黎明のフリーレン   作:新グロモント

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閑話:過去編(人類防衛ライン戦)③

 好奇心は猫をも殺す。

 

 七崩賢の断頭台のアウラは、全知のシュラハトの呼び出しを不服と感じていた。なぜ、一人の人間を殺す為に全員を集める必要があるのか。魔族の中から選ばれた存在、魔王軍幹部という七崩賢のプライドが、彼女を独断専行させた。

 

 長年魔力を研鑽したアウラの魔力は、凄まじい。人類では到達できない域におり、一人でも事足りるという自信がある。南の勇者とボンドルドが前線拠点にしている場所に忍び込んだ。そこは、北部高原で魔王軍が利用していた元補給拠点。今は、廃墟になっている。

 

 アウラの魔法は、自身の魔力総量より低い者を強制的に服従させられる。つまり、潜入して手当たり次第に仲間を増やし、情報を集めていけば楽に倒せると踏んでいた。

 

 妖しい光る仮面を被った者を見つけたアウラは早速魔法を使う。

 

服従させる魔法(アゼリューゼ)。……え」

 

 ボキ、と骨が折れる音がした。

 

 アウラが魔法対象として選んだアンブラハンズは、即座に自害。何かを命令される前に自身の強い意志を見せ付ける。これには、アウラも驚いた。今までになかったパターンだ。だが、死んだなら次を探すまでだとアウラは、廃墟の奥へ奥へと進んでいく。

 

 それからも数人のアンブラハンズをアウラは見つけたが、全員が即座に自害を選んでおり異常な事態にアウラが気付き始めた。少しずつ奥へと誘い込まれている。今、アウラが居る場所は地下一階……その奥にある部屋から僅かに漏れてくる魔力。

 

 とてつもない嫌な予感がしてきているアウラ。

 

 本能はこれ以上進むな。戻れ。今すぐ帰れと警告を発している。だが、奥の部屋には魔王軍にとって有益な情報があるかもしれない。七崩賢として、手ぶらで帰るなどできないという無駄なプライドがある。

 

 アウラの手で禁断の扉が開かれた。暗い部屋に並べられているベッドの数々。薄暗い部屋だが、廊下からの明かりが部屋の中を照らす。

 

「ヒィ。なななんなのよ、これ」

 

 補給拠点を守っていた魔族達が、生かされていた。

 

 ある魔族は、手術台に手足を固定され頭蓋骨が開かれている。そして、細長い針が突き刺さり、掻き回された形跡がある。

 

 ある魔族は、角が切り落とされていた。角が生えていた箇所の骨がけずられており脳みそが丸見えだった。

 

 ある魔族は、ベッドに磔にされており、生きたまま臓器をいくつか摘出されていた。

 

 ある魔族は、別の魔族と脳を交換された形跡があった。

 

 ある魔族は………。

 

 この世の地獄かと思う光景。なぜ、魔族達がこのような拷問を受けて無抵抗なのかアウラは疑問に思ったが、足下にある鉱石を見て納得した。

 

「封魔鉱!?」

 

 つまり、アウラは既に封魔鉱の効果範囲内。新たに魔力探知が行えないだけでなく、お得意の服従させる魔法(アゼリューゼ)すら使えない場所に来てしまっていた。直ぐに部屋を出ようと後ろを振り向くアウラ。

 

 彼女の目には紫の輝く光が反射していた。

 

 出口を塞ぐように立つ鉄仮面を被った黒服の男。アウラは、理解してしまう。この地獄を作ったのが目の前の男だと。諦めないアウラは、この状況からの脱出手段に思考を巡らせていた。出入り口は一つ。そこさえ抜ければ魔法が使えるようになり活路が開ける。

 

「素晴らしい。極限環境下でも君の思考力や感受性は一切衰えませんでしたね。流石は七崩賢の断頭台のアウラさんです」

 

「だ、誰よ。あんたは。見た目は魔族っぽいけど裏切り者なら」

 

 獣化状態であったため、アウラに魔族だととんでもない誤解をされるボンドルド。封魔鉱の影響を受けないためにも事前に獣化状態となり、お出迎えしたという心配りが要らぬ誤解を生んだ。

 

「おや、てっきり私に会いに来てくれたと思っていました。私は、ボンドルド。黎明卿とも呼ばれています」

 

「へ、へぇ。貴方がボンドルドなのね。魔王軍でも有名よ。折角だから、少し話をしてあげるわ」

 

 話を長引かせて活路を見つけたいアウラ。魔法が使えない状態では獣化状態ボンドルドと戦えないと分かっていた。

 

「これは嬉しいお誘いです。立ち話もなんですから、そこの椅子にどうぞ。今、片付けます。魔族の方は、殺せば綺麗さっぱりなくなりますから掃除の手間が掛かりません。さぁ、お座りください」

 

「すすすす、座るって。まさか、手術台じゃないわよね」

 

 獣化した尻尾で手術台に拘束されていた魔族の頭部を潰して片づけた。今の今まで同族が解剖されていた手術台に座りたいと思う魔族は居ない。

 

「おやおや?まさか、お気に召しませんでしたか。その手術台は、魔族の方達が人間をバラバラにして食べる為、使用していた物です。いわば、食卓と同義ではありませんか。さぁ、お座りください。今、アンブラハンズ達が持て成しの準備をしております」

 

「折角のお誘いですけど、その前にお手洗いに行かせて欲しいわ。ねぇ、お手洗いに行きたいって言ったわよね!! それ以上、近寄らないでぇ!?」

 

 封魔鉱があるこの部屋を脱出する為なら、あらゆる手段を講じるアウラ。魔法さえ使えるようになれば、ボンドルドに負けない自信が彼女にはある。

 

 獣化状態のボンドルドに頭部を鷲づかみにされたアウラは、引きずられるように手術台に無理矢理座らせられた。手足をしっかりと固定される。

 

 ガチャガチャと必死に自らの力だけで拘束を破壊しようと試みるが無駄だった。彼女より肉体面で優れた魔族がここで死んだ。そんな、脆弱な肉体の力で壊れる品物では無い。

 

「安心してください。アウラさんのような大魔族は、なかなかいらっしゃいません。是非色々お話を聞かせてください。おやおや、折角の綺麗なお顔が台無しです。目の前にある鏡で自身の姿をしっかりと確認しておいてください……夜は、長いですから」

 

『卿、お持てなしの準備が整いました』

 

 ぞろぞろとアウラの手術台に周りに集まるアンブラハンズ達。その手には、様々な物があった。手術道具、保存容器、派手な色の薬品、消毒液などなど。この状況下では見たくもなかった品々。

 

 アンブラハンズ達が、アウラの尿液採取のため、衣服を剥がして機材を取り付けようとする。しかし、衣服をパージする事が出来ない。

 

「魔族の方は、衣服を魔法で作っていましたね。アウラさんが作った衣服となれば、切り裂くのは大変そうです。おや、この爪…衣服が無いところなら通りますね。急所すらヒトに似せていて大変助かります」

 

「ギャァァァァァァァァ」

 

 ボンドルドの爪がアウラのへそに深く突き刺さる。クチュクチュと爪を動かし傷口を広げていく。この瞬間からアウラの尊厳など何処にも残っていなかった。下半身から漏れ出す、尿をアンブラハンズ達が採取する。

 

『排尿も似ている。成分はなんだ』

 

『不明』

 

『過度な痛覚まで再現している』

 

『理由は、不明』

 

『不明』

 

『傷口からの流動体も十分量だ』

 

『十分』

 

 黙々と自分が採取される様子を鏡越しで見せられたアウラ。鏡に映る自分の顔が、笑っていた。絶望のどん底におちると、魔族は笑うのだと初めて理解する。

 

「安心してください。生命維持に必要な最低限は残します。しかし、本当によく出来ています。中身も人間ソックリですが、全て魔力で構築された偽物。魔族とは、本当に面白い」

 

「た、たすけて。魔王軍の!! 魔王軍の情報を教えてあげるわ。知りたいでしょ。大魔族達の情報よ」

 

 僅かでも時間を稼ぎたいアウラ。少しでも興味のある話をしなければ、解体される。そんな未来像が見えてしまっていた。

 

「どうぞ、お好きなだけ喋ってください。貴方の発言に嘘が無ければ、回復魔法をかけて差し上げましょう。嘘の場合は、アンブラハンズがサンプル採取を致します」

 

『次は、腹が見たい』

 

『見たい』

 

『足も一つ欲しい』

 

 命惜しさにアウラは、仲間の情報を売り続けた。だが、正しい情報を提供する度にボンドルドが回復魔法をかけてアウラの状態を戻し、そしてまた腹が引き裂かれる。地獄のサイクルが始まった。

 

………

……

 

 アウラが捕まって、翌日の朝。

 

「おはようございます、アウラさん。今日は快晴ですよ」

 

 地下室だから外が見えないアウラにとって、外が快晴など関係なかった。

 

………

……

 

 アウラが捕まって、二日目の朝。

 

「おはようございます、アウラさん。本日の朝食は、私が作りました。今日も元気に頑張りましょう」

 

 一日の始まりは、栄養のある朝食から始まる。だが、それを食べれば消化器官の働きを見たいといわれ、腹が引き裂かれる未来が待っていた。

 

………

……

 アウラが捕まって、三日目の朝。

 

「おはようございます、アウラさん。昨晩は、途中で席を外してしまい申し訳ありません。貴方の部下だという首切り役人がいらっしゃったので、歓迎をしておりました。そういえば、魔族の方は人間の生レバーがお好きだと聞きました。別に、人間以外でも大丈夫ですよね」

 

 謎レバーを食わされたアウラは、それが何の肉なのか考えないようにした。だが、口にした瞬間、灰になって消える様な感じを彼女は一生忘れない。

 

………

……

 

 アウラが捕まって、○○日目の朝。

 

「おはようございます、アウラさん。貴方が教えてくれた大魔族の方にお会いする事ができました。正確な情報のお陰で、初見殺しも比較的スムーズに攻略ができました。おや、どうされました?目に生気がありませんよ」

 

 誰も助けに来てくれない。既に何日経過したかすら分からなかったアウラ。しかし、死ねない。魔族は丈夫だ。

 

………

……

 

 アウラが捕まって、××日目の朝。

 

「おはようございます、アウラさん。おや?衣服の魔法が消えておりますね。私が、可愛く見繕って差し上げます。こう見えて女性の化粧にも詳しい方です」

 

 あらゆる物をあらゆる手段で採取され続けたアウラにとって、既に服などどうでも良かった。ボンドルドの着せ替え人形にさせられ、化粧までほどこされたアウラ。鏡に映る自分の姿を見て、元の自分が思い出せなくなりつつある。

 

………

……

 

 アウラが捕まって、□□日目の朝。

 

「おはようございます、アウラさん。今日まで、よく頑張りました。私と南の勇者様は、次の戦場に向かいます。おや、アウラさんも泣いてくれるのですね。別れを悲しむ感情が魔族にも芽生えるとは……大丈夫です、必ず(・・)また会いに来ます」

 

 ボンドルドは、涙をのんでアウラと分かれた。

 

 南の勇者から、ここでアウラを箱詰めすると後々困ると言われていた。自らの死に際には、七崩賢が全員揃っている必要があるとの事だ。

 

 代わりの大魔族を箱詰めにした事で、ボンドルドは満足してアウラを放置する。そして、次の魔王軍拠点へと向かう。

 

 数日後、アウラは魔王軍に保護される。生きているのが不思議な状態だったが、魔王軍の衛生兵達のお陰で身体の傷は比較的直ぐに治った。心の傷が癒えるには長い時間が掛かるだろう。

 

 それから、一ヶ月後、ボンドルドが人類防衛ラインを七崩賢達が居ない隙を狙い大幅に持ち上げる。代わりに、南の勇者が死地へと挑む。その際、紫のサイリウムを携えてアウラのトラウマを呼び起こす作戦が決行されていた。この効果的な作戦で、実質6人の七崩賢と全知のシュラハトとの戦いだった事を知る人類は誰もいない。  




アウラさん、可愛いよね。

アンケートは、2023/10/31の24:00までになります。
と、言いつつ既に投稿を始めてしまっているのは気にしないでくださいね。

次は、過去編(50数年前、居候フリーレン)を予定しております。
フリーレンが魔王討伐後に、ボンドルドの元を訪れたお話。
偶然、プルシュカが産まれた時期も近いだけのお話。

どんな話にしようか迷う……投稿にはお時間をください。
投稿ペースはゆっくりにしなければ。


本作品の今後の展開について、アンケートのご協力のお願い。どんな話で続けようか、読者様のご希望を窺えればと思っています。

  • 女神の石碑編normal ※週刊誌+独自
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