黎明のフリーレン   作:新グロモント

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閑話:過去編(50数年前、居候フリーレン)①

 魔王が討伐された。その記念すべき日から数十年の月日が流れる。

 

 魔王討伐を実現した勇者PTの魔法使いフリーレンが、仲間達と別れ中央諸国を巡り、魔法収集の一人旅をしている。北へ、南へ、西へと……各地を回り、フリーレンが思い出したかのようにボンドルドの元を訪れた。

 

 旅の路銀も尽きてきたし、久しぶりに顔を見せるのに丁度良いとフリーレンは思っていた。数十年ぶりに訪れたイドフロントは、いつも変わらない様子だ。入り口にあるインターホンを鳴らして、フリーレンは中へと案内される。

 

『お帰りなさい、フリーレン様。お部屋は、以前のまま残しております』

 

「ありがとう」

 

 フリーレンは、アンブラハンズに鞄を預ける。ボンドルドが準備してくれている自室へと向かった。部屋に向かう道中もアンブラハンズ達が甲斐甲斐しくフリーレンの世話を焼く。コートを預かり、マフラーを預かりといったお姫様待遇だ。

 

『すぐに湯浴みの準備を致します。三十分もあれば、卿も戻られます。お会いになられますか?』

 

「うーーーん、そうだね。色々と積もる話もあるから、汗を流したら会いに行く」

 

 イドフロントにあるフリーレンの自室。そこには、よく手入れがされた年代物の家具が揃えられている。アンティークな雰囲気があり、実に趣があった。本棚には、フリーレンが集めた蔵書も保管されており、便利な倉庫代わりとなっている。

 

 埃一つ無い清潔な部屋、天幕付きのふかふかのベッド、整理整頓された蔵書達、24時間入浴可能な温泉、掃除洗濯食事の全てをやってくれるアンブラハンズ達、ここがこの世の天国かという環境だった。

 

 ここを自由に使わせてくれる弟弟子に、フリーレンは感謝している。しかも、別にボンドルドに会わなくても良い。勝手に使って勝手に帰ったことも過去に何度もある。

 

「そういえば、ヒンメルは別れ際になにか言いたそうだった。まぁ、ボンドルドに聞けば良いか、同じ男の人間ならボンドルドでも分かるでしょ。いつ来ても、良い本を揃えている」

 

 最新の魔法研究資料がフリーレンの為に準備されている。

 

 一冊の本を手に取り、椅子に座るフリーレン。机に本を広げて読み始めてしまう。既に、入浴する事など忘れており、趣味に没頭する。知的好奇心が満たされていく。全てが揃えられた環境……フリーレンを駄目にする為だけに用意された空間だ。

 

 コンコンとフリーレンの部屋がノックされる。

 

『ご入浴の用意が整いました。お着替えの準備も』

 

「……後、三時間。まだ読み始めたばかり。あぁ~、ちょっと引っ張らないで」

 

 三時間の後は、更に三時間と言われることが分かっているアンブラハンズ。フリーレンを引っ張ってお風呂へ放り込んだ。中では、アンブラハンズ♀達が、フリーレンを磨き上げる。髪の毛一本から爪の先まで旅路での汚れを落とす。

 

 一通りの身だしなみを整えたフリーレン。ボンドルドが待つ応接間へと向かう。中に入ると、弟弟子のボンドルドが紅茶を煎れて待っている。いつも通りだ。家主であるボンドルドの対面に座り、フリーレンが用意された服について一言文句を言う。

 

「この服、随分とヒラヒラして可愛らしい。こういうのが趣味?」

 

「おや、流行の服はお嫌いでしたか。とても、お似合いです。今、グェイラがメルクーアプリンを作っております。少しお待ちください」

 

 ボンドルドが入れた紅茶を飲み、何も会話せずに過ごす。

 

 一人旅で味わった紅茶とは違う。誰かと一緒に飲むから美味しいと理解した。ヒンメル達との冒険は、何かと騒がしく楽しい物だったとしみじみ感じつつ、今も悪くないと彼女は思う。

 

「私さ、短い期間だったけど勇者PTに居て魔王を倒したんだ」

 

「えぇ、存じております。フリーレンさんをお誘いになった勇者ヒンメル様なら、魔王討伐が出来ると信じておりました。弟弟子としても鼻が高いです。楽しい冒険だったのですね」

 

 フリーレンは、何故そんな事がわかると疑問に思う。辛いときもあったが、総合的にみれば楽しい旅だったと言える。あの旅が、間違いなくフリーレンに影響を与えた。

 

「そうだね。とても楽しい旅だった。たった、10年。それなのに、どうしてこんなに記憶から離れないんだろう」

 

「フリーレンさん、たった10年ではありません。人間感覚で言えば、10年という時間は長い。全盛期の全てを消費しています。よろしければ、勇者PTの魔法使いフリーレンさんの旅路をお聞かせ頂けませんか?」

 

 人間にとって、10年という歳月は長いという事をフリーレンは知る。ボンドルドという例外が、彼女の人間観を狂わせていた。長生きしている人間もいるんだし、10年なんてエルフと一緒で短いよねと少し思っていた節がある。

 

「構わないよ。なら、代わりに北側諸国の英雄ボンドルドの事も聞かせて。何でも大魔族を何人も討伐したとか風の噂で聞いた。ボンドルドが、大魔族を討伐できる程に成長しているなんて、姉弟子として鼻が高いよ」

 

「弟子入りしたのは、三日しか差がありませんよ。しかし、フリーレンさんの目から見ても成長したと言われたのは嬉しい事です。貴方の興味を惹けた事が何より嬉しい」

 

 全てが始まったあの日から今の今までボンドルドがフリーレンの興味を惹けた事は無かった。

 

「そういえば、ボンドルドは今何をしているの?居候させて貰う身だから手伝うよ」

 

「私は、種の保存に力を入れております。この1000年間でも滅んだ動植物は沢山おります。有益だった物が失われたお陰で、対抗手段が無く命を落としてしまった人々も多い。女神様の敬虔な信徒として、救わねばなりません。それが、憎む魔族相手であっても」

 

 ピクッとフリーレンの耳が反応した。魔族というワード。それをボンドルドが保護している可能性。姉弟子として、聞き捨てならなかった。

 

「魔族は、人の声マネをするだけの言葉が通じない猛獣だ」

 

「無論、存じております。ですが、皆が拒絶していては魔族達が隠れ潜んでしまいます。角を隠されてしまえば街に潜伏する事も可能でしょう。だからこそ、公的窓口が必要なのです。イドフロントは、自治権がある個人所有の施設です。誰も口出しは出来ません」

 

 魔族に対して気が抜けていたのはどちらであったか、理解したフリーレン。魔王が討伐されたとしても生存している七崩賢、大魔族達はまだ健在だ。各地に隠れ潜んだ魔族も同じ。

 

「よくやった、ボンドルド。気が抜けていたのは、私の方だ」

 

「私の為ですので、お気になさらずに。それはそうと、今回はいつ頃まで滞在予定ですか?」

 

「うーーん、読みたい蔵書も増えていたし四年くらい居ようかな」

 

「いつまででもどうぞ。手伝いと言うわけではありませんが、フリーレンさんの興味が惹けたと言う事で、私から一つお願いがあります。――――手加減無しで私と試合をして貰えませんか。もし、フリーレンさんが勝利した場合、こちらの魔道書を差し上げます」

 

 ボンドルドの真剣な態度にフリーレンも気が付く。

 

 指導試合など過去に幾らでもやった。全戦全勝のフリーレン。負けるはずなどないと思う反面、ボンドルドの魔力は以前より格段に上がっている。油断をすれば、負ける可能性もある。

 

「私の方が強いよ。全戦全勝中。これは、何の魔道書?」

 

「魔族が利用している飛行魔法の転用技術がかかれた品物です。市場にも未流通のレア物。後数年もすれば流通するでしょうが、中々手に入らないでしょう」

 

 フリーレンが即座に魔道書を奪おうとするが、ボンドルドが魔道書を後ろに下げる。だが、諦めずにテーブルに乗り出してでも魔道書を奪おうと必死になるフリーレン。実に諦めが悪い。

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけだから」

 

「それは出来ません。で、試合は受けて頂けますか?」

 

 勝ち目のない試合はしないフリーレン。試合を受けるか迷うが、受けないという選択肢がとれない彼女である。飛行魔法なんて餌を出されては、頷くほか無かった。彼女が気になるのは一つだけ。

 

「ボンドルドが勝った場合は、どうなる?」

 

「フリーレンさん、貴方が欲しい。1000年前にフリーレンさんは、「私より弱い人に興味はない」と言いました。今の私は、貴方の興味を惹けた。つまり、最低限貴方に勝つ見込みがあるレベルに到達していると考えます」

 

 弟弟子の成長を嬉しく思う姉の気分であるフリーレン。成長したなと。勇者PTでも自分の魅力で勇者ヒンメルをノックダウンさせた事を思い出し、気分が良かった。

 

「むふ~。ボンドルドがお姉さんの魅力にメロメロだったとは知らなかった。具体的には、何が欲しいの?」

 

「貴方との子供が欲しい」

 

 ボンドルドは、致命的な事を忘れていた。フリーレンがエルフであり、大事な知識が欠如している事を。彼女は、勇者ヒンメルを超えるレベルでピュアだ。

 

「(キスしたら子供が産まれるという話を亡くなる前に親から聞いた事が有る。どっかの温泉で一緒になった人間のおばあちゃんに聞いた時もそんな事を言ってた。ボンドルドも真剣っぽいし、1000年前に色々無茶いっちゃったし、今では世話にもなっているし、エルフも全滅しそうだから種の保存に協力する的な意味でも)いいよ」

 

 フリーレンの両親も、師匠であるフランメも、どこぞで知り合ったおばあちゃんも、勇者PTメンバーも誰一人とてフリーレンに正しい性教育を施さなかった。生殖本能が薄すぎるが故、その手の話に興味すら無く今まで過ごした。

 

「そうですか、失礼な事を言ってしまって………は?」

 

 ボンドルドが、失礼な事を言ったと思いお詫びに魔道書を差し出そうと思ったら、耳を疑った。

 

「それじゃ、今日は疲れているから明後日に試合をしよう。体調万全の私は強いよ」

 

「フリーレンさんが、それで宜しいのでしたら私も構いません。文字通り、以前の私とは違う事を証明します」

 

 ボンドルドは、今日という日を女神に感謝した。

 

 そして、天国にいる南の勇者に感謝する。今の今まで少し疑いはあったが、全て南の勇者から聞いた通りに進んでいる。




コウノトリが赤ちゃんを運んでくるとか信じて言いるレベルのフリーレンです。

投げキスでエロすぎると思っているエルフだから、これは十分あると思っています。

本作品の今後の展開について、アンケートのご協力のお願い。どんな話で続けようか、読者様のご希望を窺えればと思っています。

  • 女神の石碑編normal ※週刊誌+独自
  • 女神の石碑編another(原作世界線)
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