人類と魔王軍との戦いが始まり長い年月が経った。
元々、魔族と人類の仲は良くない。個々の衝突など日常茶飯事だ。その為、各々の国家がそれに対応していた。だが、魔王が本格的に人類との共存を考えるようになり、状況は一変する。
個として優れた力を持つ魔族。その中で、最強の存在である魔王が、人類を知るため理解するため、殺し合いが始まった。人間を食べる魔族達にとって、このビックウェーブに乗るしかない。人間が食い放題だ。
勿論、人類の中には英傑と呼ばれる者達も居たが、魔族の七崩賢と呼ばれる魔王軍幹部達の前では、有象無象と変わらない。魔王軍の侵攻は、全盛期の人類領土をドンドン奪い取っていた。
状況を察した南側諸国、中央諸国も次は我が身とならないように多数の英傑を送り込む。送り込まれた者達は勇者と言われた。
………
……
…
戦況が悪化する最中、ボンドルドは中央諸国に建築したイドフロントで日々研究と研鑽を積んでいた。魔王とは、人間に討たれる存在。ボンドルドは、自分が魔王を討伐する勇者だとは毛ほども思っていない。
人間を食べる魔族が、人間を絶滅させる事などあり得ない。人間は、産まれてから育つまでにも時間がかかる。だからこそ、魔王軍もどこか落とし所を見つける。最悪、人間は魔族が管理する家畜へとなる可能性もあると考えた国家上層部が、北側諸国を必死で支援している。
戦力を出す余裕がある今こそ、一致団結して魔王軍を押し戻す。実に正しい考えだ。その為、各地方にいる名だたる者達に招集命令書が出ている。
ボンドルドの元にも招集命令書を携えた使者がきており、世界のため立ち上がって欲しいとボンドルドを煽てていた。
「おかしいですね。これは、招集命令書というより脅迫状に見えます」
「決して、そのような事は…」
中央諸国にあるイドフロント。それは、統一帝国崩壊と同時にボンドルドが緩衝地帯に建造した私設だ。そして、力で自治権を勝ち取っている。歴代の中央諸国の王達もそれに触れる事はなかった。
元より応じる事はないと思っていた使者は素直に引き下がる。
ボンドルドのイドフロントは、魔王軍との戦争でも安全地帯となる可能性が高い。近所にゼーリエが住んでおり、抑止力としては最高の存在。更に、地下からは少量の封魔鉱も採掘できる。
戦力を捻出し留守の間に、国に占拠されては割が合わない。
刻一刻と劣勢に立たされていく人類側。風の噂でフリーレンが中央諸国の勇者PTとして魔王討伐に向かったとも耳にしていた。ボンドルドが知る未来通りならば、近い将来全てが解決する。フリーレンの手助けとして、介入するという選択肢はボンドルドには無い。魔王討伐は既定路線で終えて欲しいと思っていた。
だというのに、ボンドルドの元に南の勇者が訪ねてきた。
世界が生んだバグ。たった一人で、魔王の腹心である全知のシュラハトを含む、魔王幹部の七崩賢を半壊させる人類最強。1000年先が見える彼にかかれば、魔王軍すら一人でも全滅させられる実力を有している。だが、それが出来ないのは、全知のシュラハトが1000年先を見通して阻止しているからだ。
応接間に通された南の勇者。実にエレガントが似合う男だった。正義感も強く、勇者と呼ばれるに相応しい。
「ようこそ、南の勇者様。噂は、よく耳にしております。人類最強と名高い貴方に会えて光栄です。私は、ボンドルドといいます」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ボンドルド殿。私も貴方の事はよく知っております。大魔法使いボンドルド……人類としては、最古参だとか。それ程の実力がありながら、なぜ魔王討伐に参加されないのですか?」
南の勇者の目には見えている。ボンドルドの魔力が人間の域にいない事を。数百年生きた大魔族に比肩する。イドフロントに住む者達、全員が高いレベルで戦える事も彼は見抜いている。小国の軍事力ならば、押し返せるほどだと。
「私は、魔王軍との戦いに興味はありません。それに、私の出番は不要でしょう?」
「ボンドルド殿は、面白い事を言います。まるで、結果が分かっているような………ですが、犠牲は少ない方が良い。私は、勇者として覚悟をもってこの場に来ています」
南の勇者が一息入れるため紅茶を一口飲む。その僅かな時間で、犠牲となる少数に心の中で謝った。
南の勇者には、未来が幾つも見えている。その中で最善の選択が可能。だが、その選択は誰かにとっては不幸になるかもしれない。常にトロッコ問題をやらされている南の勇者の覚悟は決まっている。
少数の幸せより大多数の幸せを取る。
例え、その選択肢が魔王を討伐した功労者の脳破壊を起こそうとも知ったことでは無い。仮にどこぞの勇者がヘタレでなければ、南の勇者はこの選択肢は選べなかった。だが、何もないまま旅を終える事がどの世界線でも変わらない。
「取引をしよう、ボンドルド殿。私はこれから北部高原を取り戻すため、死力を尽くす。その支援をして貰いたい。人類の為、そこで七崩賢数名を討ち取り全知のシュラハトと相打ちになる」
「是非協力をしたいのですが、生き残った七崩賢が相手では手に余ります。私は死ぬためにここにいる訳ではありません」
ボンドルドは、自分の実力を正しく把握している。だからこそ、撃ち漏らした七崩賢を同時に相手にして生き残れると思っていない。南の勇者もそれは理解している。だからこそ、人類のため、取引カードを出した。
「私ならば、『プルシュカ』さんを誕生させるための未来像が描けます。ボンドルド殿の総力……アンブラハンズも含めた尽力があれば多少の犠牲はでますが、人類防衛ラインを押し上げられる。七崩賢は、私を殺した後に引き上げるので、貴方が相手をする必要は無い」
「素晴らしい。全て引き受けましょう。出し惜しみは無しで、人類防衛ラインを引き上げます」
南の勇者の手を取ったボンドルド。二人は握手を交わす。この時、人類最強と人類最凶が手を組んだ。最悪に見える光景だが、1000年先を見通す全知のシュラハトと双方が未来を読み合い妥協した結果がこれである。
「では、私が全知のシュラハトと妥協し合った内容について、共有します。指定された場所だけは必ず潰してください。そうしなければ、未来は保証できません」
「分かりました。しかし、色々と準備が必要ですので数日の時間を下さい。私は、本気で魔王軍とぶつかり出し惜しみはしません。貴方もそうであると信じてます。だから、貴方も私の覚悟に答える義務がある」
南の勇者も覚悟を決める。どうせ数日は、ボンドルドと話し合いが続く。だから、イドフロントに泊まり込みになる。つまり、大人の夜の時間があるという事だ。
「お互いガンギマリ勢ですね」
「貴方は人類の未来を、私は私の未来を……それだけの事です。ご安心ください。アンブラハンズには女性も多数います。ある意味、男を知り尽くしたプロ。どうぞお楽しみを」
南の勇者は、自分の子供すらボンドルドに売る事で人類に貢献する。それができる勇者であった。
本作品の今後の展開について、アンケートのご協力のお願い。どんな話で続けようか、読者様のご希望を窺えればと思っています。
-
女神の石碑編normal ※週刊誌+独自
-
女神の石碑編another(原作世界線)