黎明のフリーレン   作:新グロモント

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閑話:過去編(50数年前、居候フリーレン)②

 フリーレンとの決闘当日。

 

 ボンドルドは、イドフロントの窓から外の景色を確認した。近年希に見るレベルの大雨。この情報は、ボンドルドも持っていなかった。南の勇者からの事前情報にはない。自然現象までは未来視でも掴みきれないという事なのかとボンドルドは考えた。

 

 フリーレンとボンドルドの試合に、日付変更はない。それこそ、本末転倒だ。後のスケジュールも決まっている。

 

 フリーレンの方は準備が出来ており、早く試合をしようと急かしてくる。余程、飛行魔法の魔道書が読みたいのだろう。だが、それは大きな間違いだ。

 

 フリーレンは、大雨の日を狙って試合を受けていた。試合を受ける前に、"明後日の天気が60%の確率で分かる魔法"を使っていた。運要素が高かったが、フリーレンとしては少しでも勝率を上げる為に、余念はない。

 

「取り決めた時間通りに始める。ボンドルドの枢機に還す光(スパラグモス)は、凄い魔法だよ。全てを焼き切るほどの熱量は、水蒸気爆発を起こす可能性もある。雨で仮面の視界が更に悪くなって運がないね」

 

「明後日という意味を理解しました。なるほど、浮かれていた自分がお恥ずかしい。フリーレンさんは、そういうお人です」

 

 どんな方法を使っても、勝てる確率を上げるのがフリーレンのやり方だ。

 

 冷静さを取り戻してきたボンドルド。勝たねば全てが無に帰る。死ぬ気で勝たなければいけない。フリーレンが言い訳も出来ない程のレベルで。後から、○○だったから負けたとか言われては、勝利にケチがつく。

 

「え?ボンドルド、カートリッジを置いて行くの?」

 

「おや、ご不満ですか? カートリッジは、外付けの魔力タンクでしかありません。フリーレンさんの魔力総量は、私の5割増しです。――魔力総量の差が戦力の決定的な差でない事を教えて差し上げます。これは、私の戦いなんです。無粋なカートリッジが無くても貴方を屈服させてみせます」

 

 フリーレンは、カートリッジをフル装備した状態で戦うと考えていた。自らの有利を捨てるというなら、彼女は文句を言わない。

 

 フリーレンには、理解できないだろう……男の子には、意地がある。

 

 イドフロントに損害がでないように、二人は少し離れた平地にでる。双方が距離をとり、未来をかけた試合が始まろうとしていた。

 

「ボンドルド、私が勝ったら魔道書。負けたら子供でいいんだよね」

 

「何も問題ありません。それと、約束通り手加減無しなので魔力制限は解除してください。私も手加減しません」

 

 ボンドルドは、フリーレンには見せた事がない切り札を使った。女神様の失伝した魔法――獣化だ。女神様がボンドルドの為だけに用意したと思う程、この魔法は彼に馴染んでいる。

 

 手足が熊のように大きくなり、鋭い爪は鋼鉄すら切り裂く。黒い尻尾は、竜のようだ。その姿を見たフリーレンは、楽しくなってきたと小声で言った。彼女は、ボンドルドを正しく脅威と認識する。凡人だったボンドルドが、自分に届く高みにいる。それが嬉しかった。

 

「凄いよ、ボンドルド。魔力総量、質、その姿も……とんでもない使い手になった。認めるよ、ボンドルドは強い。だから、本気を出す」

 

「あぁ、素晴らしい。1000年の時を経て、貴方の本気と向き合えた。貴方に是非見て欲しい、人類の、人間の、私の可能性を!!」

 

 魔法使い同士の真剣勝負。二人が最初に選んだ初手が全く同じ。人類側の魔法使いを大量に殺した有名な魔法。今もなお研究されており、改良され続けて近い将来には一般攻撃魔法と呼ばれる。

 

魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)

 

人を殺す魔法(ゾルトラーク)

 

 相殺される二人の魔法。

 

 ゾルトラークの解析に尽力したフリーレン。彼女よりこの魔法を知る者などこの世にはいない。だからこそ、初見殺しでボンドルドを倒そうと思っていた。

 

 だが、世間に知れ渡っていないゾルトラークをボンドルドが使う。

 

「驚いた。それは、クヴァールの人を殺す魔法(ゾルトラーク)。改良もされている」

 

「こちらも初手で仕留めるつもりでした。枢機に還す光(スパラグモス)が警戒されているのは分かっておりました。ならば、似た性質を持つこれが最適。人類産のゾルトラークは、まだ研究中だったはず。それを形にしていた事に驚きです」

 

 現代魔法の原点。魔法の最高傑作の一つ。

 

 男にしか分からない感覚だ。このロマン溢れる魔法に手を出さないなど、この世界で生きている意味の半分を失う。確かに、量産型として安定した水準になる魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)は、美しい構築式で使いやすいだろう。

 

「ボンドルドは、知らないんだ。人類にクヴァールのゾルトラークを売ったのは私だよ」

 

「フリーレンさんは、知らないんですね。保護した魔族からお礼にゾルトラークを教えて貰いました。それに独自の改良を加えています。原点にして頂点であるこの魔法……ロマンがあります」

 

 フリーレンもボンドルドも同じ事を思っていた。やりにくい。貫通特化のゾルトラークを防ぐ方法は多くはない。それにリソースを割く必要がある。双方とも同じ使い方をしてくる。多方向から飽和攻撃。

 

「いやだね、お互い考える事が同じ。でも、魔力量が多い私の方が有利だ」

 

「馬鹿正直に打ち合いに興じれば、そうなります。相手と同じ土俵で戦わないのが鉄則。明星へ登る(ギャングウェイ)

 

 明星へ登る(ギャングウェイ)が雨水に反射して、フリーレンに襲い掛かる。手の内を知るフリーレンは焦らない。冷静に防御魔法で弾いた。明星へ登る(ギャングウェイ)の特性上、反射を繰り返し相手に命中するまで追い続ける。防御魔法で何度か威力を拡散させれば、消失する。

 

「いい魔法だ。破滅の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)。雷は、水を伝わる。逃げ場ないよ……効いてない?」

 

 フリーレンが放った最大火力の破滅の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)。今まで、何人もの魔族を感電死させてきた。雨の日には自爆技だったが、ゾルトラークを防ぐ為に開発された防御魔法のお陰でフリーレン自身は安全地帯を形成できる。

 

「どうでしょうね。今までの指導試合で嫌と言う程、見せられてきました。この外装は、絶縁体を用いております。魔族に着せて何度も実験し、安全基準をクリアした自信作です。高速で移動する魔法(ジルヴェーア)

 

 ボンドルドは、魔法使いの壊し方をよく知る。数々の魔族という魔法使いを生け捕りにしてきた。嬉しい事に人体構造は人間とほぼ同じ。今、この瞬間のために全てはあった。

 

 フリーレンの目の前に現れたボンドルドが、鋭い爪でフリーレンの両目を狙う。防御魔法と杖で防がれてしまう。防げたのは、フリーレンの経験が活きた。同じような事をされた過去がある。そうで無ければ、危なかった。

 

「その民間魔法は知ってる。酷いね、目を狙うなんて」

 

「そちらこそ、私が本気で力を入れているのに拮抗するなんて……怪力を付与する魔法でもお使いですね。ですが、防御魔法の内側に指先は貫通しました。地獄の業火を出す魔法(ヴォルザンベル)

 

 防御魔法の内側から魔法を放ったボンドルド。魔法を拡散させる特性を持つ防御魔法は外からの魔法攻撃には強い。だが、その内側で敵の魔法が炸裂する事は想定されていない。

 

 髪が焦げ火傷を負ったフリーレン。不利を察して防御魔法を解除し、全身を魔力で守りそれを乗り切った。その代償は、女の命と言われる美しかった長髪が短髪になり、顔に火傷。女神様の回復魔法は、顔の傷を治せても髪は伸ばせない。

 

「女の子の顔を狙うなんて。そんな弟弟子に育てた覚えはないよ」

 

「落とせませんでしたか。それは私の台詞です。弟弟子の左腕をゾルトラークで切断する人に言われたくはありません。あの瞬間に反撃までされるとは」

 

 左腕の方の部分がゾルトラークで落とされたボンドルド。左腕で首根っこを押さえるつもりだったのが、あの状況下で的確に左腕を狙われるとは想定してなかった。

 

 再び距離をとられてしまったので、ボンドルドは地面に落ちた左腕を拾う。

 

「今なら、治療も間に合う。降参してもいいよ」

 

「お優しいのですね。私は女神様の信徒です。魔法使いとしては、私より優れた方は何人もいらっしゃいますが……僧侶として私より優れた人は、ハイター様以外おりません。私が、次期No.1です」

 

 ボンドルドが切断された腕を切り口に近づけると、再生が始まる。骨が生成され、神経、筋肉。その凄まじい回復力。フリーレンが知るハイターでも同じレベルの回復魔法が使えるのかといえば、疑問に思う程だ。

 

「ボンドルドを普通の方法で戦闘不能にするのは、諦めたよ。この位やらないと駄目か」

 

 フリーレンが何かをすると、ボンドルドの右足がブチという音と共に捻りきられた。

 

 何が起こったのか、ボンドルドの目にも見えない。魔法と認識できないから、防ぐ事が出来ない不可視の攻撃。片足を失いバランスを崩したボンドルドが地面に倒れ込んだ。

 

「す、素晴らしい。予備動作無し、不可視でこの威力。私が反応できない程の何かでねじ切られた。初手で首を狙わなかったのはフリーレンさんの温情なのでしょう」

 

「後で、顔の火傷を治して貰わないといけないからね。この切り札を使わせたのは、魔王以外でボンドルドだけだよ。降参する?」

 

 ボンドルドが立ち上がろうとすると、指を一本ずつねじ切るフリーレン。相手の戦意を削ぐ良いやり方だ。勝ちを確信している余裕。この試合が双方同じ温度感で試合に臨んでいれば、このような隙は無かった。

 

「なるほど、少し理解しました。その切り札、空間ごと捻っていますね。だから、魔法防御も肉体強度も無視される。空間に影響する魔法は、未解明な部分が多いというのに、本当に素晴らしい。ですが、魔力消費は防御魔法を上回る」

 

「人の切り札を解析するのはよくないよ。で、どうするの?次は、両腕を徐々に捻っていくよ」

 

「男の子には意地があります。この試合の勝利条件は、覚えていますね?」

 

「どちらかが意識を失うか、降参と言う事」

 

 フリーレンは、安全距離をキープしている。ボンドルドがゾルトラークを使ったとしても防げる位置。ならば、どうするか。

 

「知ってますか、私は貴方より遙かに丈夫なんです。この真下は、貯水湖。大雨でさぞ水が溜まっているでしょう。――枢機に還す光(スパラグモス)。水蒸気爆発を防いでくださいね。私は、空に逃げます」

 

 フリーレンが雨の日を試合に選んだ。だが、ボンドルドもこの場所を戦いに選んでいた理由はしっかりとある。ここの真下に貯水湖がある。全力の枢機に還す光(スパラグモス)でフィールドごと水蒸気爆発で吹き飛ばす。

 

 一人飛行魔法で空へと逃げ防御に徹するボンドルドを見たフリーレン。その顔は清々しかった。爆発の衝撃に巻き込まれたフリーレン。人為的に引き起こされた災害級の威力に意識を失う。

 

………

……

 

 ボンドルドは、大怪我し意識を失ったフリーレンとねじ切られた右足を拾い上げた。試合を見守っていたアンブラハンズ達の元に生還する。自分達から送られる拍手と声。

 

『おめでとう、卿。羨ましい。一発だけ殴らせてください』

 

『それには、賛同する。私も』

 

『私も』

 

『私も』

 

 怪我人を労る心は、アンブラハンズ達には無かった。




アンケートにご協力頂き誠にありがとうございます。
合計で3024件も御回答いただけて嬉しい限りです。

投票結果は、以下のようになりました。

(600) 過去編(1000年前、初代ボンドルド)
(200) 過去編(人類防衛ライン戦)
(528) 過去編(50数年前、居候フリーレン)
(112) 閑話(ゼーリエとプルシュカの文通)
(26) 閑話(プルシュカと女神の魔法)
(1558) バカか、全部やれ

12巻刊行が遠いため、アンケートの過去編と閑話は全部やります。
既に一部投稿も始めているけど気にしないでください。

本作品の今後の展開について、アンケートのご協力のお願い。どんな話で続けようか、読者様のご希望を窺えればと思っています。

  • 女神の石碑編normal ※週刊誌+独自
  • 女神の石碑編another(原作世界線)
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