報告に行きましょう」

 

 サクサクと依頼を終わらそうとするボンドルド。

 

 だが、フリーレンはその竜が飛行魔法で届く距離にいる事を知っている。勇者PT時代でも見かけたが、飛行魔法が誕生していなくて人類にはどうしようもなかった。空飛び島とまで言われる伝説をその目で確かめる機会がそこにはある。

 

「パパって、高いところ苦手だもんね」

 

 プルシュカの発言に、フリーレン達がボンドルドに注目した。

 

 飛行魔法は現代魔法使いの必修である。飛行魔法を習得した者たちは、限界まで飛行する事が多い。子供の時からそう言う経験を積むと高い場所への忌避感がなくなる。

 

 だが、ボンドルドは違った。苦手の経験を引き継いでいる。常識の高さまでなら問題無い。だが、何が楽しくて高度数百メートルなんて飛ぶんだと。

 

「へぇ~、それは良いことを聞いちゃった。ボンドルドにも苦手な事があったんだ。むふ~、お姉ちゃんが教えてあげようか、空の飛び方」

 

「フリーレン様、人には得手不得手があります。ボンドルド様が苦手な事を悪く言うのは…プ」

 

「そうだぜ、フリーレン。高い所が恐いってのは俺も分かる。でも、高いところが恐い魔法使いって、魔物が恐い戦士と同じレベルな気もするが…」

 

 ボンドルドは、心に決めた。

 

 シュタルクの対女性教育資料を全てアブノーマルの物に変える。一生記憶に残る初体験をさせようと。人類が積み重ねた業の深さをシュタルクとフェルンは、知る事になる。

 

「魔法使いはイメージが大事と言います。私は、自分が大空を飛ぶイメージがどうしても苦手である事は認めます。そもそも、魔族の魔法を流用し、未解明なままの飛行魔法を使う危険性を認識してください」

 

「そんな事はどうでもいいから、パパ早く行こう!! 竜さんが行っちゃう。プルシュカが手を繋いであげるから」

 

「良い考えだね、プルシュカ。私が反対側を持ってあげる。行くよ、ボンドルド。可愛い娘の頼みが聞けないの?」

 

 右にプルシュカ、左にフリーレン。双方から挟まれてはボンドルドは逃げられない。ボンドルドは空が嫌いだ。だから、魔族を空からたたき落とすアビス結界を開発したという経緯もある。

 

「皆、頑張ってな。俺は、魔法使いじゃないからここで待ってるわ」

 

「おやおやおや、シュタルクさん。まさか、この状況で逃げられるとでも? 月に触れる(ファーカレス)、閉じろ」

 

 謎の粘液で逃げようとするシュタルクを拘束したボンドルド。

 

 飛行魔法が使えないシュタルクは、遙か上空の天脈竜が居る場所に行けない。しかし、運ぶ事は可能だ。

 

「無理だって、俺重いよ!! それに落ちたら、死んじゃうって。え!? フェルンが運ぶの?もしかして、襟元を掴んでいるけど、それだけじゃないよね?安全ロープとか必要だって」

 

「貴方の師であったアイゼンさんは、自由落下程度では無傷だったそうです。大丈夫、貴方なら落ちても耐えられます」

 

 シュタルクは、今から命懸けで空を飛ぶ。命綱はフェルンが掴んでいる襟元だけという恐ろしい空の旅だ。その自殺行為にも等しい空の旅を見ているとボンドルドは不思議と落ち着いた。自分より不幸な者がいると落ち着くというのはこの事だと理解する。

 

………

……

 

 天脈竜の背に広がる景色は、伝承通り島その物。木々が覆い茂り、山や湖まで存在している。独自の生態系がそこには存在していた。何万年も誰の手も付いていない未開の地。

 

「プルシュカ一番乗りーー!! じゃあ、早速。大地を操る魔法(バルグラント)

 

 プルシュカが、魔法で大きな大きな石碑を作る。この地に一番先に足を踏み入れた証を残す為だ。石碑に少しずつ文字を刻んでいく。

 

「なんて、書いているんですか」

 

「………パパには内緒。それより、早く調査を終えて下に帰ろう」

 

 少し悲しいと思ったボンドルド。だが、今は地上に帰りたいという気持ちが優先してしまう。この天脈竜の上にいるだけで村からドンドン離れていく。長時間の滞在は好ましくなかった。

 

「ここは、私が残るからボンドルドは調査に行ってきて。原生生物は居ないと思うけど、フェルンとシュタルクの事も頼んだ」

 

「任せてください」

 

 ボンドルドが見えなくなるのを確認し、フリーレンはプルシュカが作っている石碑を注目した。魔法で石碑に文字を刻んでいる。頑張って削っているが、初めての作業のプルシュカ。美しいとは言えない文字のせいで、非常に難解な古エルフ語となっている。

 

「何て書いてるの?古エルフ語だけど……下手だ。変わろうか?」

 

「いいの。これは、ママへのお手紙。いつの日か、ママがここに来た時、プルシュカが元気にしている事を伝えたいの。プルシュカは、ママの事を殆ど覚えてないけどママはきっとプルシュカの事を覚えている。だから、いろんな場所にメッセージを残してママに伝えるんだ。プルシュカは、ママを探して世界を冒険していますって」

 

 プルシュカが必死に石碑に文字を刻む姿を見た、フリーレン。

 

やっぱり、滲んで字が読めないよ。だから、何て書いているか聞かせて欲しいな。お願い、プルシュカ

 

「仕方ないな、フリーレンお姉ちゃんは~。すっごい強い魔族、七崩賢だっけ?それを倒したとか、勇者PTだったフリーレンお姉ちゃんに魔法を教えて貰っているとか……」

 

 フリーレンとプルシュカだけが、石碑の前にずーっと残っていた。大事な依頼であった現地調査など既に彼女達にはどうでも良い事になっている。

 

 暫くして、ボンドルド達が木の実や花などの採取を終えて戻ってきたが、雰囲気を察して20分程度時間を潰す事になる。

 

 そして、待ちに待った天脈竜からの帰り。その方法は簡単だ……パラシュート無しのスカイダイビング。ある程度の高度で飛行魔法を発動するという、男らしい帰還方法だ。

 

「あの~、シュタルク様。くっつき過ぎです」

 

「いやだ。絶対に離さないぞ。死んでも離さない」

 

「後が詰まっているんだから、早く行って。プルシュカは、念のためフェルンお姉ちゃん達を追うから、パパ達も地上でね~」

 

 フェルンは、今の状況を楽しんでいた。だが、いちゃつく雰囲気を目の前で見せられたプルシュカによって二人は突き飛ばされる。念のため、プルシュカが同行したのは、彼女なりの優しさだ。

 

 皆を見送った後に残るフリーレンとボンドルド。

 

「目元が赤いですよ、フリーレンさん」

 

「五月蠅い。人を泣かすような子に育てた親が悪い」

 

 ハンカチを差し出すボンドルド。

 

「そうですね。そうそう、あの石碑の返信欄は、何時か来る母親が書き残す場所らしいです。プルシュカが次に訪れるまでに返信はあると思いますか、フリーレンさん」

 

「花を摘みに行ってくる」

 

 空からの落下だから、そう言うことは先に済ませておいた方がよい。万が一、飛行中にばらまいたら大変な事になる。

 

「お待ちしていましょうか」

 

「デリカシーがない。先に落ちてろ、ボンドルド」

 

 天脈竜から突き飛ばされたボンドルド。フリーレンの手に紙ではなく、杖が握られていた。

  




アンケート機能を使ってみました。

ネタ的に明日明後日すぐに投稿はできませんが、アンケートの結果をみて執筆したいと思います。

それまでに新刊発売される事を祈る作者がここに居る。


-追記-
アンケートの締め日は10/31(火)の24:00までの予定です。

ネタが尽きてしまったので、どのようなお話を知りたいか読者様にお伺いできればと思っています。全て何話程度やるかも全く未定です。

  • 過去編(1000年前、初代ボンドルド)
  • 過去編(人類防衛ライン戦)
  • 過去編(50数年前、居候フリーレン)
  • 閑話(ゼーリエとプルシュカの文通)
  • 閑話(プルシュカと女神の魔法)
  • バカか、全部やれ
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